加藤泰「みな殺しの霊歌」

 京橋にて。「生誕100年 映画監督 加藤泰」特集。68年、松竹大船。
 再見作。うーん、何度見ても、見心地が悪い(笑)。確かに、フィルムセンター言うところの加藤泰最大のモンダイ作と、言うに、ふさわしい(笑)。
 そのココロは(笑)。以下、完全ネタバレ。

e0178641_7335284.jpg32 みな殺しの霊歌(90分・35mm・白黒) (フィルムセンターHPより)
1968(松竹大船)(監)加藤泰(脚)三村晴彦(撮)丸山恵司(美)森田郷平(音)鏑木創(出)佐藤允、倍賞千恵子、中原早苗、應蘭芳、菅井きん、沢淑子、河村有紀、松村達雄、明石潮、渡辺篤、大泉滉、須賀不二男、石井均、角梨枝子、吉田義夫、太宰久雄、穂高稔、藤田憲子、ザ・クーガーズ
時効目前の殺人犯(佐藤)がある事件を契機に連続強姦殺人をおこしていくが、純粋な娘(倍賞)に出会い心惹かれ…。衝撃的な殺人場面と、アウトローと山田洋次の協力を得て造形した松竹的ヒロインとの二人の心の交流が、ロー・ポジションの陰影に富んだ白黒映像による緊張感に満ちた語りで描かれる。どんな理由でも人殺しは「罪」かを主題とした作品で、加藤泰最大の問題作と評される。

Clip みな殺しの霊歌 (加藤泰)

 
 おそらく中学卒業後、集団就職で北海道の田舎から出てきた16歳の少年は、残された愛聴盤が、橋幸夫&吉永小百合「いつでも夢を」だし、まだまだ都会の風に染まらない純情少年だったのだろう。そんな彼を中原早苗、應蘭芳、菅井きん、沢淑子、河村有紀のおばさん軍団が「輪姦」ないし集団暴行した。
 ショックだろう。まだまだ「花とゆめ」の田舎の純情少年が、いきなり大量の「珍味」を食わされたようなものだ。特に菅井きんは、ないだろう(笑)。
 そこは、何歩か譲って、良しとしよう。
 そして思い詰めて、飛び降り自殺をしたと、いうのも、まあ良しとしよう。

 しかし、この少年の顔見知りの、佐藤允が、「義憤に駆られて」この五人の女たちを、次々レイプ・拷問・殺害する意味が、分からない(笑)。
 「俺はあいつと何の関係もない、名前すら知らないんだ」というが、少なくとも一緒に映画を見に行ったり、凌辱されたことを打ち明けられる程度には、親しいわけだろう。
 なんだか変だ。

 佐藤允は、新婚の妻を殺して、逃亡中の身だ。新妻が実はほかの男と関係があり、許せなかったのだ、と推測される。しかしそれから十数年、もうすぐ時効の身だ。もう酸いも甘いも、のおっちゃんになったのだから、知り合いの少年が汚されたからといって、五人もの女を殺すか。
 レイプするか。おかしいだろ。復讐のため、拷問レイプするのは、本末転倒だろう。
 清いものが汚された、それへの怒り。
 少年が自殺したのは、ある意味少年の勝手で、あろう。その復讐を女たちにするならば、せいぜいレイプ程度?で、すます?べきだろう。歯には歯を、という論理でいうならば、殺すのは、明らかに過剰だろう?
 百歩譲って、レイプ抜きの拷問のみで、殺すべきだろう。
 いや、わからないじゃないよ、60年代後半ともなると、エロティック映画がかなり幅を利かせ、おそらく松竹の作品依頼は、ほどほどのエロ描写を利かせたサスペンス、ということで、ほどほどにエロを出してくださいよ、加藤さん、ということでしょう。だから、サスペンスでエロと言ったら、レイプ殺人だろう、ということになる。
 でもお公家さん集団の松竹では、そういうエロが苦手な監督ばかり、だからわざわざ他社から監督起用するんですよ、加藤さん、暑い演出、頼みますよ、というわけで。

