恩地日出夫「女体」

 阿佐ヶ谷にて。「武満徹の映画音楽」特集。64年、東宝。
 多分、同年だと思うが清順「肉体の門」と同じ田村泰次郎原作を使い、しかもその後日談らしい「埴輪の女」(共に未読)と、あわせた田村ワールド映画化。つまり、敗戦直後の闇市でフリーの売春婦として鮮烈な青春を送るボルネオ・マヤ(団令子)が、十数年して、ある程度落ち着いた時代に、貧しくつつましいけれど世間的に安定した市井の主婦に納まり、亭主や子供や姑と平凡に暮らしている。その二本立て、その二つの異なる時代が交互に写されていくのだけれど、う~ん、鮮烈な生きざまと、その後のだらだらした日常、こんなの描いて、楽しいの? どちらかに絞ったほうが、どちらであるにせよはるかに面白いよ。
 団令子はボルネオ・マヤ時代は、おそらくかなり絞ったと思しく、あのアンパンみたいな顔がかなりシャープ。後半の主婦時代は顔もやつれた感じ。いずれにしろ、団令子らしからぬ団令子。顔は。しかも、例のリンチシーンでは、天井から吊るされたスッポンポンになるのだが、ダイエットで絞ったせいか、胸も貧弱だし(笑)吊るされた鮭みたいで(泣)。脱ぎがいのないヌードというべき。残念。同じく売春婦仲間、千之赫子もヌードになるが、こちらはあからさまなボディ・ダブルか。
 団、千之、橘侑子は平凡ではあったが、ちょっとしか出てこない坂本スミ子が例によってすばらしく、こっちをもっとフィーチャーしてくれよと。いや、この人の主演作は当然何作も作られるべきだったと、つくづく惜しまれる。
 清順版で宍戸錠が演じた復員兵は、南原宏治。「殺しの烙印」のナンバー1と2が、奇しくも同じ役か。ま、どうでもいいけどね。この人の、自殺シーン、あれ延々とあるけど、見てるだけ無駄。
 東宝プロパーとしては二線級の団令子のみ、他はフリー系か。マキノ版、および清順版「肉体の門」に、はるかに及ばず。ただし、本当に牛を殺しているシーンの、団、特に坂本、そのアドリブ演技のみ、精彩を放っている。ああ、つくづく惜しいな、坂本スミ子という逸材を使いこなせなかった日本映画界が。
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-08-06 00:19 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

堀川弘通「最後の審判」

 阿佐ヶ谷にて。「武満徹の映画音楽」特集。65年、東京映画。
 仲代が「天国と地獄」の山崎努みたいな位置から、エリートのいとこ・須賀不二夫の妻(淡島千景)を寝取り、ついでに財産もいただこうとするピカレスク・ロマン。堀川が師匠の「天国と地獄」の縮小再生版を狙ったと思しいのはわかるが、事実「天国と地獄」はエド・マクの原作、こちらはマッギヴァーンの原作。う~ん、でも縮小再生版は縮小再生版で。
 ちょっと、ん?と思ったのは、仲代の大家のパチンコ屋三島雅夫、最初出てきたときは普通にしゃべっていたのに、あとで出てくるときは、妙なイントネーションの<にぽんこ>。推測するに、脚本上のあとのシーンを先に撮っていて、何かクレームがあって、脚本上ははじめのシーン(実は後撮り)で修正したのかと。東宝、とえいやにかつみたいなかくこ足りないね。 
 仲代が自分本位の利益のため利用する、吉村実子が例によってブスかわいい。こういう女優さんは実に貴重です。この映画、仲代、淡島、須賀、三島、加藤武、吉村、その父東野、田中邦衛と徹底して新劇、フリー組で、東宝プロパーの役者が独りもいない。さすが傍系東京映画。そして、後半は、お決まりのこつこつ捜査型刑事・伴淳が登場して、〆る。地味でなかなかいい、といえば、いいのだが、展開が全て読めるのはなあ。
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-08-06 00:18 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

西河克己「追跡」

 阿佐ヶ谷にて。「昭和警察物語・銀幕に吠えろ」特集。61年、日活。
 二谷英明がもと刑事になる捜査モノ。
 って、この特集では書くまでもないか。特に言うことはないが、人殺し・誘拐グループが被害社宅に乗り付ける軽トラには、でかでかと日立のロゴ入り冷蔵庫の荷が。一味の小坂一也が日立グループの販売会社に勤めている。被害社宅下見には、パンフを持って日立の冷蔵庫の売込みを装い、いざ実行の際は、冷蔵庫を納品する手口。今では、こういうことを許可するメーカーはないだろうことが平気で行われている。実在する会社の鉄道で、平気で脱線事故のロケするからなあ。

