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中島貞夫「犬笛」菅原文太竹下景子原田芳雄酒井和歌子三船敏郎川地民夫神田隆北大路欣也村野武徳岸田森小林捻侍勝野洋伴淳山村總

 渋谷にて。「中島貞夫 狂犬の倫理」特集。78年、製作三船プロ、配給東宝。ほぼニュープリント。
中島貞夫「犬笛」菅原文太竹下景子原田芳雄酒井和歌子三船敏郎川地民夫神田隆北大路欣也村野武徳岸田森小林捻侍勝野洋伴淳山村總_e0178641_0245332.png いかにも70年代邦画大作らしい、大味なつくり。
 1シークエンスのみの出演のチョイ役にも、村野武徳・勝野洋ら当時の人気者若手、伴淳・山村總ら誰でも知っているヴェテランを配す、オールスタア映画。しかも原作・西村寿行の長編のダイジェストな、幕の内弁当状態の脚本。
 あまりに知った顔ばかり、かつ大勢なので、三船プロダクション創立15周年記念作というクレジットの本作は、映画というより、周年記念パーティー(入れ替わり立ち代りの立食式)に、参加しているような趣。
 しかも、上映前の館内アナウンスでは、「なお「犬笛」の上映時間は、フライヤーで139分と告知しましたが、今回の上映は112分のヴァージョンとなります。スクリーンサイズも、特殊な東宝スタンダード・サイズですが、通常のスタンダード・サイズでの上映となります」とのこと。
 つまり27分も刈り込まれた短縮版ということか。更なるダイジェストか。
 もっとも、フライヤーなんて言葉、渋谷以外の映画館では、通用しない、一種の渋谷語(映画館カルチャーの中では)。すかすなあ、シネマヴェーラ。

 <特殊な東宝スタンダード・サイズ>には対応できないという正直な告白はよろしい。というのも、おそらく現存する映画館で、それに対応する映写システムは、ほとんどないからだ。ふつうのスタンダード・サイズは、ほぼ真四角な形状、横長TV出現前の、TVスクリーンのサイズと思ってもらえばいい。<東宝スタンダード・サイズ>は、それよりは、やや横長なのだと思う、たぶん。
 とすれば、浅草東宝閉館後、それに対応する映画館はほぼ絶無か。あるとすれば、昔からの、古い地方東宝系映画館だろうが、それすら絶滅危惧種だろうし、そういう地方映画館は、そもそも、ここ何十年もスタンダード・サイズの映画など上映していまい。
 唯一可能性のあるのは、東宝の試写室、それも本社ではなくて、撮影所の試写室だろうが、それも新設されていれば、アウトの可能性もある。ああ、フィルムセンターなら、いけるか。
 それにしても、シネスコ・サイズ全盛の70年代に、なぜスタンダード? おそらく、幅広のスクリーンサイズでは、
●屋内シーンの、セットを、より大きく作らねばならない。>予算が、かかる
●屋外シーンの、大自然描写>開発が進んで、大自然らしからぬ建造物が写ってしまう
 という、せこい理由しか、考えられない。しかも、多くの東宝系映画館では、ブローアップして、ヴィスタ・サイズで上映していた可能性も高い。

 ということで「犬笛」だ。
 西村寿行の冒険小説は、昔、愛読しました。しかし、その荒々しいヴァイオレンスとセックス描写(おそらく女性登場人物は、ほぼ全員悪党にレイプされる。見境のない悪党など、70のばあさんも、穴があるという理由でレイプ、ばあさんも、ひいひいよがっちゃう)、ところがこういう素材も、明るく楽しい東宝映画は、子供からお年寄りまで、誰でも見れる、一般映画にしてしまう。西村寿行特有の荒々しさなんか、影も形もなくなる。
 この映画でも、原田芳雄が、子分・小林捻侍に、利用価値のなくなった精神科医・竹下景子を、「好きにしていいぞ」というが、ベッドに押し倒して、シーンが変わっちゃう。
 ただしいかにも70年代だなあ、かつ監督が中島貞夫だなあ、というのは、売春に絡む殺人何件かの、女性死体が、みんな血だらけのすっぽんぽん。
 主人公・菅原文太の幼い娘が、重要な証拠のありかを知っているということで誘拐される。
 娘の安否を気づかって、母・酒井和歌子は発狂。文太は、愛犬テツを連れて、娘を探して、信州、新潟、北海道、島根、神戸、ついには海上保安庁の巡視船でインドネシア沖まで。船の船長に、御大・三船敏郎。航海長に川地民夫。原田芳雄らを乗せた、追われる船の船長に神田隆。文太とともに原田を追う外事課刑事に北大路欣也。
 映画は、娘への親子愛、けなげな愛犬との関係で、がんがん感動を盛り上げようとする。小林亜星の劇伴も、なんだか「砂の器」のパクリみたいなメロディで泣かせに走るが、無理やり過剰な、へたくそな演出と、編集のせいで、泣くもおろか。お互いに走り寄るテツと文太、そのえんえんの走りのカットバックが長すぎて、いい加減飽きるほど(笑)。
 感動も、アクションも、ヴァイオレンスもの、幕の内弁当の、一個一個の材料のうすさ。
 しかも、娘を誘拐し続ける理由のうすさ。
 文太の捜索方法の無謀さ。あれ、殺された総合商社調査課課長の家を張り込んで、怪しげな岸田森を尾行したほうが、早いんじゃね。ま、描写としては、つまらないが。
 車で移動する誘拐犯を、探すなら、車道を中心に探すべきなのに、車が通行不能な、雪の山岳原野を探し回るのは、単に吹雪く雪の山岳原野を行く、文太と愛犬、そのよろめきつつの彷徨、という<絵>と、<感動のBGM>を、出したかっただけだろう。
 誘拐される女の子の子役が、ブスなのは、まあ許すが、役柄上多発する泣き顔の見苦しさも、興醒めで(笑)。この子役の役柄上、泣き顔の見苦しくない子を選ぶべき。
 また、敵船から愛娘を救出する際、民間人の文太は、三船船長に止められ、巡視船から、救出劇を見守るだけ。アメリカ映画なら、文太は、元軍人という設定で、真っ先に乗り込むだろう。悪党・原田芳雄は、逃げ切れぬと観念し、子分・小林捻侍らを射殺し、自分も自殺。日本以外の国のアクション映画なら、クライマックスは、銃撃戦しか、ありえない。
 アンチ・クライマックスの、残念感。野ダメ政権クラスの凡作。


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by mukashinoeiga | 2011-09-20 10:16 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

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