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加藤泰「明治侠客伝 三代目襲名」ツルコウ鶴田浩二藤純子桜町弘子津川雅彦嵐勘寿郎汐路章丹波哲郎大木実藤山寛美安倍徹

 池袋にて。「検証日本映画Vol.10 加藤泰 あるいは屹立する情念」特集。66年・東映京都。
加藤泰「明治侠客伝 三代目襲名」ツルコウ鶴田浩二藤純子桜町弘子津川雅彦嵐勘寿郎汐路章丹波哲郎大木実藤山寛美安倍徹_e0178641_947797.jpg 二本立て上映のあと、桜町弘子トークショーがあるためか、池袋新文芸坐は、満席。トーク時は、超満席。
 本作の上映、イマイチピントが甘い。加藤泰特有のメリハリのある焦点深度、メインの人物たちにピントくっきりあてて、その後景の人物たちを、よりぼかす加藤泰映画にとっては、ピントの甘い映写は致命的。いや、どんな映画でも、そうなのだが。

 一家の二代目・嵐勘寿郎が夫婦そろって祭り見物。おだやかないい表情。
 それへ、三下・汐路章が、大勢の祭り見物客の間を縫って、間合いを詰めてくる。こちらは、ウロンな凶状顔。
 案の定、汐路がアラカンの背中をドスで刺す。加藤泰映画、汐路章で幕が開く。
 アラカンが怪我がもとで死ぬ。三代目を襲名するのは、誰が見ても、「誠実なヤクザ」鶴田浩二だが。ひとり異を唱えるのは、二代目のバカ息子「ボンボン」津川雅彦。
 そして、一家そのものの消滅をもくろむ、自称「俺はヤクザは嫌いだ」自称「青年実業家」大木実と、「ヤクザは嫌い」なはずの大木の手下格の、安倍徹「やくざの親分」。
 これに芸者・藤純子(鶴田と相思相愛ながら、安倍徹に身請けされてしまう)、芸者・桜町弘子(津川に惚れているとだます、実は大木の女)、毎度コミカルながら、今回はなぜかかっこいい「旅人」藤山寛美、「いいほうの顔役」丹波哲郎、などがからみ、いつもの東映仁侠映画を彩っていく。

 ドラマは、抜き差しならないまでに、東映仁侠映画の定番を、典型として、つむいでいく。
 文字通り、義理と人情(恋情)の板ばさみに苦しむツルコウ。怪我で寝たきりの老親分アラカン。いわば「江戸時代」そのものの、旧弊なやくざたち。
 ぱりっとした洋装で決める、近代的な、つまりは「中国化された明治」の、義理や人情なんだそれ、冷酷実力主義者の大木実。
 立派な洋館に住み、愛娘は頭におリボン・ハカマの「ハイカラさん」スタイルの女学生、近代的でありつつ、義理と人情も忘れない、和洋折衷大親分・丹波。ピストルもドスも、どっちもいける旅人・寛美。このふたりもは、「中国化された明治」より「江戸時代」の側につく。

 ウーン、だが、イマイチ、心に響かないぞ。あまりに、典型過ぎるのか。
 ツルコウと、藤純子が、相思相愛の純愛って。ツルコウ50代か、藤純子、まだはたちそこそこの、まだ幼い顔で。絵ヅラ的に、抱き合う二人は、ちょっと無理がないか。まあ、恋敵が安倍徹(笑)だからねー。
 年代的、絵柄的には、ツルコウ/桜町、津川/藤純で、いいのでは。しかし、イキオイのある新進女優・「東映仁侠映画の華」藤純と、見る影もなく消滅した「東映時代劇」時代のお姫様女優・桜町では、待遇に差も出るのも、仕方なしか。
 加藤泰映画と、なぜか相性抜群の桜町が、加藤泰の初期構想では、ヒロインであった、それを東映仁侠映画最強プロデューサーにして、藤純子実父の、俊藤浩滋が、「おいおい、もう桜町じゃねーよ、客を呼べるヒロインは、純子だろー」ということなのではないか。そのリベンジ?が、本作の翌年の、低予算白黒映画桜町単独主演加藤泰「骨までしゃぶる」では、ないか、と妄想。本作は、もちろんカラー。

◎追記◎どうやら、上記記述には重大な誤解があるようです。下記コメント欄でktoy3さんにご指摘を受けました。詳しくは下記コメント欄をご覧ください。申し訳ない。

 なお桜町弘子トークでは、本作撮影中、加藤泰と「鶴田のお兄様」が、反目対立、ついには「鶴田のお兄様」が、子分もろとも、スタジオから、出て行ったという。
 桜町によれば、どんなスタアでも、何回も何回も稽古を繰り帰す加藤。稽古の繰り返しに、スタアも、エキストラに毛が生えた三下俳優でも、差をつけなかったらしい。
 東映仁侠映画でスタアになったツルコウが、面倒な稽古は弟子にスタンドインさせて、自分は楽するのが、東映スタアのしきたりと、加藤式スパルタを嫌ったせいとか。「鶴田のお兄様」、映画ほどには、耐える男ではなかったのね。まあ、当たり前だけど。結局、俊藤浩滋が仲に入って、加藤・ツルコウを手打ちさせ、撮影再開と。さすが、仁侠映画の父だけのことはあり。

