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千葉泰樹・安藤太郎「義人呉鳳」

 京橋にて。「映画監督 千葉泰樹Yasuki Chiba Retrospective」特集。32年、台湾プロ。
 登場人物は、台湾原住民。中国由来の呼び方では「蕃人」となる。そして、中国大陸からの移住者たち。
 大陸本国から出向の官僚である通事・呉鳳と、その妻、「蕃人」も含めた主要登場人物は、すべて日本人俳優が演じているようだ。エキストラは、台湾人か。

義人呉鳳 (64分・16fps・35mm・無声・白黒・不完全) <フィルムセンターHPより>
現存する最も古い千葉監督作品。1932年、千葉は河合映画から新興の富国映画へと移るが、同社は間もなく経営難に陥る。一方、台湾出身の映画監督・安藤太郎は同地で台湾人と共に映画プロダクションを設立し、その第1作として18世紀清朝の通訳官・呉鳳のよく知られた美談を千葉と共に映画化する。千葉は続けて同プロの第2作『怪紳士』(1933)も監督した。
1932(台湾プロ)(監)千葉泰樹、安藤太郎(脚)多藪詔啓(撮)池田専太郎(出)秋田伸一、津村博、湊明子、丘はるみ

 ★所蔵映画フィルム検索システム★によれば、
呉鳳 秋田伸一、妻良徳 湊明子、タッパン社若者イオン 津村博、テプラ社乙女トシカ 丘はるみ、とのこと。ここで言う「社」とは、村落共同体の意味。
 共同監督ということで、ふたりの役割はどういったものかは、わからない。日本人の役者を使った部分が千葉で、台湾人エキストラを使った部分が安藤だろうか。
 というのも、割とドキュメンタルな台湾人シーンの充実したすばらしさが特筆に価するのだが、のちの作風を考えると、千葉の演出とは思われない節もあるからだ。

 山の民である「蕃人」は、平場の町の人たちの首を刈る。いわゆる首狩り族だ。
 先祖の霊にささげるために首を刈る。伝染病の根絶を願って首を刈る。
 現在の視点で言えば、むちゃくちゃだが、のちの日本統治時代に至って、ようやく「根絶」された、「蕃人」の「蛮習」で。
 首を刈られる側の町の衆は、大陸からの移住者だろうか。
 これらの事情は最近の台湾映画の傑作ウェイ・ダーション「セデック・バレ」にも、垣間見もことが出来る。
 
『セデック・バレ』予告編

セデック・バレ-日本軍の会議


 のちの日本軍精鋭でも苦労した蕃社対策を、本作では、ひとりの中国大陸官僚が担うことになる。
「美談」というが「美談」過ぎないか(笑)。
 yossy jiangさんのブログ(貼り付けできませんでした)によれば、

台湾における清朝の「通事」とは、清朝の下級官僚であり、原住民語の通訳も兼ねていました。彼らは言葉が分かることと現地の出先責任者であることを良いことに、好き勝手なことをやっていました。日本が台湾を接収する前の→通事とはどのような者であったか:
「通事正利番人之愚,又甚欲番人之貧;愚則不識不知,攫奪惟意;貧則易於迫挾,力不敢抗。…..即有以冤訴者,而番語侏離,不能達情,聽訟者仍問之通事,通事顛倒是非以對,番人反受呵譴。…..其情至於無告,而上之人無由知。是舉世所當哀矜者,莫若番人矣。」
訳文:通事は未開の原住民の愚を利用し、更にその貧困さに乗じる;愚かであれば知らず分からず、奪い取ることは意のままだ;貧しければ頼ることを余儀なくされるから、反抗できない。・・・。。たとえ恨んで訴えたとしても、言葉はチンプンカンプンで、意味が通じず、裁判官が通事に聞けば、通事は是を非と言い逆にするので、原住民は逆にそしりを受ける。・・・。。その事情は訴えられず、上に立つものが知ることもない。世の中で哀れな者がいるとしたらそれは未開の原住民たちだ。
この漢族の「通事」の仕事を日本人に肩代わりさせて悪弊を解消したいと当時の台湾政府は考えました。そしてその仕事の一端をになったのが近藤勝三郎です。彼はどうやら日本人としての「通事」とはを示したかったようです。(引用終わり)

 まあそういう大陸通事の中では、呉鳳は比較的ましというか、突出していたのか。ウィキペディアによれば、

呉鳳(ごほう、1699年 - 1766年)は、中国清朝時代の台湾阿里山の官僚。福建省平和県出身。
阿里山の台湾原住民の、出草(首狩)を止める活動を行い成功したとされる。
1946年、中華民国政府は呉鳳の「捨身取義」の行為(原住民からは否定的な評価を受けている)を顕彰して台南州嘉義郡の蕃地を「呉鳳郷」と改称し、国民小学の教科書の中で呉鳳の物語を採用するなど、政治的に利用されることとなった。1987年9月9日、ツォウ族より政府に対し原住民差別政策の撤廃と、「呉鳳郷」を「阿里山郷」と改称し、呉鳳に関する内容の教科書からの削除を求める運動が成され、1989年3月1日に「阿里山郷」と改名され現在に至っている。
この逸話は、日本でも尋常小学国語読本で有名。(引用終わり)

 まあ、昔からの根拠不明な中国好きは、仕方ないとは言え、日本人の宿痾?の趣か。
 中国官僚のヒーロー化、お人好し過ぎるぞ日本人。
 とはいえ、一種の美談ヒーローものとして、本作は、よくできている。のも確か。

◎おまけ◎来年1月日本公開のウェイ・ダーション製作「KANO」。舞台となるのは、嘉義農林中学野球部。
《KANO》六分鐘故事預告

 お正月の「バンクーバーの朝日」とかぶって、二番煎じと受け取られないか、心配。

【KANO 幕後直擊】人物篇-日本球員(大倉裕真.飯田のえる.山室光太朗)


台湾映画 セデックバレ 時空を超えて霧社街へ、動画版

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by mukashinoeiga | 2014-12-14 11:59 | 千葉泰樹 ヤスキ節の愉しさ | Comments(0)

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