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山本薩夫「お嬢さん」

 京橋にて。「よみがえる日本映画-映画保存のための特別事業費によるvol.6東宝篇」特集。37年、P・C・L。
 ぐぬぬぬぬ、ナンじゃこりゃあ。
 凡作。というか、不出来な珍品。
 東京の山の手のハイカラ金持ちお嬢さん(霧立のぼる)が、母親(清川玉枝)から、やいのやいのとの、見合い結婚の催促、これはたまらんと、「女の自立」を目指して、叔父さん(嵯峨善兵)の紹介もあり、九州の南端のど田舎の離れ小島の、実科(実業高校という意味か)女学校の英語教師として、赴任する。
 といっても、戦前の離れ小島に、小学校ならともかく、高等教育に相当する女学校がありえたのか、というところがそもそもの疑問の、ファンタジーなのだが。九州南端の離れ小島って、まさか沖縄のことか(笑)。
 とうとう映画では、その地名が語られることはないのだが。謎の九州南端なのである(おそらく九州ロケなんかしていないだろう)。
 という本作の、プログラム・ピクチャアとしての、目指す地点は、ナンなのかすら、意味不明なのだ(笑)。
 通常なら「坊ちゃん」女性版の、学園モノか、都会のインテリ女性の地方探訪(赴任)モノか、はたまた「女の自立」モノか。
 本作は、そのいずれとも違う、きわめて変則版で。なんとも珍しい。プログラム・ピクチャアの癖に(笑)いかなるジャンル映画の、規範からも、逸脱している、というか、いかなる要素も中途半端というか。
 学園モノとしても、「女の自立」モノとしても、中途半端。謎の女の子(笑)として、画面をうろちょろする高峰秀子がらみの、人間ドラマ?も、中途半端。
 72分の尺に、いろいろな要素を詰め込みすぎた構成の失敗かもしれぬ。おそらく山本薩夫の師匠である、成瀬巳喜男が作ったら、スラスラ流れるように、流麗に処理したのだろうが、骨太な社会派は得意でも、こういうナンパなジャンルは、トコトン苦手そうな山本薩夫なのだろう。
 まあ、完璧に苦手そうなジャンル、かつ監督デヴュー作ですからね。不出来なのも当然か。
 松竹メロも苦手ゆえか、師匠の成瀬のお供をして、松竹からP・C・Lについてきた山本だが、一体成瀬とは相性がよかったのか悪かったのか、不思議(笑)。
 そして、本作をさらに混乱させ、完全にジャンル分けすら不能に追いやったのは、隣り合わせの部屋に下宿する先輩女教師との、奇妙な同棲?生活を、長々と描写したサイド・ストーリーが、あまりに奇妙かつ微妙過ぎる。
 学園モノとも、女の自立モノとも、まったく相性の悪い描写が、学園モノ、女の自立モノのジャンルである(べき?)メイン・ストーリー?を、津波のように押し流しているのが、本作の出来をさらに「悪化」しているとしか、思われぬ。
 しかし、本作の原作が吉屋信子と知れるや、氷解。
 (精神的)女子同性愛の本家本元、吉屋信子なら、むしろこの女性同士の同棲こそ、サイドじゃない、メイン・ストーリーでは、ないか(笑)。
 心ならず、ならぬ、自ら望んで(笑)本来の自分とはまったく異質な環境に流れてきた霧立のぼるという貴種流離譚と、貧しく苦しい恋に悩む沢蘭子との、異種組み合わせの、女の友情密着ライフ。
 妙に下でに出るセンパイ女教師、コウハイなのに妙にタカビー(死語失礼)で、タバコすぱすぱな、霧立。このふたりの、女の友情メロという、究極の軟派な話を、無骨政治ドラマメロに才を発揮するヤマサツが、到底処理しきれるとは、思えない(笑)。師匠の成瀬でも、当時としては、ムリだったのではないか。
 思春期の女学生同士のエス関係なら、まだ世間も納得できよう。同時代東宝の最強ガールズ・ムーヴィー石田民三映画がそれを証明している。
 しかし、れっきとした大人、女学校の女教師たちの(精神的)女子同性愛など、当時としては受け入れられるはずもなく、また、こんなセンサイな感性など、たとえ成瀬の助監督だったにしろ、ヤマサツには、到底無理難題だった。
 うーん、当時としては、石田民三なら、かろうじて可能だったか。
 ヤマサツ、男勝りの山崎豊子原作映画ならお手の物だが、吉屋信子は、ちと、きつすぎたなあ(笑)。
 なお、本作のモンダイは、もうひとつあるのだが(出演者クレジットのミスプリ問題)長くなったので、また後日。 