●追記  映画流れ者にて、heroさんから、ご指摘がありました。上記感想文で、小坂一也は、杉山俊夫の間違いでした。確かにその通り。すみませんでした。杉山俊夫は、今では代表作「けんかえれじい」の、しょぼい若者かなあ。でも、あれでなかなか歌がうまく、歌手としてレコードも出しているはず。ヒットはないですが。この映画でも、歌うお兄さんな好青年のふりをして、でもなんか暗い表情をする、実は悪党の一味、というなかなか味な役。
 私生活では、かの赤木圭一郎のルームメイトだったとか。やはり西川克己映画だったか(題名失念)黒人登場人物に、「いよー、抱っこちゃん!」と陽気に声をかける杉山俊夫に呆然とした記憶があります。
 これに限らず、当ブログ、間違い多々あると思います。上記「映画流れ者」で、指摘していただけるとありがたいです。

★新・今、そこにある映画★日本映画・外国映画の、新作感想兄弟ブログ。
★映画流れ者★当ブログへの感想・質問・指導・いちゃ問はこちらへ

★人気ブログランキング・日本映画★
↑↓クリックしていただければ、ランクが上がります(笑)。
にほんブログ村 映画ブログ 名作・なつかし映画へ
★にほんブログ村・名作なつかし映画★
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-08-02 22:39 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

山田達雄「東海道非常警戒」

 阿佐ヶ谷にて。「昭和警察物語・銀幕に吠えろ」特集。60年、新東宝。
 宇津井健が刑事になる捜査モノ。って、この特集では書くまでもないか。特に言うことはないが、雑誌記者役・小畑絹子がとてもかわいらしい(笑)。
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-08-02 22:37 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

太田浩児「特別機動捜査隊 東京駅に張り込め」

 阿佐ヶ谷にて。「昭和警察物語・銀幕に吠えろ」特集。63年、東映東京。
 これもTVドラマの映画化だろうか。千葉真一、安倍徹、南廣らの面々が、ファッションデザイナー殺しを追う。特に言うことはないが、日活出身・筑波久子のビッチ振りがすばらしい(笑)。
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-08-02 22:36 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

小杉勇「刑事物語 東京の迷路」

 阿佐ヶ谷にて。「昭和警察物語・銀幕に吠えろ」特集。60-61年、日活。
 「東京の迷路」に始まる、中篇シリーズ10本が今回上映された。監督は全て、小杉勇。主演益田喜頓。
息子は本作のみ、待田京介、2作目以降は青山恭二。いずれも50分強の中篇で、添え物用だが、それなりの人気はあったのだろうか。今回は「東京の迷路」「殺人者(ころし)を挙げろ」「前科なき拳銃」「小さな目撃者」を見る(タイトルにはいずれも「刑事物語」が入る)。
 小杉勇の無駄のありようもない、タイトで堅実な演出がきらりと光る。益田喜頓の、所轄人情刑事、その息子は本庁から所轄へ出向してきたキャリア組、地道な捜査を共に手がける親子デカ。深江章喜、野呂圭介など、日活おなじみの脇役が活躍する。
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-08-02 22:35 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

山本薩夫「政権交代~2009夏」

OLD映画暫定版キャスティング

<自眠党>
麻生総理   成田三樹夫
与謝野薫   中村伸郎
細田博之   織田政雄     
舛添要一   船越英二
古賀誠    宮口精二
中川秀直   加藤武   
鳩山邦夫   加賀邦男
中川昭一   三井弘次
小池百合子  茶川一郎(女装)
小泉純一郎  日守新一
小泉Jr   加藤春哉
安倍晋三   沢田研二(現在の)
安倍アッキー   田中裕子
森喜郎    安倍徹

