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加藤泰「みな殺しの霊歌」佐藤允倍賞千恵子中原早苗應蘭芳菅井きん沢淑子河村有紀松村達雄渡辺篤大泉滉須賀不二男石井均角梨枝子吉田義夫太宰久雄藤田憲子ザ・クーガーズ

 京橋にて。「生誕100年 映画監督 加藤泰」特集。68年、松竹大船。
 再見作。うーん、何度見ても、見心地が悪い(笑)。確かに、フィルムセンター言うところの加藤泰最大のモンダイ作と、言うに、ふさわしい(笑)。
 そのココロは(笑)。以下、完全ネタバレ。

e0178641_7335284.jpg32 みな殺しの霊歌(90分・35mm・白黒) (フィルムセンターHPより)
1968(松竹大船)(監)加藤泰(脚)三村晴彦(撮)丸山恵司(美)森田郷平(音)鏑木創(出)佐藤允、倍賞千恵子、中原早苗、應蘭芳、菅井きん、沢淑子、河村有紀、松村達雄、明石潮、渡辺篤、大泉滉、須賀不二男、石井均、角梨枝子、吉田義夫、太宰久雄、穂高稔、藤田憲子、ザ・クーガーズ
時効目前の殺人犯(佐藤)がある事件を契機に連続強姦殺人をおこしていくが、純粋な娘(倍賞)に出会い心惹かれ…。衝撃的な殺人場面と、アウトローと山田洋次の協力を得て造形した松竹的ヒロインとの二人の心の交流が、ロー・ポジションの陰影に富んだ白黒映像による緊張感に満ちた語りで描かれる。どんな理由でも人殺しは「罪」かを主題とした作品で、加藤泰最大の問題作と評される。

Clip みな殺しの霊歌 (加藤泰)

 
 おそらく中学卒業後、集団就職で北海道の田舎から出てきた16歳の少年は、残された愛聴盤が、橋幸夫&吉永小百合「いつでも夢を」だし、まだまだ都会の風に染まらない純情少年だったのだろう。そんな彼を中原早苗、應蘭芳、菅井きん、沢淑子、河村有紀のおばさん軍団が「輪姦」ないし集団暴行した。
 ショックだろう。まだまだ「花とゆめ」の田舎の純情少年が、いきなり大量の「珍味」を食わされたようなものだ。特に菅井きんは、ないだろう(笑)。
 そこは、何歩か譲って、良しとしよう。
 そして思い詰めて、飛び降り自殺をしたと、いうのも、まあ良しとしよう。

 しかし、この少年の顔見知りの、佐藤允が、「義憤に駆られて」この五人の女たちを、次々レイプ・拷問・殺害する意味が、分からない(笑)。
 「俺はあいつと何の関係もない、名前すら知らないんだ」というが、少なくとも一緒に映画を見に行ったり、凌辱されたことを打ち明けられる程度には、親しいわけだろう。
 なんだか変だ。

 佐藤允は、新婚の妻を殺して、逃亡中の身だ。新妻が実はほかの男と関係があり、許せなかったのだ、と推測される。しかしそれから十数年、もうすぐ時効の身だ。もう酸いも甘いも、のおっちゃんになったのだから、知り合いの少年が汚されたからといって、五人もの女を殺すか。
 レイプするか。おかしいだろ。復讐のため、拷問レイプするのは、本末転倒だろう。
 清いものが汚された、それへの怒り。
 少年が自殺したのは、ある意味少年の勝手で、あろう。その復讐を女たちにするならば、せいぜいレイプ程度?で、すます?べきだろう。歯には歯を、という論理でいうならば、殺すのは、明らかに過剰だろう?
 百歩譲って、レイプ抜きの拷問のみで、殺すべきだろう。
 いや、わからないじゃないよ、60年代後半ともなると、エロティック映画がかなり幅を利かせ、おそらく松竹の作品依頼は、ほどほどのエロ描写を利かせたサスペンス、ということで、ほどほどにエロを出してくださいよ、加藤さん、ということでしょう。だから、サスペンスでエロと言ったら、レイプ殺人だろう、ということになる。
 でもお公家さん集団の松竹では、そういうエロが苦手な監督ばかり、だからわざわざ他社から監督起用するんですよ、加藤さん、暑い演出、頼みますよ、というわけで。

