千葉泰樹「杉狂の催眠術」

 京橋にて。「発掘された映画たち2009」の「バン・コレクション2」より。
 38年、日活多摩川・67分
 サトウ・ハチロー原作、古賀政男音楽は同じ、こちらは完全版。杉狂はサイトウ・八チローなる人気歌手。前半学生生活、後半の歌手人生と恩師との再会が軸になる。
 その恩師と路上で再会するシーンの、トリッキーなシークエンスがこの映画のクライマックス。実は、その前日これまた偶然再会した恩師の娘から、父は死んでいる、と偽りを聞かされていたものだから、幽霊かと勘違い、恩師の足元に目をやつつつ(足は当然ある)後じさりする杉狂と、悠然?と彼のほうへ向かいつつある恩師との切り替えしが最高に可笑しい。
 恩師役に眼光鋭い山本禮三郎。納得。
恩師の娘に村田知栄子。戦後、意地の悪いおばさんや、親切なおばさんなど、多数のおばさん役の彼女だが、ぼくが見た最若年。でも、若い娘でも、華はない。地味なおばさん顔だ。
 今回発掘された千葉作品二作は、いずれも佳作といってよい。お得でした。
 同時上映は、白井戦太郎「赤尾の林蔵」(37年・大都映画・43分無声20fps・不完全)。杉山昌三九主演のやくざものだが、まあまあ。ただ、70年前の平凡品も、今見ると新鮮な部分もあり。これだからOLD映画はやめられない。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:20 | 千葉泰樹 ヤスキ節の愉しさ | Trackback | Comments(0)

吉村操「罪はいづこに」


 京橋にて。「発掘された映画たち2009」の「バン・コレクション1」より。
 34年・大都映画・23分無声24fps・不完全
 夫が人を殺して、逮捕される。残された妻は、幼子を抱えて失踪。観光船に乗り、幼子を海に落とす。警察に捕まると、「人殺しの子という汚名が一生ついて回る。そんな子が不憫で」殺したと自供し、数年の刑に服す。出所後、出身地に戻り、恩師の私塾で教師となる。実は、彼女は恩師と計り、子供を殺したふりで、 その子はまったくの別人として、恩師の世話でさる裕福な家庭の養子となっている。この計画を完璧にするため、人形を海に落とし、きちんと実刑判決を受け、だから彼女の子は法律上は死亡している。人殺しの子の汚名を消滅させたのだ。
 成長したわが子を一目、陰ながらでも見たいと願う彼女に、恩師は二度と会わないという約束で、篤志家に子を預けたのだ、その覚悟があって、この「犯罪」を手がけたのではないか、とさとす。涙ぐむヒロインと、もらい泣きする恩師の家族。
 私塾の教師として平穏な日が続く。出所後監察の刑事が尋ねてくるも、彼女はちゃんと更正している、という恩師の言葉にうなづき、帰っていく。
 「事件」から十年後、恩師は彼女に言う。「ある家庭」から住み込みの家庭教師の口を頼まれた。そこの家の「小学生の女の子」の教育・しつけをしてほしい。ただし、あくまで「家庭教師」としてのみ、その子と接するのだぞ。
 その家に赴任し、やさしい子に成長した女の子と初対面のやり取り、で映画は突然途切れる。この映画も後半部分を欠いて発掘された。
 実の母子と名乗れず苦悩するヒロインの展開が予想される典型的母メロだが、なかなかしっかりしているる。トリッキーな仕掛けがうまくメロドラマと融合しているのだ。ヒロインは当時の美人女優佐久間妙子。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:19 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

