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長谷川安人「十七人の忍者」近衛十四郎大友柳太朗里見浩太郎三島ゆり子東千代之介

 京橋にて。「日本映画史横断⑥ 東映時代劇の世界Part 2」特集。63年、東映京都。
 うーん「面白い」。いや、作品本来もそうなんだが、それ以上に、直前に見た、感想駄文済みの★山内鉄也「忍者狩り」★ との対比において、「面白い」。
長谷川安人「十七人の忍者」近衛十四郎大友柳太朗里見浩太郎三島ゆり子東千代之介_e0178641_6155428.jpg  同時期東映京都の新人監督たちによる、本作「十七人の忍者」と、その翌年作、山内鉄也「忍者狩り」は、きわめて酷似だ。
 ある、いわゆるマクガフィン文書の争奪戦。ある地方の城の一角に、それは、ある。それを伊賀忍者たちが、文字通り死に物狂いで、奪いにかかる。
 そして、それを阻止すべく雇われたのが「十七人の忍者」の根来忍者・近衛十四郎であり、「忍者狩り」の浪人・近衛十四郎だ。この、兄弟のように類似の設定は、何を、意味するのか。
 以下、ネタバレあり。

十七人の忍者(99分・35mm・白黒)<フィルムセンターHPより>
二代将軍秀忠の死期が迫る中、家光の弟・忠長が集めた謀反の連判状を奪うため、駿府城に潜入を試みる伊賀の甚伍左(大友)率いる忍者たちと、それを迎え撃つ根来忍者才賀孫九郎(近衛)の攻防。脚本の池上金男と新人監督長谷川安人が、任務遂行に命を捧げる忍びの非情な世界を描き、「集団抗争時代劇」ブームの先駆けとなった。
1963(東映京都)(監)長谷川安人(脚)池上金男(撮)わし尾元也(美)富田次郎(音)鏑木創(出)里見浩太郎、三島ゆり子、薄田研二、原田甲子郎、品川隆二、阿部九州男、花沢徳衛、堀正夫、大邦一公、加賀邦男、近衛十四郎、東千代之介、大友柳太朗

長谷川安人「十七人の忍者」近衛十四郎大友柳太朗里見浩太郎三島ゆり子東千代之介_e0178641_814119.jpg忍者狩り (87分・35mm・白黒) <フィルムセンターHPより>
外様藩取潰しを進める将軍家光の命を受け、伊予松山二十万石の蒲生家から家督相続のお墨付きを奪うため集められた忍者・闇の蔵人(天津)とその一味。一方、蒲生家城代家老会沢・土佐は藩を潰された4人の浪人を雇いこれを迎え撃つ。新鋭・山内鉄也の監督デビュー作
1964(東映京都)(監)山内鉄也(脚)高田宏治(撮)赤塚滋(美)井川徳道(音)津島利章(出)近衛十四郎、河原崎長一郎、山城新伍、田村高廣、北条きく子、園千雅子、藤山直子、高森和子、加賀邦男、沢村宗之助、尾形伸之介、松風はる美、国一太郎、中村錦司、穂高稔、佐藤慶、安部徹、天津敏

 推測である。
 長谷川安人「十七人の忍者」は、たいへん面白いが、いくつか欠点、甘さが、あって、傑作に、なり損ねた。本作を、同期の新人監督・山内鉄也なり、脚本家・池上金男と好一対の脚本家・高田宏治なり、プロデューサーなりが、見て、「オレなら、もっと、面白い映画にしてみせる」、と、思ったのではないか。
 事実、「十七人の忍者」の欠点は、いくつも修正されて、結果、翌年作「忍者狩り」は、傑作と、なった。この二作を比べれば、明らかに前車の轍を踏まない、傑作「忍者狩り」の後出しじゃんけん的勝利、なのである。

 その証拠は、明白である。
 「十七人の忍者」は二代将軍秀忠の死期が迫る中、その三代目襲名が家光に確実視されるも、家光の弟・忠長が将軍の座を奪い取ろうとして、各藩から集めた連判状を、結果として幕府側の忍者たちが、必死に奪ったことから、三代将軍に家光が納まった、という設定である。
 「忍者狩り」は、その三代将軍に、成った、家光の政策・外様藩おとりつぶしの、物語である。
 まさに「忍者狩り」は、「十七人の忍者」狩りであり、「十七人の忍者」への挑戦状を、たたきつけたもの、といっていいのでは、ないか。
 では、「十七人の忍者」の欠点は、「忍者狩り」において、いかに、修正されていったのか。それを見てみよう。