 しかし、明らかに、混迷の結果と、なる。あまりに、レアケースを扱う結果になる。ふつうなら、倍賞千恵子クラスの清純な乙女が、男たちに凌辱され、自死。その復讐、という段取りだろう。
 しかし、松竹の清純派女優には、そういう輪姦描写は、なじまない。倍賞千恵子、論外。じゃ、少年じゃ、どうか、と。そういう企画の流れか、と。よく、わからんが。
 ムーヴィーウォーカーには、(広見ただしの原案を、「ハナ肇の一発大冒険」の山田洋次と、「懲役十八年」の加藤泰が共同で構成にあたり、三村晴彦がシナリオを執筆した。監督には加藤泰があたったスリラー)とあるが、本映画のクレジットには、広見ただしのクレジットが、ない。いかにもペンネームっぽい名前だが、当時、そういう少年の輪姦事件というものがあって、そのレポートを原案にしたのか。

 しかしなぜ佐藤允なのか。
 佐藤允が、本作の主演というのが、おそらく、本作最大の欠点だろう。
 佐藤允は、典型的な映画スタアである。小林信彦が、小林旭を言ったように、無意識過剰な、その顔を見ても、何を考えているのかわからない、というより、何も考えていない、圧倒的な空虚を、体現している無意識過剰な映画俳優の、典型かと。

 本作では、佐藤允は、女たちを殺しまくるが、それは個人的怨恨ではない、金銭目的ではない、性的葛藤でもない(現在の視点からいえば、佐藤が少年に愛をいだいている、という仮説も可能だろうが、そういう兆候は一切排除されていると、思う)。
 では、なにゆえの犯罪なのか。
 かつて自分が新妻に裏切られたように、少年の無垢が汚されたゆえの、犯罪か。という風にしか読み取れないが、15年も逃亡生活を続けるおっさんが、そんな少年じみた「汚れちまった悲しみ」に、まだ拘泥し続けるとも、思えないが。
 佐藤允の、少年みたいな笑顔、に、加藤泰は、賭けたのか。
 しかし、そういう、「思想犯」を演じるには、佐藤允の顔は、徹底して、空虚であり、無意識過剰でありすぎる。
 佐藤允は「思想犯」を演じるような顔をしていないし、そういう演技も、一切出来ない真の映画俳優なんですね。
 これが、加藤泰映画がらみでいえば、安藤昇であれば、あるいは、高倉健であれば、あるいは、説得力を持ったかもしれない。佐藤允では、義憤の説得力に、全く欠けるのである。
 義憤を体現するような、知的/感情レヴェルに、佐藤允の顔は、全く無縁、なのだ。
 たぶん、佐藤允は、小林旭以上に、無意識過剰な役者なので、よりによってそんな佐藤に「ある意味思想犯」を演じさせた加藤泰は、なんちゅう無謀(笑)。

 かつて鈴木清順は、「映画のつじつまが合わないのは、俳優が下手なせい」(大意)と、一種の暴言を吐いたが、おそらく本作が、消化不良を観客に感じさせるのは、佐藤允がミスキャストなせいなのだ。倍賞千恵子程度の「深み」すら感じさせない、鉄面皮な、真の映画俳優、佐藤允を、なぜ、よりにもよって起用したのか、加藤泰。
 
 倍賞千恵子。ほくろの多いすっぴんの顔で、演じた。家族に迷惑をかけるやくざの兄を、思い余って、殺した女。ウラさくらか。構成山田洋次の、ダークサイドなのか(笑)。仕事も、大衆食堂で、さくらとの共通点多し。
 山田洋次にとって、加藤泰とは、何なのか。加藤泰の裏が、あるいは表が、山田洋次なのか。
 山田洋次「霧の旗」と並ぶ、二大言いがかり映画に、ともに倍賞が出ている不思議?

