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井上和男「ハイ・ティーン」

e0178641_233395.jpg 神保町にて。「男優・佐田啓二」特集。59年・松竹大船。
 本来堅物の佐田が学校の教師役、一見マッチしそうな役柄ながら、いやマッチし過ぎるゆえか、佐田がなかなか演じることがないのが教師役。今回はその珍しい例なのだが、やはりクールな佐田には、生徒に慕われる教師の役は合わないなあ。お話も妙にバランスを欠く。ラグビーのシーンが必要を超えて多い。確か監督の蛮さんは、ラグビーしてなかったか。間違いだったら、ごめん。
 佐田に<お熱を上げる>(死語)遅刻早引け常習犯生徒に桑野みゆき。はじける魅力!と、言いたいところだが、いまいち天然じゃない。優等生が、ちゃんと演技してます感あり。もっとも、みゆきに点が辛いのも、ぼくたちは彼女の影にその母の幻影を追っているせいか。お母さんは、もっとよかったんだけどねー、って奴。
 なお上映前に、シアターにおいてある詳細なキャスティング表(ときに出ていない人の名があったり、手を抜いていたりするときもあるが、たいへん参考になる)の、下のほうに二階堂有希子の名を発見! 二階堂有希子とは、「ルパン三世」ファースト・シーズンで、初代峰不二子の声の人。二代目峰不二子の人工甘味料めいた甘ったるさとは比べ物にならない、<色っぽいお姉さん>なのだ。
e0178641_2344168.gif で、この映画の二階堂有希子(俳優座)は、まじめな学級委員女子。学園映画では定番の、教室後方で不良男子が騒いでいると、最前列の席から、きっと振り返り「あんたたち、いい加減にしなさいよっ!」と叫ぶ役回り。その腹いせに、不良男子にたびたび弁当を盗まれる。彼らも、好きな女の子に意地悪をする、なんて感じではなくて、単なる嫌がらせ。そういうまじめな、あいまいな顔の、彼女が、後年の70年代男子に、峰不二子の存在を強烈に印象付けるようになろうとは、想像すら出来ない地味な女の子なのであった。
 不良男子、でも心は純なのよ、な役に三上真一郎ら。ま、松竹ですからね。

◎追記◎本作に関して、以下の記事を追記しました。
★尾崎紀世彦が井上和男「ハイ・ティーン」に?★

# by mukashinoeiga | 2009-09-04 08:58 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(1)

谷口千吉「赤線基地」根岸明美三国連太郎金子信雄中北千枝子

 京橋にて。「逝ける映画人を偲んで 2007-2008」特集。53年・東宝。
e0178641_1858312.jpg 監督・谷口千吉と、主演・根岸明美の追悼。これまで見た谷口映画のなかでは抜群に面白い快作。代表作と言われる「銀嶺の果て」をはじめとする凡作群のなかで、快作「カモとネギ」よりも面白い。
 NFC解説によれば「反米的なテーマのため一時は上映見送りとなった」というが、実際に今現在の視点から見てみると、反米色はゼロである、と断言してよい。かといって、反日色もあるとは思えない。政治的にも映画的にもこの映画、非常にバランスよくて、主人公・三国連太郎の弟・金子信雄のように、家族の誰にもいい顔して、いいこと言う八方美人。ホント、堂に入った八方美人な金子信雄そのままの映画なんですね。誰も映画を見ずに、その<テーマ>で映画を抹殺ないし称揚する、そういう無理無体に翻弄されてきたのが<テーマ映画>なんだけど、そういう映画ですらないこんな映画までその影響を受けるのは、やはりおかしいだろう。
 富士山の裾野の村で、十年ぶりに満州から復員してきた三国には、戸惑うことばかり。自分の部屋だった実家の離れは、ガールさん、ことその実態はオンリーさんに貸間している。このガールさん、根岸明美が彼女最高のパフォーマンス。アメリカンなパワーの裏にある浪花節。
e0178641_18584838.jpg 離れと言いながら、母屋と一体になった離れで、この二つ家に家族のさまざまな出し入れがあって、それが面白い。いささか演劇的だけれども、なかなか効果的だ。
 三国の元カノに、衝撃の登場は、中北千枝子。アルバム写真の17才清純乙女もビミョーだが、戦後のパンパン姿のケバさも凄い。その化粧自体が、すでにオカルト(笑)。元清純派の面影すらない、かなり残酷なキャスティングじゃないか。

