田中重雄「南十字星は偽らず」

 京橋にて。「よみがえる日本映画~映画保存のための特別事業費による」特集。53年、新東宝。
 これはこれは!
 なんとも!
 映画自体は、ごくふつうの水準で、すいすいと進む娯楽作だが。
 ある意味、とてつもない<異常作>! 珍作中の珍作というべきだ!
 まったく、信じられない、珍作中の珍作!
 フィルムセンターの解説によれば、<終戦後の1946年、不在の夫の地盤を継ぎ妻が代議士に立候補したが、選挙日の直前に、夫が南方から現地妻のアインと子供を連れて帰国。「二人妻」事件として当時のジャーナリズムが大きく取り上げた。その後アインによる51年発表の同名手記に、大幅な脚色を加えて映画化したのが本作。>。
 <大幅な脚色を加えて映画化>!!! 
ラストシーンの、いきなりのネタバレになるが、





 なんと、本作の最後で、日本に渡る前のアインは、元カレに刺されて、死んでしまう!
 映画は、<原作を書く前の原作者>を、殺してしまうのだ!
 それでは、当然原作は書かれず、つまり、その原作を元にした、本作映画化は、存在しないことになってしまう! なんというパラドックス!
 よく原作者が承知したものだが、いや、自分が死ぬ設定を、受け入れる原作者はいるのか。当時の無謀な映画会社が、本人に断りなくやったのではないか。しかし、原作者を馬鹿にした改変というにとどまらず、この映画の企画自体の出自を否定する掟破り。自らの足を食うタコではないか。
 タイトルを「南十字星は偽らず」、しかし映画は、進んで自らを、偽る、謎の企画か。

 日本の統治下にあるジャカルタ、日本語がぺらぺらの現地娘アイン(高峰三枝子)の恋人・若原雅夫はジャカルタ人の反日闘士。しかしアインは、日本の統治官僚・千田是也の宿舎の女中になる。そこで日本人・千田の愛を受け入れ、子を産む。
 よく言えば、民族を超えた愛、悪く言えば現地妻。千田には故国に妻がいる。
 千田の、映画における唯一のモテ男役か。めずらしい。
 しかし、日本軍は敗退、千田ら日本人は収容所に。
 子連れの高峰は、なすすべもなく、娼婦に堕ちる。
 脚本は快作「裸体」、つい最近神保町で見た「四畳半物語 娼婦しの」の監督・成沢茂昌、本職は脚本家で、後期溝口映画で、溝口健二に徹底的にしごかれたという。そういえば、大映監督・田中重雄は、確か、溝口映画の助監督経験者。ぼくの怪しげな記憶では溝口健二「雨月物語」の、超名シーン、霧の琵琶湖の湖上の、田中絹代やモリマが乗った小船、寒い時期に水に没して、その小船の操演をした助監督の一人ではないか。間違いならごめん。
 どこまでも堕ちて行く淪落の女が、最後にさびしく死んでいく溝口「西鶴一代女」の、助監督たち、脚本家の、溝口コピーであろうか。戦前清楚系アイドル女優・高峰三枝子が、堕ちていく。
  それゆえに、ヒロインが、原作者でありながら、淪落の果てに、死ななければならなかったのか。溝口を参照した結果、悪い冗談と化したのか。
 でも、まあ、甘いんだけどね。
 まあ、溝口ほど、辛口になるのは、人間として終わっているけど(笑)、溝口をなぞろうというのに、この甘さは、さすがに、どうなんだと。
 溝口の弟子たちが、無理やり「西鶴一代女」をなぞりたいための、淪落の女の死、それゆえの<原作者殺し>、原作大改編だったのか。
 高峰、若原、妻の妹である高峰を襲う殿山泰司、などがジャカルタ語をしゃべるしゃべる。
 特に殿山の泰ちゃん、長台詞の外国語を話すのに必死で、いつもの味を全然出す余裕がないのが、ひたすらおかしい。
 なお、高峰三枝子は、その全出演作中でもっとも、その巨乳のボディラインを見せた映画か。ぼくは、高峰三枝子が胸の谷間を見せているのは、初めて見たような。元清楚系アイドルの高峰が。まあ、大人の女優への脱皮なんだろうけど、それは、本作でおしまいだったのか。
 なお、ラスト近くで見せるきらきらのラメ入りドレスが、豪華。単純にして、白黒映画最大の効果を上げるきらびやかさ。
 ぼく的には、選挙戦最中に、突然、候補者の夫と外人の愛人が、かえって大混乱というような、人間喜劇を見たかった。川島か、この時期の十年後の三隅研次か。うーん。

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by mukashinoeiga | 2011-03-18 08:36 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

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