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小津安二郎「宗方姉妹」

 前にミュリエル・バルベリの小説「優雅なハリネズミ」を読んだ際、この女性フランス人著者が、数ある小津映画の中から、特に「宗方姉妹」をフィーチャーしているのを見て、頭の中に?マーク。「宗方姉妹」は、特に高峰秀子のぶりっ子演技が鼻について、とにかく見苦しかった記憶がある。どすの聞いた低音の声で、顔も若いころから大人の美人顔、つまり幼い愛らしさが徹底的に似合わない人で、しかも頭のよい人が、いやいや、無理してぶりっ子演技をしている暑苦しさが感じられたもので。高峰秀子がまた、演技がうまくて、100パーの演技力で、ぶりっ子を完全カバーしているのだから、暑苦しささらに二倍増し。
 しかし、著者の「宗方姉妹」への思い入れに突き動かされて(笑)DVDにて、再見いたしました。
 <そういうもの>と、覚悟を決めて、見てみると、デコちゃんの演技も、そうは苦にならない(笑)。むしろ、これは日本の女優さんではなくて、フランスあたりの女優演技なのだ、と思い込むと、まったく苦にならない(笑)。デコの役は、上原謙の仕事が「かぐや」ということが何のことかわからず、むしろ「ファニチャー」と考えるとわかる<日本語より英語のほうがわかる娘>(笠智衆の言)だし、そういう笠も山村總も英字やドイツ語を読んでいる。上原もフランスへ長期赴任しているし、小津戦後の映画では、最も欧米よりの映画で登場人物についても、フランス人に親しみやすかろう人ばかりの小津映画だ。そして、ストーリーは、成就しなかった恋のカップルが再会して、やけぼっくいになるかならないかの、フランス映画お得意のアムールな展開。見合いがどうしたとか、自分の結婚より親を優先するだとか、他の小津映画の話は、あんまり欧米人にはぴんと来ないこともあるだろうし。
 上原謙がやはり、すばらしい。「淑女は何を忘れたか」の、ほんのゲスト出演を除いて、同じ松竹でありながら、小津映画にはついぞ出演なく、時は流れて新東宝で初の本格出演。しゃべりも小津調の束縛からまったく自由で、上原本来のさわやか好青年の見本みたいなすばらしさ。このフランス帰りの青年実業家と、美老人・笠の合体した姿が「優雅なハリネズミ」の日本人紳士・オヅさんなのかも。と、すると、長女・田中絹代が女管理人ルネに、次女高峰秀子がパロマに発展したのだろうか。さすがに、フランス人にはデコ演技がぶりっ子過ぎて、パロマは13歳という設定になったと。
 山村・田中の家は猫がぞろぞろ、多頭飼いだが、これもバルべりの猫好きには、フィットしたのだろうし。そして、バルべりの<少女まんが脳>から、この映画を見てみると、絹代とデコの姉妹、その父、上原、上原のガールフレンド高杉早苗の立ち位置、関係は、ほとんどそのままで、きわめて少女漫画的ですらある。なんと小津映画が少女漫画そのままの展開をするのだ。そういう視点で見てみると、「宗方姉妹」なかなか快作に見えてきた(笑)。これは、これで、すばらしいぞ、と。小原譲二の撮影は、DVDで見てさえ、美しいし。
 そして出演者、絹代、デコ、上原、高杉早苗、堀雄二、斎藤達雄、坪内美子、河村黎吉、みんなみんな戦前松竹おなじみの面々であり、戦後松竹を離れて、あるいは他社専属やフリーになったものばかり。現役の松竹専属・笠を加えて、これはもはや、本家松竹ですら実現しない、幻の松竹映画そのものではありませんか。みんな、帰らぬ夢なのよ。冒頭の斎藤達雄教授が可笑しい。落語の枕的な登場も面白いし、小津調のしゃべり方が妙にぎこちないのも可笑しい。
 非・松竹組で、藤原釜足はいつもの感じ。安居酒屋の千石規子、この人は若いころからひねたおばさん役の人だが、ここでは珍しく、ひねた若い女の役。柄の悪い、トウの立った女だが、若い女は若い女で。絹代・デコ姉妹が退屈そうに店にいて、客にほとんど愛想を振りまかないバーに比べたら、わたしゃ、こっちのほうがいいわな断然。

 なお、ネットをうろついているときに目に付いたのが「優雅なハリネズミ」本国で映画化、7月公開、とのこと。予告も見たが、日本受けは、本に比べて、いまいちかな。

by mukashinoeiga | 2009-07-18 05:35 | 小津安二郎映画の正体小津漬の味 | Trackback | Comments(0)

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