<眠集党>
鳩山党首   藤木悠
小沢裏党首  天津敏
岡田克也   平田明彦
管直人    斎藤達雄
長妻昭    小沢昭一
渡部恒三   伊藤雄之助


<公迷党>
太田党首   夏川大二郎
池田裏党首  柳永二郎

<社眠党>
福島党首   横山道代
辻本清美   中山千夏
土井たか子  三好栄子

<共惨党>
志位党首   東野英心

<知事・他党>
東国原英夫
橋下徹    下條アトム
森田健作   石立鉄男
亀井静香   上田吉二郎
田中康夫   田中春夫   
田中真紀子  南美江

<マスコミ関係>
朝日政治部  ソン・ガンホ
       イ・ビョンホン
NHK政治部 コン・リー
       チャン・ツィイー

<その他>
お笑い芸人  ビートたけし
国民栄誉賞女優 森光子
ナレーション 鈴木瑞穂


●追記  途中の状態で、あげてしまったため、読み返してみたら東国原英夫がブランクでした。この人の役はとうとう見つけられないため。誰か、いい人がありましたら、映画流れ者にて、教えてください。そのほかの人も、いや、こっちのほうがいいよ、というのがありましたら、よろしく。
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-08-02 22:34 | 架空映画妄想キャスティング | Trackback | Comments(0)

松尾昭典「人間狩り」

 阿佐ヶ谷にて。「昭和警察物語・銀幕に吠えろ」特集。62年・日活。
 まだ、犯罪関係の人権といえば、加害者のそれのみ優先され、被害者のそれには一顧だにされなかったころのお話。主人公・長門裕之刑事は常習犯罪者・小沢栄太郎に「異常」な憎しみを持つ。小沢は殺しの容疑で事情聴取を受けるが、早速代理人が自首してくる。お前がやったんだろ、と小沢に暴力を振るう長門。同僚刑事も、なぜ長門が犯罪者に「異常」な憎しみを抱くのか理解できない。実は長門は、幼いころ、通りすがりの犯人に理不尽にも母を殺された過去を持つ。ここで提示されるのは、「罪を憎んで人を憎まず」なる理想論に心から毒された側にとっては、犯罪者を憎むのは、「特殊」なやつらに限ることだ、という<戦後民主主義レジーム>の徹底である。
 ここで、代理人自首>自分無罪、の流れに余裕ぶっこいた小沢は、十数年前にある男と実行した強盗の自慢。夜、ある雑貨屋に侵入したが、家人に見つかり、相方が殺しちまった、という話だ。長門は記録を調べ、この殺人の時効があと数日だということを突き止める。「相方が殺した」はうそで、実は小沢が殺したに違いない、とにらみ、数日後の時効デッドラインを突破すべく捜査を開始する。品川、赤羽、熱海、京成青砥と、長門はめまぐるしく立ち回る。地味なりに、好もしい展開。
 そして、とうとう、青砥で地味に暮らしている大坂志郎が相方であることを突き止める。時効数分前、深夜の京成青砥駅のホームで、大坂を追い詰める長門。大坂は涙ながらに、わたしが殺しました、この十数年間、悔やみに悔やんできました。手錠をてに、これで肝心の小沢は逮捕できない、強盗自体の罪はすでに時効だし、しかも、この苦しみぬいてきた大坂(その日常はすでに映画で丁寧に描かれている)を、いまさら逮捕してどうなるのか、大坂の家族も苦しむだろう、と逮捕をあきらめて、恋人・渡辺美佐子と去っていく。
 「罪を憎んで人を憎まず」第二のテーゼは、「反省し、犯行を悔いているものは、情状酌量の余地あり」。だが、考えてほしい。<事後の反省>は、<犯行現場>に存在しているか。<犯罪>の有無はあくまでも<犯行現場・犯行当時>に存在している証拠・事情によって<裁く>べきではないのか。被害者の無念の死は、犯罪者の<反省の肥やし>に、過ぎないのか。
 よく出来た映画ではあるが、そういう戦後民主主義レジームに毒されきったところが、今見ると、痛々しい。さきに、犯罪関係の人権といえば、加害者のそれのみ優先され、被害者のそれには一顧だにされなかったころのお話、と書いたが、その事情は今も変わらない。つい数年前まで、「時効警察」なる、殺人を犯して、逃げ切った時効犯を、オダギリジョーや麻生久美子が、よくがんばったね、と頭いい子いい子するTVドラマが好評を博していたくらいだ。
 なお、本作でもこの時期の日活で、わけあり風いい女を一手に引き受けていた感のある渡辺美佐子が、じとじとねめねめと活躍。いや、うっとおしい。
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-07-30 21:41 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