 本作では、珍しく大泉滉が、まぢめな役(笑)。まあ、多少軽みはあるが、所轄警官を、それなりにまじめに演じて、こんな大泉滉メヅラシイなあ。
 警察は、ぼんくらばかりで、失敗だらけ。うーん。
 ということで余談だ(笑)。以下、話は、どんどん細かくなってくる(笑)。

余談1 殺され順でいうと、應蘭芳、中原早苗、沢淑子、菅井きん、河村有紀だが、最初の應蘭芳こそ、エロティック映画らしく?ヌードも多いが、菅井きんのみは、遺体写真のみ。
 なぜ菅井きんの暴行場面を描かない、加藤泰。エロでもなく観客ドン引きだろうが、そこを「平等」「等価」に描いてこそ、じゃないのか、加藤泰(笑)。
 いや、菅井きんをレイプする佐藤允を見たいわけじゃないが(笑)、まあ、それなりにエロい女たちをレイプしてばかりでは、佐藤允、自分の趣味でやってるんじゃないか(笑)と、誤解されちゃうでしょ。菅井きんをレイプしてこそ、佐藤允のまじめな?犯罪ぶりが、逆に証明されるんじゃないの(笑)。
 士道不覚悟(笑)。なんのこっちゃ。

余談2 上記ユーチューブ画像でも垣間見れるが、最初の被害者が殺されるときに、回想シーン的にダブって、五人の女のマージャンシーンが、出てくる。手っ取り早い人物紹介なのかもしれないが、事件当日はマージャンをしていた、という偽り証言を観客の頭に刷り込ませるミスリードの典型で。
 ミステリとしては、完全に失格。まあ、事件当夜ではない、別の夜に確かにマージャンをしていた、という言い訳も成り立つが、それでも、失格気味。まあ、加藤泰映画に、厳密なミステリ基準を求めるのもセンないことでは、ある。

余談3 警察は最初の時点で残り四人の氏名、住所を把握している。事情聴取、あるいは囲い込みで、連続殺人は、少なくとも、二人目で阻止できたはずだ。そういう事情聴取を五人目の河村有紀で、やっとするとは、なんというお粗末。
 最初の監察による手書きメモ発見を、人物紹介の手っ取り早いうまい手だ、という脚本の思惑が、逆にこの映画の傷になった。

余談4 例によっておバカなフィルムセンターの解説(字数制限を守るため、日本語として、そもそもメロメロなのだが)いわく「どんな理由でも人殺しは「罪」かを主題とした作品」とあるが、本件のような「動機なき」(と、法令上は、解釈される可能性が高い)「不条理大量殺人」こそ、もっとも「罪が重い」はずで「あるべき」であろう。
 「どんな理由でも人殺しは「罪」かを主題とした作品」で、あるならば、本作の事例は、まったく不適当。それとも「お花畑による犯罪」は、「許されるべき」というサヨク脳的発想なのだろうか。
 法律解釈上はあるいは、本件は極めてビミョーな扱いなのだろうが、というのも動機重視主義の日本の刑法(という、法律無知のぼくの印象)では「動機が薄い」(と、解釈をせざるを得ないだろう)と、なぜか刑が軽くなるような印象なので。
 こういう「ある種の思想犯」が、訳が分からないので法律上の判断は保留、という理由で「刑罰が軽くなる」ほうこそ、まさしく「不条理」だろう。

★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。

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by mukashinoeiga | 2016-08-28 07:34 | 加藤泰突撃せよ炎のごとく | Trackback(13) | Comments(6)

山田洋次が隠蔽し続けたショーゲキの出自(笑)

 長年、山田洋次の映画を見続けていたが、初めて知ったショーゲキの事実!?
 えっ、こんなこと、今まで聞いたことないよ(笑)。本でも読んだことないし、かつて存在した「にこにこ山田村」などの山田フリークからも、聞いたことないし。
 ショーゲキの事実(笑)。それとも、しらなんだのは、オイラだけ?(笑)

 そもそもは、ラピュタ阿佐ヶ谷に行き、渋谷実・原研吉「をじさん」山田洋次「二階の他人」生駒千里「赤ちゃん台風」を続けて見た(すべて感想駄文済み)。
 43年「をじさん」には桑野通子が出演、58年「赤ちゃん台風」には桑野みゆきが出演。
 この幸薄い母娘が、同じ日同じスクリーンに続けて映されるのは、珍しいし、なんだか、好ましい。
 あいだに文字通りの赤の他人の?★「二階の他人」★が、挟まるのは、ご愛嬌?