 しかし、明らかに、混迷の結果と、なる。あまりに、レアケースを扱う結果になる。ふつうなら、倍賞千恵子クラスの清純な乙女が、男たちに凌辱され、自死。その復讐、という段取りだろう。
 しかし、松竹の清純派女優には、そういう輪姦描写は、なじまない。倍賞千恵子、論外。じゃ、少年じゃ、どうか、と。そういう企画の流れか、と。よく、わからんが。
 ムーヴィーウォーカーには、(広見ただしの原案を、「ハナ肇の一発大冒険」の山田洋次と、「懲役十八年」の加藤泰が共同で構成にあたり、三村晴彦がシナリオを執筆した。監督には加藤泰があたったスリラー)とあるが、本映画のクレジットには、広見ただしのクレジットが、ない。いかにもペンネームっぽい名前だが、当時、そういう少年の輪姦事件というものがあって、そのレポートを原案にしたのか。

 しかしなぜ佐藤允なのか。
 佐藤允が、本作の主演というのが、おそらく、本作最大の欠点だろう。
 佐藤允は、典型的な映画スタアである。小林信彦が、小林旭を言ったように、無意識過剰な、その顔を見ても、何を考えているのかわからない、というより、何も考えていない、圧倒的な空虚を、体現している無意識過剰な映画俳優の、典型かと。

 本作では、佐藤允は、女たちを殺しまくるが、それは個人的怨恨ではない、金銭目的ではない、性的葛藤でもない(現在の視点からいえば、佐藤が少年に愛をいだいている、という仮説も可能だろうが、そういう兆候は一切排除されていると、思う)。
 では、なにゆえの犯罪なのか。
 かつて自分が新妻に裏切られたように、少年の無垢が汚されたゆえの、犯罪か。という風にしか読み取れないが、15年も逃亡生活を続けるおっさんが、そんな少年じみた「汚れちまった悲しみ」に、まだ拘泥し続けるとも、思えないが。
 佐藤允の、少年みたいな笑顔、に、加藤泰は、賭けたのか。
 しかし、そういう、「思想犯」を演じるには、佐藤允の顔は、徹底して、空虚であり、無意識過剰でありすぎる。
 佐藤允は「思想犯」を演じるような顔をしていないし、そういう演技も、一切出来ない真の映画俳優なんですね。
 これが、加藤泰映画がらみでいえば、安藤昇であれば、あるいは、高倉健であれば、あるいは、説得力を持ったかもしれない。佐藤允では、義憤の説得力に、全く欠けるのである。
 義憤を体現するような、知的/感情レヴェルに、佐藤允の顔は、全く無縁、なのだ。
 たぶん、佐藤允は、小林旭以上に、無意識過剰な役者なので、よりによってそんな佐藤に「ある意味思想犯」を演じさせた加藤泰は、なんちゅう無謀(笑)。

 かつて鈴木清順は、「映画のつじつまが合わないのは、俳優が下手なせい」(大意)と、一種の暴言を吐いたが、おそらく本作が、消化不良を観客に感じさせるのは、佐藤允がミスキャストなせいなのだ。倍賞千恵子程度の「深み」すら感じさせない、鉄面皮な、真の映画俳優、佐藤允を、なぜ、よりにもよって起用したのか、加藤泰。
 
 倍賞千恵子。ほくろの多いすっぴんの顔で、演じた。家族に迷惑をかけるやくざの兄を、思い余って、殺した女。ウラさくらか。構成山田洋次の、ダークサイドなのか(笑)。仕事も、大衆食堂で、さくらとの共通点多し。
 山田洋次にとって、加藤泰とは、何なのか。加藤泰の裏が、あるいは表が、山田洋次なのか。
 山田洋次「霧の旗」と並ぶ、二大言いがかり映画に、ともに倍賞が出ている不思議?

