望月優子「海を渡る友情」水戸光子加藤嘉西村晃
朝鮮人の北朝鮮帰還事業が、50周年ということで、回顧報道が各メディアをにぎわしている。そこで思い出すのが本作。
60年、東映教育映画。北帰還事業の映画というと必ず浦山桐郎「キューポラのある町」が引き合いに出されるが、あれよりも本作の方が重要、かつ見ごたえがあるのだが、ほとんど知られていないので、紹介するしだい。
望月優子は、多くの映画に出演した女優。ぼくも、この人が出てくるだけでうれしくなる。必ず楽しませてくれる名女優だ。後に、社会党から国会議員に当選してもいる。つまり、これは当時の左翼の見解をうかがい知るには絶好のテキストなのであろう。
製作が東映教育映画からもわかるように、これは朝鮮人少年と日本人少年の間の友情の物語であるが、彼らが北に帰還する描写にも多く費やされ、しかも当時のドラマでそういうものが少ないだけに貴重なのだ。もちろん当時の習いとして、北帰還は肯定されるべく描かれている。しかし、かすかにほころびが覗くのが、リアル。
在日・西村晃は同胞に北帰還を勧める役割。はっきりと語られてはいないが、おそらく朝鮮総連の人間か。まるで保険の勧誘員のように、北帰還を勧めてまわる。
主人公の朝鮮人少年の父親が、ふと不安を漏らす。「でも、本当に北には差別はないのか。地上の楽園なのか」と。西村晃は色をなして、激怒。「お前、俺を信用しないのか!」そういう西村も北の事情を体験しているわけでもなく、同胞に勧めて回っている割には、自分も帰るという描写はない。
西村晃は映画では、せこい詐欺師、小悪党といったタイプの役柄を得意とした。だからこの映画でも、どう見ても同胞をだましにかかる詐欺師にしか見えないのが、おかしい。
新人監督・望月優子は実にしっかりした叙情を表現する。他の子がいない無人の校庭で、朝鮮と日本の少年が鉄棒をしながら語り合うシーンの繊細さ。女優出身の監督といえば、田中絹代よりセンスがあった。教育映画だから、おそらく小学校講堂あたりで上映されることを目的に作られていたのであろうが、それだけに一般上映されなかった可能性が高い。その内容と、繊細なセンスゆえ、多くの人に見てほしい映画だ。
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by mukashinoeiga | 2009-12-15 00:21 | 傑作・快作の森 | Comments(1)
後ほど書くが、今回フィルムセンターで見て、
>他の子がいない無人の校庭で、朝鮮と日本の少年が鉄棒をしながら語り合うシーンの繊細さ。
というのが、存在しないシーンでしたね。訂正します。 昔の映画