 だから、なのか、最初からの趣向なのか。
 鶴田が、寛美形見のピストルと日本刀を持って、たった一人の討ち入り。蒸気鉄道の列車の屋根に乗って、近づく。
 線路沿いのせまっくるしい小屋に、なぜか大木実、安倍徹、子分たちが、すし詰めで、討ち入りを、待っている。
 列車の屋根から跳躍、イキオイで窓を突き破り、小屋になだれ込む鶴田。そしてなぜか、最初に、大木実を、突き刺す。
 あまりに、簡単すぎて、思わず、笑ってしまった。
 ふつうの東映仁侠映画では、健さんなどが、悪い親分の屋敷に殴りこみ。広い屋敷内をさんざん移動して、さんざん子分たちを斬って斬って切りまくり、最後に、やっと親分を、討ち果たすのが、定番中の定番では。
 いきなり最初に親分、刺殺、ショートカットのしすぎだろう、ツルコウ。

 もっとも。
 体制的には、実行犯グループの組・安倍徹親分、それを裏で操る黒幕・大木実という構図なのだ、が。システム上は、黒幕の大木がラスボスなのだ、が。
 ラスボス・大木が死に、しかし、安倍徹は、線路沿いに、逃げていく。それを追うツルコウ。安倍が逃げ帰った自宅で、囲われている藤純の前で、ツルコウは安倍を刺す。義理の上では、大木がラスボスだが、人情(恋情)の上では、安倍がラスボスだったのだ。
 ウーン。この辺のあいまいな複雑?さが、純情一本どっこの東映仁侠映画には、複雑すぎたのか?
 義理と人情と男伊達の三位一体、目指す仇はただ一人、この討ち入りジャマするヤツは、どんなヤツでも、かかって来い、と、たった一人の討ち入り、こそが、純正品東映仁侠映画の心意気ではなかったか。
 本作、キネ旬選定仁侠映画ベストワンとのことだが、残念な雑味あり。なぜ、マキノ雅弘/高倉健/藤純子映画が、仁侠映画ベストワンに、ならない? あまりに傑作が多くて、票が分散したのか。うーん。

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by mukashinoeiga | 2012-07-15 09:15 | 加藤泰突撃せよ炎のごとく | Comments(4)

Commented by PineWood at 2016-08-04 08:07 x
炭鉱で指揮する鶴田は似合わない気もしたがー。フイルムセンター加藤泰監督特集ではピントのあった上映でした。高倉健と並び格好いい!冒頭の祭での刺客のアプローチはマーチン・スコセッシ監督の(タクシードライバー)のロバート・デニーロを思い出しました…。
Commented by mukashinoeiga at 2016-08-06 01:49
加藤泰「明治侠客伝 三代目襲名」へのコメント、PineWoodさん、ども。
 鶴田は、もともとなで肩の優男の、甘い二枚目でしたからね。肉体労働系は、似合わない。
 (タクシードライバー)も、はるかかなたに見たきりなので、記憶力が弱いぼくには、よくわかりません(笑&泣)。  昔の映画
Commented by ktoy3 at 2016-08-08 12:19

あのう~。
>芸者・桜町弘子(津川に惚れているとだます、実は大木の女)
とありますが…。この作品に桜町さんは出ていないのでは?
秀奴を演じているのは水上竜子さんという女優さん。
日本人離れしたきりっとした顔立ちの女優さんでは?

僕は好きなんですよ。
藤 純子がキレイなのにやたら生々しいオンナを感じさせて。
男ならこの一途さに敗けちゃいますわな。
それに鶴田浩二がメッチャ二枚目。
一時太っていたのがウソのような甘い中年の美を見せる。
ダントツの美男ぶり。

一触即発。途中でどちらかが降板したとしてもフシギのない現場だったとか。
お互い大嫌い同士の主演俳優と監督から生まれた奇跡の名作。
と言いすぎるのは大袈裟でしょうか?

Commented by mukashinoeiga at 2016-08-10 22:46
加藤泰「明治侠客伝 三代目襲名」へのコメント、ktoy3さん、ども。
 おお、そうでしたか(笑&泣)。
 ぼくのずさんな記憶力からすると(笑&泣)ご指摘は、正しいと思います(笑&泣)。
 さっそく、本文にも、エクスキューズを入れさせていただきます。ご指摘ありがとうございました。

>藤純子がキレイなのにやたら生々しいオンナを感じさせて。男ならこの一途さに敗けちゃいますわな。

 御意。本当に稀有な女優でした。健さんが顕彰される程度には、藤純子もまた、評価されるべきだと思います。

>お互い大嫌い同士の主演俳優と監督から生まれた奇跡の名作。

 「俺は若い奴らが嫌いだ」というツルコウの口跡で、聞いてみたいな(笑)。「俺は加藤泰が嫌いだ」(笑)。昔の映画
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