古川卓巳「逆光線」北原三枝二本柳寛安井昌二渡辺美佐子青山恭二
京橋にて。「よみがえる日本映画-映画保存のための特別事業費によるvol.5日活篇」特集。56年、日活。
これまた、なかなかな快作。あと2回の上映。
えー、古川卓巳って、こんなシャープな演出、映像作れるんだ、というオドロキ。撮影は姫田真佐久、グッド。
古川の、代表作といえば、たぶん「太陽の季節」だと思うのだが、あんなのとは、比べ物にもならない素晴らしさ。
せりふなしのシーンの、力強さ。
女子大生役・北原三枝の(当時としては)「日本人離れ」した肢体。水着姿になると、長身スレンダーなのに、バストとヒップはむっちりとしたボディがナイス、裕次郎も惚れるわけだ(笑)。ただし、あまり水着になる必然性がないシーン(湖がちらりとも見えない野っ原)で、水着になるわけだが(笑)。
以下、ネタバレあり。
フィルムセンターのチラシによれば、<「太陽の季節シリーズ」第3篇と銘打ち、当時「女慎太郎」といわれた岩橋邦枝「逆光線」「熱帯樹」を映画化>という。
「愛のない貞節は無意味」と、大学生・安井昌二という「リーベ」がありながら、同級生・渡辺美佐子の「リーベ」青山恭二と「ベーゼ」して、さらにアルバイトの家庭教師先で、中学生男子の父親・二本柳寛とセックス。
男に自らかじりつき、安井の学生服や、青山のシャツの、ボタンを食いちぎる、肉食系女子を、生き生きと演じる北原三枝が、圧倒的。
青山セーネンと一緒に駅まで帰る途中の、夜の公園、今はあまり見かけなくなった、小さな噴水式の水飲み、「のどが渇いた」といって、長々と、その噴水を口に受ける描写、水で濡れる北原の口周り、明らかにエロ狙いのカット、長々と(笑)。
その後、セーネンも噴水の水を飲む、その飲んでいる青山の顔に、顔を寄せ「ベーゼ」する北原。当然、セーネンはその気になるのだが、北原は「終電に間に合わないから。バイバイ」と去っていく。
男は、当然、「その気」になるわな。やっぱり、そのあとで、二人は、いたしちゃうのか。
「いい年こいて、若い君とやっちゃってすまない」(大意)と、へりくだる金持ち中年・二本柳寛に、
「あたしとあなたは対等よ。あなたが加害者で、あたしが被害者、なんて言うのは、やめて。もし、仮に、あたしが妊娠したって、手術費は、割り勘よ」(大意)
まあ、二本柳が北原を押し倒したわけではない。押し倒したのは、明らかに、肉食系・北原なのだが、それでもそこまで言うのは、スゴスギだろ。張り切りすぎだろ。逆にまじめすぎて、余裕が感じられず。当時としては、この「女性上位」圧倒的だったはずだ。
北原はじめ、女子大生たち、それに青山セーネンも、「結婚するなら、金持ちの男」と割り切り、「結婚相手とセフレは別、結婚しても好きな男(女)とは、付き合い続けたい」という、まあ、今時なら、ありがちだが、60年前なら、驚天動地なセックス観だろう。
しかも、なんだか、それ、割り切りすぎて、中年発想そのものでは、ないか。セーネンらしさ?は、どこに(笑)。
ただし「太陽の季節」「狂った果実」のご乱交・裕次郎には、天然の愛嬌、愛らしさが、あった。北原三枝は、きりっとしすぎていて、まじめすぎて、その愛嬌が、ない。いっぱいいっぱい感ありあり。
二本柳も「たいていの男は、君を怖いと思うだろう」と、本音。「日本人好み」ではない、その強度、余裕のなさが、本作の北原三枝を埋没させた理由か。惜しい。
まあ、戦後のアメリカイズム過剰浸透の時代に、ボーイフレンド/ステディやキスといわずに、リーベやベーゼと、スカしている「ある種特権階級」の女子大学生(戦前の旧制高校教養主義の残滓)であるわけだが、「かわいい顔して、やることは、ヤッテいる」ならぬ「インテリぶってやることは、ヤッテいる」のが、まさに、チョイイラつくところか。
「太陽の季節」や「狂った果実」が映画史に残り、こんなにシャープな「逆光線」が残らなかった、理由か。そう、大衆的人気を博すには、愛嬌大事なのよ。まじめにセックスに狂っていてもねえ。
北原三枝がお金持ちの家庭教師に行く描写は「陽のあたる坂道」、二本柳の中坊息子が、父親と北原の仲に嫉妬して、自転車で父親の車に突っ込むところは「狂った果実」と、きっちり日活しているのが、うれしい。
なお、北原や安井ら大学生たちが、「子供会」というサークル/ボランティア活動をしている描写が、きわめて印象的。貧しいながらも、曲りなりに独立家屋と運動場があり、低学年の子には遊びでもあるスポーツ運動を指導し、高学年の子には、授業。学生たちによる、商売っ気抜きの、いわば啓蒙的学習塾。
