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佐分利信「人生劇場 第二部 残侠風雲篇」

 渋谷にて。「日本のオジサマⅡ 佐分利信の世界」特集。53年、東映東京。
 感想駄文済みの★佐分利信「人生劇場 第一部 青春愛欲篇」★★続・佐分利信「人生劇場 第一部 青春愛欲篇」★の、続編。
 なお、本作のフィルム上のタイトルは、「人生劇場 第二部」という。決して「残侠風雲篇」というのは、ありませんでした。
 そして本作は、まさに史上最強最多のすれ違い&袖(そで)振り合いメロドラマだ。
 「袖振り合うも多生の縁」とばかり、あらゆる登場人物たちが、すれ違い、すり違い、そでを振り合うように邂逅する。
 主人公・青成瓢吉の、歴代彼女、高峰三枝子、島崎雪子、 轟夕起子が、そうとは知らず、互いに出会いあう。
 瓢吉の、中学時代の恩師・笠智衆は、そうとは知らず、瓢吉のあらゆる知り合いと、街で互いに出会いあう。
 飛車角・片岡千恵蔵も、そうとは知らず、瓢吉のあらゆる知り合いと、互いに出会いあう。
 すべての関係者が、すべての偶然で、知り合う。
 まさに戦前松竹メロドラマ(サブリンの俳優的出自)の鉄則のごとき、出会いと別れとすれ違いとそで振り合いを繰り返す。これぞメロドラマ。
 これぞ人生劇場。
 と佐分利信は、嘯くのだ。本作こそ、まさしく、キング・オブ・メロドラマ!
 すべてのメロドラマは、本作に、ひざまずくべき(笑)なのだ。

『人生劇場 第二部 残侠風雲篇(35mm)』公開:1953年 <渋谷シネマヴェーラHPより>
監督:佐分利信 主演:舟橋元、佐分利信、北林谷栄、高峰三枝子、月形龍之介、片岡千恵蔵、島崎雪子、内田良平、笠智衆
大学を飛び出し作家になった瓢吉、入獄した飛車角、芸者になったおりん、兵士とともに大陸へ向かうお袖、そして吉良常の死。戦争の足音が聞こえる動乱の日本で、瓢吉と彼をめぐる人々の運命もまた翻弄されていく。人々の流転の人生を佐分利が見事に演出し、名作の呼び声高い文芸巨篇第二部。フィルムセンター所蔵作品。

 で、あまりに偶然の出会いがありすぎ、あまりに偶然のすれ違いがありすぎるために、ほとんどギャグの様相を呈し、コント状態、もう笑うしかないのだが。
 まるで、巨大水槽の中でうごめく魚たちが、接触したり離れたりを繰り返す、あるいは原子や素子などの接触反発の繰り返しのように、出会いと別れを繰り返す人間たち。
 さよならだけが人生だ。しかり。
 偶然の邂逅とすれ違いこそ人生だ。しかり。
 なんという、楽しい、悲しい、タッチ&ゴー。
 今で言う左翼、無産党から選挙に立候補した加東大介の立会い演説会に、ヤクザ侠客・片岡千恵蔵が、応援弁士に立つ!(しかも、同じく任侠道一筋の吉良常・月形龍之介の代読という形で! 龍之介の選挙演説というのも、激しく(笑)聞きたかった!)
 古風な侠客・月形の危篤の枕頭に、左翼の加東も、侠客仲間の片岡千恵蔵も、等しく、皆々はせ参じる。
 これこそ、満映帰りの製作マキノ光雄の、「いい映画(=ヒットする映画)に、右も左もない」という理想郷そのものの図では、なかろうか。
 佐分利信監督作品を、総合的に論評した、数少ない貴重な講演録★木全公彦講演「佐分利信を再見する――第3回 アナクロニズムの会」★(必読)によれば、赤軍監督(笑)足立正生は、佐分利信監督は、ぼくたちの政治的アイドルで、新左翼だ、と語ったという(大意)。後年、まさに右翼の大物ばかり演じたサブリンは、右からも左からも愛された形か。