 ラピュタのロビーに公開当時の「二階の他人」プレスシート(もちろんコピー)その片隅に、その意外な事実?は、さりげなく載っていた。
 片隅に、新人監督と新人女優だから?だろうか。山田洋次と、葵京子の顔写真付で、二人の履歴が書かれている。
 プレスシートにおける顔写真付の監督紹介は、ここ数十年では、当たり前だが、「二階の他人」当時としては、珍しい。少なくとも、ぼくは、見たことがない。たしか?
 いつどこで生まれたとか、何年松竹入社とか、どの監督についたとかが、短くかかれている。
 当時の住所も、書かれている。
 世田谷区祖師ケ谷 祖師ケ谷住宅、A1010、2-160
 主演女優葵京子も、その横に経歴とともに、本名 西村公恵と、
 京都市伏見区深草直偉橋4の349

 いやあ、例によって個人情報駄々漏れの時代。新人映画監督はともかく、若手美人女優さんの住所さらしちゃ駄目だろう。というのは、現代の感覚で、当時のすべての俳優さんは、俳優辞典にも、ファン向け雑誌にも、住所は完全公開。
 平和な時代でした。
 というところで、「山田洋次」という漢字に振られているルビに、目が釘付け?

 ヤマダ ヒロツグ
 
 えっヤマダヨージじゃなかったのか(笑)。聞いてないよ(笑)。
 さすがヤマダヨージ、さすが共産党、さすが左翼。革命的警戒心で本名、隠し続けていたか(笑)。
 いやいや。単に誰もヨージとしか読んでくれないので、あきらめた、といったところか。
 それにコメディ監督としても、ヤマダヒロツグより、ヤマダヨージのほうが、すわりがよいか。

 というところで、「山田洋次 ヒロツグ 本名」で検索したら、ウィキペディアには、もちろん本名載っておらず、次の二つのブログが、興味を引いた。

 ひとつは、2009年1月|寅さんブログ:フーテン便り|松竹株式会社。

  祝・寅さん記念館300万人達成
1月17日(土)は寅さん記念館で、入館者300万人達成の記念式典が行なわれました。
300万人目のお客様は、柴又在住の小学校3年生の内藤大嗣(ひろつぐ)君でした。
内藤君は、小学校のお芝居で寅さん役を演じたことがあるといういことで...内藤君による寅さん物マネ。
 「わたくし生まれも育ちも葛飾柴又・・・・・と発します」
と、寅さん啖呵売を披露。堂堂としていて、かっこよかったですよ本当に。将来は役者さんになれるかも!
受賞の感想もまたすごい。
 司会:受賞してどんな気持ち?
  「(受賞して)すんごくうれしかった!」
 司会:寅さん記念館には何回か来たことあるの?
  「これまでに2回来たことがある」
 司会:寅さん映画は見たことある?
  「リリー出演作を2作見たことがある」
 司会:寅さん記念館のどこが好き?
  「記念館では、寅さんが乗っている人車鉄道模型が好き」 
内藤君が"寅さん好き"であることが発覚、意外な寅通ぶりに司会もびっくり。(引用終わり)

 うーん、因果はめぐる糸車(バカ)。隠しても、隠せない真実が、歴史のかなたから、立ち上がる(笑)か。
 それとも山田洋次もゆかりがある松本清張風にいえば、柴又ロケのついでに作った、隠し子(笑)が、寅さん記念館を介して、邂逅するといった構図か(笑)。
 それにしても2作見ただけで、"寅さん好き"てのはともかく、「寅通」って(笑)。
そもそも「わたくし生まれも育ちも・・・・・」は、「啖呵売」か(笑)。
 いろいろズサンだな松竹。