 「十七人の忍者」の欠点。
 ある一部屋に、謀反の連判状、いわゆるマクガフィン文書があり、その同じ部屋に座敷牢的なものが、なぜか、あり、甲賀忍者首領・大友柳太朗が、捕えられている。
 大友は、わざと捉えられたのであり、事実、最終的にマクガフィン文書の奪取に、成功している。
 なぜ、ネコとマタタビを、同じ部屋に、置くのか。ただのひとりの見張りも、つけずに。木製の牢の柱を、隠し持った折りたたみのナイフで切り分け脱出する牢の大友に、なぜひとりの見張りも、つけない?(笑) (注)
 あまりに脱力する設定に、失笑しないものが、どこにいる(笑)。
 理由は、明白で、ある。
 「十七人の忍者」の物語は、難攻不落の城から、最終的に、マクガフィン文書を奪取する物語で、ある。ネコの子一匹、ねずみ一匹も、見逃せないシチュエーションから、文書奪取を阻止するには、敵失というもおろか、どう見ても考えられないずさんさ、無能でもいいふたり三人の見張り役、一人は大友を看視し、何かあれば、通報する連絡班をつければ、いいだけではないか。
 なぜ、肝心の文書と、敵首領を「二人きり」にする(笑)。
 まあ、ネコとマタタビを、同じ部屋に置き、しかもひとりの見張りも存在しない、というのは、ミニマムな設定という点では、わからないでもないが、あまりにも芸がない。
 これは、難攻不落の城から、最終的には文書奪取に成功する、という設定に、物語上の要請から固執した、ゆえだろう。
 最初に難攻不落と設定し、そこに磐石最強の近衛十四郎が、ディフェンス。これで、奪取できるとしたら、
1 なんとも呆然とせざるをえない、ポカミスが必要欠くべからざることになる
2 圧倒的に素晴らしい戦術

 の、どちらか。で、2を考え出せなかった「十七人の忍者」チームは、失笑覚悟の1を選択せざるを得なくなり、結果、文字通りの失笑を誘うことになる。
 「忍者狩り」チームの聡明さは、難攻不落であるならば、しかも磐石最強の近衛十四郎が、ディフェンスするならば、最終的には、マクガフィン文書奪取には、成功しなかった、で、いいじゃないか、という。そのほうが、より、無常観は、高まるのでは、なかろうか、と。正しい。

(注)その前段で、大友が捕縛される際、大友妹・三島ゆり子が里見に渡したかんざしを、必死に隠す大友の描写があり、ああ、このかんざしが、大友脱出の際に生かされる小道具なのだろうな、と思ったら、まったくその後かんざし登場せず(笑)。なんなの、あのかんざし隠し描写の丁寧さは(笑)。
 かんざしでは、牢の木枠を切れない、と、あとで悟った、とか、そういう落ち(笑)なのか。

 「十七人の忍者」の欠点。
 実質的には、本作は近衛十四郎VS大友柳太朗の、ガチンコ勝負を描く、ダブル主演作。
 しかし営業的には、若手スタア・里見浩太郎の主演作としなければ、ならない。そこで、若手スタアに花を持たせる意味でも、甲賀忍者・里見は、あの、近衛十四郎に、勝つ。
 もちろん感想駄文済みの佐々木康「きさらぎ無双剣」でも、大スタア・市川右太衛門は、どう見ても強そうな近衛十四郎に、勝つ。それは、近衛が、相対的に脇役スタアであるからである。
 どう見ても強い近衛に、勝つには、どうしたら、いい。
 右太衛門なら、顔のデカさで勝つ、でいいかもしれないが(笑)、里見VS近衛では、三島ゆり子のちゃらちゃら手裏剣が、里見をアシスト。それでも、近衛が、負ける気がしないのに、負けているのが、失笑す。
営業上のスタア強弱は、このポスターに明らか。近衛は、明らかに添え物で。近衛だけ白黒って、わかりやすすぎ(笑)。

 どう見ても強い近衛なら、近衛勝たせればいいじゃん、というのが「忍者狩り」チームだ。
 かくて、そういう意味でも「忍者狩り」に、近衛以上の大スタアは、出てこない。「大人の事情」で近衛が勝てないのなら、そういう大人の事情を抜いて、すっきりしようぜ、というのが「忍者狩り」。
 当時はまだ若手スタアだった山城新伍の、ブザマさよ。

 「十七人の忍者」の欠点。
 どう見ても、最後がぐだぐだの人情話の泣きになるのは、この種のクールな話と、合わない。
 大友・三島兄妹と、里見の、泣きの別れの長さが、この映画に失速感をもたらす。甘い甘すぎる。この甘さは、いわゆる東映集団抗争時代劇と、もっとも水と油の部分だろう。
「忍者狩り」は、この種の甘さを、切り捨てた。

 「十七人の忍者」の欠点。
 中途半端なアマチュア・三島ゆり子が、最終的に生還するって。アマチュア=甘ちゃん=アマ(=女)ちゃんが、不用意に修羅場に参画し、生き延びるのは、何らかの戦術的戦略的聡明さがなければ、あるいは映画のみに許される楽天的偶然によらなければ、それは、許されるべきではない、甘さだ。
 しかし「十七人の忍者」は、その種の聡明さ、あるいは、突き抜けた楽天性を、周到に用意することもなく、三島ゆり子を、生還させる。
 このカキンを、「忍者狩り」は、若い女たち、腰元・北条きく子、尼僧・高森和子を、次々あやめる非情さで、切り抜ける。