そして、サークルや寮の学生たちは、フォークソングやキャンプ、男女交際。
おお、これこそ、当時の日本共産党が若者相手に推し進めた、ソング&ダンス、楽しい正しい男女交際、それを通じての共産党員獲得、左翼リベラル思想の浸透そのものの、歌って踊って手を握り、恋して、左翼になりましょう運動そのものではありませんか(笑)。
東宝ももちろん、日活の労働組合も、共産党の支配下にあったのは、歴史の閲するところで。ただし、日活の労働組合の異色な点は、清純派日活青春映画から、いきなり日活ロマンポルノに、転向する点で。まあ、余談。
しかも、新宿とかの街に繰り出せば、青山セーネンがバイトする歌声喫茶、当時はやりの合唱カフェだが、そこで歌われるのは、紛れもなくロシア民謡ばかり、セーネンたちのダンスもロシア式。青山セーネンも北原三枝も、歌って踊ってセックスしている間に、いつの間にか左翼思想に取り込まれていっているのを、自覚しているのかしていないのか。
団塊の世代が左翼思想にまみれているのは、骨がらみ、娯楽がらみ、セックスがらみだから。もう、しょうがないことなんだろうけどね。
ああ、そうか。フリーセックスとか、結婚相手とセフレは別というのは、性的冒険というだけではなく、資産個人所有を否定する、原始共産主義そのものだったのね(笑)。それなら、わかる。
そう、明るくアメリカナイズされた「太陽の季節」「狂った果実」が一般受けして、ロシア式、共産党がらみの、暗い背景つき?の「逆光線」が、残らなかったのも、わからないでもない。
残らなかったが、映画と「日本人離れした」北原三枝のシャープさは、特筆に価する。素晴らしい。
以下はまったくの余談だが。
現在の暴走老人が、まだ暴走青年だったころ、弟の結婚に際して、「北原三枝と結婚するのはかまわないが、子供は作るなよ。石原家の血筋に××人の血を入れるなよ」と、言ったとされる、ということを、ネットか何かのゴシップで読んだ記憶があるのだが、あれは実話なのか。差別主義者の暴走老人も、結婚、そこは許しちゃうのね(笑)。なんだ、ごりごりの差別主義者じゃないじゃん(笑)。安心した(笑)。
そこかい(笑)と、一人突っ込み。
さらに余談。つい最近TV朝日の警察モノに、老女スリとしてゲスト出演したのを、たまたま途中から見た、渡辺美佐子が女子大生役。時の流れという以上に、顔立ちとか、声とかキャラが、ほとんど変化していないのが、いかにも彼女らしい。もともと若いころも、あんまり青春青春していなかったのが、今も、変わらない彼女の強みか。
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by mukashinoeiga | 2013-02-13 09:59 | 傑作・快作の森 | Comments(4)
「逆光線」面白かったです。
御目当てはもう一本の「わが闘争」の方だったんですが、佐久間さん何やらされてたんですかね?
撮影の途中で降板宣言出来なかったんでしょうなぁ…。
なんか可哀想になっちゃいましたよ。
それに対して、こちらは全然期待してなかったのですが、その分面白かったです。
杉葉子さんといい北原さんといい長身は武器ですな。
かっこいいですホント。
ロシア系ダンスじゃなきゃムード出ないんじゃないですかね?盆踊りするわけにいかないし…。
>きっちり日活している…
もうあと15〜16年経ってりゃ家庭教師(山科ゆり)と親の情事を見てしまい上気してしまった少年を乳母(絵沢萌子)がやさしく…なんてことになるんでしょうか?
しかし前日の司女史のトークショーにも行ったんですが
聞き手の野郎が滑舌悪いわテンポ無いわ、進行下手だわ
酷かったですな。
司さんが上手に喋ってくれていたので何とかなってましたが。
もう少し聞き手を厳選してくれよまったく、と思っちゃいましたよ。
「わが闘争」ねー、あんなキレイキレイな女優さんに、あんな役をやらしちゃあ、いけませんねー。中村登も松竹もトチ狂ってる。普通に美人四姉妹物を作ればよいのに。
北原三枝、かっこいいんだけど、もっと余裕というか愛嬌がほしかった。
>聞き手の野郎
ははは。いけませんでしたか。その「野郎」は知り合いなんで、素人なりに頑張っていると思うんですが、トークショー自体は、まあ司葉子の愛らしさに、皆さん大満足という話を聞いています。司葉子に免じて(笑)。 昔の映画