カテゴリ:ルビルビルビッチ淑女超特急( 6 )

ハワード・ホークス「ヒズ・ガール・フライデー」ロザリンド・ラッセルケーリー・グラント

傑作にして大不快作。時代を超えたスーパーコメディであると同時に、時代性にとらわれた「いい気なもんだぜ」的欠陥を併せ持つ。
 DVDにて。40年、アメリカ、コロンビア映画。原題His Girl Friday。
e0178641_2045966.jpg 何度目かの再見だが、大いににやにやしつつ、これまでは感じなかった「欠点」が目についた。

 なお、この感想駄文は、検索で見つけた粟村彰義さんのブログ「私の小さな文化村」の「ヒズ・ガール・フライデー」記事に全面的に依拠しております(笑)。
 なお同ブログからの引用は文字変色で表しました。
 ぜひ同ブログも検索してお読みいただきたいと思います。粟村さん、ごめんなさいね。

史上最もテンポの早いコメディ映画と言われています。一番の理由はマシンガン・トークで、通常の倍のスピードでしゃべっています。さらに、動作も倍のスピードで行っています。また、誰かがしゃべり終わらないうちに、別の人物がしゃべり始めたりします。セリフが重なり合うと聞き苦しくなるので、あまり使用しない手法でした。

 そうマシンガン・トークの傑作。その快は、今までと変わりなし。スクリューボール・コメディのお手本のような傑作(「私の小さな文化村」では、そうではない、というのですが、ぼくは、そう感じました)。この美点は、いくらほめてもほめたりない傑作で。
 
 ロザリンド・ラッセルよしケーリー・グラントよし。その他の脇役もみんなよし。

e0178641_2065162.jpg女性記者ヒルディ役は、キャサリン・ヘップバーン、ジーン・アーサー、マーガレット・サリバン、アイリーン・ダン、クローデット・コルベール、キャロル・ロンバードが断ったあと、ロザリンド・ラッセルに回ってきました。大柄で、動作が不器用そうだけど、街頭で男を追っかけてタックルするシーンなんか傑作ですね。ポーリン・ケイル女史曰く、「印刷機のインクが血管に流れている」。

 そんなに断られたのは、当時としては、よくあることなのか、珍しいことなのか、よくわかりませんが、断った理由は何なんでしょうかね。脚本的には当時のコメディ映画としての一般的規範からそれほど外れているとは思いませんが。

