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加藤泰「男の顔は履歴書」安藤昇、中原早苗、中谷一郎、内田良平、真理明美、伊丹一三、菅原文太、田中春男、浜田寅彦、角梨枝子、沢淑子、石井富子、三島雅夫、香山美子、嵐寛寿郎

 京橋にて。「生誕100年 映画監督 加藤泰」特集。66年、松竹大船。
 うーむ。本作は、二つの意味で、恐るべき問題作である。
 日本の大メディア(報道及び芸能)には、あまり登場しない話題がいくつかあり、タヴー視されているジャンルが、いくつかある。
 その一つが在日の存在の問題というか、問題の存在というか。普通ならポシゃる企画を、おそらく安藤昇という特異な主演者の起用という「一点」で、切り抜けた、と思われる。
 だが、この話は、長くなるので、まずはもう一つの問題、伊丹十三問題(笑)から、片付けよう。

加藤泰「男の顔は履歴書」安藤昇、中原早苗、中谷一郎、内田良平、真理明美、伊丹一三、菅原文太、田中春男、浜田寅彦、角梨枝子、沢淑子、石井富子、三島雅夫、香山美子、嵐寛寿郎_e0178641_751064.jpg28 男の顔は履歴書(89分・35mm・カラー) (フィルムセンターHPより)
1966(松竹大船)(監・脚)加藤泰(脚)星川清司(撮)高羽哲夫(美)梅田千代夫(音)鏑木創(出)安藤昇、中原早苗、中谷一郎、内田良平、真理明美、伊丹一三、菅原文太、田中春男、浜田寅彦、角梨枝子、沢淑子、石井富子、三島雅夫、香山美子、嵐寛寿郎
加藤が松竹大船撮影所に呼ばれ、安藤昇を主演に初めて撮った野心作。戦場体験をもつ医師の主人公の元に急患が運ばれ処置する現在と、昭和23年の闇市での騒動が並行して語られる。加藤は本作で初めて戦後を題材にし、日本人と朝鮮人(劇中での呼称は「三国人」)の憎しみと暴力の連鎖を徹底して描いた。親交がある野村芳太郎と山田洋次の協力を得て撮影され、スタッフの多くも山田組である。

 伊丹十三、むろん当時は伊丹一三名義の時代だが、加藤泰ならではの性急さで、後半いきなり登場するや、在日朝鮮人たちに半殺しの目にあい、川に投げ込まれる田中春男を、救出する学生、実は主人公、安藤昇の実弟と、わかる。
 この伊丹一三が、強い強い。単独で在日グループに喧嘩を吹っ掛け、あるいは集団殴り込みの先頭に立って、バシバシ在日たちを、ぶん投げる。
 まるでアクションスタアかの、強さ。信じられない。
 むろん、本当に強いわけではなく、殺陣の段取り芝居なのだろうが、しかし、なぜ彼がこんなに「強い男」の役で、キャスティングされたのか。
 ふつう「強い男」の役で、伊丹一三はキャスティングしないだろう。
 特に後年は、見ている間はそこそこ面白いが、後に何にも残らない空虚なヒット作を連発する映画監督時代になると、いやその前の軽妙洒脱なエッセイスト時代も、文科系おしゃれ男子というか、文科系草食?の、イメージとなったわけだが。
 しかし意外にガタイはよく、顔はむしろ怖い顔系なので、若いころは、その怖い顔つながりで、安藤昇の弟役というのも、納得できるかもしれない。
 特に本作の役は、安藤昇の弟役というよりも、学生崩れのインテリやくざという安藤イメージの、比喩として登場させる以上、伊丹は、適役に近いものがあったのか。

 本駄文の一個前「鈴木清順は、かっぱえびせんか」でも、謎の「松竹アクションスタア」というものがあったが、むしろそういうものが払底しているからこその、伊丹起用というものかもしれない。

