久松静児「丼池(どぶいけ)」司葉子三益愛子新珠三千代森光子佐田啓二中村鴈治郎

 神保町にて。「昭和の庶民史・久松静児の世界」特集。63年・宝塚映画。
 女子大生上がりの高利貸し司葉子が、大阪丼池界隈でエネルギッシュに成り上がるさまを描く、菊田一夫戯曲原作のパワフル快作。猥雑な掃き溜めの中の鶴を、司葉子が快演するが、この時期の東宝で、経済もの(つまり、東宝にあっての経済系映画とは、株で一攫千金系か、会社乗っ取り系の二つなんだが)というと、なぜか女優は決まって司葉子という印象があるのだけれど。そのクールビューティーぶりが、ハードボイルドな映画に合うということか。

e0178641_2431390.jpg『丼池(35mm)』1963年 (渋谷シネマヴェーラHPより)
監督:久松静児
出演:司葉子、三益愛子、新珠三千代、森光子、佐田啓二、中村鴈治郎
昭和27年、大阪の丼池。老舗問屋の乗っ取りを巡って、女たちの意地と情のバトルが勃発する。大卒論理派金貸し・司葉子と老練の高利貸し・三益愛子、色仕掛けで店を狙う新珠三千代の三つ巴の騙し合いに加え、空売り、買占め、インサイダー等の頭脳戦も手に汗握る面白さ! 浪花千栄子は行商のおばちゃんとして登場し、森光子との軽妙なやり取りで笑いを取る。

 大学の同好会乗りで、同級の男子大学生たちを部下に従え(江原達怡とか西條康彦とかの、頼りない系東宝若手やさ男陣たちだ)、司葉子は颯爽と高利貸しの道を邁進する。彼女に手を貸したり裏切ったりの海千山千狸婆あに、この人、三益愛子。いつもの調子でへらへら笑いながら、儲かってんだか、損してんだかの狐女浪花千栄子。若いながらも涼しい顔で中村雁治郎を手玉に取る新珠。いずれ狸か狐か、の怪女たち。の、中で、ぎゃーぎゃー無駄に騒ぎながら、あたりをうろつき回っている<残念な空騒ぎ女>が、森光子。安直に、常に強いほうに付く、しかも大騒ぎして加担する、コバンザメ女を柄に合って快演する。映画ではとうとうチンピラ女優のままだったが、TVで成功し、舞台で<日本の女優で初の国民栄誉賞>に輝く。長生きも芸のうちなのか、究極の出世魚なのか。まあ、国民栄誉賞自体が、デタトコまかせで極めて安直に選ばれているというのもあるのだが。
 経済系司葉子は実に面白い。ところが、続けて見たのが、同じ久松の「新・女大学」(60年・東宝)。つまらない映画だが、それ以上に、司葉子が甘えん坊の新婚妻で、夫が無断外泊するや、たちまちすねて、へそを曲げて実家に里帰りする、というあまりのぶりっ子ぶりに、快作「丼池」のあとだけに、体が受け付けまへんわ。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-15 00:06 | 面白メロドラ日記 久松静児 | Trackback | Comments(0)