成瀬る

  日本映画黄金期のONコンビ、小津に続いて、成瀬を妄想する 
                        BY  ナルセスト・・・・昔の映画


 1 成瀬マジック
    『おかあさん』の冷徹な?幸せ家族計画
 2 はげギャグと心中悲恋の同居
    巳喜男と行く路~『君と行く路』    
 3 二人の娘、成瀬の女性性
    戦う女、戦わない男~『女の座』『コタンの口笛』  
 4 成瀬は対立をいかに回避するのか
    対立を無化する作法~『三十三間堂通し矢物語』『歌行燈』『お国と五平』
 5 山の音とは雪崩のことか 
    ヒッチコック ON 成瀬~『山の音』『雪崩』
 6 成瀬における交通事故
    女と男の地政学 ~『限りなき鋪道』『乱れ雲』
 7 非・成瀬的?な傑作『鰯雲』
    こんなにも多数の登場人物をさくさく捌く成瀬
 8 『娘・妻・母』の非・松竹メロ性
    成瀬と小津の違いが鮮明に
 9 『夫婦』で、誤解したこと

 10~  近日公開予定
e0178641_21453162.jpg

◎追記◎誰が作ったのか、なかなかグッド。
★Au gre du courant : le cinema de Naruse 成瀬 巳喜男★
 Au gre du courantは、成瀬の代表作「流れる」のフランス語タイトル、とのこと。

●近日公開予定●
黒い沢ほどよく明か黒沢明映画の正体
川島あり川島雄三映画の正体
おゲイさん乾杯木下恵介映画の正体
愛と清順の駄目出し鈴木清順映画の正体
彼と彼女と取りマキ~ノたちマキノ雅弘映画の正体
大魔剣三隅研次映画の正体
危険な英夫鈴木英夫映画の正体
ますますムラムラの悶獣増村保造映画の正体
妄想の器橋本忍映画の正体
Vシネの花道90年代最強伝説三池崇史映画の正体
しぃみず学園清水宏映画の正体
溝口賛歌(けんじぃ)溝口健二映画の正体



にほんブログ村 映画ブログへ
にほんブログ村
●にほんブログ村>映画>名作・なつかし映画


●人気ブログ・ランキング>映画>日本映画
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-07-19 11:40 | 成瀬巳喜男映画の正体成瀬る | Trackback | Comments(2)

成瀬る1 成瀬マジック「おかあさん」

 成瀬生誕100年の年に開催された京橋フィルムセンターの成瀬特集で、成瀬映画全作品中のマイベストワン『おかあさん』(1952・脚本水木洋子)を再見した。何回見ても、相変わらずの快作。うれしい映画である。
e0178641_2073997.jpg しかし、見終わった後、ややボーゼンとなる。何回目かではじめて気づいたオドロクべき事実(?)。いや、普通の人は一回見ただけで分かるのかもしれないけど、ぼくは鈍だから今回はじめて気づきましたね。何たる成瀬マジック。
『おかあさん』は、田中絹代の一家が、通い職人・加東大介の手を借りて、小さなクリーニング店をつつましく守っていく話だ。その映画の終盤「最後の一日」の描写なのだが。
まとめると、こういうことになる。