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# by mukashinoeiga | 2009-09-04 08:57 | 傑作・快作の森 | Trackback(1) | Comments(2)

黒沢明「悪い奴ほどよく眠る」

「はい、皆さん、こんばんは。黒沢明監督『悪い奴ほどよく眠る』、名作中の名作ですね。今見ても古びない、官僚の天下りを描いて、圧巻ですね」
「すごーく、黒沢らしい映画よね。つまり『悪ねむ』、これは男と男がッ結婚する映画なのよねっ」
「おやおや、またまた変なこというお方がおりますね。困りましたねぇ」
「センセ、これは、香川京子というかわいいかわいいお嫁さんをもらいながら、キスもしない、抱くこともしない、そういう偽装結婚を描いた映画じゃないのっ」
「はい、三船敏郎、偽装結婚しますねえ。花嫁の父・森雅之に復讐するために、トロイの木馬として偽装結婚するんですねえ、トロイの木馬ご存知ですか、しらない? あんた、何にも知らないのね。困りましたねえ。そもそもトロイの木馬とは・・・・」
「センセ、そんなトロい話はあとにして。だったら、なおさら、モリマの愛娘、さっさとうばっちゃえば良いでしょ。なのに、手もつけない。どこが復讐なのっ」
「そこが正義漢・三船敏郎ですね。義父には復讐するけど、何の罪もない娘さん、かわいいかわいい香川京子には手出しできないんですねえ。そこがいいとこですねえ。女には、興味、ないんですねぇ」
「結婚式のシーン思い出してよ。三船と香川の新郎新婦がウェディングケーキに入刀、ってところで第二のウェディングケーキが静々と運ばれてくるわけよッ」
●はい、ここで、やっとわたしの出番ですね。説明しますと、新たに運ばれてきたケーキは、公団の新築庁舎をかたどったかなり大掛かりなケーキでして。いや、もはやケーキともいえないような巨大なケーキでして。で、その七階の一室の窓には、赤いバラ一輪が挿してあります(白黒映画ですが、白いケーキに印象的に突き刺さっている)。これは、森雅之公団副総裁の部下であり、実は三船の父が公団汚職の罪を一身にかぶって、飛び降り自殺した因縁の窓です。
「つまり、新郎三船は、花嫁とのウェディングケーキよりも、父モリマとのウェディングケーキのほうを重要視しているわけよッ。お金もこっちのほうがかけてるし、真っ白なケーキに赤い薔薇をブッ挿してるのよッ。赤いバラをっ。三船は、香川とより、モリマと結婚したかったのよっ。もちろん、その結婚は愛のためというよりは復讐のための結婚なんだけど。三船はモリマと一緒に入刀したかったんだわっ、真っ白ケーキの赤い薔薇。それを表わしているのが、あの、第二のウェディングケーキなのよ」
●つまり、死んだ父を赤い薔薇で表わして、それを未来の父・森雅之ともかぶらせる、ウェディングケーキ、ですか。
「父親への復讐の赤い薔薇、そのウェディングケーキこそが、未来の義父との<結婚>を象徴しているのよっ。三船、ファザコン高じて、ファザ婚の図なのよ」
●三船と森雅之、これこそまさに<死が二人を分かつまで>の結婚ですね。
「やーねー、あんた、意外とわかっているじゃないのっ。香川京子なんて、問題外なのよっ。そして、この映画には、もう一人、問題な人物がいるわけよ」
●加藤武ですね。
