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佐分利信「慟哭」小暮実千代阿部壽美子丹阿彌谷津子三宅邦子吉川満子笠智衆飯田蝶子徳大寺伸三橋達也

 京橋にて。「よみがえる日本映画~映画保存のための特別事業費による」特集。52年、新東宝=東京プロ。
 この特集には、俳優出身の監督作が、なぜか、多い。本作もそのひとつ。
 監督第5作目。とにかく、カメラが良く動く。前進するカメラ、移動するカメラ、回り込むカメラ、それの小刻みな短いショットを連ねた編集。

 なお、★佐分利信「慟哭」昨日、上映中に★あの3.11に、ぼくが見ていた映画。そのてんまつ。

e0178641_2414026.png とにかくカメラが動く動く。映画を撮る喜びにあふれた、いかにも、微笑ましい映像の連続。ま、対象は、主演を兼ねる佐分利信なんだけどね。撮影は藤井静。
 5作目だけど、新人監督賞をあげたいような、映像への執着ぶり。まるで、早すぎた、ブライアン・デ・パルマ。ブライアン・デ・サブリか。
 特に、ヒロイン阿部壽美子が、大女優・小暮実千代の内弟子になるときの、日課表の接写ショットに、愕然とした。 日課表の文字が淡々と写されていくなか、その文字が突如二重写しで、乱舞する。おそらく、白黒反転させた文字を重ねて二重焼きしただけの素朴なものなのだろうが、数行の字が、躍りだす。踊りだす、乱舞、というのは、もちろん大げさなのだが、そのあまりに素朴な字の乱舞、もちろん乱舞という表現も大げさなのだが、その素朴な表現は、驚くに値する。
 文字の乱舞というのは、今では、CG表現の初歩的なお約束。佐分利信は、60年前に、<CG的表現>を、目指したのだ。こういう映画作家を、ぼくは、寡聞にして、知らない。ほかにも、あるいはいたのかもしれないが、60年前に、こういうセンスのあった映画作家は、なんでしょう、きわめて珍しいのではないか。とにかく、見たら、愕然とするレヴェルの、映像センスなのだ。
 映像の人・佐分利信。
 ただし、映像の人は、画面が、あるいは物語が、滑らかにつながらない。
 松竹には、ヘンな監督、ヘン監とぼくは呼んでいる監督の、系譜ならぬ系譜があるのだが、つまり、小津、吉村公三郎(フィルムセンターで4月に特集あり)、渋谷実、岩間鶴夫、鈴木清順(松竹は助監督時代のみ)という、<映像がつながらない>すくなくとも<なめらかに映像がつながらない>監督の系譜がある。佐分利もその系譜につながるのか。
 経費節約なのか、監督自身の個性が短気なのか、ショットとショットの間がなめらかに繋がらない。あるべき、コンマ・数秒の映像があれば、短いショットは、なめらかに繋がるのだが、これら松竹の監督さんは、なぜか、それを無視する(小津は、ちょっと別。違和感を、うまく、回避しているが、しかし、繋がらないものは、繋がらない。強引につなげる荒業)。結果、なめらかではないものの、ある意味きわめて快な編集となる。リズムに乗れば、とても快い。
 もちろん、佐分利の技量は、小津、清順の快には及ばないものの、とても面白い。少なくとも、渋谷実よりは、好感触。
 ストーリーのほうだが、中年劇作家・佐分利はスランプ。劇団(俳優座総出演で、おそらく低予算の映画なのに、出演者は豪華)の、大物女優小暮実千代をさしおいで、ずぶずぶの研究生の女学生・阿部壽美子の、若い娘の天然の魅力にめろめろ、小暮を主演とする企画を、阿部主演に変えるほど。
 ただし阿部壽美子は、若いながら、妙におばさん入った顔立ち。冒頭亡くなる、佐分利の妻・丹阿彌谷津子に似た顔立ち、声は千石規子っぽい。要するに、若さでカヴァーしているのだが、微妙にブスっぽい。こういうのを相手役に選ぶのが、佐分利だな。派手嫌い。
 ちょっとした役、ワンシーンくらいに顔を出すのが、吉川満子、笠智衆、飯田蝶子、徳大寺伸など、かつての戦前松竹専属役者なのが、うれしい。特に、三宅邦子など、酒場の女将役で少ないせりふはあるものの、基本的には、背後で酒食をサーヴするエキストラ扱い。こういう放置っぷりも、ぶっきらぼうな佐分利らしく、うれしい。
 彼ら彼女らの、戦前松竹以来の佐分利との共演数の膨大さを考えると、戦前松竹映画ファンから見れば、ちいさな役であればあるほど、うれしくなるのは、ファン心理から見て、ずるいぞ佐分利(笑)。
 また、俳優座の、千田是也、その他よく顔を見る俳優なども、見事にちょい役扱い。さすが、俳優出身監督の贅沢さ。伊丹十三よりは、おそらく、キャスティング能力は高いか。
 若い娘にときめく男の役なのに、全然ときめいたように見えない主演・佐分利信のぶっきらぼう演技も、味わい深い(笑)。
 そして、佐分利に、同志的愛を抱く、大女優・小暮実千代が、見事。まさに、ザ・女優。顔も演技も、圧倒的。はっきりいって、阿部壽美子や三橋達也のちゃらい演技など、問題にならないほど。
 繊細な快作。

by mukashinoeiga | 2011-03-14 00:10 | 佐分利信 サブリン人生劇場 | Trackback | Comments(0)

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