 以下引用が長くなりますが、

Ira Konigsberg が "The Complete Film Dictionary"(第2版、1997) の中で screwball comedy をうまく説明しているので、それを要約してみます。
1930年代に流行したコメディで、不況時代の産物。現実逃避の傾向が強く、陽気で魅力的な人物が裕福な世界で自由気ままに振舞う。同時に、金持ちへの風刺になっており、最後に金持ちのヒロインと中流階級のヒーローが結ばれることが多い。
重要なのは、解放された女性像を描いている点であり、ヒロインは男性と同じように自主的かつ積極的に行動する。それほどではない場合でも、かなりのウイットと知性を持っている。社会のタブーを破り、性的な事柄に関して男性よりも積極的だったりするが、乱交に至ることはない。そのようなヒロインによって、社会的・性的に解放された雰囲気が作り出され、不況時代の深刻な問題に対する解毒剤となった。
最初のスクリューボール・コメディはハワード・ホークスの「特急二十世紀」(1934)だが、同じ年に公開され、アカデミー賞の4部門で受賞したフランク・キャプラの「或る夜の出来事」がスクリューボール・コメディの原型を作った。しかし、最も純粋な形のスクリューボール・コメディで、最も正気でないのは、ハワード・ホークスの「赤ちゃん教育」(1938)である。
1930年代が終りに近づくと、不況時代から戦争時代に移り、まるで国外から迫ってくる混乱から身を守るかのように、コメディにおける行動、状況、モラルは、より常識的なものとなっていく。
「或る夜の出来事」のほうが「特急二十世紀」よりも早く公開されたと書いてある本もあります。また、「或る夜の出来事」はアカデミー賞の4部門ではなく、5部門で受賞しています。その5部門は、作品賞、監督賞、主演男優賞、主演女優賞、脚色賞だったから、「或る夜の出来事」の影響力は相当なものだったのでしょう。ここからスクリューボール・コメディの流行が始まりますが、1938年に「赤ちゃん教育」が興行的に失敗し、スクリューボール・コメディは衰退していきます。
"Boom and Bust: American Cinema in the 1940s" という本に次のような記述がありました。
スクリューボール・コメディで不可欠なのは「手に負えない」女性で、キャサリン・ヘップバーン、キャロル・ロンバード、ジーン・アーサー、バーバラ・スタインウィックが最もうまく演じていた。しかし、「素晴らしき休日Holiday」や「赤ちゃん教育」など、1938年に作られたいくつかの作品が興行的に失敗し、スクリューボール・コメディは衰退の兆しを見せ始め、ロマンティック・コメディはより生真面目なものになっていった。1940年に「ヒズ・ガール・フライデー」や「フィラデルフィア物語」、1941年に「花嫁は現金払いで The Bride Came C.O.D.」や「レディ・イブ」がヒットしたことは、スクリューボール・コメディの変形がまだ通用することを示しているが、主演のカップル、特に女性は、かなり行儀が良くなっている。この時期の多くのロマンティック・コメディは、適切にも、「再婚コメディ」と呼ばれており、結婚という聖域を支持している点で、不況時代のものより保守的である。不況時代のスクリューボール・コメディは、将来結婚するであろうという暗示で終わることが多かった。


 うーん、人様のブログに依存しすぎ(笑)。
 さて美点の後は、今回感じた不快を探ってみます。
 映画冒頭の字幕に、

 新聞業界 暗黒の時代 特ダネのためならば 殺人以外何をしても許された

 それを今は昔の物語と断っているが、ナニ、それは21世紀の今日でも同じこと。
 主人公のケーリー・グラントは今日の視点で見れば、セクハラパワハラの権化といっていい。
 離婚した妻(しかも離職したい有能な部下)を何としても繋ぎ止めたいグラントのあの手この手卑劣な手。

言わずもがなのことですが、フライデーは、ロビンソン・クルーソーが島で出会った忠実な原住民につけた名前です。金曜日に出会ったから、そういう名前にしたそうです。頼りになる男性の部下を Man Friday と呼ぶのは昔からあったらしいのですが、頼りになる女性の部下を Girl Friday と呼ぶのは、この映画で一般的になったようです。80年代になって性差別用語だということで使われなくなりました。

 いや、それ、男にも使うのだったら、性差別用語じゃないから(笑)。女性記者ヒルディがなぜフライデーなのかは、昔から疑問でしたが、このブログで解決しました。

 死刑囚の無罪を証明したいといっても、人権の視点からではなく、死刑推進の州知事、市長を、選挙で落選させたいがため、同時にセンセーショナルな記事を書くことによって、部数を上げたいがため。まさに政争の具、ないし政争の愚なのは、今のモリカケと同じ。
 今の朝日毎日東京各紙と全く同じ、外道で。
 しかも、もっとひどいのは、ケーリー・グラントは記事のため、子飼いのチンピラに、すり盗み誘拐をやらせ、同じく出入りの(たぶん)売春婦でハニトラ行為。まさに記事をとるためなら何でもありの下種野郎。これを爽快スタア、ケーリー・グラントにやらせて笑いを取るのだから、敬服する。今だったらポリコレで一発アウトなシチュエーション。

 さらに問題なのは、問題の死刑囚。
 失業中のプアホワイトで、頭にきて警官を射殺。この警官が黒人。市長は次の選挙で黒人票が欲しいため、犯人の死刑を主張。
 現代のアメリカで、白人警官が丸腰の黒人をバンバン射殺して、社会問題化しているのと、まるで真逆のシチュ設定。
 現代からの視点で見ると(それは時に過去を現在が欠席裁判にする恐れがあるのだが)ゆるぎない白人優先主義を感じる。黒人警官射殺が、大した罪でないように感じさせる。
 もっとほかの題材はなかったのか。
 まあ、いずれにしても、傑作にして大不快作。

