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小津漬の味2 『東京物語』東山千栄子の死因は原節子だった?

 まさに「意外な犯人」というべきではないか。原節によるセツハラ。節子の嫌がらせ。
 ここで時系列にそって、検証してみよう。

一日目    笠智衆・東山の老夫婦、熱海の旅館へ
その夜    旅館の混雑、若者たちの宵っ張りの遊びの雑音で、眠り浅し
二日目朝   前夜あまり寝られず、東山、海岸の桟橋でめまい
その午後   旅館に辟易して、長女・杉村春子の美容院に戻るが、夜七時から講習会番で「とうとう、宿無し」になる
その夕方   おじいさんは、旧友・十朱久雄を訪ね、おばあさんは、原節のアパートへ
深夜12時頃 桜むつ子の居酒屋で、笠・十朱・東野、邪険にされる。「もう12時よ、帰ってよ」と桜むつ子
深夜12時  原節のアパート。時計が12時を告げるとき、原節は東山を肩叩き。会話を交わして、やっと寝る
その深夜   笠・東野、杉村宅に帰宅。ののしられる
三日目朝   原節の出勤に合わせて、東山、アパートを出る   
その夜21時 尾道行き夜行列車に乗る
四日目    東山、列車内で体調悪化、三男の大坂志郎を頼って大阪下車


Tokyo Story (1953) [Subtitulos Español & Inglés/Spanish & English Subtitles]

◎追記◎以下の「裁判」コントは、被告はもちろん原節子検事は丹波哲郎の声音を脳内に思い浮かべて、読んでいただくと、いっそう楽しめるかと(笑)。

「つまり、被告は、前夜寝不足で、ふらふらの68歳の老婦人を、真夜中まで寝かせなかったのですね。老人虐待じゃないですか」
「いーえ。おかあさまは大変お元気で、あたくしが何度かもう、寝ましょうといっても、ちっとも眠いといった風には。前の晩睡眠不足だったなんて、あたくし、一向に」
「夜更かしのあなたに遠慮して、眠いと言い出せなかったんじゃないですか」
「いーえ。おかあさま大変お元気で。あたくし、寝不足になんてちっとも見えませんでしたわ」
「それは脚本や演出がでたらめということですか」
「いーえ。脚本などというものは、あたくし、一向に」
「会話に『夕べは音がうるそうて、ちっとも眠れんかったんよ』という話がなかったですか」
「いーえ。存じません」
「仮に前夜寝不足でないにしても、いいですか、当時の田舎の老婦人は普段、今よりももっと早く、そう遅くとも9・10時頃には床についていたのではありませんか。その上でさらに前夜は」
「異議あり。当時の田舎の老婦人の就寝時間など、何の根拠もなく、また当該老女の普段の睡眠習慣も不明で、全くの当て推量に過ぎません」
「異議を認めます」
「では、夜の夜中に、寝かせずに肩叩きをするのは、かえって老体への負担になるのではありませんか」
「異議あり。夜中に爪を切ると親の死に目に会えない、という俗諺はありますが、夜中の肩叩きは人生の肩叩き、という俗諺などありません。第一科学的根拠がありません」
「異議を認めます」
旅館での寝不足、次の夜の夜更かし、さらに三日目の夜行列車の旅、という老人にとって、体のバランスを崩すだろう強行日程が、老婦人の死期を早めたのではないですか」
「さあ、あたくし」
「異議あり。熱海行きと、尾道帰郷の計画、実行には被告は全く関与していません」
「異議を認めます」
「では。あなたの義父は、あなたのアパートには、ひとりしか泊まれない、だからお前だけ泊まれ、と義母に言いましたね。おかしいと思いませんか」
「ええ、それは、あたくしも後で聞いておかしいと思いました」
「なぜですか」
「その前にいらしたときに、あたくしの亡夫・昌二が、電車が無くなったからと、お酔いになったお友達を、この部屋に連れてきたことがあった、とおとうさまたちに言ったことがあるからです」
「つまり、ご主人のお友達が何名なのかあなたは言わなかったけれども、最小一名にしても、あなたの部屋には、あなた、ご主人、そのお友達と、最低三人は泊まれたはずだ、と。当然ご両親は知っていたはずなのに、なぜ義父は、一人しか、泊まれないから、などと」
「おかあさま、大変豊かであられて、ま、冗談ですけど(笑)」
「冗談に紛らせているけれど、あなた、その理由を知っているんじゃないですか」
「いーえ。あたくしが。どんな理由ですかしら」
「つまり義父はお酒を飲みたかったのではないですか。あなたのところに泊まってはせいぜいお銚子で一本二本。女二人は飲まない。景気が悪いことおびただしい。十朱久雄ら友人と痛飲したい。そこで、義母をあなたに押し付けた」
「はあ。ですが、それはおとうさまのお考えだったかもしれないことであって、あたくしは、一向に」
「いや、何をいいたいかというとですね、あなたと義父の間になんらかの共犯関係」
「異議あり」
「つまり、あなたの名前は紀子です。芸名は節子。本名は昌江。おお、だんなさんの名前は昌二でしたね。いや、それはともかく、『紀』『節』は『時』を意味します。そして、義父は老婦人の形見としてあなたに彼女の懐中時計を渡します。これはどういうことでしょう」
「さあ。おっしゃる意味がわかりかねます」
「普通女性から女性への形見分けに懐中時計はないんじゃないですか。欲しがるのは、あなたの義姉・杉村春子のように着物とか。貰って嬉しいですか時代遅れの懐中時計」
「ですけれど、その選択はおとうさまのもので、あたくしの希望というものでは」
「そこです。あなたと義父の間には『時』をめぐる共犯関係があるのです。なぜ、あなたが10時でなく11時でもなく、12時まで睡眠不足の義母を寝かせなかったのか」
「・・・・存じません」
「いえ、もう、あなたにも、わかっているはずです。紀子さん。なぜ『12時』なのかが」
「あ、お・・・・小や津ギャグ?」
◎追記◎もちろん、夜の12時は同時に24時であって、12も24も、小津安「二」郎にとっては、次のステージに進むべき数字、「」の倍数という、小津にとって、特別な数字なのだろうか。
(この辺の事情については、くわしくは★小津漬の味1淑女はナニを忘れても「二」は忘れない★を参照あれ)。