 「十七人の忍者」の欠点。
 近衛VS大友の、バトルは、心理戦、言論戦に、とどまる。
 この、稀代の、二大剣豪俳優に、本格的なちゃんばらをさせなくて、どうする(笑)。
 激高する近衛に、冷静な大友。
 いや、大友柳太郎に、冷静な演技をさせても、まったく面白くないだけだろう(笑)。事実、面白くもなんとも、ない。

◎追記◎「十七人の忍者」の欠点。
 城代家老は、近衛の反対を押し切って、マクガフィン文書を、本丸から遠ざける。連判状だけでなく、本丸の藩主も守らなければならないゆえ。ところが、大友一派には、藩主暗殺に力を裂く余裕も、発想もない。
 「忍者狩り」は、文書奪還の目的は、外様藩お取り潰しにあるのだから、文書奪還が不可能なら、幼君暗殺に切り替えるクレバーさ。
 また、最後やすやすと大友は文書を入手するのだが、「忍者狩り」では、白紙の偽物を用意。普通、それくらいは、誰だってするだろう、という話だ。
  「十七人の忍者」の17人の意味は、ダブルミーニングだ。16人の大友忍者軍と、員数に入っていない女1人の三島ゆり子。根来忍者では、女も員数に入れる、女性に優しい(笑)一派。だから、近衛もころっと、だまされる、と(笑)。
 もうひとつの意味は、16人の大友忍者軍と、それに対抗する根来忍者の近衛1人。
 これじゃあ孤立無援の近衛は、圧倒的に不利、かつ不用意、ということで「忍者狩り」では、河原崎長一郎、山城新伍、佐藤慶をサポートにつける。山城のみ東映プロパーだが、ほかは独立系的な脇役。
 里見など若手スタアを混ぜないせいで、プロVSプロのガチンコ対決が出来る。
 さらに、「十七人の忍者」の突っ込みどころは、老忍・花沢徳衛が、いざとなったら、忍者どころか、一般人以下のヘタレっぷりで、里見らの足を引っ張るところか。
 「忍者狩り」は、隠し玉老忍に、柄に合った活躍を用意。捨て玉で、殺されるべくして殺される役目。ここがナイス。里見が、若くない老練さなら、花沢徳衛も、そういう捨て玉に割り切るべきだったのだ。
 なにからなにまでプロVSプロのガチンコ対決に持っていった「忍者狩り」の聡明さよ。 

 次に、これはカキンに加えたくないのだが。
 大友の部下の一人・品川隆二が、敵の雑兵をやっつけ、高笑いをしたのち、次のシーンでは、乱兵戦ののちの死体として、いる。これは、死んだふりかと、当然思うのだが、その後登場せず、死んだ口に数えられる。おそらく尺の関係で乱兵戦が、カットされ、その間に死んだのだが、死んだ忍者の人数(この映画では、それが重要)の関係で、死んだシーンのみを、残さざるをえなかったのだろう。
 同様なことは、品川ととともに、城郭上方にいたはずの、里見、東が、次のシーンでは、なぜか、平地の塩貯蔵庫に、隠れている、という不用意さ。この前の戦闘シーンが、大幅カット、と思われる。プログラムピクチャアとしては、不用意。
 切りに切って99分とは(笑)。見事に87分に収めた「忍者狩り」の聡明さよ

 その塩貯蔵庫に隠れた里見、隠れ忍者を探そうと、次々塩の俵を刺していく探索方、近衛が槍を俵に刺すと、里見の足にずぶり、無言で耐える里見。当然抜いた槍に鮮血、で気づくはずが、そこへ伝令が急報、近衛は鑓を抜かずに、立ち去る、って。
 普通、こんなシーンは、より格下の忍者の鮮血で、塩が真っ赤に染まる、という描写でしょう。なんなの、この近衛のずさん。刺した槍を、抜きもしないって。

長谷川安人VS山内鉄也、池上金男VS高田宏治、近衛十四郎VS近衛十四郎、この勝負、後者のことことくの勝ち、と、見た(笑)。たとえ後出しで、あろうと。



★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。

忍者狩り| Ninja Gari (1964)
239,236 回視聴2021/04/19


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by mukashinoeiga | 2015-05-05 22:57 | 旧作日本映画感想文 | Comments(1)

Commented by mukashinoeiga at 2021-12-20 15:38
長谷川安人「十七人の忍者」へのセルフコメント。
 最近ユーチューブで見つけた関連動画を一番最後に貼りました。
 まあいつまでもつかわかりませんが。
 小さな動画でも、この迫力は、伝わるかと。 昔の映画
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