 もうひとつ検索で引っかかったのは、醤油の一升瓶じゃあ戦えない。という意味不明(しかし、なんだか、左翼っぽい(笑)ネーミングの、ブログの2007年「これでも本人大マジメ。」というタイトルの記事。

買い物ついでにマジアカやってきた
なんかもう自分で自分に呆れた

結納
○ゆいのう
×けつのう

ちなみに間違えたの一人だけ_| ̄|○

山田洋次
○やまだようじ
×やまだひろつぐ

なんでわざわざ難しく読むんだろうか…
ちなみに答えた人は全員正解

普段なら笑い飛ばせるけど結果が結果なだけに笑えない
やっぱり一回人生やり直したほうがいいかな? (引用終わり)

 ぼくには、よくわからないが、なんだか、なんかのクイズ?をやって、ひとりだけ、間違えたらしい。
 なぜか、わざわざ難しく読み解いて、しかし不正解ということらしいが?
 しかし、実は、松竹のプレスリリースによれば、正解だった、という落ち? ただし、その正解は、誰にも知られていない、と。
 不正解は、実は正解だった、という。うーん、深い(笑)。

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by mukashinoeiga | 2014-09-12 23:38 | うわごと | Trackback | Comments(5)

山田洋次「東京家族」について2

★この駄文の前文★
 というわけで、山田版「東京家族」では、当ブログで問題にした、「東京物語」突っ込みどころも、本当にきれいに、解消させている。
 で、さらにいえば、小津「東京物語」の聖女・原節子を、前半と後半で、ふたりの人物に分けたのが、「東京家族」最大の、「工夫」だろう。
 前半パートでは、「東京物語」不在の二男・昌二を、山田洋次風にカスタマイズした次男・昌次として、登場させ、紀子=ハラセツの代役としている。
 後半パートでは、昌次(妻夫木)と紀子(蒼井優)のカップルふたりがかりで、「東京物語」紀子(ハラセツ)の代役。
 しかも昌次(妻夫木)には、部分的に「東京物語」三男(大坂志郎)と次女(香川京子)の役割も担わせている。
 さらにいえば、香川的役割を、隣に住む女子中学生と、その母親にも、担わせ、物語に含みを持たせる。
 名作の脚色として、これは、完璧な素晴らしさと、いえる。

 なぜ、こんな複雑な再構成が必要かというと、理由は2点あると思う。
1 現代を生きる女優に、「東京物語」原節子の「聖女」ぶりは、はっきり言って再現不可。
 「ふがいない長男」(山村聡→西村雅彦)「ガラッパチな長女」(杉村春子→中島朋子)優しい夫(中村伸郎→林家正蔵)優しい家庭婦人(三宅邦子→夏川結衣)は、現在でも、リアリティを持って描けるが、「聖女」原節子だけは、再現不可能。
 あれは、あの時代の、原節子と小津安二郎のコラボが生んだ、「奇跡」なのだから。
 ハラセツ的役割に、蒼井優を持ってきた。これを最初に聞いたとき、うーん、山田洋次慧眼と、うなったものだ。ベストではないものの(そんなもの、現代女優では、いない。当時だって、原節子しかいなかったのだし)次善の選択として、原節子とはぜんぜんキャラが違う、蒼井優を持ってきたのは、すばらしい。
 しかし、その蒼井優だって、全編出ずっぱりでは、「めっきがはげてしまう」のは必然。そういう時代なんだから。だから、ためにためて、後半まで、出さない。これは、正しい。

