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篠田正浩「異聞猿飛佐助」

 京橋にて。「映画監督 篠田正浩」特集。65年、松竹大船。
 篠田映画は、おおまかに二つに分類できるようだ。
 <初期の小味な佳作>と<後期の大味な駄作>だ。この、戦国動乱の世の、徳川方にも豊臣方にも両方狙われる形の(厳密に言うと少し違うのだが)架空の伝説的忍者・猿飛を主人公にした本作が、早くも<篠田後期>なのだろうか。
 とにかく、まだ多少の緊張感を残しつつ、まるきり面白くない。時代劇として、本当の後期、というか、末期の「写楽」や「梟の城」よりは面白い、というのは全然ほめ言葉にならないだろう。
 思うに、身の丈等身大の日常サスペンスが良かった初期に比べると、小状況から、大状況のドラマに移って失敗続きなのだから、身分違いの<大作>など、作らないほうが良い、いわゆる小津・成瀬タイプの資質の映画作家なのではないか。
 猿飛役の主演・高橋幸治もまたビミョー。この、お子様向けのおとぎ話のヒーローにリアル感を与えるつもりか、篠田と高橋が猿飛に付与した属性が<ハードボイルド>。もともと硬質な演技の高橋が、自社比50パーセント増しで硬質なハードボイルド演技を追求した結果、単に台詞回しが下手なだけということが露呈してしまうのだ。真相解決と称して、なんの工夫もない映像の中、延々と説明台詞をしゃべる硬質高橋幸治。イタ過ぎる。
 女優はふたり。出てきてすぐ殺されてしまう渡辺美佐子が、結構いい(笑)。ショートな時代劇的髪型のせいか、撮り方のせいか(笑)それとも出番が少ないせいか(笑)、こんなチャーミングな渡辺美佐子は初めて見た気がする(笑)。もっとも、最新作「ウルトラミラクル・ラブストーリー」ももちろん含めて(笑)<渡辺美佐子出演映画に傑作なし>をくつがえすことはまったくないのだが、そうか、時代劇ということで、<現代劇の渡辺美佐子は、なぜか、いい女、裏がある美人の悪女を演じることが多い>のだが、実は渡辺美佐子は、もろに生活感がにじみ出てしまう<庶民派>なんですね。庶民派が、生活感を感じさせてはいけない、いい女とか、美人悪女を演じることに無理があったのだ。現実感が希薄な様式美の時代劇が渡辺美佐子には優位に働いたのか、篠田とは逆に? よく、わからんが。何、たわごと言ってるんだ、俺。
 もうひとり吉村実子が、現代劇のガハハ系演技とは違って、妙に時代劇風おしとやか演技で、意外と可愛らしい(笑)。でも、だんだん馬脚を現してくるのがおかしい。
 あと、大島映画などでもいつもセットで出てくる佐藤慶・戸浦六宏、接点を感じなかったご両人なのだが、本作の佐藤はなんと<若侍風>、リップも塗っちゃって、あの侍のポニーティルはなんて言うのかな、そういうポニーティルにしているせいか、なんと戸浦と見まがう表情。この、ふたり、結構唇とか、似てたんだ! まあ、くだらない話ですね。
 あと、クレジットに麗々しく、特別出演・石原慎太郎て。ラストに数十秒ニヤニヤしているだけの、霧隠才蔵役! なんともしまらない。この人の突如出現が、ダメな落ちになって、さらに映画の価値を下げた。

by mukashinoeiga | 2010-02-25 00:20 | 篠田心中岩の下志麻 | Comments(0)

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