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中村登「日も月も」

 神保町にて。「文豪と映画川端康成「『恋ごころ』の情景」特集。69年、松竹大船。
 とてもかわいらしくてきれいな岩下志麻主演の、いじらしい娘のメロドラマ。
 おおかた、生ぬるい松竹メロドラマの、中村登としては、珍しく?しまった快作。ある意味傑作といっていい。
 家と家の間を縫うように走る江ノ電、その車窓に、垣間見える笠智衆・香山美子の年の差夫婦の家庭、というシーンで、既視感ありあり(泣)既見作だったのね。しかし、記憶に残っていないということは、初見時に、また、松竹ダメダメ期の、生ぬるい凡庸映画に、ぶち当たっちまったぜい、と、鼻でふふんとバカにしたか。

 しかし、今回再見したら、どうしてどうして、これは、なかなか傑作では、ないか、と。舌を巻いた。まあ、ぼくの判断は、常に間違っているので(笑)いい加減に聞いてください。見るたびに、感想変わるし(笑)。
 岩下絶美。その両親・森雅之と久我美子も絶品。岩下の恋人・中山仁も、すばらしい。この中山仁(ほとんど、ストーカーといってもいいほど、無茶ぶりに岩下に迫る)には、男でも惚れるわ(笑)。これまで見てきた中山仁は、いまいちな、つっころばし二枚目だったが、本作の中山仁は、すばらしい。ベスト・パフォーマンス。
 戦前から、女優王国と誇り、全盛期を築き上げた松竹だが、なんと本作は、森雅之、久我美子、大空真弓(中山の妻)に(東宝)と、クレジットの協力助っ人体制。しかも、中山仁・石坂浩二兄弟は、どちらかというと、TV人気で火がついての、映画出演組。ああ、戦前からの、松竹メロドラマ王国も、崩壊寸前、というか、とっくに崩壊しているなか、唯一の松竹プロパーは、かろうじて、ヒロイン岩下志麻と、笠智衆を残すのみか。
 全盛期戦前松竹メロを、助監督/監督として支えた、中村登の、最後の松竹メロの残滓、輝きか。輝ける松竹メロの、日も月も、か。
 その輝きの残滓に、戦前からの笠智衆、戦後松竹の二線級ヒロイン女優・香山美子(象徴的に一言のせりふもなし)の、年の差夫婦とは、これまた、理に落ちてはしまいか。で、あっても、戦前からの松竹メロ、その残滓を見続けたものとっては、まさに、ゴチソウなわけで。
 以下、ネタバレあり。
 まず、人物関係のメロドラマが、すばらしい。
 メロドラマの人物関係は、複雑に絡まりあうほど、面白い。本作は、その典型にして、頂点(笑)。
 森雅之(老け役)の長男・藤岡弘(遺影写真のみの出演)は戦死している。遺影の白い制服からして、海軍士官か。モリマは、そういう年。実年齢50台の森雅之は、60歳以上の役を演じている。
 森雅之との間に長男・藤岡を設けた森雅之夫人は、戦前に死んでいる。その夫人(大奥様)のもとで行儀見習いをしていた、若き久我美子が、まるで事務を引き継ぐかのように、モリマ夫人になる。のちに、娘・岩下志麻を生み育てる。

 しかし、昨年、久我美子は家を出て、夫と娘を捨て、若い男・入川保則と暮らしている。
 岩下が母を尋ねると、久我は留守、入川が、衝撃の事実を、打ち明ける。実は、岩下が生まれる前に戦死している、長男・藤岡は、若き義母・久我に、ひめやかかつ熱烈な恋をしていた。戦地から送られた長男から義母へのラブレターの数々。長男の戦地からの手紙は、多く、その父親の目に触れることなく、久我が大切に保管してきた。
 久我も、いやでもおうでもなく、半ば自動的に結婚させられた、年長の森雅之より、同世代の「義理の息子」に、惹かれているのも、明らか。
 ここで、さらに驚きの関係が。
 実は、入川は、藤岡の戦友であり、藤岡が持つ、久我からの手紙、写真を見て、また、藤岡が書いて送る前の恋文を見て、また、彼も、まだ見ぬ久我に、恋してしまった、というのだ。恋の移り病
 復員して、「長男の戦友」という形で、森雅之一家に接近して、家族全員から「長男の戦友」として厚遇されつつ、その実、久我美子を、さらってしまったのだ。
 久我も、義理の息子への恋を、入川に「恋の移り病」。おそらく、同世代の男とのセックスは初めてなのだろう。初めての愛欲に、狂った。