2 山田洋次としては、映画には、やはり「ずっこけオトコ」は、ほしいところ。寅さんとまでは言わないが、少々は「はみ出し男」がほしい。
 「東京物語」で言えば、大坂志郎がそれに近いが、しかし、妙に感慨にふける大坂志郎では、山田洋次のお眼鏡違い。山田的ずっこけオトコには、程遠い。小津さんも、突貫小僧などで、ずいぶん飛ばしてるではないか。
 ということで「山田洋次映画」には欠かせない、ずっこけオトコでもって、「聖女」原節子を代行させよう、という決断を、おそらくにんまりしつつ、思いついたはずだ山田洋次(笑)。
 「聖女」へのかなわぬ恋心(現代の映画では、とうてい原節子を再現できないという絶対的失恋)、現代に生きる映画作家である俺は、永遠に原節子に小津安二郎に、失恋し続けなければならないのだ、という断念。で、ある、ならば、「聖女」の役割を、「永遠の失恋男」=寅さんの、現代青年版、ただしイケメン妻夫木に代行させる。いかにも山田洋次的で、しかも素晴らしい。

 そういう「東京物語」にはない、新しいキャラを創造するとき、「まだ、戦争から帰ってこない/帰ってこれない不在の二男」という「遊休施設」その再活性化とは、にくいことを思いついたものだ。「原節子の不在の夫」に「原節子の役割」を負担させる。すばらしい。

 さて、前文で触れた、「東京物語」の突っ込みどころ
 あんなにやさしい、まるで「生き神様」(笑)みたいな美老人・笠智衆は、なぜ子供たちに、嫌われているのか、特に、なぜ長女・杉村春子は、激しくきつく笠智衆を罵倒するのか。
 さらに言えば、山村聡を激しく罵倒する中学生息子の怒りの強度。なじみの常連客・東野を、その友人の前で罵倒する居酒屋おかみ・桜むつ子の、しゃれや冗談でない執拗さ。どう見ても、接客業の規律から、完全に逸脱している。
 小津映画は、一般的には「静かな退屈な(低刺激の)ドラマ」といわれるが、登場人物が、いったん怒り出すと、しゃれや冗談でない強度の怒髪となる、いつでもそうだ。喜怒哀楽のほかの部分では、さまざまなグラデーションを穏やかに描写する小津映画が、こと「怒」に関しては、常にマックスに振り切った「一本調子」。
 「戸田家の兄妹」の佐分利信、「秋刀魚の味」の岩下志麻、「早春」の淡島千景、「東京物語」「お早よう」の子供たち。
いつも小津映画をみるたびに思う。不思議なことだと思う。
 それを、「東京物語」の一般評、「親を粗略に扱う子供たちの不人情」「世の無常」と、安易に言い切ってしまうのは、いつもぼくにとっては、不自然だった。
 で、そういう「東京物語」の不自然、説明不足を、すべて丁寧かつ合理的に解消したのが、「東京家族」の脚色だろう。
 この脚本は、何度も言うように、素晴らしい。
 だが、結果として出来た映画「東京家族」は。
 丁寧かつ合理的な説明が、映画に豊穣をもたらすかというと、そうでもないのね(笑)。
 むしろ潔いまでに説明省略、不自然、非合理のきわみの小津映画が、光り輝くのは、なぜか。
 結果的に、「東京物語」を秀才が頭でお勉強して、リクリエートしてしまいましたの、図。
 しかし、山田洋次は、よく「負け戦」を戦った。それは、ほめて、あげたい。
 俳優については、蒼井優、夏川結衣、妻夫木、吉行和子はグッド。西村雅彦、中島朋子、橋爪功は、「ちょいと」微妙。「わが母の記」の出演陣に、見劣りする。 

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by mukashinoeiga | 2013-02-05 10:47 | 小津安二郎映画の正体小津漬の味 | Trackback | Comments(2)