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by mukashinoeiga | 2018-06-10 20:07 | ルビルビルビッチ淑女超特急 | Trackback | Comments(2)

E・グールディング「グランド・ホテル」グレタ・ガルボジョーン・クロフォードバリモア兄弟

グランド・ホテル形式というジャンル呼称は知っているが、その本家は未見だった。
e0178641_324630.jpg 京橋にて「ジョージ・イーストマン博物館 映画コレクション」特集。32年、メトロゴールデンメイヤー。
 うーん。やはり先発者の栄光と悲劇を感じる。
 ある意味天然のオリジナルを、後発者が散々研究しつくして、先達を楽々のりこえる典型かと。
 ごく少数の主要登場人物たちをクローズアップするのみで、後発組のシステムとしてのホテル感が、ほぼほぼ抜け落ちている。この監督は聞いたことがないが、ルビッチなら間違いなく傑作にしたであろう素材で。

e0178641_3243577.jpg4グランド・ホテル(112分・35mm・白黒) (フィルムセンターHPより)
GRAND HOTEL 1932(MGM)(監)エドマンド・グールディング(原)ヴィキ・バウム(脚)ウィリアム・A・ドレイク(撮)ウィリアム・ダニエルズ(美)セドリック・ギボンズ(出)グレタ・ガルボ、ジョン・バリモア、ジョーン・クロフォード、ウォーレス・ビアリー、ライオネル・バリモア
ヴィキ・バウムの小説を原作としたウィリアム・ドレイクの戯曲の映画化。ベルリンのグランド・ホテルを舞台に、人生の岐路に立つ宿泊者5名の1日半の人間模様を描く。監督のエドマンド・グールディングは、流麗なリズムでグレタ・ガルボを筆頭に大スターの競演を捉え、ジョーン・クロフォードは本作で大スターの仲間入りをした。第5回アカデミー作品賞受賞。

 システムとしてのホテルということであれば、客というべルトコンベアに乗った日替わり商品は実はそんなに重要ではない、ということに気づいてしまった後発作品に分があるのに、先駆者は先駆者であるがゆえに、そこまで気が回らない。
 本作の従業員エピソードは、たった一つ。産科に入院している妻をやきもきする男。これか全くシマラない話で、発展性もない。ホテルのシステムとも絡まないし、無くてもいいくらいだ。
 男前のジョン・バリモア男爵や、さえなくしょぼいライオネル・バリモア帳簿係のリーマンが盛んに飲むバーにも、バーテンダーは影もない。
e0178641_325675.jpg ここはハリウッド映画の定番、気の利いた一言のバーテンダー、シニカルな顔芸のバーテンダーが、抜け落ちている。
 客の噂をはやし立てる客室係もいない。小津「東京物語」にさえ援用されているのに。
 システムとしてのホテルの擬人化が、ほぼほぼないのだ。
 ルビッチ映画なら必ずついてくる二段構えのびっくり男E・E・ホートンなどの不在も惜しい限り。

 その中で、この種のグランド・ホテルもののド定番、貴族泥棒ジョンバリの存在は、やはりさすが。窓から窓へ侵入し、宝石などを頂戴する紳士泥棒、ホテルのシステムを裏から横断する横紙破り。
 最低資本家ウォーレス・ビアリーを除き、他の登場人物は、ほぼほぼ善人。ダブルヒロインも善人なのはいかがなものか、と、ちとは、思うが。
 落ち目のダンサー、グレタ・ガルボ、タイピストのジョーン・クロフォードもそれぞれいいのだが、イマイチ大味すぎて、というか曲がなさ過ぎて、今の感覚では物足りないが。

Grand Hotel..trailer (1932).