◎おまけ◎ 本作のストーリーを、例によって、完璧に、流麗に紹介する以下のブログの素晴らしさ。ストーリーを紹介しつつ、同時に批評する、流麗なユーモアも最高な名人芸の素晴らしさ。かないません。
 その批評には、まったく同意いたします。
★【映画】お嬢さん - いくらおにぎりブログ★
 なお、ぼくもいくらおぎにりさんも、まったく無視しているのは、偶然か必然か。
 嵯峨善兵の友人にして、とっても愛らしい霧立に思いを寄せるのが、スマートな「青年実業家」北沢彪。
 かっこよく、「ぼくたち、たまたま金のある家に生まれたものは、もっとスマートに、お金で事態を解決しませんか?」が、おそらくヤマサツとしては、ブルジョア批判の嫌がらせとして出したのだろうが、北沢彪、あまりに天然過ぎて、こっちが勝って、かっこよすぎるぞ(笑)。ヤマサツ、ブルジョワに負けてるぞ(笑)。
 北沢彪、かっこいいぞ(笑)。

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by mukashinoeiga | 2013-11-20 00:01 | 山本薩夫傷だらけの左傾山河 | Trackback | Comments(4)

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Commented by お邪魔ビンラディン at 2013-11-20 01:29 x
それにしても、九州のハズレの島にずっと住み着いていたはずの澤蘭子扮する先輩教師が、おそらく信州あたりのサナトリウムで療養中の恋人と、いつ子づくりをしたのかと云うのが、どうにも時間的に不自然でなりませんね。ずっと長い間お見舞いにいってないような描写なんだからね。
Commented by mukashinoeiga at 2013-11-20 21:20
山本薩夫「お嬢さん」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 ぼくも、それは、見てて気になりました。沖縄?から信州の往復・しかもエッチ付(笑)となると、相当日にちと費用がかかったはず。 だいたい禁欲的なはずのサナトリウムで,えっち出来たのか(笑)。そんな雰囲気もないのに、結果的には、やることやっているのが、戦前映画ですか(笑)。
 原作未読のまま、推理すると吉屋信子的には、なんだかいろいろ霧立のぼるに位負けしている沢蘭子の、想像妊娠というのが、ありえる(笑)。それを、当時の東宝および無骨なヤマサツは、想像妊娠なんて複雑すぎて対処できず、というのが、真相なのではと、勝手に推理。
 では妊娠を認める御橋公医師の存在は? ぼくは、この映画は、ちょっとした「ツインピークス」なんだ、と思うようにしました(笑)。だって、それくらいヘン(笑)な映画。      昔の映画
Commented by 澤蘭子は at 2013-12-01 13:58 x
私もいつセックスをしたのか不思議でしたが、この夫婦は、共産党員なのではないかと思いました。そうした暗示的表現なのかと納得しました。それは『若い人』の橋本先生が、原作では左翼で検挙されることと同じだと思いますが。
Commented by mukashinoeiga at 2013-12-01 23:13
山本薩夫「お嬢さん」へのコメント、澤蘭子はさん、ども。
 もしそうだとしたら、精神的女子同性愛の世界である、原作を、政治的な暗喩に読み替えたヤマサツ、トコトン「マッチョ」な「主義者」なんですねえ。左翼の皆さんには、吉屋信子的センサイな女子心理は、まったくアウトオブ眼中なのでしょうか。  昔の映画
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