山田洋次「東京家族」

 小津安二郎「東京物語」の「物語」「せりふ」「エピソード」をベースに、現代化したもの。
 時折「小津調」の生硬な台詞回しがあって、閉口だが(下手な役者がやるのは、恥ずかしい)、全体的には、それなりに仕上がっている。思ったほど、ひどくは、ないというところか。
 小津「東京物語」の、次女・香川京子、三男・大坂志郎に当たる人物をカット。
 特に「香川京子」役を切ったことにより、「東京物語」最大の突っ込みどころ(もっとも突っ込んだのは、ぼくの知る限り当ブログ★小津漬の味2『東京物語』東山千栄子の死因は原節子だった?★だけではあるが)が、解消された。
 「東京物語」最大の突っ込みどころというのは、68歳の老母・東山千栄子が、はっきり年齢は明示されないが、20代前半(少なくとも、小津セオリーに従えば、23歳以下であるはず)の末娘・香川京子を生むのは、当時としては相当の高齢出産であり、「通常」リアリズムとしては、どうなの、という点だ。「東京家族」では、末っ子の昌次(妻夫木聡)が、アラサー30代前半であろうため、「通常」リアリズムは、保たれたというところだろうか。
 ちなみに小津安郎映画の男の「昌」が、この山田洋版では、男「昌」になっているのは、わかってらっしゃるところで(くわしくは★小津漬の味1淑女はナニを忘れても「二」は忘れない★を参照あれ)。

 以下、当ブログで問題にした、「東京物語」突っ込みどころも、本当にきれいに、解消させている。
◎老父の友人・東野英治郎なじみの居酒屋で、おかみ・桜むつ子に、本当に冗談抜きに罵倒される→
 居酒屋おかみ・風吹ジュンが、小林稔侍を嫌う理由を丁寧に描写(他の客の迷惑そうな様子など)
◎老父・笠智衆が午前様になった「程度」で、長女・杉村春子に、本当に冗談抜きに罵倒される→
 老父・橋爪功が、長女・中島朋子に罵倒されるのは、まあ、しょうがないかの丁寧な描写。ゲロとか(笑)
◎長男・山村聡の息子たちの、自分の父に対する、容赦のない罵倒→
 長男・西村雅彦への、息子の罵倒は、穏当なものに。
 家族でのお出かけ中止に激しく嫌悪する小津版長男を、野球の練習で、もともと祖父母と同行しない予定という、ある意味姑息な(笑)迂回作戦。
◎老父・笠智衆への、子供たち(主として長女・杉村)の激しい嫌悪が、違和感。映画の「現在」における、「神様」みたいにいいおじいさん・笠に対する激しい嫌悪には、どうしても違和感→
 老父・橋爪が、若いころ、いかに酒乱かつ威圧的な親父だったか、長女・中島、次男・妻夫木の、いかにももっともそうな嫌悪感を丁寧に描写。
◎いくらなんでも、旧友・笠が、今夜、泊めてくれと言っているのに、東野、十朱と二人も旧友がいながら、どちらも泊めてくれない→
 友人を小林一人だけにして、泊められない理由を丁寧に説明
◎長女・杉村は、「今夜、うちが(同業美容師たちとの)講習会の番だから」という理由で、老父母は「宿無し」になるのだが、単なる講習会なら、美容室店内などにとどまり?、スペース的にも時間的にも、老父母が家から、追い出されなければならない理由に乏しい?→
 町内会の祭り懇親会?つまり飲み会だから、まあ家中大騒ぎでは、老父母には、いてほしくない?
◎老母・東山が、旅館での睡眠不足でフラフラの翌日、夜中の12時まで、原節子のアパートで、起きている→
 老母・吉行和子は、「遅い時間まで」息子・妻夫木らと、会話、とあいまいに、逃がす。

 で、こういう「丁寧な説明」が、わかりやすい映画になってもいるし、映画を凡庸にしている、ということだろう。
 長くなったので、この話は、続きます。★→この駄文の続き★
◎追記◎もうひとつ、思い出したのは、当ブログ★小津漬の味2『東京物語』東山千栄子の死因は原節子だった?★で、書いたように、
 >最後、東山が死の床についた時に一家が集まって、尾道弁、東京弁、大阪弁を、けっして混じり合わせようとしないのは、考えてみると異様である。マイルドな、流れるような脚本と、演出にだまされてしまうけれども。これは父・中村雁治郎の急を聞いて駆けつけた小早川家の面々も同様で、大阪弁・名古屋弁・東京弁が一家を飛び交う。故郷に帰っても、もはや言葉すら違う家族たちの、(少なくとも)言葉上の極端な差異。
 この、あからさまな違和感が、「東京家族」では、解消されていた。
 中島朋子が、葬式で帰っていた故郷で、突然方言で話し、「あ、帰ってきたんで、なまっちゃった」というようなことを言う。
 自分で説明しているのは、ドラマとしては安易で、ダメなのだが、まあ、こういう形で「東京物語」の違和感、突っ込みどころを一つ一つ、つぶしていったのですね「東京家族」。
 正しいことではあるのだが、だからといって、映画は輝かない(笑)。

