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富本壮吉「女が愛して憎むとき」

 神保町にて。「みつめていたい!若尾文子」特集。63年、大映東京。
 見始めて、すぐに、ン? 既視感あるんですけど。
 その後も、続々既視感あるシーン・エピソード。
しかし、ぼくのハチミツな記憶力では、ほぼ、新作同様に楽しめた。
 かつて、女性映画の盛んな映画会社の、ある時期の美人女優なら、必ず演じた、バーのマダムもの。若尾文子が、小規模なバーのマダムを演じる。
 女が、独立した店舗の、看板娘・兼・経営者になれるスペースの、当時としての代表格、だったのだろう。もっとも、経営者といっても、そのウラには、パパさんが、いることが多い、というのが、筋書き。
 若尾自身には、呼び屋・田宮二郎がいる。しかし、必要以上に金を要求せず、クールな関係。
 若尾文子は、意外と言うべきか、いや意外じゃない、いつもどおり、とってもクール。あの、ねっとりとした独特の声にもかかわらず、大映女優らしく、クールが似合う。歩くクール(しかし、暑苦しいときは、徹底的に暑苦しい)田宮二郎と、ベスト・カップリング。ねっとりのたくる&クールの、ふたり。
 若尾の「バー族」師匠・森光子の、パパさんは、高利貸し・若宮忠三郎。こちらも、ナイスなキャスティング。若宮、ほんの数分の出演で、きっちり、印象を残す。

 お客に夢を売る。ひょっとしたら、ひょっとして、ママさんと・・・・なんて、客のスケベ心を、いかに維持して、ぼったくるか。酒を売る以上に、妄想を売る商売。
 今回は、その酒、店に卸されていたウィスキーが、ニセものであることから、マダムの運命も狂っていく。時代だなあ。たぶん「白馬」(と、ホワイトホースを若尾は、そう呼ぶ)など洋酒の、ビンに、国産ウィスキーをつめて、高く売っていたのだろう。
 いま、中国や、韓国が、より、大規模に、よりシステマテックに、より安っぽく、やっている、ニセモノ商売の、ささやかな前例。
 こんな濃密な映画が、たったの88分。大映プログラム・ピクチャアの実力と誇り。いま、こういう映画を作ったとして、2時間越えて、はるかに、薄味、水割りの映画しか、作れないだろう。
 比較的、凡庸な監督が作ってさえ、こうなのだ。
 大映、すごすぎる。演出、演技、平常運転で、かくも、濃密。
 もちろん、大映映画の代名詞、美術の、自己主張しない、抜群の安定感。
 そこに、平然と君臨する、若尾文子。田宮二郎。

by mukashinoeiga | 2010-10-06 22:54 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)

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