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松田定次「にっぽんGメン 第二話 難船崎の血闘」

 京橋にて。「よみがえる日本映画vol.2 東映篇-映画保存のための特別事業費による」特集。50年、東横映画。
 東映お得意のチャンバラ時代劇がGHQにより、禁じられていた時代なので、東映時代劇スタアが、大挙の現代劇出演。海上保安庁VS日本海方面の密輸団の、対決を描く。第一話なしの、第二話のみの上映だが、一話完結だから、何の支障もなし。
 時代的制約があるので、密輸団は、ほぼ日本人ばかりという設定。<三国人>を悪役としては、まったく出せなかった、情報統制の時代。しかし、それは、今でも、色濃く残ってはいるが。
 市川右太衛門が、海上保安官。いつもの、朗々とした時代劇口調を捨てて、現代劇でもいける、淡々とした演技。好感度大。
 正体不明の謎の男、悪の側に出入りする(絵に描いたような)風来坊が、片岡千恵蔵。でも、これもいつもの片岡千恵蔵だから、実は覆面捜査官なのは、バレバレ。片足を上げて、その下をくぐらせた拳銃からの、トリッキーなガンファイト(笑)も、体型が体型だから、シャープには見えず、笑いを誘う。時代劇とも見まがうべらんめえ口調。まじめな右太衛門に比べ、お笑い担当か。
 悪い密輸団には、大友柳太郎、月形龍之介、進藤英太郎の豪華キャスト。冷酷な大友のワルぶり、オーヴァーアクトの進藤もいいが、月形の登場シーンに爆笑。すっごく、マンガみたいに、にらみつける顔のどアップ。まるで手塚治虫が書いた悪役キャラの顔そのまんま。それを実写でやるなんて、なんてお茶目な月形か。
 滋味あふれる月形、古武士そのままの謹厳な月形、憎憎しげな悪役の月形、はよく見るが、漫画キャラそのままの月形も、もっと見たかったなあ。登場するたび、いちいち、面白すぎる。
 戦前松竹組の徳大寺伸、日守新一、斎藤達雄のチョイ役も、場を和ませる。徳大寺は、以後東映でもたびたび見かけるが、日守、斎藤の東映映画(東横だけど)は、珍しいかな。
 はじめは事件に巻き込まれる被害者、実は悪の女に、なんと、東宝出身の市川春代。市川春代の悪女は珍しいし、しかも歌手という設定で(笑)キャバレーで歌うシーンも。ちょっとふつうにうまいんで、吹き替えか、しかし割りと違和感がないので、本人の声か、判別がつかない(笑)。ま、マジメな歌唱(笑)なので、たぶん吹き替えなんだろうけど。
 この、悪女の、市川春代が、新鮮で、いいのだ。
 市川春代のキャリアというのは不思議で、かなりの年まで、甘ったるい娘役なのだが、若妻の役でもむすめむすめしていて、で、ある日突然、メロドラマなどで、ヒロインなんかの母親役で出てくる(ように見える)。
 ふつうの女優は、若々しい娘役から、ややおとなびた娘役になり、新婚役など経て、幼児のいる母、学生の子の母、とある程度段階をへていくのだが、市川春代は途中の段階を吹っ飛ばして、娘役から、突然、メロドラマの男女主人公の母親役へと、シフトした感じで、その中間が、ないように思えるのだ。
 本作は、その市川春代の、ミッシング・リンクというか、悪女の、というか、ふつうの大人の女の色香を漂わせた、珍しい例で。あのコメディでその才を発揮するエロキューションも封じた、リアルな女の役。これが、なかなか新鮮で、いい。

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# by mukashinoeiga | 2011-05-25 21:03 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

西河克己「東京の人・前後篇」芦川いづみ月丘夢路左幸子滝沢修葉山良二芦田伸介

 神保町にて。「可憐な娘たち 守ってあげたい芦川いづみ」特集。56年、日活。
 かったるいメロドラマ。126分の総集編なので、かったるさも、倍増。
 芦川いづみは、登場の頃の数シークエンスは、お得意の<特殊児童>演技、ちょっと頭が足りない感じ。なのに、それ以降は、ごくふつうの娘のよう。何らかの軌道修正をしたような。
 妻と死別した滝沢修は、娘・芦川いづみを連れて、月丘夢路と再婚。
 月丘にも、左幸子・柴恭二の子が、ある。最初の夫は、戦死。
 月丘は、義理の娘・芦川と、べったり仲のよい母娘。大きくなったいまも、毎晩、お風呂も一緒に入る仲。
 実の娘・左は、当然自分の母親を独占する義理の妹が、気に入らない。女優になり、家には寄り付かず、劇団の役者・金子信雄と同棲する。妊娠する。堕胎する。捨てられる。
 柴恭二は、義理の妹・芦川に発情していて、何かと、絡んでくる。潔癖な芦川は、「お兄さん、きらいよ」。
 滝沢修は雑誌社経営が行き詰って、会社と家庭の両方から失踪して、ホームレスに。元・秘書のアラタマは、ホームレスになっても、好きな人、と滝沢一途の愛。
 夫が行方不明の月丘は、年下の医者・葉山良二と、愛欲にふけるが、葉山の兄・芦田伸介は、「弟・葉山の嫁さんには、ぜひ芦川を」と、話は、どんどん複雑に、メロ化していく。
 登場人物が入り乱れ、話はだんだん複雑になり、メロドラマの要素は満点なのだが、この種のメロドラマにありがちなように、登場人物は、みなうじうじ悩むばかり。話は、全然、すっきり、しない。先へ、進まない。
 もう、かったるくて、かったるくて、しょうがない。
 やっぱり、日活にメロは、向かないよ。メロの本場・松竹の助監だった西河にも、どうしようもない。
 ただ月丘夢路のセクシーさ、芦川いづみの可憐さのみ、いい。

