渋谷にて。「日本映画の黄金期を担った脚本家 巨星・橋本忍」特集。フジテレビジョン=新国劇、配給・松竹映配、協力・日活芸能株式会社。
理由は後述するが、
必見! 世界犯罪映画史上まれに見る珍品と見た(笑)。
あるいは右翼舛田が作った、左翼映画という、究極のハイブリット映画か(笑)。
これまた理由は後述するが、これは、渡哲也ファン、日活ファン、松竹ファン、そして橋本忍ファン(笑)必見の、珍作だ(笑)。もちろん川崎市民もね。
あと2回の上映。
かつての日本メジャー系2社と、有力TV、有力劇団が絡んでいながら、
下記赤字とは、何事か。
各社が、絡みすぎたせいか(笑)。

『暁の挑戦(デジタル)(141分)』公開:1971年 <渋谷シネマヴェーラHPより>
監督:舛田利雄/脚本:橋本忍、国弘威雄、池田一朗
主演:中村錦之助、若林豪、渡哲也、倍賞美津子、尾崎奈々、財津一郎、仲代達矢、佐藤慶、辰巳柳太郎、島田正吾
川崎市の「大工業都市建設計画」でうまい汁を吸おうとする地元ヤクザの酒巻組に挑み、自ら土建業を立ち上げた正岡。その対立は市民を巻き込んで激しさを増し…。大正14年の「鶴見騒擾事件」を題材にした問題作。
長く行方が知れなかったフィルムが発見され、昨年「川崎市90周年記念事業」として修復された幻の一本。
<以下、完全ネタバレあり>
もっとも長く行方が知れなかったフィルムが発見とは、単に、誰の関心も呼ばずに、無視されて、倉庫に眠っていただけ、とも思われるが。それくらい、
本作は、日本映画の「ゲームの規則」を逸脱しているのだ(笑)。
後述するが(笑)、最上級の(笑)珍品なんだからで。
なお上記修復とは、単にネガフィルムをデジタル素材に転換しただけだと思うが、どうだろう。
俳優序列は、中村錦之助がトップ。しかしこれは年功序列、スタアヴリューゆえで、実質は、新人・若林豪が主演で、錦之助はナンヴァー2の役回り。
まあW主演というところか。
ところが、このW主演が、まったく、いいところがない。とは、いいすぎだが、彼らの面白い場面は多々あるのだが、
見せ場(笑)を、すべて渡哲也が、カッサラっていくのである(笑)。
さて当時の川崎。
坂巻組というヤクザが市を牛耳っている状態。売春も含めた歓楽街、土方を搾取した土木工事を取り仕切り、紡績工場の女工たちを、木刀片手に「管理」したり。しまいには町を破壊して、市民を恐怖に陥れたり、
まさに中国化した暴力的実力社会であり、まるでイスラム国状態。
市長(島田正吾)も、坂巻組組長に、恐る恐るお伺いを立てに、伺候するしまつ。もちろん寝たきりの組長は、島田正吾とセット(笑)の、辰巳柳太郎だ。
で、諸事情あって、正岡(若林豪)と舟木(錦之助)は、正岡組を立ち上げ、坂巻組に対立するが、ことごとくの妨害を受け、死者も出す。
で坂巻組だが。
組長は、辰巳柳太郎。にらみを利かせるが、いかんせん寝たきり。実質組を仕切る若き代貸しに渡哲也。その右腕に青木義郎。その手下に、これも日活アクションでよく見たチンピラ役専門の小太りの役者、ううんお名前失念。
なんと日活ニューアクションでは、善と悪の側に別れていた渡哲也と青木義郎が、兄弟分。
そしてヒーロー役者・渡哲也が、悪の限りの悪いヤクザ者を、そう、まるで
天津敏の役回りなのだが。
ところが
渡哲也は、潔いことに(笑)一切の悪役演技を放棄。というか、演技的に、あまりに生硬ゆえに(笑)渡哲也は、ヒーロー演技しか出来ないのに、なぜ悪役(笑)。
おそらく、年も食ってくるし、このあたりで演技の幅を広げたい、という渡の思惑。
ロートルの錦ちゃんと、ド新人の若林、往年の華が消えうせた元スタアと、武骨一本やりの若手、それにまだまだ若い舛田から見りゃ、言っちゃ悪いが、新国劇の二人は、ヨイヨイ同然だ(笑)。
ここは、何とか、ひとつ華がほしい。で、
