佐分利信「叛乱」細川俊夫佐々木孝丸清水将夫山形勲安部徹鶴田浩二津島恵子香川京子藤田進

 渋谷にて。「日本のオジサマⅡ 佐分利信の世界」特集。54年、新東宝。あと1回の上映。
 ほとんど記憶にない再見作。ただし、思っていたより、面白い。佳作。
 こういう話には、いたって弱いので、ほぼ涙ぐみつつ全篇を鑑賞。

叛乱(デジタル)公開:1954年 <渋谷シネマヴェーラHPより>
監督:佐分利信
主演:細川俊夫、清水将夫、山形勲、安部徹、鶴田浩二、菅佐原英一、島田正吾、辰巳柳太郎、木暮実千代、津島恵子、香川京子、藤田進
二・二六事件が起こるに至った社会情勢や陸軍内部の状況、そして青年将校たちの心理を克明に描いた一作。逆賊の汚名を被せられ処刑を待つ青年将校役の細川俊夫、丹波哲郎、鶴田浩二らの演技が素晴らしい。撮影中に病に倒れた佐分利の後を阿部豊監督が引き継ぎ製作された、二・二六事件映画の決定版!

e0178641_202255.jpg 佐分利信監督作品を、総合的に論評した、数少ない貴重な講演録★木全公彦講演「佐分利信を再見する――第3回 アナクロニズムの会」★(必読)によれば、本作は、

 実は佐分利信はほとんど監督していません。撮影の3分の1が終わったとき、佐分利信がややこしい病気に倒れて、危篤状態になったんです。佐分利信は当時、ベストテン入りの監督として高く評価されていたので、この『叛乱』は、製作は東京プロというところですけれど、新東宝の正月映画として制作されていました。それで11月になって、正月まであと一ヶ月強しかないというところで、阿部豊が代打監督に招かれます。佐分利信は監督であると同時に主演でしたから、彼の出演シーンを撮り直さなければならない。タイトルクレジットは、佐分利信が監督、阿部豊は応援監督となっています。
 しかし、阿部豊だけでも撮りきれないので、さらに阿部の助監督であった松林宗恵と内川清一郎も招集されて、A、B、Cの三班体制で撮っています。つまり、この作品は四人の監督で撮っているんです。佐分利信の役は佐々木孝丸ですべて撮り直しましたから、佐分利信が演出したのは四日分しか残っていないそうです。代表作のプリントがほとんど残っておらず、比較的見ることができる『叛乱』もそのような事情があるので、今、佐分利信の作家性を語ることは非常に危険です。(引用終わり)

 「佐分利信の役は佐々木孝丸ですべて撮り直し」たので、結果的にサブリン出演シーンは、ゼロ。だから、本作をサブリン監督&出演作とした、シネマヴェーラのくくりは、まちがい。さらに「佐分利信が演出したのは四日分しか残っていない」ゆえ、本作を、単純に佐分利信監督作品と、言っていいのか。
 ただし企画段階の監督はサブリンなのだから、彼を筆頭にするのは、正しい。
 より正確には、佐分利信・阿部豊監督、応援演出・松林宗恵、内川清一郎と、すべきだったろう。

 しかし、結果的に作品を見ると、四人の演出家がよってたかって監督した割には、本作の出来は、きわめてまとまったトーンで統一されているように、見える。真っ当に、一本の作品として、つながっている。
 ぼくには、十分に佳作以上に、思える。
 おそらく、時に、つながらない編集で、映画を活性化させるサブリンが最初から最後まで監督した以上に、一本の映画として、ちゃんと首尾一貫しているはず(笑)。
 応援監督に「脱線する余裕」が許されないことを奇貨として、サブリン単独監督作より、「まとも」には、なったはず。

 ただ惜しむらくは、鈴木清順のはるかな、奇矯演出のセンパイとして、「北一輝」の扱いを、サブリンは、どうしていたのかが、知りたい。もちろん鈴木清順「けんかえれじい」の北一輝と、サブリン版北一輝を、比較したい、という欲望は、永遠にかなわないのだ(泣)。
 なお、サブリン自身は、北一輝の盟友的参謀格というか盟友的秘書というか、そういう立場的に極めて「怪しい」役を演じるはずだったのだが、その代役に、力強い演技だが、あいまいなニュアンスに欠ける佐々木孝丸というのも、サブリン・ファンとしては、かなしい。
 後年に、右翼の大立て者などを演じるサブリンの、はるかな前駆としても、見てみたかった。
 なお左翼系インテリとして、かの国際労働歌「インターナショナル」の日本語訳者でもある佐々木孝丸が、迫力ある顔立ちから、延々と右翼の大物を演じる、そのココロと当たり役との「性同一性障害」を、どう思っていたのかにも、興味は、あるのだが。
 なお、右翼の大物は、悪役顔の役者で、という左翼思想が映画界に充満しているわけだが、結果的に、右翼より、左翼のほうが、よっぽど悪い奴だった、という現時点の「時代的事実」(ヒトラーもスターリンもチャウシェスクも、ポル・ポトも毛沢東も金日成も社会主義者という現実)が、左翼の捏造を暴いている。

