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ムルナウ「サンライズ」

 渋谷にて。「映画史上の名作番外編 サイレント小特集3」特集。27年、アメリカ。
 ルビッチ同様、ドイツ映画界からアメリカに呼ばれた、最先端監督F.W.ムルナウによる、ヒューマン・ドラマ。80年前とは思えぬ、素晴らしき映像の展開。
 村の純朴な農民青年が、都会から帰ってきた浮薄な(都会ずれした)モダンガアルに誘惑される、「あたしと都会に逃げましょう。都会で面白おかしく青春を謳歌するのよ」、ついては邪魔になるのは、赤ん坊を生んだばかりの男の妻。「あんなの、あんた、殺しちゃいなさいよ」
 かくて、男は湖にボートを繰り出し、妻を乗せ、溺死を装い殺そうとする。男の村は、そもそも湖をボートで対岸に渡り、路面電車に乗って、都会に行く、という設定。
 夫の殺意に気付き、おびえまくる妻。ここで、妻の哀れさに、改心して、妻への殺意がうせる夫。
 だって、おびえる妻を演じるのは、当代きっての可憐な、ジャネット・ゲイナーだもの。あの「第七天国」の可憐なヒロイン。この時代のサイレント女優は、また、恐怖におびえてパニくる演技がうまいうまい。
 か弱い、可憐さを売りに出来た時代。時代が下って、こんにちのハリウッドでは、か弱さを売りにする女優は絶無。ま、それはそれで正しいことで。
 この映画のすばらしさは、しかし、こんな生ぬるいドラマにあるのではなくて、その映像の革新性。
 ハリウッド資本と、ヨーロッパ的感性の合体。
 湖も、農村も、えんえんと続く路面電車(田舎から都会まで)も、都会のビル群も、遊園地も、全て映画のためのセットだという。
 農村などのオープン・セットは、よくあること。しかし、都会のビル群、路面電車の駅(といっても、路面電車の駅など、いわゆる中央分離帯的なものだが)を中心にした広場数ブロック分の再現というのは。実際見てみると、たしかに構図的にはコンパクトにまとめられているけれど、ロケでも充分か、と。
 いっぽう遊園地は、フィックスの画面で、客の群れ、空中を回転する乗り物、小さな店、後方の花火連発、がきわめてコンパクトにまとまった画面の濃密さ。街のビル群も遊園地も、構図の中にすっきりまとまっている。
 それはそれですばらしいのだが、そして、渋谷シネマヴェーラのチラシの説明によれば、「世界一美しい映画」と、フランソワ・トリポンが語ったというのだが、いやー、

1 モダンガアルに誘惑されたからといって、簡単に愛妻を殺そうとし、愛妻のおびえを見て、簡単に改心するなんて、なんてイージー、アメリカンなドラマ。
2 全てセットのこの映画を見て、こんなセットの予定調和なら、街に繰り出したロケ映像なら、もっといいんじゃないか、と。
 偽りのロケ映像(しかし実際はセット)の結果、生々しさが定着するはずなのに、何か妙にコンパクトに、ちまちまとまとまった映像が、そんなに美しいか、とも思うが。温室やビニールハウスのコンパクトさか。

 しかしトリポンたちフランス・ヌーヴェルヴァーグが目指したのは、撮影所を出よう、街に出よう、だった。
 撮影所を捨てたわけではない、撮影所のシステムはすでに崩壊していたか、トリポンやゴダールには、撮影所には開かれていなかったからだ。ビル群の街のセットかなんて、アメリカ資本のみがなしえたんだろうけど、しかしこれが美しい映像か、なんか息苦しいぞ。
 田園風景の中を走る路面電車、その仲の主人公たち、とってもいい映像なんだけど、これが、もっと低条件でも、実際の電車を使った<ロケ映像>だったら、もっと<すがすがしい、ゆるい空気> が流れたんじゃないだろうか、とか、いやこの映像でも、充分すがすがしいぞ、とか。  
 完璧を目指して、完璧なセットなんだけど、

1 でも、その完璧さは、息苦しくない?
2 でも、その完璧なセットで、こんな、くずドラマ?


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by mukashinoeiga | 2011-07-31 23:41 | 旧作外国映画感想文 | Trackback | Comments(0)

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