 その意味では、おそらく、なんらかのソ連映画を参照したのだろうか。主人公・青成瓢吉(舟橋元)と、その幼なじみ・高峰三枝子との海岸での逢瀬が、常に石ころの河原や樹木と二重写しの、長々トリッキーさ。これだけ長いと、通常の東映娯楽映画の矩を、やすやすと越えている。
 そして、これもたぶんソ連映画由来かと邪推する、笠智衆が公園で酔余の乱痴気騒ぎを銅像(西郷さん?)が笑うクレイ・アニメーションがインサート。
 いったい、この映画製作当時のスクエアな文芸映画製作状況の下、まぢめな?人生ドラマに、粘土アニメの挿入などという酔狂は、サブリン以外になしえるか(笑)。
 あの仏頂面で、この酔狂。
 おそらく原作に「(笠智衆の)酔態に、銅像も苦笑いしたかのようだった」というような一文があったとして(原作未読のまま推測)普通は映画からは削除されよう描写を、クレイアニメを繰り出してまでの、再現。
 サブリン、やるなあ(笑)。
 これは、感想駄文済みの前年作、同じく佐分利信「慟哭」の一シーンで、文字が画面を乱舞する、まるでCG使用ばりの、1950年代の日本映画では見たことのないようなショットを混ぜ込ませていたサブリンの「意志」を感じる場面だ。その意味でサブリンは、おそらくは、数十年かは早すぎた演出センスの持ち主なのだ。
 さらに、吉良常・月形龍之介の、葬列が、笠智衆をはじめとして、ことごとくスローモーションの葬列というのも、おそらく、日本映画の時代の最先端というべき。
 橋の上を笠智衆ら葬列が通る。スローモーション。
 その橋の下の道を、出征兵士を送る「祝賀」行列が通る。スローモーション。
 二つの長い、練り歩く行列が、上下で交差する。スローモーション。
 この描写も、1950年代の日本映画では見たことのないような斬新さがある。
 70年代以降の「斬新な映画」では、当たり前のクリシェとなった技法では、あるが。
 さらにいえば、盧溝橋事件を知らせる号外を、街行く人々が次々受け取っていく場面で、一人の不機嫌そうな男(エキストラか)が、もらったとたん、不機嫌そうに破り捨てて、去っていく。
 こんな描写も、何らかの前例はあるのかもしれないが、昔の日本映画では、見た記憶がない。
 また冒頭の三流紙「極楽新聞」(編集長が杉狂児で、主人公の同窓生・内田良平らが記者)のくだりで、おそらく当時としては、一般観客にはフクザツな、時制戻しがあり、このいまではまったく当たり前な手法で、そっけない編集でつなげているのも、当時としては、斬新だったはずだ。同様な手法を佐分利信「愛情の決算」では、全篇にわたって採用している。
 常に、紋切型の描写を廃したい、サブリン監督の意思と、見る。

 この映画の、一番の欠点は、主演・青成瓢吉の舟橋元に、まったくスタアオーラがない点か。
 歴代彼女につらく当たるシーンの数々は、まったくのドン引き。見ていて、まったく快では、ない。
 おそらく不機嫌顔でもサマになる俳優サブリンが、演じたら、こういうドン引きには、まったく、ならなかったろう。1930年代の青年サブリンだったら、女につらく当たるシーンでも、にこにこ楽しく見られただろう(笑)。
 感想駄文済みの佐分利信「広場の孤独」の菅佐原英一もそうだが、サブリン映画の不幸は、主演に、青年サブリンを得ることの出来なかった不幸であることに、ほかならない。
 サブリンもまた、自分と同じタイプの武骨青年を、新人で次々試して、失敗している。やはり、女に愛想がない究極のツンデレ青年を演じて、サブリンの右に出るものはいない、そもそも女に冷酷無愛想な青年を演じて、なおかつ愛嬌がある、という資質が、きわめてサブリンのみに突出した美点ということに、ついぞ気づかなかったのは、本人ゆえの不幸か。