 さて、在日問題だが、戦後のどさくさに、全国各地の駅前の一等地をかっぱらい、駅前にパチンコばかり建てた、在日朝鮮人たちが、同様に、闇市マーケット(具体的地名は語られなかったが、少なくとも東京の大学から帰省する弟、というからには、東京ではない)の、乗っ取りを、図る。これも、当時全国で「よくあった話」なのかもしれない。
 受け継いだ地主の権利を持つ安藤に、攻めかかる。
 こういう闇の勢力としての在日に、正面切った描写をする映画というのも、珍しい。
 というのも「良心的左翼映画」では、在日は、被害者の役回りで登場することが多く、その暴力性は、隠されることが多いからだ。
 加藤泰の弟子、ないしは後輩の山田洋次からしてそうだ。むろん「馬鹿シリーズ」の、暴力粗野男たちの大半は、在日であろう、という含みは、残しつつ。

 極端な暴力性と、極端な被害者意識。
 本作のチンピラ菅原文太の火病ぶりも、サマになっていて、これでは、お公家様松竹の枠からはみ出して、松竹専属脇役から、東映に、引き抜かれるも無理は、ない。
 そのチンピラ菅原文太から、内田良平親分まで、在日暴力団は、立派な犯罪者なのに、なぜかルサンチマンの被害者気取りの側面を、持つ。
 彼ら民族に固有なのか、プロ加害者なのに、同時にプロ被害者。
 プロフェッショナルなまでの、被害者アピールの天才たちで。
 単なるむちゃくちゃ暴力なのに、「日本人への復讐」で正当化。
 これは現代もまったく同様で、進歩の気配すらない。
 マーケット簒奪も、日本人の「植民地化」への復讐。
 田中春男の娘・藤田弓子への強姦殺害も、日本人の「植民地化」への復讐。
 単に、そういうエクスキューズで、自らの犯罪性を糊塗しているだけのように、思える。
 自分たちは「上書き修正」しているだけかもしれないが、その下は、実はブランクなんだよね。
 実際にあった被害だけでなく、時には、いや、たいてい、なかった被害まで捏造、でっち上げて、最初はでっち上げの大ウソだったものを、二度目三度目に「声闘」する際には、捏造した本人も、もはや「事実」と思い込んじゃう、そういう民族性。
 それをまた、世界一お人よしの日本人は、実際自分がしなかったことまで「事実」と思い込み、謝っちゃう、という民族性。

 閑話休題。映画に戻す。
 安藤昇の演技は、本作が一番安定している。実は、多く演じてきたやくざ役よりは、こういう非やくざ役のほうが合うのかもしれない。
 その愛人の看護婦に、中原早苗。その暑苦しい演技は、いかにも加藤泰好みだが、演劇以上の演劇的せりふ回しの熱情こそ、彼女の真骨頂か。当初は町弘子が予定されていたらしい。こちらのほうも見たかった。
 今回お得意のローアングルは、あまり印象になく、ほとんどなかったのでは、ないか。見る人が見れば、あるのかもしれないが、少なくとも、こちらの意識には、上ってこなかった。安藤昇に遠慮したのかな。
 なお、冒頭の欺瞞性に満ちた、解説(互いに信じあえる関係に、将来なれるよう信じたい~大意)、まるで憲法前文のパクリみたいな安易な文章は、この映画を興行に乗せるためのエクスキューズだろうが、この欺瞞性を松竹も加藤泰も、ひそかに、恥じるべきであろう。

侘助 ‏@cx03377 8月12日 東京 荒川区
安藤昇が「子供は外へ」と言うと、中原早苗が「いいえ、この子にも見せてやります、自分の父親が命と闘っているところを」と応え、キャメラを真っ直ぐに見据えた安藤が「よーし」と気合いを込めて声に出すところに「完」の文字が出るラストは、何度観ても背筋に感銘が走る見事なエンディングです。(以上引用終わり)

 加藤泰は、こんなしゃれたエンディングを、やっちゃあいけない(笑)。

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by mukashinoeiga | 2016-08-14 07:05 | 加藤泰突撃せよ炎のごとく | Comments(0)

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