ゲオルク・スラウツァー「バニシング」

 京橋にて。「日本オランダ年 2008-2009 オランダ映画祭2009」特集より。88年。
 初のオランダ・フランス合作の由。アムステルダムから南仏へ車でバカンスに出かけたカップル。混雑するサービスエリアで、女のほうが「失踪」してしまう。捜し求める男、数年後、あきらめきれない男は捜索を再開する。ここがいかにも外人さんだなあ、というのは捜索に新しく出来た彼女を連れて、というところだ。
 男の捜索と並行して描写されるのは「犯人」の中年男。平凡な妻や娘たちとの暮らし。一方で手に入れた、一軒家の別荘。ここで男は犯行の事前練習をする。初対面の相手に、親切でフランクな男という印象を与える「何気ない会話」の一人芝居。自分の車に「何気なく」かつ「悪意なく」誘う予行演習。気づかれることなく、麻酔薬をしみこませたハンカチを相手にあてがう練習。思うように行かず、がっくりきて、思わず口に手のひらを当てるが、手のひらにはハンカチも、ということで自分で自分に麻酔したことになり、思わずしょげる「犯人」男。数時間後、運転席で目覚め、一応どのくらいの睡眠効果だったか、確かめる。
 週末には家族も別荘にやってくる。庭での食事。近所を散歩中に、川で少女がおぼれている。「犯人」男は橋から飛び込み、少女を助ける。娘は「パパ、ヒーローね」。まんざらでもない「犯人」男。
 一方「捜索」男は、フランスのTVに出演、元恋人の行方を公開捜査番組とし、情報提供者に賞金を出す告知。一家団欒でその番組を見る「犯人」家族。「犯人」男は真剣なまなざしで見るが、娘は「あっ、あたしたちがTVに映ってる」とうれしそう。「捜索」男が休日で混雑する街中で(何かを)探し回るロケの群衆の中に、自分たち家族を発見したのだ。「捜索」男と「犯人」男は意外に近くにいたのだ。
 いよいよラスト。「捜索」男は自宅前に不審な車を発見、近づくと「犯人」男が降りてきて、「彼女に何がおきたのか、知りたくないか」と、「説得」を始める。「知りたくば、俺とこい」。「捜索」男、「もう彼女はとっくに殺しているんだろ。だが、犯人に憎しみはない。ただ、彼女がどうなったのか知りたいだけだ」。ということで、なんと「捜索」男は単身で「犯人」男の車に乗ってしまう。オランダからフランスへの国境を越える「犯人」男、「パスポートは持っているか」。「自宅だ」「なら、国境で、まずい。後ろのシートに寝て、警備員から身を隠せ」。明らかに「犯人」男の手の内にはまる「捜索」男。これで、彼が国境を越えて連れ出されたという証拠は存在しなくなる。無事、国境を越えると、「犯人」男はペットボトルを取り出す。彼女に使ったと同じ睡眠薬が入っている、これを飲めば、彼女の身におきたことが「わかる」、と。「捜索」男は、迷いに迷ったあげく、とうとうペットボトルの液体を飲んでしまう。前半、いささか不得意に予行演習を重ねていたのと同一人物とは思えない、見事な詐術で男を手の内に入れる「犯人」男。おそらく、あれ以後も、何件か事件を積み上げて、腕を伸ばしてきたのだろう。実際詐欺師が繰り出す<魔法の言葉>は、客観的に見ればばかばかしい限りだが、シャワーのようにその言葉を浴びせられれば、だまされるほうがむしろ快感だったりするのだ。
 次の瞬間、「捜索」男が目覚めたのは、土中の(もちろん)密閉された棺の中。大声で叫んでも、時すでに遅し。犯人を目の前にして「憎しみはない。真実を知りたいだけだ」とほざく、リベラル人権派の哀れ末路かな。地上では、週末に別荘で食事の準備をする家族たち。妻が、庭の風にそよぐ草花を見ている。その下に何個棺が埋まっていることやら。「犯人」男の車のウインドウ越しに新聞が見える。「捜索」男と元恋人の写真が並んで「謎の連続失踪」の大見出し。
 おそらく、ある種の快楽殺人、衝動殺人に、理由を求めること自体がナンセンス。理由や、その理由ゆえの情状酌量なども、殺された人間にはまったく関係のない、一種の精神上の示威/自慰為に近いものがあるだろう。映画的には凡作水準作ではあるが、奇妙に印象に残る。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:33 | 旧作外国映画感想文 | Trackback | Comments(0)