Greta Garbo I want to be alone Grand Hotel

Grand Hotel (1932) opening scene

グランド・ホテル (プレビュー)


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by mukashinoeiga | 2017-11-07 03:25 | ルビルビルビッチ淑女超特急 | Trackback | Comments(2)

エルンスト・ルビッチ「淑女超特急」

典型的ルビッチ流艶笑喜劇の一席。
 渋谷にて「ルビッチ・タッチⅡ」特集。41年、Ernst Lubitsch Productions Inc.=Sol Lesser Productions、配給ユナイテッドアーチスト。

e0178641_1839647.jpg『淑女超特急 That Uncertain Feeling(83分)』 (渋谷シネマヴェーラHPより)
公開:1941年 監督:エルンスト・ルビッチ
出演:マール・オベロン、メルヴィン・ダグラス、バージェス・メレディス、オリーヴ・ブレイクニー、ハリー・ダヴェンポート、シグ・ルーマン、イヴ・アーデン、リチャード・カール
原因不明のしゃっくりに悩まされ精神科医を訪ねたジルに、夫婦生活に原因ありとの診断が。夫に不満があるジルは、病院で知り合ったピアニストに惹かれ…。小津の『淑女は何を忘れたか』に影響を与えた『当世女大学』のルビッチ自身によるリメイク作。*デジタル上映

 原題のThat Uncertain Feeling、内容に合わせて超訳すれば「女心は秋の空」かな。現代風に申さば「不定愁訴」というところかしらん。
 いずれも秋の字があることが日本語の妙味?だがさておき、同時に極めて楽天的なアメリカンコメディゆえ秋の字は似合わん。
 かくて苦心の超訳が「淑女超特急」
 暴走爆走する女心コメディ。これを当時の日本の配給は、当時の最新流行語、未来の日本には夢の超特急が実現するんだ、という希望ワードに託したわけだ。のちにその新幹線は「のぞみ」と命名されたわけだが。

 いろいろ紆余曲折があって、だが曲折(その曲折こそがルビッチの真骨頂であるわけで)抜きでいえば、お金持ちの夫を持つ有閑マダムが、夫との退屈な日常を持て余し、若いピアニストと、ズコバコズコバコしつつも、結局元サヤの夫婦に戻るという。
 結局寛容な、おおらかな広い器で、アメリカだったら射殺してもおかしくない淫乱浮気妻を許しちゃう。ここら辺のところがどうも日本人の潔癖さ?に合わないのか、ぼくの見た回はそれなりに席が埋まっているのに、場内クスリともせず。
 金持ち喧嘩せずで、間男にバコバコされた浮気妻を、これまたバコバコし返して、取り戻す。ここら辺が陽気で明るいアメリカンコメディたるゆえんだが、潔癖で陰にこもった(笑)われら日本人感覚では、いささかヘヴィーというところかな。

 しかも間男となる若い男が、現代の日本人感覚でいえば、だれでもドン引きするような超変人、というかはっきり言って、単にアブない変質者。こういう輩に恋したり、さらに自宅に招き入れるなんて、日本人の感性では、問題外だろう。ここら辺が渋谷でさえも観客ドン引きの理由かも。
 こういう変質者が受け入れられるのも、スクリューボールコメディの闊達さだが、現在の日本ではドン引きか。
e0178641_1840769.jpg ちなみに、この間男を演じたのは、若き日のバージェス・メレディス!
 ぼくなんぞはおじいちゃんの彼を見慣れているので、最後のクレジットを見るまで気が付かなかった(笑)。
 結局若さが売りの主演男女優よりも、味のある脇役のほうが俳優として長生きということか。
 最も本作のメレディスは、全く若い男感がないので、そこも今の観客ドン引きの一因かな。
 ちなみにぼくが一番ウケたのは、主人公メルヴィン・ダグラスの取引先が寝具会社のユニバーサルとユナイテッドだという楽屋落ちで。しょうもない。言うまでもないが退屈で熟睡する映画の会社というギャグですな。

