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衣笠貞之助「十字路」

 京橋にて。「フィルム・コレクションに見るNFCの40年」特集。28年、衣笠映画連盟=松竹下加茂、無声、18ftp。<1955年に、ロンドンのナショナル・フィルム・アーカイブで英語版プリントが発見>とのこと。
 こちらは、完全な形で発見されたようだ。87分。
 貧しい姉妹(千早晶子、板東寿之助)が、主人公。弟は、恋焦がれる商売女とのもつれから、町の親分?を、殺した(と、実は、思い込んでいる)。狂気を帯びて、家に帰る。貧しさから、身売りを考える姉。
 同じ衣笠「狂った一頁」同様、前衛的な美術(姉妹の岐路となる十字路を、暗闇の中の白線で表わす)、繁華街の豪奢なセット、姉妹の貧しい家のリアル、などが、いま見ても、素晴らしい。
 ただ、前半の目くるめく映像美も、後半になると、いささか、息切れ状態。
 しかし、いま見て、この映画の驚異的なところは、その<前衛性>にあるのではなく、ヒロインの演技に、ある。
 サイレント特有のオーヴァーな身のこなし、身振り、つまり、若い娘が、悩めば、頭を振り乱し、がしがし、頭をかきむしる。せりふや音楽がない分、感情は全て、身振り手振り、目の動きなどでしか、表わせない。
 しかも、時代劇。その、虚構性が、彼女の身振りを、さらに高揚する(★)
 かくて、戦前日本映画の、やまとなでしこ的な女性規範、そして、日本人的なつつしみから、大巾に逸脱した、ある意味、たいへん生き生きした、女性の表情を、見せ続ける。きわめて、現代の、若い娘の表情が、規制規範だらけだったろう、1928年の、サイレント映画に実現しているのだ。
 それを極めてクリアで、能動的なカメラが捕らえていて、少なくとも、ぼくはこういう戦前日本映画を、初めて、見た気がする。
 同じ年の、同じ衣笠映画連盟=松竹下加茂の作品「風雲城史」の、さして印象に残らないヒロイン千早晶子の、生き生きした表情。やはり、同作には、商売女役の小川雪子も共演している。こちらはヴァンプ女優か、文字通りの殿毒殺の毒婦役だった。

(★)戦前映画で、女性の表情を、もっとも生き生きと捉えていたのは、<現代劇みたいな時代劇>マキノ正博「鴛鴦歌合戦」だろうか。<いい加減な時代劇>という虚構性が、当時の現代劇では、けっして実現できなかった、女性の身振りの<現代感>を実現してしまった。
◎追記◎いま(2014年12月)読み返したら、われながら「鴛鴦歌合戦」への高評価のくだりは、意味不明(笑)。 

by mukashinoeiga | 2010-08-10 21:47 | 傑作・快作の森 | Trackback | Comments(0)

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