「やーねー、あんた何者。加藤武は三船の共犯者。戸籍をお互い交換してまで、三船を支える。て、あんた、戸籍を交換よッ」
●別人に成りすますためでしょ。
「それは、あんた、目的だけど、男ど・お・しが戸籍を入れッこ出しっこするのよっ。入れたり出されたり。やーねー、これ、異常じゃないの」
●つまり、言い方によれば、これも男同士の入籍合戦てことですか。
「当たり前じゃないの。籍を交換することで、もうもとの籍(席)には戻れないのよっ。男と女は離婚すれば、元の籍に戻れるけれど、これはもう二度と戻れないのよ」
「はい、ノーリターン、ノーリターン、マリリン・モンローですね」
「おだまりっ。あら、センセ、ごめんなさい」
「いえいえ、いいんですよ。つまり、これは、はい、ごめんなさいね、こういうことですか、ふたりの<父親>や、戸籍を交換し合う<親友>がいる三船が、<ある目的>、世間を欺くために、好きでもない女と<偽装結婚>する話だと」
「極端な愛憎をいだいている<二人の父親>って、考えてみればすごい、父親への愛よね。そして、義兄弟の契りの、加藤武の献身的な愛もあるわ」
●そこで、立ち位置が怪しげかつ微妙なのが、三橋達也ですね。森雅之の息子、香川の兄、幼いころ自分の過ちから妹を不具にしてしまった、という罪悪感から、妹の幸福に異常な執着を持つ。
「本来なら妹を不幸にした三船に、もっと攻撃的なところがないと、つりあわないキャラなのに。ちょっと、何のためにいるのか、あいまいよねー」
●趣味の猟銃をぶっ放すためにいるんですかねー。
「最後は父親に、今猟銃があれば、あんたを撃てたのに、と情けなくつぶやく。お前、銃がなければ何にも出来ないのかっ」
●三船がこの一家と最初につながりを持つのは、三橋の車の修理からですね。
「そこが問題ね。つまり、最初に三船と出会ったのはぼくなのに、でも三船は、大事な妹取っちゃうし、しかも本当の狙いは父親への接近なわけ。じゃ、ぼくって三船の何? そういう思いを持つのは自然よね」
●いいですか。おそらく脚本チームの最初の構想のうちには、モリマが息子三橋に猟銃撃たせて、三船を殺させる、そういうプロットがあったのでは。妹思いの兄が激情に駆られて、三船を殺すと。現に、三船に銃をぶっ放す、当たらない、というシーンにその痕跡があるのかと。
「そもそも、三船の居場所を聞き出すために、娘に睡眠薬飲ませるような、外道な父親ですもの。役立たずのどら息子を利用するくらい平気だわよ。三橋は三橋で、妹への盲目的な愛、実は三船への愛憎で、三船を撃つのよ」
●それが、多分やり過ぎだろう、と却下されて、三橋の立ち位置があいまいになった、と。
「考えてみれば、香川京子って不幸よねー。夫にも父親にも愛されていない。利用されるだけ。兄だって、あの異常な執着はかえって迷惑だろうし、しかも兄の本音は、実はファザコンと、三船への愛憎にある、なんてしゃれにならないわー」
●その、愛憎の対象である父親は、最後、家族を犠牲にしてまで、黒幕への愛を貫くのですね。最初の結婚式のシーンで、香川京子の晴れ舞台を冷笑しきっているブンヤたちを含めて、誰も香川京子を愛しているものがいない映画なんですねー。
「アーラ、女なんて最初から興味ないのよ」
「う~ん、なんだか間違ってる気がしますねー。こわいですねー。おそろしいですねー。では、みなさん、さよならさよならさよなら」