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by mukashinoeiga | 2017-04-24 18:42 | ルビルビルビッチ淑女超特急 | Trackback | Comments(0)

エルンスト・ルビッチ特集を新設

初の外国監督のカテゴリと、なります。
 いま渋谷シネマヴェーラにて、

e0178641_936276.jpgルビッチ・タッチⅡ 2017/04/22 ~ 2017/05/19 (渋谷シネマヴェーラHPより)
エルンスト・ルビッチ Ernst Lubitsch(1892-1947)
ベルリンの洋服屋の息子として生まれる。16歳で高校を中退して舞台俳優となり、その後映画俳優へと転身。1914年に『シャボン玉嬢』で監督デビューし、多くの短編映画で腕を磨いた後、長編映画に進出。『牡蠣の王女』などの傑作コメディの他、ポーラ・ネグリ、エミール・ヤニングスとの黄金トリオによる史劇大作を監督。これがアメリカで大ヒットし、1922年にメアリー・ピックフォードの招きで渡米。
ワーナー・ブラザーズ、パラマウント、MGMなどの製作会社で多くの傑作を送り出した後、1941年に独立。『あのアーミアン毛皮の貴婦人』の撮影に入って9日目だった1947年11月30日、心臓発作で帰らぬ人となった。
ビリー・ワイルダーが師と仰ぎ、フランソワ・トリュフォーがオマージュを捧げ、小津安二郎が影響を受けた作風は洒脱と洗練の極み。映画史に燦然と輝く傑作の数々は、今なお観る物を魅了せずにはいない。

 と、特集が始まったばかり。半数は見ていて、どれだけ通えるかは、休みの日の朝の気分次第ですが(笑)。とりあえずカテゴリタイトルの「淑女超特急」は、見てきました(笑)。
 さすが名前Lubitschにbitchが隠れているルビッチだけに、みだらでふしだらな女たちが、出て来る艶笑コメディでした。エロリスト・ルビッチ!ブラボー!

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by mukashinoeiga | 2017-04-24 09:38 | ルビルビルビッチ淑女超特急 | Trackback | Comments(1)

エルンスト・ルビッチ「ラヴ・パレイド」

 渋谷にて。「映画史上の名作7」特集。29年、アメリカ。16ミリ上映。
 ヨーロッパの、とある王国の女王(まだ、独身の若いプリンセスでもある)と、その臣民たる若い貴族(モーリス・シュバリエ)の、宮廷恋愛譚。会話が、いきなり歌になる、オペレッタ形式の快作ラヴコメ。
 ただ、<酸いも甘いも両立した、大人の恋愛コメディ>達人ルビッチにしては、ほのぼのと歌でストーリーを転がす<ミュージカルのお子様趣味>は、いささか、水と油だったか。
 大人らしい(卑怯卑劣な)ギャグと機知で、お話を転がしていくラヴコメ達人も、ほのぼのとした歌を多数挿入しなければならない、いささかの隔靴掻痒感もありあり。ま、面白いんですけどね。
 すれっからしルビッチに、お子様ランチは、にあわねーなー。ま、面白いんですけどね。
 せこい話を、大エキストラの軍隊で補強するギャグも、たいへん楽しい。

 でも、現代にはいささか合わないのんびりムード、なおかつスタッフがいるロビーには冷房利かせても、客席に冷房なんてエコに反するぜー、と観客に悪逆なノー冷房を強いる、渋谷シネマヴェーラの方針により、幾たびか、失神してしまいました。もっと、いい環境で見たかった。

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by mukashinoeiga | 2012-09-02 23:50 | ルビルビルビッチ淑女超特急 | Trackback | Comments(0)

