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木村恵吾「花嫁のため息」「新妻の寝ごと」

 新宿3丁目にて。「若尾文子映画祭 青春 アンコール上映」特集。56年、大映東京。
 53分と43分の、添え物中篇シリーズ。下記Movie Walkerによれば、遅いお正月気分のために、さながらTVドラマのノリで、公開されたようだ。添え物だから、尺を短くして回転を高めようというわけで、おそらく俳優のギャラなども、2本で1本分の計算なのだろう。

 今年のシネ初めは、若尾文子中篇4本立て。この上映は初見参だが、初デジタル化などと、なんだかデジタル化がえらいかのような、角川の態度には、ややむかついて、今まで来なかった。今回も、あややデヴュー作、小石栄一「死の街を逃れて」は、見れない。残念。
 なお、いきなり行ったので当日券1600円を払うつもりだったのに、受付のお兄さんが、今すぐ作れる角川シネマ、テアトル系列の会員カードで、入会金千円、ただし招待券1枚付きで、なんやかんやで1番組あたり千円強で見れることになった。閑話休題。

『若尾文子映画祭 青春』予告編 Ayako Wakao Film Festival Trailer


木村恵吾「花嫁のため息」「新妻の寝ごと」_e0178641_1015971.png花嫁のため息 1956年1月9日公開 <Movie WalkerHPより>
「娘の縁談」の木村恵吾が脚本と監督を兼ね、「ブルーバ」の共同撮影者の一人、高橋通夫が撮影を担当した。主なる出演者は「七人の兄いもうと」の根上淳、若尾文子、船橋英二、市川和子、「生きものの記録」の藤原釜足、「浅草の鬼」の伏見和子、「市川馬五郎一座顛末記 浮草日記」の東野英治郎など。
六畳と四畳半だけの船山家では今しも敬太の結婚式というので、世話好きな隣家の女房おらくが先に立ち、近所のおかみさん連中や高校生お美代ちゃんまでが応援に駈けつけての大騒動だ。やがて式も終り、やっと二人きりになった悦びに新郎の敬太が花嫁芳子の手をとったとき、表戸を叩いたのは久しく音信不通の悪友大山である。(以下略)

 現代では、およそありえないだろう自宅での結婚式。宴席用の料理は、すべて狭い庭で、近所の主婦総出で煮炊き。突然の雨で、煮物の鍋も、焼き魚も、お銚子もすべて雨びたし。
 花嫁も、花嫁衣裳のすそをからげて、料理を雨から守る(ただし、顔は、映さない)。後日、貸衣装の花嫁衣装がずぶぬれだったので、割増料金を請求され、大赤字、という落ち。
 なお、尾頭付きの鯛を、出前してきたのは、若き魚屋・中条静夫。一尾30円の最低ランクの鯛なので、小魚のごとく小さい(笑)。「こんなんでも、せめて35円じゃなきゃ割が合わない」と中条。「ダメダメ。30円」と、岡村文子オバサン。「ついでに、あんた、その鯛、焼いていって」と、七輪を指差す。
「かなわねエな」と、七輪で鯛を焼く中条。
 ああ、ザ昭和だなあ(笑)。なんだか楽しそう。
木村恵吾「花嫁のため息」「新妻の寝ごと」_e0178641_10155589.png なお、ここまでと、その後しばらく、中篇なのに最初の10分くらいは、ヒロインの花嫁の顔を、出さない。じらしにじらしたあと、新進女優・若尾文子が、暖簾をくぐって、顔を、やっと出す。
 冒頭の出番のなさに、かえって、この新進女優への愛を感じる。
 で、いったん出てきたら、若尾の愛らしさ全開で。
 うれしはずかし新婚初夜に、新郎・根上淳の悪友・船越英二がいきなり、上京して来て、今夜は、泊めてくれ、と自分勝手に。
 翌夜も、根上の故郷の老人連が、無神経に宿代節約のため、泊り込む大騒動。
 この「意図」は、明白。うれしはずかし新婚初夜の、あれもこれをも、描きたい。いや、描くのが本作の主テーマだ。しかし、時代の制約ゆえ、新婚夫婦のキスシーンでさえ、直接描写は、ダメ。そこで、映画は、その、うれしはずかしが、いかに、ミッションインポッシブルなのか、という描写に精勤する。
 「本来の主テーマ」を、いかに、映さないか、に特化した、それゆえのコメディ性を追求する、せざるをえない? いや、それが、かえって職人の楽しみ(笑)。
 本末転倒か苦肉の策か、マゾヒズムか隠微な?細部の工夫が、かくて倒錯的な?快作コメディを生む。
 冒頭、ヒロインの顔を隠し続けたように、ついに53分間、うれしはずかしを、先延ばしにする。
 ラスト、新郎新婦は、はれて二人きりになり、初?キス。
 しかし、そのキスも、鴨居にかけた額縁の絵がずれて、見えない。
 この新築ながら安普請の、家は、近くに鉄道があり、列車が通るたびに大振動大音響で、そのたびに絵が、ずれる、というルーティン・ギャグを何度か繰り返し、その繰り返しで、最後の落ち。
 これだけでなく、短い中篇に凝縮された、濃密な脚本・演出の妙が、随所で味わえる。プログラムピクチャアとして、グッド。