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by mukashinoeiga | 2013-02-03 23:28 | 小津安二郎映画の正体小津漬の味 | Trackback | Comments(0)

野村芳太郎「黄色いさくらんぼ」

 阿佐ヶ谷にて。「歌謡曲♪ 黄金時代1960's」特集。60年・松竹。
 いまや歴史の、大井武蔵野館お宝レイトで絶対見てるはずだが、まるきり記憶にないので、再見。
 野村芳太郎が、当時有能な助監督と脚本をコラボしたシリーズ? 本作は山田洋次。なお、年明け京橋で特集される大島渚特集、野村の「どんと行こうぜ」も参考上映されるが、共同脚本は大島渚。こちらも大井のお宝レイトで見たが、松竹貸与のプリントが全編ペナペナで、かなり面白い映画なのに、全てのシーンでピントがぼけていて、実はよく見えなかったものだ。フィルムセンター所蔵のプリントはそれなりに良好のはず、やっとちゃんと「どんと行こうぜ」を見ることが出来る。
 「張り込み」「砂の器」「鬼畜」など、シリアスな映画で評判をとった野村芳太郎だが、実は軽いコメディーも面白いのだ。日本ではコメディー映画はとことん軽視される。悲しいことだ。
 ヒロイン吉村真理がドライな現代娘、彼女はれっきとした彼氏がいながら、バーでホステスをして金を稼ぐ。パパと呼ぶ会社重役と熱海の旅館に旅行に行ったりするが(金に執着なお宮と恋人・貫一の、イメージで、熱海か)、きわどいところをきわどく切り抜ける連続が笑わせどころ。って、いかにも時代だよね。パパパパ連呼しながら、キスさえしない。ぬるい時代のぬるいセックス・コメディーでは、こんなずさんなことが堂々まかりとおる。むしろ、いかに切り抜けるかが、コメディー作家の腕の見せ所、っていう倒錯した時代。
 しかも吉村真理がパパと呼ぶ会社重役は、吉村の大学の同級生・九条映子の父親なのだ。九条は自分の父親が同級生と温泉旅行もノーマンタイ、むしろ突然現われて小遣いせびってやろう、という現実派。ちなみに、きわめてキュートなアイドル女優(大成はしなかった)九条映子は、後に寺山修司と結婚し、寺山をプロデュースした。
 吉村、九条、国景子(彼女もなかなかかわいい)の三人娘はウォーター(!)女学院の学生。そのひとり吉村が水商売のアルバイトをしているせいか。だから、みんな海関係の名前。吉村は渚だし、ホタテとか、そういう名前の登場人物ばかり。吉村の彼氏は睦五郎(ヒロインの彼なのだから主役で。珍しく穂積隆信、唯一の主演作か)。吉村の渚は、ドライな現代娘ということで、多分山田洋次が嫌いそうな大島渚に引っ掛けたに決まっておりますな。この、ヒロインが渚という名前で、コメディーリリーフとしてちらりと出てくるミッキー安川のみ、記憶にある、再見のしるし。あとは初見?として楽しめる。いやあ、ナイスな記憶力だ。
 なお、冒頭クレジットにヒット曲「黄色いさくらんぼ」作曲・浜口倉之助がコミカルに数十秒出演。出たがりやなあ。

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by mukashinoeiga | 2009-12-24 00:27 | 大島の渚に寄せる新波かな | Trackback | Comments(0)