◎おまけ◎爆笑必至(笑)。

 黒沢映画最多の脚本家を繰り出しながら、特に三橋達也パートがぐだぐだなのは、この脚本家たちの証言からも、惻隠出来る(笑)。少なくとも、三橋パートは、失敗作だわ。
 その三橋らがちゃんと、出演しているのに、一番笑いどころの西村晃が、なぜ、声だけなのか。
 でも、ぜんぜん違う、加藤武と西村晃のミフネ評、でも、どっちも、いいんだよなあ。
 三橋のコメントにある、射撃ショットで、黒沢が逃げちゃう話、ああ、やっぱり、黒沢は、女の子なのね(笑)。

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# by mukashinoeiga | 2009-09-03 22:46 | 黒沢明 黒い沢ほどよく明か | Trackback | Comments(18)

黒沢明「醜聞<スキャンダル>」

「キャー、な・に・こ・れ・すごいわっ」
●ど、どうしました?
「だって、あんた、付き合ってもない女と、出来てる、と嘘の報道されたからって、男が裁判に訴えるのよ! そんなの普通鼻で笑って相手にしないでしょ。ドンだけ、ケツの穴がちっさいのよ!」
「はい、ケツの穴、あなた下品ですね。おやめなさいね」
「でも、センセ、こんなの普通裁判に訴えないでしょ。裁判て、莫大な時間と税金がかかるのよ。普通は、山口淑子なんて美女とうわさになったら、男だったら、ケケケケ、と鷹揚に構えてるもんじゃないの」
「はい、三船敏郎は、許せなかったのかもしれませんねー。女なんかと出来てるなんて、許せなかったんですねー。名誉毀損ですね」
●好きでもなんでもない美女、山口淑子と、男女の仲、と報道された画家・三船が雑誌社を告訴します。いや、なんか、もっとましな裁判ネタなかったんですかねー。
「だからぁ、黒沢にとっては、女と出来ている、ってことが、もうそれだけで許せないわけよ」
「はい、この映画は、黒沢監督にとっては珍しく、山口淑子、桂木洋子と女優陣も華やかですねー。さすが松竹で撮っているだけのことはあります」
「例によって、千石規子も出てる。あんた、千石がモデルよ、モデル」
●モデルっても、絵のモデルですね。
「ヌードもOKなモデルなのよ、千石が。あんた、このごろちっともヌード描かないわね、もうあたしの体に興味なくなったの、と、き・く・の・よッ、千石が」
●結局、三船にかかわる女性三人、山口、桂木、千石、このいずれにも三船は女性として興味を示しません。彼女たちも三船を異性として意識しません。メロドラマの松竹映画としては、きわめて異例というべきでしょう。
「だからぁ、黒沢は女に趣味なんかないのよ」
「松竹でメロドラマは、あまりに通常娯楽過ぎますねぇ。そんな普通の映画、黒沢は撮るわけないですねぇ。決して、女に興味ないからでは、ないんですねぇ」
「でも、ないのよね」
●三人の女性と三船の関係は、まるで三船が女性の一員であるかのように見えますが。
「クリスマスに、桂木洋子を訪問して、山口淑子と歌を歌ってあげるのね。三船がオルガン弾いて」
「いいですねぇ、三船。豪快なだけのアクション俳優ではないんですねえ。女性的な繊細さも表現できる貴重な役者ですねえ。でも、もっと太っているほうが、好みですねえ」
●それと、わたし思ったのは、三船、画家でしょ。恋愛感情ないとしても、山口淑子や桂木洋子、絵に描いてもいいんじゃないですか。
「はい、あるいは、絶妙に個性的なマスクの、志村喬を描いてもいいですねぇ」
「黒沢は絵に興味ないのよ」
●はあ????
「三船は、たぶん風景がメインの画家ね。ほら、美人て、絵にすると、つまらない絵になっちゃうじゃない。千石くらいの個性的な顔のほうがモデルとしてはいいのかもしれない」
「裁判劇自体は、これはもう、フランク・キャプラですね。高堂国典とか、<妖精のような>田舎モノの老人が出てきます。しかも上田吉二郎とセットになった証人で。まんまキャプラですねえ」
「裁判劇自体が日本ではなじみないですもん。参考になるのはアメリカ映画しかなかったのよ」