ルビッチ「山の王者」

 渋谷にて。「映画史上の名作番外編 サイレント小特集3」特集。29年、アメリカ。
 <艶笑喜劇の帝王>エルンスト・ルビッチが、艶笑の部分を封印?した、悲恋もの。
 スイスの猟師ジョン・バリモア(ドリュー・バリモアの祖父ですな)は、牧師の姪カルミラ・ホルンと相思相愛。スイスを長らく占領していた駐留フランス軍が撤退したので、村を挙げてのお祭り。
 しこたまビールを飲みすぎたバリモアは、ホルン嬢に迫る。お堅いホルン嬢は、これを拒否。結婚前は貞節を守らなくちゃ。で、性欲の捌け口に悶々したあげく、前から、バリモア君にセマっていた積極娘モナ・リコ嬢とやってしまう。
 で、当時は、狭い村のこととて、やっちゃった以上は、相思相愛のホルン嬢をあきらめて、モナ・リコ嬢をメトらねばならぬ。
 かくて失恋の悲嘆にくれるホルン嬢も、前からのしつこい求婚者と、結婚せざるをえないハメに。
 ここに、相思相愛のふたりが生木を引き裂かれるように、狭い村で、お互い気に染まぬ相手と、結婚しているという。
 これが後年の、ルビッチ艶笑喜劇なら、二組のカップルをめぐる鞘当て、とてつもないゴージャスかつ軽快なセックス・コメディーとなるのだが、あいにくルビッチもまだ若い?、悲恋物となってしまう。
 しかも、原題は、エターナル・ラヴだよ、エターナル・ラヴ。艶笑喜劇のルビッチなら、ギャグ以外に使いようもない、このタイトルを、マジに表現。ルビッチオヤジも、まだ純情なりし頃か。 
 そしてルビッチといえば、ドア。どんなバカでも、ルビッチを見れば、ドアが、ドアが、と言及するので、こちとらも恥ずかしくて言いたくないのだが、ほんとに、ルビッチ、ドアが好きだよねえ。
 ふつうなら、ダサくてもっさりした、お決まりの描写が何十秒か続くところを、数秒間ドアを映しただけで、すっきり解決、とてつもなくおしゃれですっきりした展開になる。これが何回もあるのだから。
 ドアを、クローズ・アップしても楽しいんだから、ルビッチ、もうドアにもとまらない、ので。
 喜劇を封印したといっても、フランス駐留軍退却記念村祭りの描写の軽快さ、楽しさ、小粋さは、やはりさすが。
 この年代のサイレント映画は、たといハリウッドとといえども、主演女優はかなり微妙。今の基準から見れば、え、これが主演女優?てくらい魅力に欠けるのがありがちだが、ホルン嬢、リコ嬢ともに、今の基準で見てもオーケー。いけます。ただ、リコ嬢は、ハリウッド・サイレントの女優にありがち?な、顔を前に突き出した、いわゆる猫背タイプ。当時そういう姿態が当たり前だったのか、それとも恋敵キャラの<刻印された、紋切りパターン>だったのか。
 ジョン・バリモアも、かなりこゆいソース顔だが(ま、当たり前ですけど)、なかなかいい。
 あと、山の描写として、雪崩の表現が見事。ミニチュア(雪山に落下する大きな岩)>おそらく、本当の雪崩の実景(爆薬で仕掛けた作為だろう)>その実景と、主役スタアふたりの合成画面>実際に雪を上から降らせた上に、主役コンビにふんしたスタントマンたちが雪に埋まる実写。
 この連携が見事。当時の解像度が低い白黒フィルムに見合った、見事な特撮ぶり。クレジットには登場しない、名もなきスタッフたちのテクは、数十年後の日米の特撮スタッフを、はるかに超える実力で。
 やはり特撮は、白黒に限る。カラー以降、いま現在の特撮では、一目で、ああ、これは特撮だと、わかってしまう。解像度の低かった頃の白黒映像では、よくできた特撮は、そのあわいが判断できないくらいで。
 この特集で、あと数回の上映あり。オススメ。


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by mukashinoeiga | 2011-07-25 01:13 | ルビルビルビッチ淑女超特急 | Trackback | Comments(2)