ペーター・デルプト「フェリーチェさん」

 京橋にて。「日本オランダ年 2008-2009 オランダ映画祭2009」特集。98年。
 幕末から明治にかけて来日した、イタリア系イギリス人写真師フェリーチェ・ベアトをモデルにした、ほぼ日本オールロケのオランダ映画。主演俳優はナレーションのほかは、ほぼ日本語で通し、トシエ・オグラ、リナ・ヤシマ、ノリコ・ササキ、ヨシ・オイダなどの日本人俳優も好演を見せる。監督が日本通なのか、ついた日本人スタッフが優秀なのか、外国人による日本描写としてはほとんど違和感がない。映画自体の出来は、まあ並だが、その違和感ない日本描写には驚く。
 もっとも低予算映画で明治を再現するのは不可能なので、旅する主人公の描写は、ほとんど室内の旅籠から旅籠の連続。セットなのか、おそらくロケ・セットの室内描写の連発は、やや息苦しい。日本人弟子の庭先を尋ねるシーンも、彼もまた写真師なので、庭に大きく撮影用の背景幕を張り巡らして、外景を隠す周到ぶり。風景は、数々の古い明治写真を利用して、写真師という職業ならではの苦肉ぶり。
 なお、彼が捜し求めてさまようヒロインは、彼を呼ぶとき、やわらかく、続けて名前を呼ぶのが(「フェリーチェフェリーチェ」)印象的。きわめて日本的な<カワイイ>響きを持つ。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:32 | 旧作外国映画感想文 | Trackback | Comments(0)

谷口千吉「カモとネギ」

 「男優・森雅之」特集、神保町にて。68年、東宝。
 なかなか肩の力が抜けて面白いプログラム・ピクチャア的コメディ。モリマが詐欺師団のボスという設定で、ダサダサのよれよれ税務署職員、かっこいい紳士の教育委員会委員長、引き締まった自衛隊員、などコスプレ三昧。新劇俳優であった彼にとって、こういう扮装はまことに板についた感じで、モリマ・ファンとしてはただただ、ニヤニヤしながら見ていればいい。紳士にうっとりして、手もなく丸め込まれた教育ママ・山岡久乃が、教育映画と信じてピンク映画を見せられ、だんだん興奮していくさまで、笑いを取る。
 なお、この特集では、大部分が既見なのでパスしたが、数少ない未見作「東京のヒロイン」(50年新東宝)を見逃す。外れのない島耕二なのに。彼と相性がよい轟夕起子なのに。残念。
 井上梅次「女房学校」(61年大映東京)は見た。コミカルな金魚研究家のモリマはよいが、全体につまらない。井上の映画に必ず出てくる月丘夢路も出てくるが、実人生で夫婦であっても、映画的相性があるわけではないのが、惜しいところ。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:31 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

西河克己「帰郷」

 「男優・森雅之」特集、神保町にて。64年、日活。
 小百合主演日活青春映画のはずが、冒頭10分くらいは、キューバが舞台で、完全にモリマ主演、小百合はサの字もない。そのキューバ革命前夜描写は、西河らしからぬ(日活的ではあるのだが)スタイリッシュさ。佐分利信版「帰郷」の重厚さには及ばないが、かるみの森雅之も面白い。妻子を捨てたことに対する反省が微塵もないのがモリマ、外国にも日本にも身の置き所がなさそう感濃厚のサブリンに対し、どこでもすぐ居場所(と女)を見つけてしまいそうな感じで。実娘の小百合と京都の古寺で再会しても、なんだか若い娘をユーワクしそうな風情で。
 この時代の日活で、なぜか、本当になぜか、いい女風悪女を一手に演じていた渡辺美佐子が本作でも、悪女(彼女が演じると、じと~っとした、やな女)を柄に合って演じている。
 永遠の優等生、終生学級委員長の小百合は、こういうニュアンスのというか、陰影のある役は演じきれないけれど、このころは雰囲気を邪魔しないさわやかさがあった。彼女と義父母の家庭描写は、明るくさわやかな日活調。

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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:30 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