舛田利雄「紅の流れ星」などで、自分がスタアにした感がある渡を、唯一残った若頭役に、悪役だけど、押し込めちゃえ、と。
「渡ちゃん、悪い、悪役なんだけど、これからのことを考えると、演技の幅も広げるといいと思うんだ。今度の俺の映画、華がなくてさあ、何とか、頼むよ」(推定)
で、渡は渡で、体育会系のノリで、
「えー、悪役っスカあ、俺、出来ねーよ、そんな高度な演技。でも、先輩に頼まれちゃあ、断れないしなあ」で、「やりますっ、任せてくださいっ」と、こう、推定するわけですね。
ところが、渡は、やはり棒演技で、生硬な演技力でも勤まるヒーロー役はできても、悪役はムリ。
で、
世にも珍なれど、悪役をヒーロー演技そのままで、押し通す(笑)。
悪役なんだけど、渡の演技を見ていると、まるで(ちょっとハードボイルドな)ヒーローにしか見えないんだな、演技が(笑)。
かくて後半、ただただ待っているだけで、ほとんど動きがないW主演コンビを差し置いて、渡の悪役風ヒーロー演技が炸裂。見せ場をすべて、さらって行く。
最後、ほとんど無言のまま、ただただデモするだけ(笑)のW主演に、対して、にやりと笑い、決め台詞をいうのも、渡だ。
「俺が負けたんじゃねえ、時代が変わったんだ」
これ、悪役演技ちゃいますやろ、負け戦を負け戦として戦うヒーローそのものじゃあ、ありませんか(笑)。
◎追記◎シネマヴェーラが用意したキーヴィジュアルは、渡哲也ら悪役陣。普通ならありえないだろ(笑)。2枚目のコラージュも、渡重視。悪役なのに(笑)。
舛田は脚本を改変したのか否か。改変していないなら、明らかに、脚本・橋本忍は、後期橋本の常として、「静かに」狂っている(笑)。
最後は、無法中国・テロイスラム国そのままと化した酒巻組を、正岡組だけでなく、ついに立った川崎市民の大群衆、暴徒鎮圧のため出張ってきた帝国陸軍が、取り囲む。
ノボリ旗を翻して、悪のヤクザ組織に詰め寄る一般市民群集、という図は、左翼映画そのものだが。
それ(女子どもを含めての民衆蜂起)を見て戸惑う帝国陸軍近衛連隊。これも左翼映画そのものだが。
取り囲まれた渡が、にやりと笑う。で、負け戦のヒーローみたいに、決め台詞(笑)。ここで、観客左翼諸君は、椅子からずっこけるのではないか(笑)。
渡、カッケー。
市民の敵のはずなのに、悪役なのに、渡、カッケー。
悪いヤクザ組織(しかもウラで警察となあなあであり、市制も牛耳っている)を、取り囲む民衆蜂起の、左翼的高揚感を台無しにする渡哲也。うーん。
特別出演の仲代達也。出て来て一分で、唐突に切腹。
例によってメンタマひん剥き、息絶え絶えに末期のセリフをしゃべるしゃべる。まあ、出番数分で切腹して死ぬんだから、メーター振り切った演技もわからないではないが、あまりの唐突感と、クドイ演技に、場内及びぼくも失笑す。
川崎市役所職員・財津一郎が絶品。普段はおとなしいが、酒を飲むと大虎と化し、あのコワモテ青木義郎にも平気で絡む。市役所の上司・加藤嘉の娘?姪?の、芸者に惚れられる、役回り。財津一郎の、もうけ役的代表作か。
若林豪にダブルでほれるのが、妖艶・倍賞美津子と、清純・尾崎奈々の、松竹組。
当エキサイトブログでは、一記事に張れるタグは、三つのみ。こういうオールスタア映画では、タグの枠に悩むんだよねー。
なお、川崎警察署長の清水元。最近清水マリのインタヴュー記事を新聞で見て知ったのだが、この
手塚治虫「鉄腕アトム」で、アトムの声を長年勤めた彼女が、清水元の娘で、彼の劇団の子役上がりと知って、びっくり。
★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。
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