 一方の岩下も、母の出奔にショックを受けた時期に、京都の宿で、中山仁と結ばれる。しかし、中山は、岩下の母の、若い男に走った、という不徳を、父親に諭され、大空真弓と、結婚。しかし、新婚三日目に、喀血。この一年間、入院生活。
 いきなり新婚の夫が入院したことで、大空は、義弟・石坂浩二や、外国人の男と、遊び歩く。

 ここから、さらにいろいろなドラマが、メロメロと展開するのだが。
 メロドラマは、ぐだぐだの人間関係、絡みに絡んだ複雑な関係を、いかにどろどろに展開させるか、そして、そのどろどろの泥沼の中で、いかにヒロインを、掃き溜めの鶴として、輝かせるか、そこに、かかっている。
 だめなメロドラマは、この泥泥が不自然というか、いかにもメロのためのメロとなる。
 本作をメロドラマたらしめる、キモが、久我美子だ。この彼女が、すばらしい。
 若いころ、恋など知らず、押し付けられるように年上の男と結婚し、運命の連鎖(義理の息子→その戦友)のはてに、若い男に、狂った。
 久我美子は、不思議な女優さんで、さして美人でもない。若いころから、くぐもったおばさん声。エロティシズムとは無縁な女優だった。
 その久我美子が、年を経て恋に狂った女のエロティシズム、だめな女の部分も余さず、体現して、グッド。
「女って、そういうものなのよ」という、久我の声が、何度も、岩下の心に、響いている。

 そう、彼女が若いころ、東宝で久我と森はなんども共演してきた。
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 そのなかで、夫婦役は、本作が唯一かもしれない。その唯一の夫婦役が、若い男に狂って、夫と娘を捨てる役、というのは皮肉だが、そして映画のなかでは、すでに別れたあとなので、一度も、同じ画面に映らない。最後の「別れのシーン」にも、思わず爆笑。
 老年役の森雅之も、抜群の安定感。
 そして不幸な結婚をした、大空真弓のイヤミっぷりもすばらしい。ホントに、すがすがしいくらいの(笑)ドロドロっぷりだ。
◎追記◎江ノ電の乗客に、原作者の川端康成。むっつり席に座っているだけだが、画面のピントは、ドア付近に立っている岩下志麻に合っていて、川端は、ボケ気味なのが、残念。そもそもこの映画は、ピントの焦点が、あんまり見たこともない異常に浅くて、ピントが合っている中央の人物以外の風景にが、極端にボケボケ。意図的にやっているが、これは成功したのかどうか。そのキャメラ特性に演出が追いついていないような。

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by mukashinoeiga | 2013-06-09 09:25 | 傑作・快作の森 | Trackback | Comments(4)

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Commented by 指田文夫 at 2013-06-25 08:00 x
私も非常に良いと感じました。ただ、それは監督の中村登のものではなくて、脚本の広瀬襄の力ではないかと思えました。
彼は、藤田敏八の『非行少年・陽の出の叫び』も書いた人なのですから。
Commented by mukashinoeiga at 2013-06-25 23:04
「日も月も」へのコメント、ありがとうございます。
指田文夫さん、ども&はじめまして。やはり、ただぼんやり映画をみているだけの身では、脚本と監督の役割は、ぼんやり想像するだけなので。 ま、すべての功罪を監督に押し付けるのが、とりあえず、お気楽映画ファンの特権?で。そういう意味で本物の批評家のご指摘、ありがたいです。
 藤田敏八の『非行少年・陽の出の叫び』も、面白かったです。広瀬さんのほかの映画のお勧めは、ありますでしょうか。
                    昔の映画
Commented by 指田文夫 at 2013-06-29 08:23 x
曽野綾子原作の『青春の構図』などというものもあり、特にどうということもありませんでしたが。松竹大船で結構監督していますが、これというものはないようです。
Commented by mukashinoeiga at 2013-06-29 20:55
「日も月も」へのコメント、ありがとうございます。
指田さん、ども。「青春の構図」は、たぶん、いや、絶対見ていないと思います。岡田奈々主演なら、見てみたいですね。
                    昔の映画
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