 本作では、珍しく大泉滉が、まぢめな役(笑)。まあ、多少軽みはあるが、所轄警官を、それなりにまじめに演じて、こんな大泉滉メヅラシイなあ。
 警察は、ぼんくらばかりで、失敗だらけ。うーん。
 ということで余談だ(笑)。以下、話は、どんどん細かくなってくる(笑)。

余談1 殺され順でいうと、應蘭芳、中原早苗、沢淑子、菅井きん、河村有紀だが、最初の應蘭芳こそ、エロティック映画らしく?ヌードも多いが、菅井きんのみは、遺体写真のみ。
 なぜ菅井きんの暴行場面を描かない、加藤泰。エロでもなく観客ドン引きだろうが、そこを「平等」「等価」に描いてこそ、じゃないのか、加藤泰(笑)。
 いや、菅井きんをレイプする佐藤允を見たいわけじゃないが(笑)、まあ、それなりにエロい女たちをレイプしてばかりでは、佐藤允、自分の趣味でやってるんじゃないか(笑)と、誤解されちゃうでしょ。菅井きんをレイプしてこそ、佐藤允のまじめな?犯罪ぶりが、逆に証明されるんじゃないの(笑)。
 士道不覚悟(笑)。なんのこっちゃ。

余談2 上記ユーチューブ画像でも垣間見れるが、最初の被害者が殺されるときに、回想シーン的にダブって、五人の女のマージャンシーンが、出てくる。手っ取り早い人物紹介なのかもしれないが、事件当日はマージャンをしていた、という偽り証言を観客の頭に刷り込ませるミスリードの典型で。
 ミステリとしては、完全に失格。まあ、事件当夜ではない、別の夜に確かにマージャンをしていた、という言い訳も成り立つが、それでも、失格気味。まあ、加藤泰映画に、厳密なミステリ基準を求めるのもセンないことでは、ある。

余談3 警察は最初の時点で残り四人の氏名、住所を把握している。事情聴取、あるいは囲い込みで、連続殺人は、少なくとも、二人目で阻止できたはずだ。そういう事情聴取を五人目の河村有紀で、やっとするとは、なんというお粗末。
 最初の監察による手書きメモ発見を、人物紹介の手っ取り早いうまい手だ、という脚本の思惑が、逆にこの映画の傷になった。

余談4 例によっておバカなフィルムセンターの解説(字数制限を守るため、日本語として、そもそもメロメロなのだが)いわく「どんな理由でも人殺しは「罪」かを主題とした作品」とあるが、本件のような「動機なき」(と、法令上は、解釈される可能性が高い)「不条理大量殺人」こそ、もっとも「罪が重い」はずで「あるべき」であろう。
 「どんな理由でも人殺しは「罪」かを主題とした作品」で、あるならば、本作の事例は、まったく不適当。それとも「お花畑による犯罪」は、「許されるべき」というサヨク脳的発想なのだろうか。
 法律解釈上はあるいは、本件は極めてビミョーな扱いなのだろうが、というのも動機重視主義の日本の刑法(という、法律無知のぼくの印象)では「動機が薄い」(と、解釈をせざるを得ないだろう)と、なぜか刑が軽くなるような印象なので。
 こういう「ある種の思想犯」が、訳が分からないので法律上の判断は保留、という理由で「刑罰が軽くなる」ほうこそ、まさしく「不条理」だろう。

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by mukashinoeiga | 2016-08-28 07:34 | 加藤泰突撃せよ炎のごとく | Trackback | Comments(6)

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Commented by お邪魔ビンラディン at 2016-08-28 23:53 x
 この物語の設定は、「五弁の椿」の設定を主人公の性別を逆転させたらどうなるか、というところから発していて、不自然なところは、取り調べの刑事が「なんでそうなるのかなぁ?」としきりに頭をひねることで、無理矢理ツジツマを合わせていますね。刑事が自分の痔のはなしでボヤくあたりは、倍賞千恵子起用と並ぶ、山田洋次の自分の作品への関与を示すサインのようなものでしょう。

 佐藤允の起用は、おそらく、鈴木英夫の「脱獄囚」の印象をもとに決定したものだと思います。当時の松竹で可能性があった役者を考えてみると、「車夫遊侠伝喧嘩辰」の好演から内田良平……となると地味すぎるし、三国連太郎が主演だったら陰惨になりすぎる。他に田村高広や吉田輝雄や園井啓介あたりには、そもそもこの役は無理だし、中山仁や竹脇無我ではまだ若すぎる。いっそのこと、渥美清主演、野村芳太郎監督でやっていたら妙なリアリティのある怪作となった可能性はあるものの、この二人のスケジュールが上手く取れないから次善の策として加藤泰と佐藤允を松竹に招いた、というのが内情ではないかしらん。

