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鈴木英夫「その場所に女ありて」司葉子水野久美森光子織田政雄浜村純大塚道子原知佐子柳川慶子北あけみ

2009年に、以下のように、書いた。最近渋谷あたりで話題になっているので、再説しよう。

鈴木英夫「その場所に女ありて」司葉子水野久美森光子織田政雄浜村純大塚道子原知佐子柳川慶子北あけみ_e0178641_4162588.jpg 京橋にて。「逝ける映画人を偲んで 2007-2008」特集。62年・東宝。
 製作・金子正旦の追悼。
 快作「南極料理人」を見たあと、暇だったので、夜の回は何か知らずに、ぶらぶらフィルムセンターのほうに歩いていったら、これがかかっていた。
 もう何度も見ているので、見る必要はないのだが、まあ頃合もちょうど良し、と入ったら、やっぱり傑作でしたね、これは。
 北川れい子さんも見に来ていて、その連れの男性いわく「見るたびによくなっていく映画だね」に、まったく同感。恐るべき<成長を続ける映画> 、腸内で乳酸菌が増え続けるとは、このことか。違うか。 
 司葉子、幹事長・大塚道子、原知佐子、そのライヴァルの「われわれ貸し金をサイドビジネスに営むものは」の柳川慶子、「お前、ほんとに美術学校出てんのかい?」の北あけみ、コマンチこと拾い屋・水野久美、「化粧品だけが便りよ」の姉・森光、そのだめ夫・児玉清、やはりみんなすばらしい。
 いつもは駄目男専門の織田政雄、浜村純のカッコよさ。
 最後、夜の銀座の街に消えていく司、大塚、原の、ただ横断歩道の信号待ちをしているだけのシーンの、その緊張感
 当時の夜の銀座が、また、現在の煌々とまぶしい銀座でなくて、かなり暗い。そして、舞台となった西銀広告、<明るく楽しい東宝映画>のサラリーマンものなのに、社内照明の暗さよ。
 この暗さを求めて、わざと退社時間ばかり選んでいる気がしてくる。
 顧客である、スカル目薬、難波製薬の社内は普通の明るさなんだから。
 撮影・逢沢譲、最近この人の映画ばかり見ているようなのは、気のせいか。(以上旧記事引用)

 森繁の社長シリーズのような、明るく楽しい東宝サラリーマンものに、竿を差すように、暗い色調、暗い音楽、そのクールさに、公開当時は、評価も低く、埋没してしまった。
 鈴木英夫映画は、ハードボイルドだという。
 事実、東宝調明朗喜劇も何本か撮ったが、いささか、シマラない出来なのも事実なのだ。

 しかし、この「その場所に女ありて」の暗さ、クールさには、何かしらの甘い感触があって、暗さ一方にはなっていない。
 それは一つには、サスペンス映画としての面白さであり、ヒロイン司葉子の、ヒロイン女優としての華なのだろう。
 ある種のリリシズムが漂うサスペンスタッチが、他の鈴木英夫映画から、離れて、屹立している感じがする。
 当時、南米かどこかの映画祭で、本作は主演女優賞を得ている。それ自体の慧眼も素晴らしいが、大映だったら、さっそく凱旋興行と銘打ち、再映しただろう。
 東宝はタマが豊富なので、そして映画に興味がない映画会社なので、さらに、東宝主流の映画でも監督でもないので、無視した、というところか。
 鈴木清順映画がそうであるように、鈴木英夫の本作も、「見るたびによくなっていく映画」「恐るべき成長を続ける映画」、その素晴らしさ。
 まあ、本作以降の、約60年間、これを超えるワーキング女子映画がない、というだらしなさも、あるんですがね。

 それにしても、見るたびに感嘆するのは、司葉子の甘いクールさもさることながら、若い未婚の女性が、中高年男性向けの精力剤の仕事をするのに、男性社員の誰一人として、それを揶揄したり、セクハラめいた発言をしない点だ。これが約60年前の映画とは、信じられない。
 この西銀広告に、もし森繁がいたら、鼻の下を伸ばして、
「精力剤の仕事をしてるそうじゃないか。まだ、君には、どんな薬かも、わからんだろ。中身も知らんで、コンペ勝てるか。どうだね、今晩、一つ、僕と試してみんか」
ぐらいのことは言うだろう(笑)。
 取引先・難波製薬の課長部長だって、
「若い君にはこの仕事は無理無理、どうしても取りたかったら、今晩ぼくと」以下略。
 そんな影を、半世紀以上前の本作は、みじんも感じさせない。
 そもそも若い女性に、男性向け精力剤の仕事を振る、という設定自体が、すでにハードボイルドだ(笑)。
 そしてよく言われるのが、司葉子に比べて、男たちはことごとくダメ、というこの映画の評価だが。
 直属上司の頼もしい課長・織田政雄、他社からこっそり引き抜かれるほどの有能デザイナー・浜村純など、普段ダメ男専門の感があるふたりを、それなりにかっこよく描く、このどこがダメ男映画なのか(笑)。
 ナチュラルボーンダメ男を演じる児玉清と、その相方・モリミツは、晩年は、なんだか名優扱いなのだが、堂に入ったダメカップルを、がらにあって好演。児玉は、散々しごいた鈴木英夫を、エッセイなどて罵倒していたように聞くが、鈴木英夫にとって、児玉は、いかにもいびりそうだったろうなあ(笑)。
 若いころの東宝時代の児玉は、いかにもダメ男専門で。
 山崎努は、相変わらず下手なので、なんだか卑劣感も、おざなりなのが、この映画の瑕瑾で。
 男言葉の大塚道子は、今の映画だったら、明らかにレズっ気があって、そういう目で水野久美に同情している、という設定になるだろう。
 同僚の男どもに、金貸しをしている、ハラチサ、柳川慶子、こんなこと、昔は結構あったのだろうか。この二人に、ねちねち利子を督促されるのも、いいかもしれない(笑)。
 この映画は、司葉子のヒロイン映画であると同時に、西銀広告の社員たちの、群像映画としても、優れている。奇跡の傑作だ。

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by mukashinoeiga | 2016-07-20 04:16 | 傑作・快作の森 | Comments(2)

Commented by PineWood at 2016-07-21 08:47 x
傑広告業界が絡む点で開高健・原作の映画(巨人と玩具)なども思い出した…。司葉子の魅力を怖いほど引き出した名篇♪
Commented by mukashinoeiga at 2016-07-22 02:58
鈴木英夫「その場所に女ありて」へのコメント、PineWoodさん、ども。
増村の(巨人と玩具)の、ますますムラムラな狂騒ぶりも、鈴木英夫のクール&スタイリッシュも、どちらもいいですなぁ。
 司葉子のベストな一本で。怖い?(笑)  昔の映画
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