渋谷にて。「柄本明の流儀。」特集。93年、オフィス・シロウズ、サントリー=アルゴ・プロジェクト。
今のところ、柄本明ゆいいつの監督作品か。夏川結衣のフィルム・デヴュー作でもあるらしい。柄本「監督」は、出演せず、演出に専念も、好感が持てる。

主演・三浦友和は、おそらく、もっともいい時代の二枚目ぶりを、フィルムに残している。
山口百恵との共演時代は、若さゆえの、リンパ腺?過多な、<妙に脂ぎった感じ>で、ぬめぬめして、気持ち悪かった。今現在は、肩の力も脂も抜けたが、妙に、インパクトがない。
本作の三浦友和が、ぼくには、いちばんいいように思える。すっきりさわやか、あくもない、ぬぼーっとした、二枚目。ただし、映画は、シマらないので、出演者は損をしている。
三浦友和は、中堅サラリーマン、会社の女の子の夏川結衣と浮気中、というか、振り回されている。
妻・岸本加代子は、自宅をマンションに建て替えることに夢中。その前段階として、義母のガラクタが満載の物置の掃除に夢中。この物置処理シーンに、柄本明はかなり力を入れていて、ドタバタ仕立て、でも、ちっとも、面白くない。監督としての柄本明に、ドタバタシーンは、無理、才能がない。
同じく、三浦・夏川の痴態ドタバタ・シーンも、本人は力を入れているのかもしれないが、まったく面白くない。才能ゼロ。シロウト監督の無残さを、ひたすら、露呈し続ける。オフィス・シロウズならぬオフィス・シロウト。
三浦の老母・久我美子。ボケ老人と化しつつある彼女だが、笑顔は、やはり、最高に、可愛い。そして、この天性のアイドル女優に、この明朗明晰なアイドル女優に、次第にボケていく、という<性格俳優向きの演技>は、とうてい、こなしえないのも明らか。というか、明らかに、資質が違うのだし、久我美子の美質と、本作の演技に必要な、複雑なグラデーション演技は、まったく水と油なのであり、そもそも、この役に<永遠のアイドル女優>久我美子をキャスティングすること自体が、間違いなのだ。
なんせ、デヴューの頃の
黒沢明「酔いどれ天使」で、重篤な結核患者の役ですら、これ以上ないくらい健康な、ぷっくら美少女のままだった、筋金入りのアイドル女優なのだ、久我美子は。
どこまでも、間違い続ける映画。
夏川結衣、監督の柄本明に怒られ続けた、という記事をなんかで読んだような記憶があるが、これは、明らかに、夏川結衣に罪はない(笑)。明らかに、柄本明カントクに、無理があるのだ(笑)。
夏川の役は、きわめて感情が波乱万丈すぎる、エキセントリックなザ・オンナ。しかも、リアリズム演技ではなく、きわめて、かっとんだ役で。こんな、複雑怪奇な演技、ポット出の新人女優に、要求すること自体が、間違っている(笑)。さらにいえば、この演技、おそらく、成功したとしても、まったく面白くないだろう、独りよがりな、凡庸さ。柄本明演出に、無理があるのだ(笑)。
どこまでも、間違い続ける映画。
そして、今は、ほぼ、完全に見なくなった、恥ずかしい、映画愛(笑)。80~90年代の、中途半端な自称<映画愛>シロウト監督には、たびたび見られた、<小津リスペクト>。
三浦一家の日本家屋。雑然と物が置かれた廊下、部屋部屋のエンプティ・ショット、フィックス固定カメラで、何回もなんかいも。
ああ、恥ずかしい。醜悪。なぜ、醜悪か、わかっているのか、<中途半端な映画愛>シロウト監督どもよ。
彼らは、実際の建築物である、「貧しげ」な日本家屋をロケセットとして使用し、いや、ごくふつうの日本家屋なのだが、それは、撮影用に設計されたものでないゆえに、実際に撮影すると、「貧相」にしか、見えない。
しかも、貧相な(撮影用に特化された照明でないという意味で)自然光の元に撮影されている。
小津映画の日本家屋は、微細な撮影用調整が可能なステージ・セットで、しかも、微細な調整が可能な照明のもと、厳格に管理されたショットが撮影された。それゆえに、絶妙な緊張感とあたたかさが、並存した、奇跡的な小津流エンプティ・ショットの数々が生み出された。
それを「再現」しようとした、80~90年代の、中途半端な自称<映画愛>シロウト監督には、(映画撮影的には)凡庸な、ありもののロケセット、ありものの自然光、それで小津の厳格な管理下のショットを再現しようとするのだから、噴飯としか言いようのない、緊張感のない、だらけた、恥ずかしい、小津オマージュになるのは、やむをえない。
どこまでも、間違い続ける映画。
あと、これは、映画的ミスというわけではないのだが。
夏川結衣はじめ、若い女性たちは、濃い太い眉毛、濃い口紅、時代の流行に左右された、今では古臭いシルエットのファッションで、身を固めていて、今では、ひたすら異質な、姿をさらしている。かえって、その独特な顔の、すっぴんな岸本加代子や、夏川結衣ほど美人ではない、エキストラたちのほうが、普遍な化粧法だったりして。
映画的才能を徹底的に欠いた、あだ花監督の、凡庸な、しかし、何か、エキセントリックな映画を、(中途半端な)映画愛に満ちた映画を作りたい、というシロウト監督の、凡庸な思い上がり。
そんななかで、三浦友和の、ぬぼーっとした、存在感のみが、普遍のアイドル女優・久我美子の存在感のみが、光る。 無神経な岸本加代子も、また、監督の凡庸さを、回避する。
コメディエンヌ・夏川結衣の輝きは、まだ、見出せない。
◎追記◎なお、ほんのワンシーンのみ出演の、個々の脇役が多数出演しているが、さすが、俳優出身監督の強みか、小劇場系を中心として、現在の有名俳優が、多数、その若き日の姿で、出演。台詞のある役者は、全員、知っている、という、稀有なキャスティング。
◎再追記◎製作に、最近再評価の機運の相米慎二、したっぱ演出部に成島出(最近監督作
「連合艦隊司令長官 山本五十六」)が、クレジットされている。
なお、成島出監督、夏川・柄本共演作としては
「孤高のメス」などもあるが
「油断大敵」が、最高。柄本・夏川最高のコメディ演技、夏川結衣の太もも(笑)最高においしそうなのね。今回の柄本特集で「油断大敵」がないのは、シネマヴェーラの見識を疑うレヴェル。
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