森永健次郎「花のゆくえ」

 神保町にて。「観光バスの行かない町」特集。55年・日活。
 典型的女の悲運メロドラマ。というか、日活はこの手のメロが苦手で、出来損ない、まるでメロドラマのパロディーめいてくるのが珍。
 ヒロイン津島恵子が、行く先々で悲運に恵まれ(!)、それを逃れるべく、また流れていくのだが、そのいちいちがせこすぎて、彼女がもっと機転が利くタイプだったら回避出来得るレヴェル。まあ、機転が利くようではメロドラマは成立しないのだが。また、彼女を一方的に?恋することで、毎度毎度彼女を泥沼に引きずり込むのが好青年タイプの若原雅夫。松竹の「適齢三人娘」(川島)の名コンビも、形無しで、こいつももっと機転を利かせれば、津島もクロウしないものを。
 最後、銚子に旧友を頼っていくが不在、またしてもの悲運に海に飛び込まんとする津島、そこを通りかかったのが岡田英次、彼が出てきたとたん好青年とわかる絵に描いたキャスティング。また、新珠の結婚相手として出てくる金子信雄、出だしから顔をゆがませて、ああこいつすくに浮気するなと思ったら案の定。一方岡田は早速彼女に見とれて自転車ごと壁に激突、ひっくり返るドジっ子ぶりだ。ああ、これで彼女も救われるはず・・・・と、顔を見せるだけでわかるのだから、さすが岡田英次だ。相変わらず演技は下手であるが・・・・わざとらしく咳をする岡田英次、こんな下手な咳の仕方、それでも役者か岡田英次。まあ、永遠のアイドル役者ということで。
 なお本作の好青年といえば、もう一人。いささかトウの立った好青年だが、伊藤雄之助。なんと、珍しく、嫁取りをする好人物役。津島のそろばん塾の生徒、食品店の跡取りなのだが、津島や親友・新珠の同窓生を嫁に迎えるのだから、立派な好青年だ。その嫁が<十九歳(の時)で十九貫>のおでぶちゃん。「じゃ、三十歳なら三十貫かい」と伊藤、同窓ながら津島の楚々とした美女ぶりと見比べ複雑な表情だが、婚約時代から尻に敷かれていく。この彼女(矢吹寿子が明るく好演)が、津島らと同窓生というのも、偶然会った人物も実は因縁がある、というメロドラマのお約束だが、津島が「あら、エレちゃんじゃないの!」と再会を喜ぶと、雄之助「エレちゃんて?」、矢吹悪びれず「学校時代のあたしのあだ名よ。エレファントのエレ」。おそらく肥満系女子のあだ名としては、最高に愛らしい。この愛らしさと度胸とパワーが津島にあったら、メロドラマ系悲運の女にはならなかったものを。津島の悲運を矢吹は「美人は損ねえ」と笑い飛ばす。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:29 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(5)

