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渡辺裕介「カレーライス」

 阿佐ヶ谷にて。「千客万来にっぽん暖簾物語」特集。62年、東映東京。ニュープリントにて12/24(火)まで上映中。
 弱小出版社が倒産してしまい、その同僚社員だったカップルが「小さくても一国一城の主」を目指し、カレーライス屋を開く。
 軽快な物語に、二人の恋模様も絡む、お定まりといえばお定まりの展開だが、大空真弓、江原慎二郎のふたりも愛らしい、東映らしからぬ、軽快小品。
 ラスト、左ト全の登場に、心和む。なりはムサいが、まるで「福の神」。鈴木清順「素っ裸の年齢」では、左ト全の頭からホントウに後光がさしていた(笑)が、むろん東映も渡辺裕介も、そんな素っ頓狂はしないけれど。
 江原の幼なじみに、筑波久子が軽い助演。
 日本では主演女優には、大空真弓のような清純派が幅を利かし、彼女のように、派手な容姿で清純派が似合わない女優は、割を食う。もっと活躍してもいい女優だったのに、軽く扱われ、やがてアメリカに行ってしまう。

 なお本作、たいへん楽しい軽快品だが、次の2点で、ぼくはドン引き(笑)。
 冒頭、大空真弓らが大量の返品本を、バンバン乱雑に投げ出し、本の山を築く。こんなに乱雑すぎると、後の処理がかえってたいへんだと思うが、本を結束する荒縄も緩む、ご乱暴振り。本好きとしては、心が痛む(笑)。
 しかも、こんな乱暴な処理をしている出版社なのに、あとで大空真弓のかわいい嘘(半額行商のために「出庫」した本の冊数ごまかし)が、ばれる(笑)超優秀な在庫管理。社内にも返品本の山が乱雑で、崩れて雪崩を起こしたりもするのに、かくも精密な在庫管理は、まさに驚嘆に値する(笑)。
 ただし、その乱雑に扱われる本のヤマの中に、阿川弘之著「カレーライス」も含まれていて、大量に返品されている描写に、大笑い
 たぶん見ていない可能性が高い(笑)と思うが、阿川が本映画を見たとしたら、この原作本の扱いに怒髪天をついたのではないか(笑)。

 次におそらく場内全員が凍りついたであろう(笑)若水ヤエ子の発言。いや、彼女の演技の全体は、江原の下宿先の三十娘の、軽快コメディなのだが、現在の時点から見て、その発言、「言い過ぎ」(笑)というか、それを全肯定している「恋する乙女」状態の演技に、今、ついていける人は、一人もいまい、という。
この2点さえのぞけば、楽しい軽快品で。

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by mukashinoeiga | 2013-12-22 10:41 | 旧作日本映画感想文 | Comments(4)

Commented by お邪魔ビンラディン at 2013-12-23 00:58 x
 この映画を見ていて、作品全体に流れる雰囲気の良さが瀬川昌治のデビュー作「ぽんこつ」そっくりだと思ったら、原作が阿川弘之で、主演が江原真二郎。脚本には舟橋和郎がからみ、その上、監督は二人ともほぼ同時期に東大を出て新東宝に助監督として入社している。大空真弓の起用は、新東宝末期の「契約結婚」出演や曲谷守平の助監督時代からのつながりでしょうか。のちにこの二人の作風にはかなりの相違が出てきますが、デビュー当初は同じような扱いだったのでしょう。(久松静児と川島雄三が、同時期に同じ会社で似た企画に起用されたのと似たような事情……というわけでもなさそうですが)

 それから、「ドン引き」の理由のひとつの返品本処理法ですが、映画に出て来たタイプのこの当時の本は、ハードカバーで結構頑丈にできていたので、あの映画のような乱雑な取り扱い方をしても、上からカバーをつけ変えれば新品同様に再生できたわけです。奥付の紙だけ張り替えて、本当は初刷りしかないのに再版、三版を「偽装」して、さも売れ行きのよい本や最新改訂版のように見せるようなことも、結構行われていたのですね。
Commented by mukashinoeiga at 2013-12-23 22:10
渡辺裕介「カレーライス」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 うーん、なるほど、それほど系統立てて映画を見ていないので、参考になります。「ぽんこつ」はみたような?みていないような?
 しかし同じ会社のプログラム・ピクチャア監督が、とりあえず似た傾向になるというのは、なっとくですね。

>奥付の紙だけ張り替えて、

 えっ、ページごと取替えですか。手間かかりませんか。すごいテクですよね。職人技ですな。     昔の映画     
Commented by お邪魔ビンラディン at 2013-12-24 02:22 x
ちょっと説明不足だったようなので、もう少し詳しく申し上げます。
かつては奥付のページに発行日などの書誌事項を記した小さい紙を貼り付けるというやり方を取るところがかなりありました。そうすると、表紙カバーと奥付を変えるだけで、ほかの出版社の本として売ることも可能となります。また、安物の辞書などは、紙型を印刷屋から借りて来て同内容のものをいろいろな小出版社で出すということもありました。(新解さんの第2版までに出て来た「芋辞書」のたぐいですね)

奥付のページごと取り替えの実例としては、澁澤龍彦の本などを出していた薔薇十字社が、倒産後「出帆社」という名前の本屋で出直した際にやったことがあるようです。バルベー・ドルヴィリの『妻帯司祭』などは、その例としてよく挙げられます。
Commented by mukashinoeiga at 2013-12-24 10:26
渡辺裕介「カレーライス」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 小さな紙、印税紙?ですか。ベストセラーともなると、一家総出で 紙張りしたらしいですね。
 太宰とか、無頼派気取りの作家は、どうしたんだろう。ちょっと、かっこ悪くはないですか(笑)。
 ためになります。         昔の映画      
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