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小津「東京物語」熱海の宿の不思議

 ふいと気付いたのだが、これは、さすがに、無理スジだろうという。酒呑みの勘ですな。
 老父・笠智衆は、若い頃は、相当の酒飲みで、妻・東山千栄子は、相当苦労したという。
「あたしたち、それがいやでねえ」と、長女・杉村春子は述懐する。
 しかし、末っ子・香川京子が生まれた頃から、現在の「仏様のような笠智衆」になっていったという。だから、末っ子の香川は、父には、いい思い出しかない。しかし、長女・杉村、長男・山村總、三男・大坂志郎には、笠智衆は、厳父(ないし、酒飲みの)という印象がある(次男は戦地から帰らず、不明)。
 だから、杉村春子は、おそらく甘党の中村伸郎を、夫に選んだ。いわゆる午前様(もはや死語か)は、中村伸郎には、許されていないような気がする。どうも、何か、怪しげな職業?(ブローカーか)の中村にしては、健全な?暮らし。また、長男・山村總の家でも、酒が提供された形跡もない。
 ゆいいつ、過去の<酒乱>?の事実を知らない、次男の嫁・原節子が、アパートでお銚子1・2本程度を提供する。

 そこで。
 老夫婦は、熱海の旅館に、行く。
 おおぜいの団体客の、夜になってもの、大騒ぎに、老夫婦は、眠れない。寝床のふたりは、眠りが、浅い。
 ここで、(もと)酒飲みの笠智衆は、なぜ、酒を、頼まない。
 いや、そもそも、熱海の通俗的な旅館で、ここは、ふつう、夕食に、お酒つけますか、と女中さんに聞かれて、ああ、もらおうか、頼むだろ、ふつう。
 いくら周囲が騒がしくても、酒飲めば、まあ、とりあえず入眠出来るだろ、笠智衆。
 それとも、古女房相手に、酒は飲めない? ンなことないだろ。
 田舎モノだから、旅館に遠慮? ンなことないだろ。若い頃は、県の教育長として、数々の料亭での接待宴会に出席して、家族を苦しめていたくらいなんだから。その辺のシステムおよびキビを、充分熟知している、なのに、なぜ、この、熱海の、通俗旅館で、酒を飲まない(笑)。
 おかしいだろ。
 もちろん、それは、翌夜、笠智衆が東野英治郎らと、「痛飲」するための、脚本上のタメなのだが。
 小津安二郎・野田高梧の脚本は、通常の、ふつうのリアリズム(酒飲みが旅館に行って、なぜ、酒を飲まない?)を、しばしば無視して、より高度?のリアリズムを実現させた。ないしは、でっち上げた。
 あまりにするするとした脚本と、演出に、目がくらませられるが。
 なぜ、そんなことを、するのかって?
 小津や成瀬らにとって、そんなくそリアリズムを映画に導入したら、雑味だらけになってしまうからに決まっている。スジはシマラなく、上映時間のみやたらと長くなる。焦点はボケ、キレもコクもなくなる。それが、クソリアリズムの成れの果て。
 だから(もと)酒飲みのはずの笠智衆は、タメにタメて、ラストの一夜まで、酒を、呑まない。
 そういう脚本を、ダイヤ菊を、空の一升瓶を並べながら鯨飲して、小津安二郎・野田高梧は、旅館にこもって、書いている。それ自体がギャグだろう。

                              ◎元記事掲載時間 2012-05-25 00:11◎

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by mukashinoeiga | 2009-07-15 00:11 | 小津安二郎映画の正体小津漬の味 | Trackback | Comments(0)

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