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佐伯幸三「午後8時13分」

 京橋にて。「日本の初期カラー映画」特集。56年、大映東京。
 うーん、この落差が、すさまじい(笑)。
 お話、演出は最低の超ボンクラ退屈作。
 美術・撮影は極美。
 この二つが、違和感なく(笑)同居している。
 なんだかメロドラマのあらゆるパターンを、考え付く限り切り張りしたような低脳脚本(原作は菊田一夫なのだが)は、本当に既成メロドラマのコピペのみで成り立っている。
 「にわかめくら」になった不幸な少女、心は純なヤクザ、そのヤクザのアパートの隣室には、人情家のおじさん(しかし実は内偵中の刑事)、突然行方不明?になったやくざは、助けられて、ある企業家の元に。当然、そこに、手術が成功して目が開いた娘が、企業家の息子の婚約者候補として、やってくる・・・・。

午後8時13分 (99分・35mm・カラー) <フィルムセンターHPより>
アグファカラーを用いた最初の長篇で、すれ違いのメロドラマ。互いに好意を抱く盲目の娘・由比子(川上)とやくざ者の譲二(根上)が、由比子の開眼手術が終わる午後8時13分に互いの成功を祈るが…。
'56(大映東京)(監)佐伯幸三(原)菊田一夫(脚)小国英雄、須崎勝哉(撮)高橋通夫(美)下河原友雄(音)古関裕而(出)根上淳、川上康子、北原義郎、藤田佳子、水戸光子

忘れじの午後8時13分 (96分・35mm・カラー) <フィルムセンターHPより>
『午後8時13分』の続篇。無実の罪で指名手配された譲二(根上)は由比子(川上)と再会して愛を誓うが、運命はまたもや2人をすれ違わせていく…。
'57(大映東京)(監)佐伯幸三(原)菊田一夫(脚)小国英雄(撮)中川芳久(美)高橋康一(音)古関裕而(出)根上淳、川上康子、北原義郎、藤田佳子、八潮悠子、品川隆二、加東大介、高松英郎、中原美紗緒
◆アグファカラー
多層式カラーフィルムの開発こそイーストマン・コダック社の後塵を拝したものの、内型ネガ・ポジ方式のフィルムの開発(1937年)は、ドイツのアグファ社が世界初となった。イーストマンカラーよりも自然な色調として、戦後の日本映画界では評価が高く、小津安二郎が好んで用いたことでも知られる。日本映画でアグファカラーの使用が始まるのは、専用の現像処理施設を備えた東京現像所が創設された1955年以降のことである。

 一言で言って、凡庸なごみ脚本を、色どる、美しい大映セット、美しい撮影。こちらは、本当に惚れ惚れ
 今回、いくつか各社カラーを見比べて(ということもないが、大部分の既見作は避けているので)やっぱりカラー映画は、アグファに限る。
 フィルムらしい風合いを、かなりの個性と強度を持って再現しているのは、アグファが一番。
 たいてい初期カラー映画だと、風光明媚な、明るく楽しい映画(つまり谷口千吉「裸足の青春」感想駄文済みみたいなもの)を目指すが、さすが大映東京、陰影あふれる色調で、初期カラー映画なのに、光と闇の、闇のほうにも焦点を当てる。
 なお、人情家刑事の加東大介は抜群の安定感。冒頭のみの出演(街の女たちの一人、みんな同じ濃い化粧なので判別不能)に戦前主演もあるスキャンダル女優(というレッテルを貼られて、消えた)志賀暁子もクレジット。
 凡庸なヒロインを慕う、やはり目の見えない幼女に、これまた抜群の安定感の二木てるみ
 ヤクザの親分三島雅夫の情婦に、これまた戦前ヒロイン女優の水戸光子。やさぐれ、くたびれた女の色香を漂わす。
タイトルの、いかにも即物的なアメリカ映画風のクールさが大映らしい。続編になると「忘れじの」と日本情緒を加味。
 音楽小関裕而は、我慢しきれずに(笑)一箇所だけハモンドオルガン使用。さすがにハモンドオルガンの第一人者だが、もちろん「ハモンドオルガン使用メロドラマに傑作なし」「凡作の証」という法則が、今回も証明された。

 さて、映像は極美だが、お話はぐだぐだの退屈作、こんな映画に続編があるのすら不思議だが、続けて上映される。
「続編見る気なくなる映画だ。けど、これを逃すと二度と見れないからなあ」
 という常連さんのぼやきに同意。こんな苦し紛れの正編に、どんな後日譚がありうるというのだ。
 ぼくは、早々に見切りをつけて、渋谷の野村芳太郎に。
 きょうMovie Walkerで続編佐伯幸三「忘れじの午後8時13分」のあらすじを読んだら、やはり凡庸なる小カオス。
 貼り付ける気力もなし(笑)。

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by mukashinoeiga | 2014-05-25 10:12 | 旧作日本映画感想文 | Comments(2)

Commented by お邪魔ビンラディン at 2014-05-27 00:17 x
監督が「外様」で手堅い職人芸で知られる佐伯幸三になったのは、おそらく、御用監督で通した島耕二あたりが、小国英雄とも思えぬダメ脚本を見て「さすがにこれじゃあねぇ」と断ったのでお鉢が回って来たのだろうと邪推いたします。森一生なら、完全に投げちまうところですね。アグファカラーの美しさと大映美術陣の技術力の高さ以外の見所は、ヒロインが、溝口『赤線地帯』ラストで鮮烈な印象を与えた女優であることぐらいでしょうか。(小生の好みは、若尾文子よりもこの川上康子の方に軍配が上がります。タデ食う虫もなんとやら)
続篇では、正篇のラストで一緒に逮捕されて、根上淳よりも刑期が重いと思われる高松英郎の方が、先に刑務所から出て来ているという不可思議さ! しかも、続篇中盤まで徹底したワルで通していた高松英郎がラストで突然改心して銃殺されるに至る伏線がまったく張られていない。こうした突っ込みどころを列挙して行くと、橋本忍の『幻の湖』ばりのカルト映画になりかねないのが、凡作のおそるべきところですが、……それにしても、「『作品の価値』に惑わされずに映画技法を学ぶための素材」以外としては、今後20年間は見ることができそうにないシャシンですね。
Commented by mukashinoeiga at 2014-05-27 06:23
佐伯幸三「午後8時13分」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 書き漏らしましたが、ヒロインが通う教会付属病院のショットで、画面が「溶暗」するのですが、通常黒味の画面になるところ、逆に真っ白になる。いかにもカラー映画らしいセンスに脱帽。
 『赤線地帯』ラストの川上康子、忘却のかなた、機会があったら、確認してみます。って、ぼくは彼女に、タデ食わなかったのでしょうか(笑)。
 やはり、続編も、ぐだぐだだったようで。  昔の映画
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