# by mukashinoeiga | 2009-09-02 01:53 | 黒沢明 黒い沢ほどよく明か | Trackback | Comments(2)

黒沢明「生きものの記録」

 ある「生きもの」の「記録」である。では、その「生きもの」とは、何か。
 核の恐怖におびえる老人である。しかし、演じる三船敏郎は、三十代か四十代か。意外と若い三船が演じるゆえ、実にエネルギッシュに老人になっている。時に大根とも評される三船だが、この映画での黒沢的大熱演を見ると、時とところを得れば、たいへんな名優であることがわかる。
 この「生きもの」はなぜ核の恐怖におびえるか。広島、長崎、第五福竜丸と、日本は<唯一の核被爆国>である。そういうことになっている。しかし、こんにちの視点で見れば、アメリカや中国も自国内で核爆弾の実験を繰り返している。特に中国では、当時漢民族があまり住んでいないウイグルで実験を繰り返し、多くの人々の犠牲があったと聞く。おそらくソ連も同様の実験をしたであろうし、チェルノブイリもあるのだ。近場での実戦である朝鮮戦争、東西冷戦の中の恐怖というものも、あったろう。
 その恐怖を回避する、この「生きもの」の実際の行動はどうか。とにかく日本を脱出して、外国に逃亡する。この一点張りである。どうやら日本が世界一核投下の可能性があるらしい。行き先がブラジルと決まったのも、たまたまブラジル日系人の東野英治郎が来日して、土地を交換出来る運びになったからである。テキトーである。ブラジルには核は落ちないのか。
 この考えは、ぼくたちに、もうひとつのジャンル映画を思い出させる。日活の青春アクション映画、日活の無国籍アクション、日活のムードアクション、日活ニューアクションの数々で、石原裕次郎から藤達也にいたる、当時の二十代の若者たちは、とにかくこの辛気臭い日本から脱出して、ブラジルなど新天地に移住したい、という願望が強かった。「俺は待ってるぜ」の裕次郎が「待ってい」たのは、「早くブラジルへやって来い」という兄からの連絡であった。夢見る若者の、ここでないどこかへ、という切ない願望。
 さあ、だんだんこの「生きもの」の<年齢詐称>が明らかになってきたようだ。
 かなりずさんな一般論を持ち出してみる。いわゆる<老人>が、何十年か住んできた、愛人も何人か持てるような豊かな暮らしも手に入れた、そんな自分のホームベースを未練なく捨て去って、新天地でゼロからの苦労、新規まき直しを自分から提案し実行するだろうか。これは、明らかに青年の発想ではないだろうか。ホームベースにさしたる蓄積もない若者の、夢見る特権なのではないのか。
 壮年期の黒沢が産み出した、この「生きもの」の<老人>は、そんなことはちっとも、悩まない。たとえば、より具体的な危機に日本が襲われる設定の「日本沈没」で、島田正吾演じる老人は、賢人たちのさまざまな日本脱出論を紹介したあと、丹波哲郎首相に、こういう意見もあった、と言う。「何にもせん方がええ」。これこそまさしく<老人>の発想であり、同時に、何かしら日本人の琴線に触れるものがあった。日本人を日本人たらしめるものは、この日本列島の国土というか風土と言っていいか、そこから生まれた固有の民族性であるならば、この土地を離れてさすらえば、もう日本人は日本人でなくなってしまうという、その意味も含め、いわば二重の諦念こそが、あの一言に凝縮していた。
 <老人>と言う設定のこの「生きもの」は、自分が何十年か暮らしたホームベースに、一切の未練は持たない。屈託なく、この土地を離れる。財産を処分して、愛人も含めた一族郎党に同行を説得するだけが残された仕事である。自身になんら迷いもない。自分が捨てていくホームベースへの愛惜もまったく描かれない。まったく異なる風土のブラジルに赴く、それに際し、自分を育んできたこの風土への心残りもない。黒沢は、それら一切を省みない。さらに言えば、目指すべき新天地であるブラジルへの思い入れすらない。このあたりがテキトーでよかろう、といういい加減さ。<歴史>はおろか、<夢>すらないのだ。
 そして、愛人親子も含めた一族郎党を全員連れて行きたいという。日活映画の裕次郎、フジタツたちは、仲のよい仲間と、仲のよい兄弟と、あるいは自分ひとりで、日本脱出を図った。若者の発想に、家族全員で、という選択肢はそもそもないのだから。
 つまり、こういうことだ。<老人>という設定のこの「生きもの」の<正体>は、<老人>とはおもえない、悩み多い、しがらみも多い<壮年>でも、夢見る<青年>でもない。
 かのシャーロック・ホームズの名言、可能性を全てつぶしていって、消去法で残ったものこそが、どんなに意外なものであっても、真実なのだ。
 幼い世界観、一徹な正義感、こうと決めたらそれしか頭にはなくなってしまう一心さ、確固たる歴史も、明確な夢(展望)すらない、郷愁なんてテンからない、さらにいえば、自分の家族だけが世界のすべてであるという非社会性、全てが明らかにその一点を指し示しているではないか。「生きものの記録」は実は「Yの悲劇」であったのか。
 ぼくは黒沢の正義感、世界観は、ついに小学生の域を出なかった、黒沢は年をとって駄目になったといわれがちだが、年の取りようはなかったのだ、と思っている。