e0178641_1472868.jpg 説明なく平気で何日もジャンプし、あるショットの次のショットが、必ずしも次の瞬間、あるいは翌日を意味しない小津映画にあって、東京滞在中はわりと時間的に連続しているのが『東京物語』だと思う。しかしそうであっても、前夜寝不足でふらふらの東山千栄子が夜の12時まで元気に起きていたり、同じく笠智衆が12時まで痛飲していたり、まあ、それはそれで大変元気なのはいいわけですが、「通俗」リアリズムとしては、それまでの笠・東山描写に比べれば、「ちょいと」無理やりでしょう。
 しかし小津映画が、そういったある種の「通俗」リアリズムをあからさまに無視した上で、なおかつ、こういっていいのか、より高いリアルを実現してしまった、と。現実とは一味違った、謎めいた映像とたたずまいの中に、誰もが感じる平凡な日常の機微を封じ込めてしまった。奇跡としかいいようがないハイブリットな映画として。 杉村春子の店で講習会を行う、というのは老父母を「放置」するための作為である。何のための作為かというのは明らかである。
 笠智衆は男の旧友たちと痛飲し、男たちの本音を語らせるため。東山千栄子は原節と女同士の親密な会話で、姑と嫁との理想的関係を描くため。しかし、明らかに講習会は夜の数時間で終わっていて、笠が帰ってくる深夜には杉村は熟睡している。「宿無し」というのは笠の過剰な被害妄想である。
 それこそ金車亭あたりで浪曲を楽しみ、外食すれば済む話である。あるいは、強引に「宿無し」にしたのは、笠の深謀遠慮である。老妻を原節に押し付け、好きな酒を楽しむための。そして、出来れば十朱あたりの家に泊まりたいがゆえの。しかしその作戦は無様に失敗し、結局は娘の家に戻らざるをえない失態を招く。ああ無常。
 一方の老妻は、この映画にあってはある種の理想性をともに担う嫁のアパートに一夜の宿をゲット。しかし、その描写が八時九時であれば、状況的に「おかあさま、もうおねえさまのほうへお戻りになられては」的な会話が必要になってくる。それではこの二人の理想性というか、様式的な仲のよさが崩れてしまう。帰還不能点である十二時はそうして選ばれた必然であった。二人だけで仲むつまじく一夜を共にすることで、理想性は担保され、老婦人にとってこの東京旅行は、ハッピーエンドになった。たとえそれが老婦人の死期を早めてしまおうとも。
 ま、それはそれとして、『東京物語』の「彼ら」はなぜ異様なまでに「嫌われている」のか。
 桜むつ子の居酒屋での常連・東野英治郎の嫌われよう。笠など初めて連れて来た客の前で、ああののしられるのは、相当嫌われてなければ出来ないのではないか。嫌われているのに「邪険なところも女房によう似とる」と、逆にやに下がるのだから、全く、わかっていない。
 笠智衆も、酔っ払って深夜のご帰還、たった「それだけ」のことで、長女・杉村春子にひどい言われよう(まあ東野というオマケを連れて来たこともあるが)。彼女は、若い頃の父は相当酒癖が悪く「お母さんを泣かせた」という。「あたしたち、嫌でねえ」。
 東山千栄子も原節に「あんたも(夫の酒癖で)苦労した組か」と同情していた。
 その結果長男の家でも酒は振舞われた様子はないし、長女は自分の夫に、たぶん甘党で父とは違う優しい男(中村伸郎)を選んだ。杉村の笠への怒りようを見れば、彼女の家庭では、おそらく午前様など許されないのではないか。自分の言うことを聞く髪結いの亭主を夫にすべく、杉村は職業を逆算して、美容師になったのだ。もちろん逆算したのは小津と野田高梧である。
 かつての酒癖を知らない原節のみが酒を供する。
 映画の現在では仏様のような笠智衆も、若い頃は、子供たちのトラウマになるくらい、ひどい夫、父親だったのだろうか。