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# by mukashinoeiga | 2011-05-21 00:02 | 芦川いづみ:青春快談いづみ晴れるか | Comments(0)

舛田利雄「やくざの詩」

 神保町にて。「可憐な娘たち 守ってあげたい芦川いづみ」特集。60年、日活。
 小林旭の魅力全開。シリーズものではそんなに出てこないナマの魅力が、ホントに素晴らしい。いや、シリーズものでも、小林旭は、スタアの魅力出ているんだが、シリーズものの、お約束の連続とはまた違う、さわやかなヒーローぶり。
 しかし、小林旭、有能な元外科医にして、プロのピアニスト、しかも日本ではマレなスーパーガンマン、って、ドンだけヒーローなんだ(笑)。この旭が、医者を辞めて、恋人を殺した殺し屋を求めてさまよう。
 だから、どんなに魅力的な芦川いづみが現われても、恋には、落ちない。この、あらかじめ封じられたラヴ・ストーリーのクールさこそ、日活。
 <特殊児童>というキャラを<得意技>とした芦川が(「特殊児童」キャラ芦川が、ある意味「特殊児童」川島雄三の映画と相性がよかったのもむべなるかな)、ある程度年をいって、二十代後半になったとき、もう<特殊児童>キャラは無理。そこで壁にぶつかって、結局は、若くして引退ということだろうか。この映画でも、十代の頃のオーラは消え、この特集でも出てくる「東京マダムと大阪夫人」「あいつと私」「あじさいの歌」「若い川の流れ」「あじさいの歌」「堂々たる人生」「乳母車」、それに今回上映されなかった川島「風船」のような、絶対の魅力は、もはや、ない。
 酔いどれ医者(金子信雄が快演)の父、いこぢな旭に、優しくきつく対応するお姉さん・芦川いづみ。
 でも、どんなシリアスな場面でも、芦川は、笑顔のアイドルのように口角が上がっていて、無表情なのに、笑っているかのよう。あまりに不自然な顔。いや、もともとふつうにしても口角が上がってしまう顔なのかもしれないが、あまりにドラマのフンイキをぶち壊す、口角の上がり方。これ、まずいだろ。
 「キネマ洋装店」掲示板で、本作に触れたゲストが、「深江章喜と南田洋子」のサブキャラ・カップルを絶賛していたが、これは、ぼくなどもよくやる勘違い。深江章喜は、この映画には、出てこない(たぶん)。出てくるのは、絶賛に値する名演の垂水悟郎。たしかに深江と垂水のマスクは似ている。勘違いするのも無理はない。そのマスク、その演技、本作の垂水は素晴らしい。ベスト・パフォーマンス。

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# by mukashinoeiga | 2011-05-19 00:41 | 旧作日本映画感想文 | Comments(2)

西河克己「しあわせはどこに」芦川いづみ 葉山良二 二本柳寛 山根寿子 宍戸錠

芦川いづみのさわやかさもさることながら、葉山良二の好漢ぶり、二本柳寛のさりげない大人の魅力、皆々素晴らしい。母・山根寿子もいい。色悪というか、宍戸錠の、酷薄なる不気味さもいい。
 神保町にて。「可憐な娘たち 守ってあげたい芦川いづみ」特集。56年、日活。
 ついこの間、ここに、こう書いた。
>ぼくも未見「やくざの詩」「東京の人」「しあわせはどこに」を見たい。
 で、この3本を見に行きました。けっきょく「東京の人」「しあわせはどこに」は、既見作で(泣)。ぼくの記憶力はどこに(泣)。
 2/3は、いわゆるふつうのメロドラマ。芦川いづみが、親なしっ子なので、会社の就職に不利になる。いまは、たぶん、ないとは思うけれど、そういう時代が、ありました。親の力が評価されていた。いまは、両親そろっていても、ふたりともバカ親だったら、かえっていないほうが良いくらい? その芦川に好意をいだく葉山良二と、芦川を欲望のままに狙う宍戸錠との、三角関係、芦川のかわいさもあって、好感触。
 ところが、ラストはアクションもの(場末の倉庫での乱闘)になるという、日活お得意の展開。メロとアクションの混合は、なにげに珍しい。
 知り合った人たちが、みな、なにかの縁で繋がっているという、メロドラマのお約束も好ましい佳作。
 