山村總「鹿島灘の女」

 神保町にて。「観光バスの行かない町」特集。59年・東映。
 山村總としても力のこもった傑作である。
 茨城県鹿島灘の魚村民たちが、その内陸部、霞ヶ浦周辺農村に、季節労働の出稼ぎ、稲刈りに行く。これに主人公たちが行く千葉県銚子を含め、もはや根絶した日本の原風景がカラー・ワイドスコープでこれでもかと映し出される、資料的価値は絶大である。それは郷愁を誘う映像というよりは、まるで異国(戦後イタリア映画が強烈にイメージされる)の風景のように見える。ドキュメンタリスト山村の資質であろうか。
 そして、これは交通のメロドラマとして、すばらしい。小さな路線バス、貸し切りバス、汽車、そして水郷の村を網のように張り巡らされた小さな用水路を行く、漕ぎ舟、モーター船、の数々。最後は、主人公たち男女が銚子港沖で、外洋マグロ船と連絡船とに分かれて、交差しあう船のメロドラマとして幕を閉じる。鹿島に帰る連絡船の女は男に気づくが、マグロ船で初の外洋に出る男は興奮していて、ついに連絡船の女には気づかない。しかし、分かれであっても、いずれ男は自分の元に戻ってくるだろうという喜びのなか、女は花の笑顔で男を見送る。交差するメロドラマのなかで、一方の男は女に気づかない、なのに笑顔で男を送り出す女、むっつり顔の男山村總にして、信じられないくらいすばらしいハッピーエンドだ。
 特にすばらしいのは、用水路の水辺で語り合う男女のすぐ脇を漕ぎ舟が通り、舟の中から二人を冷やかす。舟と舟が小さな用水路で交差する一瞬に会話を交わす人々。そのたたずまいを、叙情に走らず描いて見せる楽しさ。すべてのプロ監督も嫉妬するのではないか。
 主役グループで有名なのは新人・江原真二郎くらいか。援農隊はおなじみの面々、花沢徳衛、中村是好、織本順吉、そしていつも家庭婦人の役専門の三宅邦子が珍しく肉体労働に従事する。しかしもともとお上品な奥様らしく、貧血で倒れたりする。やはり松竹の吉川満子、この人は顔が変わって、神保町シアターが配るスタッフ&キャスト表を見るまで気が付かなかった。村の地主・山村總の母に杉村春子。杉村の娘に、ちらりとしか出ないが沢村貞子。この二人が似ていて、子供のころはなかなか二人の違いに気づかなかった。キャラがかぶる二人が共演することはまれで、まして親子役というのは、わが意を得たり。さすが山村總。
 ヒロインをはじめ若い女性たちもいい。特に山村の娘役が、まるで戦後イタリア映画のヒロインみたいに大胆系。
 この集団劇を彩る無名の出演者たちは新劇系が多いのだろうか。それを山村は巧妙にさばいている。
 いつか山村總監督特集もやってもらいたいもの。もちろん佐分利信、望月優子、田中絹代、菅井一郎、斎藤達雄らの監督作も加えて。小津の助監督からはとうとう優れた監督は出なかったが(日活へ行った今村、斎藤武市は別)その俳優陣は実は多士斉々な監督ぞろいなのだ。その際には、山村製作・監督の釣りドキュメンタリーもぜひ発掘してほしいもの。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:28 | 傑作・快作の森 | Trackback | Comments(0)

