山本薩夫「傷だらけの山河」
渋谷にて。「日本のオジサマ 山村總」特集。64年、大映。
2本立て同時上映ゆえの、おそらく三度目の再見。
152分間、まったく飽きさせず、ダレさせず、映画も主演・山村總も、全力爆走する、スーパーパワフルな大快作ジェットコースター映画。
西武(山村)と東急(東野英治郎)の、結果としての西武新宿線敷設戦争をめぐる泥臭い企業対決を背景に、企業経営にも絶倫、愛人たちとの愛欲にも絶倫な、超肉食系カリスマ企業経営者・山村總と、彼をめぐるおびただしい男女を描いて152分間の、まさにアッパレなザ・ヤマサツ・ワールド。
妻・村瀬幸子は、義父の財産目当てだから好みはこのさい問題外だったろうが、愛人たち、坪内美詠子、丹阿弥谷津子、若尾文子、滝瑛子という選択はどうなのか(笑)。いいといえばいいし、来るものこばまずの微妙感も漂う。
もちろん若尾も含め、肉食系のB級グルメ感がただよう、というのは、身のほど知らずの暴論か(笑)。時代が下るにしたがって、しっとり和風系の坪内、丹阿弥から、サバサバ現代風系?の若尾、滝へ。
もちろん、若尾はしっとりねちねちも、サバサバクールも変幻自在お手の物なのだが。
大学生の息子がいる坪内、丹阿弥との愛欲シーンはない、若尾、滝とのいちゃいちゃシーンはある。この辺の「節度」がいかにも時代だが、現代のR18程度のレヴェルで見たかった気もするぞ(笑)。もう、そうなれば200分越えは確実か。肉食系のヤマサツ、ヤマムラのコンビなら、充分やってくれそうなのが、残念といえば残念。
肉食系暴君のオヤジの、息子たちは、肉食系にあらず、という典型。
長男・北原義郎は、社長として山村の完全イエスマン。あまりに完璧なイエスマン振りがグッド。北原の代表作か。
二男・高橋幸治は、オヤジの肉食ぶりについていけず発狂。娘婿・船越英二は、ちんけな欲望から勘当。カリスマの息子たちは、駄目になる典型か。
部下たちの中では、用地部長の高松英郎が、印象的。
しかし、左翼のヤマサツ、新藤兼人たちは、この「悪徳資本家」を、糾弾したいのだろうが、その映画表現能力の高さゆえに、ヤマムラのカリスマ的魅力が描かれ、カリスマ種は、本当に貴重な存在なので、描けば描くほど、その魅力に、われら凡庸人種は、魅了されていく。
うっとりと、山村總の魅力に染まっていく凡庸なわれら(笑)。ヤマサツ、左翼としての逡巡は、ないのか(笑)。
左翼であるということは、映画作家であることの二の次なのか、ヤマサツ。
それとも、左翼こそ、カリスマを必要とするのは、ソ連/現ロシア、中国、北朝鮮、キューバ、その他一切の例外なしに明らかであることを思えば、庶民など歯牙にもかけないカリスマこそ、左翼の望むところなのだろう。
安倍晋三程度を強権独裁者、ヒトラーまがいと連日非難する日刊ゲンダイが支持する、小沢一郎こそが、安倍以上の独裁タイプなのを思うと、左翼の独裁志向は、骨がらみなのだろう。
自分たちが独裁志向だから、対立する安倍も独裁だと勘違い。
自分たちが民族虐待するから、対立する日本軍も南京大虐殺と勘違い。
自分たちが売春婦・慰安婦最大利用だから、対立する日本も慰安婦大活用と勘違い。
自分たちがしている「悪弊」は、対立相手(日本)も「自分たち以上に」している、と、「自然」に「勘違い」してしまうものなのだ、人間は。
なお、若尾・川崎敬三が、すき焼きなべをつつくシーンで、爆笑した。
若尾が取り皿からしらたきをすすり、川崎もしらたきをすすり、なおも若尾しらたきをすする。貧乏カップルが、若尾が山村からもらった金で、めったにない贅沢なのに、肉も野菜も食わず、しらたきばかり(笑)。
つまり、食いつつ、同時に大量のせりふを言わなければならず、肉や野菜では、せりふが出ない。だから、しらたきのみをつるつるしながら、せりふを言う。これ、リアリズム、チャいますやろ(笑)。
152分長時間映画なのに、中身ぎっしり。だから、肉や野菜を食べ、余裕を持ってせりふを言う、間合いのある映画の「贅沢」は、ゆるされない、ことから来る、苦肉、ならぬ苦しらたきの策で。
★傷だらけの山河|Movie Walker★
ただしこのあらすじは、相当「荒い」。たとえば「光子とも縁を切った勝平」というのは「光子に勝手に逃げられた勝平」であり、意味合いがまったく異なる。また勝平の妻役「成瀬幸子」は「村瀬幸子」のケアレスミス。
推測すれば、Movie Walker転写オペレーター(あるいはキネ旬へのアウトソーシングか)が「村瀬」を「成瀬」と誤記するような、「高度」な映画的ケアレスミスをするはずもなく、これはネタもとのキネマ旬報の、当時の印刷所の活字工が、キネ旬ゆえに頻発する「成瀬」を、つい拾っちゃったということでしょうね。
★【映画】傷だらけの山河 - いくらおにぎりブログ★
相変わらず、ストーリー(的確な感想・評価付)を書かせたら、クイクイ読ませる絶好調なブログです。ただ、ここでも
「成瀬幸子」と孫引き。これも山本薩夫が成瀬の専属助監督だった因縁か(馬鹿)。
なお「おとなげない」というブログには、「それと、この作品、当初は吉村公三郎監督の予定だったのが脳卒中で倒れたために、山本薩夫に変更になったそうです。吉村監督だと妾たちがメインになりそうで、これはこれで見てみたかったです。」という記述。まったく同意。
なお吉村の常連脚本家・新藤兼人が、本作の脚本担当。軟派ハムさんでも、硬派ヤマサツでも、どっちでも、受けますぜ、という新藤の職人芸!
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by mukashinoeiga | 2014-03-14 07:44 | 山本薩夫傷だらけの左傾山河 | Comments(0)