 そして、長男(山村總)・長女(杉村春子)・二男(なくなった昌「二」)・三男(大坂志郎)がすべて親元を離れ、当時としては尾道からかなり遠いはずの東京・横浜・大阪に散っている。次男は亡くなっているので不明だが、残りの三人は東京弁、大阪弁をマスターし、完全に尾道弁を捨てている(親に対してさえ)。まるで故郷や親を忘れたいと言うかのように。
 最後、東山が死の床についた時に一家が集まって、尾道弁、東京弁、大阪弁を、けっして混じり合わせようとしないのは、考えてみると異様である。マイルドな、流れるような脚本と、演出にだまされてしまうけれども。これは父・中村雁治郎の急を聞いて駆けつけた小早川家の面々も同様で、大阪弁・名古屋弁・東京弁が一家を飛び交う。故郷に帰っても、もはや言葉すら違う家族たちの、(少なくとも)言葉上の極端な差異。
 末っ子・香川京子(彼女が生まれた頃から、父は人が変わったようにいい人になった、と長女は証言)のみが、父にいいイメージを持っているようだ。彼女だけ地元に残り、教育長だった役人の父を受けて、小学校教師になっている。家庭内での言葉はもちろん尾道弁。
 ちなみに二十代前半と思われる(少なくとも小津ドラマのセオリーからすれば、二十四歳未満と推測される)香川京子を現在六十八歳の東山が産んだとすると、当時としては相当の高齢出産だろう。
それだけ若いころの東山がタフだったのかも知れず、だからその老後は思いのほかあっけなかったとも取れるが、意外や意外(ここから妄想モード)、東山は香川を「産んで」はいないという、隠し設定があるのかもしれない。
当時立派に物心がついていた兄・姉たちは、その父を嫌って、尾道から遠く離れたのだ! 老父母にもっとも親身であったのが、二男の嫁・原節(という非血縁者)であるなら、実子の中で最も老父母に尽くす末っ子が、実は異母兄妹であるというのも、平仄が合っているのではないか?? しかし、家族たちの間では、心優しい香川に配慮して、あるいは教育長であった父の世間体に配慮して、だんまりを決め込んでいるのだ。そういう妄想モードでこの映画を見直してみると、ラスト、非血縁者の原節と香川京子が仲良く手を取り合い、東京に遊びに来てね、行くわ、という会話が、別の意味合いを帯びてくる。
汽車で尾道をあとにする原節、それを見送りたいけれど教室で子供たちを教えざるを得ない香川のカットバック、別の哀切が見えてはこないか(見えるのは、私だけか)。
 あるいはより現実的に考えると、東山に高齢出産をさせた父に、それなりに大きくなった兄・姉たちが嫌悪を感じて故郷や親を離れていったのだろうか。なんせ、昔は年をとってから出来た子供を「恥かきっ子」と称していたくらいだし。 
 親を邪険にする子供たちに世の無常を見る、というのが『東京物語』に関する一般評だけれど、邪険にされるにはされるだけの理由が父にある。かつての「悪行」を体験していない末娘と嫁だけが、父に優しい。
 笠・東野は嫌われ者として昔からの類・友なのだろうか。ぼくの狭い見聞からしても、嫌われ者同士は、結構仲がいいのだ。
 少なくとも馴染みの居酒屋の女将に邪険にされることは、世の無常、親子の断絶とは全く関係ないことのはずであるのだから。桜むつ子は、しゃれや冗談ではなく、あからさまに東野を嫌っていたように見える。

Cuentos de Tokio - Tokyo monogatari - Voyage a Tokyo - Tokyo Story - Yasujiro Ozu - 1953



by mukashinoeiga | 2009-07-19 11:08 | 小津安二郎映画の正体小津漬の味 | Trackback(20) | Comments(0)

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