 (たぶん)妹娘が伯父さんにもらわれていく。そのあと、
 (たぶん午前中)叔母さん(中北千枝子)が姉娘・香川京子を美容師試験の練習で花嫁姿に変身させる(このシーンの香川京子が異常なまでにかわいい)。ボーイフレンド岡田英次の母親から「(お嫁にいくのなら)うちにもらいたいんですけど」とプロポーズされる。にっこり、香川京子。しみじみ、母・田中絹代。ここではすでに、もらいっ子された妹娘のことはまるきり忘れ去られているような幸福感が一家に漂う。
 そして、午後から夜にかけて、新しい小僧さんがやってきて、加東大介が去っていく。この小僧さんをそれなりに教育しなければならないはずの加東が、数時間ガイダンスして、満足な実技指導もせずに退職していくのは、あまりにあんまりじゃないのか。
 これ全部、一日に起きる。
 つまり、この日は、この一家、五人「家族」から一挙に二人が去り、もうひとりも将来結婚のため家から去ることが確定し、別の一人が一家に加わるという、この一家としては一大イヴェント連発の日なのだ。
 これ、こんななりゆきが一挙に押し寄せるのは、なんか異常じゃない、と気づいたのだ。いや、現実に立て続けに一日に起こる色々はリアリティとしてありうるとしても、リアリズムとしてはどうなんだ。この一日を脚本にしたら、普通はリアリズムじゃないよ、と批判されるんじゃないのか。
 問題は(あるいは、まったく問題にならないのは)この濃い展開が、成瀬マジックで、まったく気にならない点だ。よくよく考えれば不自然な(過剰な)展開が、実にさくさくするすると、流れていく。一日に大転回がいくつも、しかも別々のエピソードとしてあるのに、それを感じさせずに、するすると流れていく。
 感情の揺らぎすら感じさせずに。
 「流れる」成瀬マジック。う~む、おそるべし。
 一般には淡々とした淡彩のごとき映画というのが、成瀬映画のイメージだが、このエピソードつるべ打ちは、まるでジェットコースター映画のそれではないか。しかし、成瀬はジェットコースター感を一切感じさせず、さくさく「流れる」ように流していく。
 その夜の終わり、香川京子が「おかあさん、幸せですか?」のナレーション。おかあさんを案じる優しい娘なのだが、その朝うちを去っていた妹への言及はない。おかあさんも、ふと、他家に行った娘を思う気配さえない。普通の凡庸な映画だったら、一日の終わりに、あーせわしない一日だったねー、と凡庸に感慨にふけるものじゃないですか。
 布団の上で甥っ子と相撲して、何か、満ち足りた家庭の雰囲気で「終」。いやそれだけではなく、ヴェテラン加東が去って、今後は、自分と娘・香川と素人の小僧さんだけで店を切り回していくことの不安もなく、満ち足りた家庭の雰囲気で「終」。
 これ、リアリズム、ちゃいますやろ。しかし、そういう「不自然さ」を観客には、ちらりとも感じさせない、成瀬独特の流れるような演出・編集テクニック。
 そういう「不自然さ」にいちいちこだわっていたら、上映時間100分以下には収まらない。さくさく流れない。ただの、つまらない、凡庸な、「リアル」な、二流映画にしかならない。幸福感あふれるエンドにはならない。
 ここら辺が成瀬と凡庸な監督を分け隔てる点か。
 妹娘はおじさんの家へもらわれて、姉娘はパン屋に嫁に行きそうだ。では、クリーニング屋を継ぐものは。
 多分、田中絹代は、甥っ子を考えているのだ。力仕事の必要なクリーニング商売には、やはり男手だ、と(しかし、それならなおさら、田中、香川の母娘、年端の行かない小僧さん、幼い甥っ子、の四人きりの結末の幸福感は、やはりおかしいだろう。偽りのハッピーエンド)。
 それぞれの子供たちの将来を、適材適所を、おかあさんなりに考えているのだ。
 甥っ子の母は美容師の中北だから、美容師を男は継げない、とおかあさんは考えている(当時の美容師は女性主流だった)。だから、甥っ子と相撲をとる。どうせ嫁に行く娘なら、早々と自分の家から出て行くのには、こだわらない。ちょっと妹娘に冷たいふうにしか見えないのもそういう理由もあるのだ。それが、おかあさんの、幸せ家族計画なのだ。
 泥だらけに汚れた甥っ子の服を、換えの服がないという理由で妹娘のスカートに着替えさせる衣装交換こそが、妹娘と甥っ子の交換に先立って演じられている。かしこそうな妹娘もそれを半ばは察して、養子に行く。
 成瀬映画および中北千枝子が例外的に向上心に満ちた『おかあさん』の、それが幸福感ある結末の理由だろうか。そういう現実主義の女性性の成瀬に対して、少年っぽい理想主義や感傷に満ちた、木下恵介『夕やけ雲』の、やはり妹娘がおじさんにもらわれていくシーンも、嫌いではないのだけれども。

e0178641_2081849.jpg 追記。角隠しの白無垢、花嫁衣裳に身を包んだ香川京子が、異常なまでにかわいいのは、むろん花の盛りの彼女のかわいらしさを映像に記録したことにあるのだが、同時に、和装の花嫁衣裳は、映画でも現実でも、きわめて儀式性が高く、それを身にまとった女性は紋切の極致といっていいほど無表情になるのが普通である。角隠し、と言うがごとく花嫁は感情の角を隠さなければならないお約束である。おそらく神前の巫女と同様の静謐な様式性を帯びているのだろう。というお約束の白無垢を着て、しかしこの映画ではまだ幼い彼女が叔母の試験の実験台、という、いわばお遊びの気楽さで、花嫁衣裳の規範を逸脱した、その愛らしさ、ということだろう。成瀬、意外に<萌え>を知ってるな(笑)。
[PR]

# by mukashinoeiga | 2009-07-19 11:37 | 成瀬巳喜男映画の正体成瀬る | Trackback(12) | Comments(4)