 なお、舟橋元は、自分の女には、しゃれにならないくらいつらく当たり、故郷の母親・北林谷栄には、長年のご無沙汰だが、親友たち、侠客・月形や片岡には極めて、愛想がよい、にこにこ顔。
 頑固オヤジ・サブリン由来の血か、父親、月形ら、年上の男性には弱いのか、ホモソーシャルな、ブラザーフッド世界では、猫をかぶりつつ、自分の女には超強気な典型的内弁慶タイプか。
 いずれにせよ、舟橋元では、見ていて、楽しくは、ない。 

 そしてこの映画の数ある美点のひとつは、主人公の歴代彼女を演じた女優の素晴らしさ。
 前作同様の島崎雪子の愛らしさ。自分のほほをつつくことによって、タバコの煙を調節する愛らしさ。
 現カノ・轟夕起子と、元カノの島崎が、一緒に露天風呂。もっと裸体を見たかった(笑)。
 そして、轟夕起子がインテリ女流小説家。このエピソード、舟橋元とでは、なく、役者サブリンとのコラボが、見たかった。監督サブリン、青年サブリン主演であれば、これは大傑作になっていたこと、まちがいないのだ!(垂涎)
 島崎雪子が、あらゆる登場人物と「偶然の出会いと別れ」を繰り返す、ほとんどコント状態なのだが、彼女の圧倒的愛らしさが、その偶然を、必然に変える。素晴らしい。
 おどけ者の笠智衆も、またあらゆる登場人物と、街場での偶然の出会いと別れを演じる。戯れのピエロの愛らしさ。
 なお、自身は一切酒が飲めない彼が、すべてのシーンで、酔いどれていて、だれかれなしに酒をたかる、愛らしさ(笑)。島崎雪子も、舟橋元へ、このお金渡してね、と笠に金を託すなんて、まさしく、猫にまたたびだろうが、ああ、なんて、愛らしい間抜けさ。
 第一部が、木下恵介「女の園」と拮抗する、まさしくサブリン版「男の園」で、あった。第二部は、まさしくサブリン版「天井桟敷の人々」。第一部ほどではないが、第二部でも、登場人物たちは、歌いに歌う「歌う映画」でもある。
 とっちらかったコメディ志向が、おそらく一般には(第一部より)不評かもしれないが、ナニ、ぼくは、大満足だ(笑)。
 なお、ワンシーンのみの出演に、三橋達也、杉狂児、沼崎勲、山形勲、相変わらず豪華。
 伊丹十三、田中絹代など、当時の著名俳優が監督した映画は、公開当時は必要以上にマスコミをにぎやかすが、その反動か、本人の死去に伴い、急速に忘れ去られていく。
 上記ふたりの映画は、まあ、当時はもてはやされすぎであり、付加価値がなくなって、忘れ去られるのは、納得できなくもないが、サブリン映画は、違うと思いたい。
 多彩な登場人物が交差するかのように乱舞する群像ドラマを見事に演出し、すべての俳優に見せ場を用意する俳優愛。今後、サブリン監督作は、その出演俳優の特集が、名画座である場合、マストアイテムの一本であるべき(断言)。

★Movie Walker★および★所蔵映画フィルム検索システム★のタイトル検索で、詳細な作品情報あり。ただし、簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)は、前者のみ。後者はスタッフ・キャストが超詳細。

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by mukashinoeiga | 2014-10-27 03:00 | 佐分利信 サブリン人生劇場 | Trackback | Comments(1)

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Commented by mukashinoeiga at 2014-10-29 06:54
エキサイトブログのコメントが仕様変更されたようで、いままでより、コメントしづらくなっています。
中には自分のブログにもコメントできないというような。このコメントは大丈夫かしらん。
ただでさえ少ないコメントがますます少なくなる(笑)。  昔の映画
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