川島雄三「昨日と明日の間」鶴田浩二月丘夢路淡島千景進藤英太郎大木実野添ひとみ

 池袋にて。「芸能生活70年 淡島千景の歩み」特集。54年・松竹。
e0178641_12235683.png 未見の川島だ、わーいわーい、と駆けつけたら、本当に未見だった(笑)。
 新文芸坐のチラシに「60年代鈴木清順作品に先駆けたユニークなセットも見所」とあるが、その通り。
 映画館のスクリーンの後ろにある部屋とか、やはり映像の映るスクリーンの前に立つ人物とか、洋風のバーにある畳の小上がりとか、淡島千景が寝起きでホテル風のベッドルームから階下に降りると、しょぼい事務所だったりとか。
 清順の場合、それははっきり異質感を打ち出しているのだが、川島の本作では多少風変わりな趣向というにとどまる。しかし、より清順的なのはセットよりも、東京と大阪と三宮が、それぞれすぐ隣のブロックであるかのように、まったく遠近感を欠いて存在している点だろう。
 メロドラマには時間や物理的距離や心理上の<遠近感>によって生じる齟齬が必要不可欠なのではあるが、意図的にか無意識にか、それらを無効にする清順への、先駆的試みではあるだろう。
 小津、成瀬、渋谷、川島、岩間、清順など、つながらないものを強引につないでしまう<松竹ヘン監の系譜>の一本ともいえる。
 なお、本作がめちゃくちゃ珍品なのは、いろいろテクニックを使ってぱきぱきテンポがいいにもかかわらず、映画全体を通して、実に停滞していることだろう。
 トリッキーな映像とテンポでさくさく進むのに、話は間延びして、退屈。
 その理由は簡単。本作のストーリーは二本立て。一本は、青年実業家鶴田浩二が資本家進藤英太郎の資金協力の元、航空会社を立ち上げる話。もうひとつが進藤の妻、月丘夢路が、鶴田によろめく話。この、よろめき話がドラマに停滞をもたらすもと。くよくよさめざめと、一歩前進二歩後退。よろめきというよりは、よたよた。増村が千羽鶴なら、これは千鳥足。ますますムラムラの増村がもし本作を見たら、あまりの停滞ぶりに憤怒して脳卒中になるレヴェルだ。
 ただ、この月丘のよろめき妻は、おそらく月丘史上最高の美しさを引き出している。よろめき役を得意とする月丘の中でも、堂に入ったよろめきぶり。好青年鶴田にもだえる妻を見て、進藤「何であんな男に惚れるのか、わしにはどうにもわからん」と、本気で不審がるのが笑わせる。「金はないし、自分が作った会社を乗っ取られるやつだぞ!?」というのだが(乗っ取られたのではなく、鶴田は会社を立ち上げるのは好きだが、出来た会社はすぐ手放す創業フェチなのだ! 強欲な進藤には理解のほかの行為だ)。
 なお、これはひそかな内輪受けギャグだと思うが。鶴田の航空会社は、当初多摩川沿いの広大な空き地を飛行場にする計画だったが、結局羽田空港の敷地を借りることに落着する。もし多摩川飛行場ということになれば、実際に多摩川近辺に飛行場のオープンセットをつくる必要がある。そんなことは松竹映画では大作でも許されないことだ。おそらく原作は気宇壮大に多摩川に作る設定だったのだろう(未読のうえでの推測)。羽田なら空港を借りて撮影すれば簡単だ。で、鶴田の部下が聞く「多摩川のほうはどうなりました?」鶴田答えていわく「映画会社が先に買って、撮影所を作った」。本作を最後に松竹を去り、新築なった日活調布撮影所に移籍する、伏線とも思えるギャグと考えるのは考えすぎか。
 これで思い起こすのは、やはり戦前、成瀬が松竹蒲田最後の作品「限りなき舗道」、日守新一の仕事先は自由ヶ丘撮影所だ。これも砧にあるPCL(のち東宝)に移籍する伏線の<ギャグ>とも取れる。ある意味、追い出されるように逃げ出す監督にも松竹は寛容だった、ということだろうか。

 ★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。

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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:27 | 珍品・怪作の谷 | Trackback | Comments(2)

川島雄三「明日は月給日」

 神保町にて。「昭和の原風景~太田和彦『シネマ大吟醸』より」特集。
 52年、松竹。
 未見の川島だ、わーいわーい、と駆けつけたら、既見作だった(笑)。以下同文。
 日守新一を家長とする大家族が忙しく出入りする、いかにも川島な快作。ヒモリンの独特なエロキューションがさらに濃厚さを増して、いい塩梅だ(?)。松竹時代の川島は不調であった、というのは、実際に見てみると、丸きりの嘘でもあるという。日本でいかにコメディが評価されないか、のお手本。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:26 | 傑作・快作の森 | Trackback | Comments(0)

川島雄三「適齢三人娘」

 神保町にて。「昭和の原風景~太田和彦『シネマ大吟醸』より」特集。
 51年、松竹。
 未見の川島だ、わーいわーい、と駆けつけたら、既見作だった(笑)。
ぼくのお粗末な記憶力のせいだが、しかしこのお粗末な記憶力のせいで初見同様楽しめるのだから、災い転じて眼福となる、のはいつもどおり。
 妹・津島恵子向けの見合いの代役に姉・幾島道子。その見合いの相手・細川俊夫は友人・若原雅夫に見合いの代役を頼む。代役同士の見合いは、お互い好印象。津島も若原に偶然出会い好印象。これに若原に一方的にほれている小林トシ子が絡み、さらに小林には若原の助手・大坂志郎が片思い。一方的にほれる猛烈女というのは「昨日と明日の間」の淡島千景も同じ(このタイプを洗練させたのが「貸間あり」の淡島)。忙しい人物の出入り、場の出入りというのが川島の好みみたいだ。
 津島恵子のキュートさが際立つ。斜陽族の津島を取材する、「ローマの休日」のグレゴリー・ペックばりの雑誌記者若原もグッド。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:25 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)