木村恵吾「花嫁のため息」「新妻の寝ごと」_e0178641_10161645.jpg新妻の寝ごと 1956年1月15日公開 <Movie WalkerHPより>
前号「花嫁のため息」につぐ同スタッフ、キャストによるものにつき省略。
新婚の敬太、芳子夫婦の家に芳子の友人ふみ子が夫婦喧嘩のあげく家出をして来た。困った二人はふみ子に里心を起させるために芝居をした。ふみ子は当てられて帰って行ったが、敬太も芳子をつれて熱海に行くことになってしまった。車中で敬太は芳子の父の儀左衛門に会った。儀左衛門は組合の寄合だといって女房の牧江をだまし、芸者の千代菊をつれて熱海に遊びに行くところであった。(以下略)

 前作とはまったく真逆に、冒頭会社から帰って来た根上と、若尾は、キスキスキスと、キス連発(笑)。タイトルも「花嫁」から「新妻」へ。
 この落差こそ、長編一本から、中篇二本に分けたのは、実は、営業上の理由からではない、ということを思わせる。
 このヒロインの、恥じらいから、羞恥心ゼロ?で、キス三昧では、あまりに、ヒロインが変わり過ぎて、一本の映画としては、持たない、という、純粋に、作劇上の判断だったのだ(笑)。
 なんとなんと(笑)。商売上、安く上げて、一本で二本分をでっち上げちゃおう、というのが、日本映画のお作法であったろうに、本シリーズに関しては、この配慮(笑)。うーん。
 なお、夫の浮気から、若尾家に居候して、ふたりの新婚気分を著しく阻害する、若尾の旧友に、岸田今日子。
 のちに増村保造「卍」で、まんじりねっちりと若尾と絡む岸田、因縁の出演か。
 なお、このふたり、夫婦そろって熱海にいくと、どちらも夫の希望で丸髷を結う。まあ、明らかにカツラだが。
 昭和戦前までは、普通に見られた、新妻の必須ヘアスタイルとして知られる丸髷が、1956年時点でも、生きているとは。
 夫たちも普通に自分の新妻が丸髷を結うことを望み、新妻たちも、それにうれしそうに、応える。
 演じるのがあややだけならともかく、かの岸田今日子まで。新劇女優だよ新劇女優。新派じゃないんだからさあ。

 なお、義父・藤原釜足の愛人芸者の後始末を押し付けられ、根上の愛人扱いに、若尾激おこ。ところが、さすがに良心がとがめて、釜足告白。「いや、実は、わしの愛人じゃ」。
 これを聞いた妻・市川春代、わが夫をののしるどころか、「いや、お父さんに愛人を作る勇気があるなんて、かえって見直しましたよ」と、微笑む。それに一家で、大笑いで幕。
 いや、これ、女性蔑視じゃあ、ありませんよ。ここで、脇役の市川が怒り爆発で夫を責めたら、43分で、映画は、ハッピーエンドには、ならない。
 何から何まで聡明に、しゃきしゃき展開する。グッド。

★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。
 Movie Walker的にはまったく意味不明な「前号」というワードが、キネ旬のバックナンバーの丸写しであることを、堂々露呈する(笑)。 

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by mukashinoeiga | 2016-01-09 10:17 | 傑作・快作の森 | Comments(0)

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