# by mukashinoeiga | 2009-09-01 10:07 | 黒沢明 黒い沢ほどよく明か | Trackback | Comments(6)

鈴木英夫「その場所に女ありて」

 京橋にて。「逝ける映画人を偲んで 2007-2008」特集。62年・東宝。
 製作・金子正旦の追悼。
 快作「南極料理人」を見たあと、暇だったので、夜の回は何か知らずに、ぶらぶらフィルムセンターのほうに歩いていったら、これがかかっていた。もう何度も見ているので、見る必要はないのだが、まあ頃合もちょうど良し、と入ったら、やっぱり傑作でしたね、これは。
 北川れい子さんも見に来ていて、その連れの男性いわく「見るたびによくなっていく映画だね」に、まったく同感。恐るべき<成長を続ける映画> 、腸内で乳酸菌が増え続けるとは、このことか。違うか。 
 司葉子、幹事長・大塚道子、原知佐子、そのライヴァルの「われわれ貸し金をサイドビジネスに営むものは」の柳川慶子、「お前、ほんとに美術学校出てんのかい?」の北あけみ、コマンチこと拾い屋・水野久美、「化粧品だけが便りよ」の姉・森光、そのだめ夫・児玉清、やはりみんなすばらしい。いつもは駄目男専門の織田政雄、浜村純のカッコよさ。
 最後、夜の銀座の街に消えていく司、大塚、原の、ただ横断歩道の信号待ちをしているだけのシーンの、その緊張感。当時の夜の銀座が、また、現在の煌々とまぶしい銀座でなくて、かなり暗い。そして、舞台となった西銀広告、<明るく楽しい東宝映画>のサラリーマンものなのに、社内照明の暗さよ。この暗さを求めて、わざと退社時間ばかり選んでいる気がしてくる。顧客である、スカル目薬、難波製薬の社内は普通の明るさなんだから。撮影・逢沢譲、最近この人の映画ばかり見ているようなのは、気のせいか。

# by mukashinoeiga | 2009-08-30 07:52 | 傑作・快作の森 | Trackback(1) | Comments(4)

須川栄三「颱風とざくろ」星由里子中山仁

 阿佐ヶ谷にて。「昭和の銀幕に輝くヒロイン48・星由里子」モーニング特集。67年・東宝。
 石坂洋次郎の原作にほぼ忠実に、しかし若干の東宝モダンを加えて、かなり出来がよい。
 ヒロイン星由里子、中山仁など、石坂ワールドの魅力にあふれている。性と民主主義の石坂ワールドのヒロインとして、星がちらりとバストを見せる、<正解>ですよね。

# by mukashinoeiga | 2009-08-30 07:51 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

丸山誠治「B・G物語 二十才の設計」

 阿佐ヶ谷にて。「星由里子」モーニング特集。61年・東宝。
 源氏鶏太原作のBGものの、軽快かつ水準的な映画化。星に思いを寄せるボンボン・児玉清、不遇な映画時代としては、もっともお得な役ではないか。妹・藤山陽子は、相変わらず、華がなく、重役の娘なのに、プレイボーイ稲垣隆と打算ずくの政略結婚で寿退社、でおめでとうで退社したそのすぐあとに、稲垣にフラれる! こんな役でも、同情が沸かないのだから、もーどうしようもありませんね。
 最後、改心したと言う稲垣が再び星を口説くが、もちろん星は聡明に、これを避ける。よかったよかった。

