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木村恵吾「幸福の限界」ハラセツ原節子藤田進

最強ツンデレ女優・原節子史上でも、最強のツンデレ映画ではないか(笑)。
木村恵吾「幸福の限界」ハラセツ原節子藤田進_e0178641_09440151.jpg とにかく、あの強い目力でのツンデレ、で、いったんデレッとしたあと、また、ツンデレ、さらにさらにツンデレ。ツンデレのハットトリック。ツンデレのトリプルアクセル。ハラセツ最強か。
 京橋にて。「(再映)よみがえる日本映画~映画保存のための特別事業費による」特集。48年、大映京都。
 話はこうだ。
 家庭内暴君の父(小杉勇)のもと、言いなりの母アツコ(田村秋子)、母の妹(ハラセツの叔母に当たる)アキコ(沢村貞子)、彼女は七人の子持ち、今なお八人目が腹にいる。
 実姉・田村秋子は、「あんた、子供を産む機械でいいの」と、くさる。今、聞いても、妙にリアル。
 そして、ハラセツの姉は、戦争未亡人(市川春代)で、夫戦死のあと、幼い娘と一緒に実家に帰される。「この子が男の子なら、また、違うんでしょ」。
 これら、母、姉、叔母に対して、ハラセツは、結婚した女は、性生活つきの女中じゃないの、と、目力きりりと、鬼の形相で非難する。再婚のその日、花嫁衣裳の実の姉にも、きりりと、姉さん、それでホントに幸福になれるの、と詰問口調。まさにセツハラ。
 女の自立を理想として・・・・女の自由独立邁進一筋・・・・なんだけど、そこは女? 感情が揺れると、理想も論理も崩壊する。
 演劇仲間四人とスキー旅行。当日、風邪などで二名欠員。劇作家(藤田進)とふたりきり。
 ふたりきりの夜の和室の宿、布団を並べて。
ハラセツ「あなたは紳士よね。男は不安だわ」
藤田進「じゃあ、何で二人きりで来たんだい」 
ハラセツ「あなたが、好きだからよ」
藤田進「じゃあ・・・・」
ハラセツ「あら、あたしは、結婚なんてしないわ」
 この当時は、やっちゃったら、恋愛したら、即結婚の時代。
 しかしハラセツの信奉する理論によれば、女は結婚したら性生活つきの女中扱いだから。
 ふたりきりですぐ隣に寝ていながら、藤田を拒む。

 ところが、父の横暴(「出てケッ」)に耐えかねて家出、藤田進の家に来て、
「処女であることは、重荷だわ」
「あたしを、キズモノにしてっ」
という、ウザイ迫り方。キズモノになったら、<処女>でなくなり、家制度のなかで、横暴な父親の「女は嫁に行け」という圧から逃れられるはず、という。
 藤田は、冷静に「君が大事だから、そういう無理なことはしない」と諭す。
 しかし、藤田がついにその気になって、ハラセツをふたりきりのハイキング一泊旅行に誘うと、ハラセツは藤田が好きだから旅行には応じるが、いざ藤田がセマルと、激しく拒否。
 そして再婚する実姉を、あの鋭い目で、口調で、激しくののしる。その足で、藤田の家に行き、藤田の仕事ぶり(劇作家の原稿書き、原稿用紙を何枚もくしゃくしゃに丸めて、ほうり捨てるお約束)を見て、いそいそとお茶など入れ、藤田をアシスト、とうとう藤田と結婚を宣言する。

 猫の目のようにころころ、結婚観・恋愛感が変わる。感情の赴くままに。ところが、それにつれて、<理論>も変わる。
 しかも、ハラセツがさんざんアジり、あおり、結婚は女の女中化だ、地獄だ、とまで言って、オルグ?した結果、母の田村秋子まで家出、「しばらく今後の女としての身の振り方を考えさせてください」と夫に宣言した田村秋子、その田村にハラセツ「あたし、やっぱり結婚するわ」と。
 なななんです。その裏切り。やっぱり女ってヤツは・・・・感情で理論が変わる。原作石川達三、脚本新藤兼人。男のヘンケンか。
 ハラセツの目力、熱演。
 しかし、その相手役が(笑)。
 父・小杉勇は、味だけ役者。好きなんだけどね。
 田村秋子ふんするアツコに、アキコと、呼びかける。アキコは、アツコの妹・沢村貞子の役名。でもアツコを演じる女優の名前は田村秋子。小杉は、すぐにアツコと、呼びかけ直すのだけれど、このあとも、台詞の間違い、微妙な台詞の間の連発。ヘタすぎ。まさに味だけ役者。好きなんだけどね。
 あるいは、戦後のこととて、フィルムが足りなく、傷の小さいミスはそのまま流すのか。
 しかしいかにフィルムが少ないとて、ハラセツはじめほかの役者はちゃんとこなすのに、ひとり小杉勇のみ、ずさんな一発勝負演技を繰り返し、台詞のとちり多数。
 経理部長(斎藤達雄が、いつものようにお気楽に)が、総務部長の息子とハラセツの縁談をもってくるが、その後、小杉勇が、総務さん、総務さん、を連発するので、とうとう相手の名前が、総務さんにせざるを得ないという事態にも? いや、よく、わからん。
 これがこだわりの名匠と、娯楽映画の凡匠を分ける道か。
 恋人・藤田進は黒沢明「わが青春に悔なし」でもコンビだが、ヌボーっとした、ボーヨー演技が魅力?
ハラセツにツンとされたときも、デレッとされたときも、対応おんなじ。これが、たとえば、モリマだったら、ツンとされたら頭を抱え(あるいはチョイと顔をしかめたり)デレとされたら、ニヤニヤしたり、少しは演技カエルだろっ、藤田進。何で、全部、おんなじなんだよっ。
 そして、生涯お嬢さん芸(それはそれでいいんだけどね)市川春代。
 いや、みんな、テキトー演技だから、ハラセツの熱演が、ひとり浮く浮く。
 ゆいいつちゃんとボールを返してくれるのは、まぢめな田村秋子。でも田村からのハラセツへのパスは、面白くもなんともないんだけどね。

 「あたし処女よ」「でも処女であるということは、なんだか重い」「あたしをキズモノにしてっ」と、ハラセツ史上せいいっぱいのアピール。
 おみ足のアップでストッキングを脱ぐシーンもあり。
 最後は、ハラセツ・藤田の披露宴。
 その戦後すぐの披露宴シーンが印象深い。
 供されるビール瓶には、ちゃんとしたラベルがなく、小片のシールがあるだけ。参列客が足元のバッグを倒すと、たまねぎ?が転がり出る。担ぎ出しの帰りに寄った結婚式か。
 ハラセツの弟が「結婚行進曲」をハーモニカで演奏して、時代だなあ。
 そして、藤田・ハラセツは、宴途中で平服に着替え、
「ぼくたちはこれから、新婚旅行で、ハイキングに行きます。電車の時間がありますので、途中で抜け出しますが、皆さんは、まあ、お祝いの宴会をお続けください」と、出て行っちゃう。
かくて主役抜きで、披露宴は続く。
 あんなに力強く拒否していた結婚に、ついには、降参しちゃうところが、娯楽映画の予定調和なんだろうけど、なんだかなあ。

●追記●なぜか、右の柱のメニュー欄が出ない(記事の一番下にある)のですが、この下の旧作日本映画感想文をクリックすると、出るようです。→一応、直ったようで。


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by mukashinoeiga | 2011-10-15 09:46 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

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