 「なぜ菅井きんの暴行場面を描かない、加藤泰。エロでもなく観客ドン引きだろうが、そこを「平等」「等価」に描いてこそ、じゃないのか?」という疑問はもっともですが、おそらく、一応撮影してはいたものの、観客ドン引きとなることを恐れたプロデューサーから、「ここは90分枠に収めるためにカットだね」と強要されたんじゃないかとニラんでいます。
Commented by サセレシア at 2016-08-29 00:32 x
>「なぜ菅井きんの暴行場面を描かない〜

いやいやそりゃないわ....

ムカエイさん的には賀原のナッちゃんならよかったのになぁとか思われたのかも知れませんが....。

この当時の松竹なら大島渚とかは無いでしょうかね?

だとすると主演は川津さんですか。

なら思い切って木下恵介で微妙な男心が絡んできて...
いやいやこりゃ駄目だ...。
Commented by mukashinoeiga at 2016-08-30 22:25
加藤泰「みな殺しの霊歌」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 「五弁の椿」は、はるか昔にぼろぼろのフィルムで見たきりで、一切記憶がありません(泣)。確か岩下志麻?
 うーん鈴木英夫「脱獄囚は、当時相当マイナー、加藤泰見てたんですかね。

 渥美清いいですね。でも、まったく別種の映画になっちまいますね。
 菅井きん問題(笑)ですが。おそらく相当の女優に断られたんだと思いますよ。少年を回す役で、しかもレイプされる役ですからね。だから、結果的に全員加藤映画経験者ばかり。おそらく菅井きんの役こそ、断られて、断られて、しようがなく、という感じ? 昔の映画
Commented by mukashinoeiga at 2016-08-30 22:58
加藤泰「みな殺しの霊歌」へのコメント、サセレシアさん、ども。
 何か誤解なさっているようですが(笑)賀原のナッちゃんへの興味は、あくまで人間に対する興味でありまして(笑)女性に対する興味とは、ちゃいますねんよ。
 大島渚なら、当たり前すぎますね。
 むしろ木下恵介なら。
 美少年・田村正和を輪姦した、笠智衆、三井弘二、高橋貞二、川津祐介、紅一点(笑)の東山千栄子らを、次々レイプ後殺害する佐田啓二、って、完全に妄想映画だな(笑)。  
 刑事役は、丹波哲郎と森田健作。
森田「佐田はー、なぜ、笠智衆まで、おかまを掘ったんでしょーかねー」
丹波「わからん! おれには、わからん!」 昔の映画
Commented by お邪魔ビンラディン at 2016-09-01 00:07 x
加藤泰ないしプロデューサーが鈴木英夫「脱獄囚」を見ていた可能性は、封切時はともかく、TV放映で見た可能性がありそうです。当時は封切後5年間はTV放映しないという紳士協定のようなものがあった一方、「脱獄囚」の封切は昭和32年秋なので、TV放映で見たことは十分にありえますね。(倒産した新東宝は大目に見てもらって、比較的新しい作品の放映権料で負債をなにがしか返済して行ったというような話も聞いています。)
それはそれとして、木下惠介版の見立てでは、高橋貞二は田村正和のデビュー前に事故死しているし、森田健作のデビューも佐田啓二の死の五年後ですなあ。いっそ大胆に、東山千栄子を輪姦して死に追いやった「惜春鳥」の若者たちが伴淳三郎か日守新一に連続レイプ殺人されて行くという方が、なんとなくありそうな展開だと思いますが、如何?
Commented by mukashinoeiga at 2016-09-03 06:10
加藤泰「みな殺しの霊歌」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
なるほど。
 ヒモリンでは、東山千栄子に、押し倒し返されそう(笑)。それに、ヒモリンやバンジュンでは、木下の審美眼(笑)に、耐えられなそうで。  昔の映画
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