# by mukashinoeiga | 2009-08-30 07:50 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

斎藤武市「骨まで愛して」

 京橋にて。「逝ける映画人を偲んで 2007-2008」特集。66年・日活。
 原作・脚本・主題歌作詞の川内康範の追悼である。
 麻薬がらみのやくざ抗争で傷つき、流れ流れて函館の、のどかな牧場に安息の地を見出し、堅気になる決心の渡哲也だが・・・・。当然、元のボス・金子信雄、地元ボス近藤宏が、それを許すはずもなく。
 おなじみの日活アクションを彩るのは、ダブル・ヒロイン、松原智恵子が美しく、すばらしい。さらに、その後急速にダイエットだか整形だかで、ガリガリ君になる直前の、ふっくらした浅丘ルリ子が最高に美しい。あと、出番は少ないながら、往年の白木マリ以上にすばらしいダンサー役・浜川智子も、この映画では印象を残す。これら女優陣の最高の美しさを強調する照明もすばらしい。横浜の桟橋から、港町・函館へと移る、おなじみの日活空間を、つややかなカラー映像に定着させている。撮影・萩原憲治(「けんかえれじい」)、照明・大西美津男、賞賛すべき。
 コメディリリーフ・宍戸錠、ヒーロー渡を邪魔し、悪いボス連も邪魔するトリックスタアを、アドリブ満点で演じ、登場するたびに笑いを取る。ギャングスタアが、ギャグスタアでもある、ひたすらすばらしい。
 渡も、同年の川内脚本・主題歌作詞の「東京流れ者」のテーマを一くさり、ギター爪弾き歌う。マジックアワーの牧場の柵に腰掛けて。「天国の門」以降のマジックアワーの撮影と違い、すばらしい色調の景色のなかで、女優俳優の顔にきっちりライトを当て、その美しさも引き立てる。

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# by mukashinoeiga | 2009-08-23 23:33 | 旧作日本映画感想文 | Trackback(19) | Comments(0)

大塚稔「女の宿」

 京橋にて。「逝ける映画人を偲んで 2007-2008」特集。41年・松竹京都。
 その死までは、監督最長老だった監督の追悼である。時代劇専門のイメージのある大塚稔としても、異色の現代劇。撮影所としても初の現代劇だそうである。しかしぜんぜん違和感がないのはさすが。
 若いころの小暮実千代は、後年の妖艶さもない清純派で、しかも後年よりはるかに目が細い印象。大阪が舞台なのに、誰一人大阪弁しゃべらず。高田浩吉の友人役のヒモリンが一手にコメディリリーフを引き受け、笑わせてくれるので、まあ、見られた。
 洋裁店経営の小暮が「国防婦人服」デザインの賞に応募する。一等とって、賞金の千円はあたしのものよ、と自信満々だが、結果は選外18席って(笑)。映画のヒロインなのに、何よ、この中途半端は。しかもこの国防婦人服なるもの、質実剛健の無骨なスーツばっかりで。こんなの誰が着る。そもそも「国防婦人服」とは、誰が着るのか、どういうシーンを想定しているのか。現実の「国防婦人」会は、割烹着ともんぺがユニフォーム。割烹着ともんぺは、いわゆる<洋服>の、日本語への超<趙訳>で、あるわけで。こんな無骨、かつ(当時の一般日本女性にとっては)あまりに敷居の高いスーツ、ほんとに誰が着る、どういうTPOで、だったのでは。むしろこんなセンスの悪いコンテストに、あなたが上位入選しないのは、かえっていいこと、などと友人もいう。かくも時局に抵抗したせりふが堂々と通ってしまうのも、新鮮な感じがする。その友人役・北見礼子、ぴくちゃあ通信氏ブログによれば、林与一の母、その若き日の姿という。
 いや、とにかく、ヒモリン、だけだな。

# by mukashinoeiga | 2009-08-22 23:02 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)