 メロドラマとしては、そこは慣れない日活のこと、いろいろ不思議の違和感はあるが、絶対の魅力、芦川、葉山、二本柳、山根の素晴らしさに、なんとも。
 宍戸錠、細身の顔に、しゃれにならない酷薄さ。本当に、悪い奴に、見える。
 当時としては珍しい整形をして、ほおにふくらみを持たせて、コミカルにしたのは正解で。そうしなければ、相当陰惨な役柄しか、与えられなかったに違いない。本作には、陰惨な、整形前の、色悪が見れる。これでは、スタアには、なれない。そう自覚しての、整形だろうか。
 西河克巳の手堅い演出も光る。
 かつて、ぼくが若い頃、西河克巳なんてものは、ぬるいアイドル映画(吉永小百合から山口百恵、その他の有象無象)専門監督と馬鹿にしていたのだが、何の何の、最近幾つかの映画を見るにいたって、捨てたモンではない、と再注目しているのだ。

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# by mukashinoeiga | 2011-05-17 00:36 | 芦川いづみ:青春快談いづみ晴れるか | Comments(0)

千葉泰樹「悪の愉しさ」森雅之久我美子伊藤久哉杉葉子千石規子

 京橋にて。「よみがえる日本映画vol.2 東映篇-映画保存のための特別事業費による」特集。54年、東映東京。
 本作の東映カンパニー・ロゴは、大理石?風の石壁に、東映の△マークと社名が刻印されたもの。会社の玄関辺りにありそうな感じ。同じ日に、次に見た千葉泰樹「女給」は翌年の作ながら、後に定着した、波間に漂う東映△マーク。
 冒頭クレジットには、<森雅之 久我美子 伊藤久哉>と、主役人三人が、出るが、モリマは、油ギッシュなやり手ブローカー役の、脇役。実質主演は、伊藤久哉。ただ、伊藤にはネームヴァリューがないので、モリマが名前を貸した、というところか。
 いっしゅのサギなのだが、小ずるく人をだます男の映画だから、まあ、この程度はやむをえまい(笑)。
 伊藤久哉。東映で初主演して、でも藤本プロに拾われて、後に東宝系の脇役陣に、ということか。数々の東宝系映画で、怪しげなキャバレーのマネージャーとか、殺し屋とか、ちょこまか、出てくる。ほんとに、よく出てくる。やはり、主役としては、オーラなく、華もなく、主役失格だったのね。
 伊藤久哉は、同僚の久我美子をだまし、伊豆肇をだまし、伊豆肇の細君・千石規子をだまし、大家の未亡人・東郷晴子をだまし、とにかく久我美子はともかく、千石規子まで、コマしてしまう。理由は、もったいないから(笑)。東郷晴子も、家を追い出されないために、モノにする。
 でも、これ、悪、って言うより、悪ぶっているというか、せいぜい小悪だよね。楽しそうにも見えない。
 話はそこそこ面白いのだが、伊藤が人をだますサマを見ていても、面白くもなんともない。比較が極端だが、これが、モリシゲとか、鴈治郎とか、浪花千栄子が人をだます様子は、見ていて楽しいよね。いや、こんな重量級と比べること自体が、間違いだが。
 東映出張の東宝系女優たちを見て、びっくり。久我美子が、むしろこちらのほうが悪ぶった魅力満開。セクシーで、いい女。こんな役、東宝でも、松竹でも、絶対出さしてもらえなかった、久我美子のセクシーさ。
 同じく杉葉子。しどけないシュミーズ姿で、夫・伊藤に見せる、開きなおった、ふてぶてしさ。清純さをかなぐり捨てた、捨てがたいセクシーさ。
 ま、東郷晴子は、せっかくいつもの東宝映画らしからぬ、悶える未亡人の役を振られても、ワンパターンの演技力だけれども。
 千石規子、何か、着物の着こなしがヘン。で、これまた、何かパターン演技に終始して、はじけない。
 久我も杉も、もう少し東映に出演すれば、もっと違った展開があったのかも。いやいや、東映は女優をたいせつにしないからなあ。やはり、千葉泰樹の演出のゆえか。もう一回上映があるので、久我美子や、杉葉子の素晴らしさだけで、必見。
 モリマは(笑)。脇役ならではの、主役では決して見せない、いささかのクサさを堪能(笑)。いや、でも、脇役でも、うまいよね(笑)。
 千葉泰樹演出のさりげない厚みを体感しました。ま、映画自体は、それほどの面白さではないにしろ。でも、見た直後より、いまのほうが、より鮮明に、久我、杉のよさが、濃くなっている。

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# by mukashinoeiga | 2011-05-15 23:08 | 千葉泰樹 ヤスキ節の愉しさ | Comments(2)