 シネマヴェーラのチラシの本作スチールでは、和服の男・佐分利信と、軍服の男が、テーブルを挟んで対峙している。
 この軍服の男は、顔が暗くて、確信はないが、坂本武のように思える。
 実際に完成した映画では、佐々木孝丸と、清水将夫将校が、飲食店で、会っている。
 阿部豊が、将校役に坂本武は、合わないと判断したのか、再撮影時に、坂本は別の撮影が入っていたのか。前者の「判断」が、実情かとも、思う。
 坂本武では、青年将校の兄貴格で、後付ではあるが226事件に立会い、青年将校たちと処刑されてしまう「憂国の士」には、合わないと、誰でも、考えることだろう。
 サブリンを除いては(笑)。
 この戦前松竹以来の役者仲間で、サブリンとは一味違った無骨モノの庶民を得意役とする坂本武を「青年将校のアニキ格」に「抜擢」(だろう)した、サブリンの真意は。
 結果代役の清水将夫では、都会育ちのインテリの匂い。坂本武なら、226の青年将校が同情した、東北の農民の、二、三男坊のイメージが、出る。
 冷徹・清水将夫であれば、226の青年将校に「なぜ、利用され同調したか」が、シカとは、わからない。しかし、坂本武なら、東北農民擁護を旗印にする青年将校に、「心ならず?も利用され、引きずり込まれた、そして最後には一緒に処刑される」無骨者に、ふさわしいのではないか、とサブリンは、考えたのではないか(推測)。

 ああ、サブリン出演・監督作として、本作を見たかった。
 もっと、つまらない映画の出演のときに、病気になって、ほしかった(笑)。

 と、死んだ子の齢を数える感想になってしまったが、出来上がった映画も、佳作である。
 いかにも無謀な、結果オーライを目指した精神主義の作戦、戦略にもロジスティックにも欠けた、出たとこ勝負の、一生懸命で命を掛けりゃあ、何とかなるだろう、金がないやつぁオレんとこ来い、俺もないけど何とかなるだろう的な、「情緒的作戦」が、当然のごとく失敗し、結果アウト。のちの日本軍の戦略、ロジスティックそのものである。
 そういう「敗者の情」に、弱いんだなあ、日本人は(笑)。真っ先にぼくもなんだけど(笑)。

 中心になった安藤大尉・細川俊夫、代表作の輝き。
 北一輝・鶴丸睦彦、腹の据わった、世間知に長けた、好々爺ぶり。彼と、サブリンのコラボ、見てみたかった。
 その他の出演者たちも、グッド。
 なお下記Movie Walkerによれば、西田税(佐分利信→佐々木孝丸)の妻役に、三宅邦子がクレジットされているが、確認できず。あるいは、サブリンとともに、消えたのか。鈴木侍従長夫人役・木暮実千代も、確認できず。

◎追記◎叛乱 香川京子

 
★Movie Walker★および★所蔵映画フィルム検索システム★のタイトル検索で、詳細な作品情報あり。ただし、簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)は、前者のみ。後者はスタッフ・キャストが超詳細。

◎追記◎とはいえ、野次馬役の、小倉繁、小川虎之助、高島忠夫は、ノンクレジット。高島など、青年将校の選にも漏れたのか。のんき顔だからなあ(笑)。

◎おまけ◎あばれ行燈〈映画)鶴田浩二 香川京子

1956年/新東宝映画 原作:子母沢寛 脚本/監督:渡辺邦男
出演:鶴田浩二、香川京子、田崎潤、花柳小菊、小堀明男、田中邦衛

★新・今、そこにある映画★日本映画・外国映画の、新作感想兄弟ブログ。
★映画流れ者★当ブログへの感想・質問・指導・いちゃ問はこちらへ

★人気ブログランキング・日本映画★
にほんブログ村 映画ブログ 名作・なつかし映画へ
★にほんブログ村・名作なつかし映画★
[PR]

by mukashinoeiga | 2014-10-16 23:35 | 佐分利信 サブリン人生劇場 | Trackback(1) | Comments(4)

トラックバックURL : https://mukasieiga.exblog.jp/tb/22479649
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
Tracked from Situs poker at 2018-10-08 05:14
タイトル : DewaPoker
佐分利信「叛乱」細川俊夫佐々木孝丸清水将夫山形勲安部徹鶴田浩二津島恵子香川京子藤田進 : 昔の映画を見ています... more
Commented by なご壱 at 2014-10-19 06:20 x
私も細川俊夫と鶴丸睦彦が一番印象に残っています。三宅邦子は出ていませんでした。木暮実千代は、安藤役の細川に「もう死ぬのですからどうかとどめだけは許してください」と懇願していました。このおかげで鈴木貫太郎は命を取り留め終戦時の総理になったわけです。
Commented by mukashinoeiga at 2014-10-19 11:14
佐分利信「叛乱」へのコメント、なご壱さん、ども。
 鶴丸睦彦も、また、代表作で。

>木暮実千代

 そのシーンそのものは覚えていますが、彼女とは、認識できず。まだまだですな。
 たったワンシーンだけでも付き合おうとする木暮の、同士愛的出演が、うれしい。   昔の映画
Commented by お邪魔ビンラディン at 2014-10-19 23:51 x
今回の上映はパスしましたが、ワンシーンのみ出演の田中春男のセリフが、庶民の「革命」に対する有難迷惑な心情をひと言でうまく表わしていたのが、妙に印象に残っています。「広場の孤独」を撮って、すぐにこの「叛乱」なのだから、監督としての充実ぶりは尋常でない。ピンチヒッターは、当時の巨匠ジャッキー阿部豊ぐらいでなければ、ちょっとうまく収められなかったでしょう。
Commented by mukashinoeiga at 2014-10-20 22:31
佐分利信「叛乱」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 まあ「革命」とは、結局「上」にも「下」にも迷惑かけつつ、歴史を「強引に」前に進める、当然の事ながられっきとした「脱法行為」であることは、現在の香港でもデモ同様のことで。
 226の青年将校は、「歴史の盲腸」でありトリックスタアであった、ということでしょうか。
 なぜ佐分利信がカントクとして歴史の中に埋もれていったか、俳優の余技として取られていたのでしょう。北野武は、いい時代に生まれた、というべきか。   昔の映画
名前
URL
削除用パスワード