千葉泰樹「母校の花形」

 京橋にて。「発掘された映画たち2009」の「バン・コレクション1」より。
 37年、日活多摩川・44分・不完全
 「下町ダウンタウン」「二人の息子」「大番」シリーズの千葉泰樹、戦前作品。ただし、後半部分(大団円のみ?)は失われている。が、お定まりの青春コメディなので、後半の展開は容易に想像できる。そして、前半だけでもとても楽しい。
 当時のコメディアン杉狂児(今では絶対TVにかけられない芸名)が大学ラグビー部の万年補欠兼マネージャー。お情けで練習に参加させてはもらえるが、絶対に試合に出られない。むしろ部員の合宿所のまかない係として、みんなの人気者。ところがキャプテンの妹が借金のかたに芸者に売られると聞き、部の食費を流用し、助ける。妹は別に相手がいるので、杉狂、まったく色恋抜きで横領してしまう。とたんに、部の食事が貧弱になり、部員はブーブー、肉を食わせろとうるさい。そこで肉屋で御用聞きのアルバイト。「アルバイト料は要りません。その分の肉を毎日、現物支給してください」肉屋の主人「なんだかよくわからんが、そうしよう」泣かせるバイトだねえ。みんなが練習している間に肉を調達、夕飯に間に合わせる、自転車で各家庭を回る御用聞きの、まさしく自転車操業だ。
 いよいよ部の大学対抗試合。その間も彼は試合の中継を街頭ラジオで聞きつつ、御用聞き。キャプテンの活躍もあり、万年負けチームが、初めて勝つ。御用聞きも忘れて、杉狂、大熱狂。店に帰ると、「どこで油を売っていた。遅いじゃないか。ところで大口の注文があった、何でも大学の先生のうちで祝勝会があるそうだ。早速肉を届けてこい」。ここでええっ、という顔の杉狂。実は肉調達のアルバイトはみんなに内緒だったのだ。今日の試合でも、杉狂は何で来ないんだ、とキャプテンも不審がっていたばかり。先生のうちへ行けば、ばれてしまう、という表情の杉狂、ここで映画は唐突に途切れる。
 トーキー初期にあって、杉狂のコメディ演技はいささかサイレントっぽいのはやむをえないか。
 サトウ・ハチロー原作、小国英雄ほか脚本、古賀政男音楽の、快調な一篇の、その半分だけでも見れたのは幸せであった。フィルムセンターの発掘映画特集は、発掘したはいいが、詰まらんもの多数、で、だんだん客数が減っているようだけど、こんな掘り出し物があるから、侮れない。若々しい千葉のセンスはうれしい。
 なお、戦後大映の名脇役の一人としておなじみの潮万太郎が、若い気のいい郵便配達夫として登場。顔も何もかもまったく変わらない姿で、うれしくなる。コメディリリーフとして、大学応援団の団長。太った体に例の羽織袴のコスチューム。ラグビー部が勝てないばかりに?卒業を延ばしている万年落第生。今年は勝って俺を卒業させてくれよ、という彼だが、応援団長なのに、なぜかどもり。こういう細かさも含めて、千葉センスよろしい。
 同時上映は、短編歌謡ショー映画二編とドラマ一篇「罪はいづこに」。
 「スクリーン・アトラクション 愛染二重奏 オシドリヒット歌集」(40年頃・朝日映画・19分)の、センスよいアニメと、歌手出演のMTV風?実写映像をスクリーンで流し、そのスクリーンの前で当時の人気歌手に歌わせる趣向は楽しい。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:18 | 千葉泰樹 ヤスキ節の愉しさ | Trackback | Comments(0)

大庭秀雄「黒い花粉」

 神保町にて。「松竹の女優たち」特集。58年・松竹。
 深夜重役の娘有馬稲子が電話に出ると、父の部下から。唐突に結婚してくれという。娘が断ると、その直後東京駅のホームで飛び込み自殺(実は会社の金を横領していて、重役の娘と結婚すれば何とかごまかせると踏んでいた)。飛び込みを目撃した佐田啓二は、警察に事情聴取される。知らせを聞いた有馬がやってくる。実は伊豆に行こうとして東京駅に行ったのに、あなたの会社の人が自殺したから、この深夜で、伊豆に行けなくなったのだ、と事情を話すと、娘は「私の父が伊豆の別荘にいる。これからこの事故の報告に車を飛ばすが、では、あなたも一緒にどうか」とすすめる。二人は早朝伊豆に着き、佐田は旅館の前で別れる。有馬の父・笠智衆は愛人との別荘暮らし。一応部下の自殺を報告するが、愛人との家だけに早々に立ち去る。そして、妙に気になった佐田の宿に向かう・・・・。
 一方佐田が伊豆に来たのは、会社の部下の女事務員・杉田弘子が男と心中を図ったからだ。相手の男は逃げ、杉田のみ薬を飲んだが命は助かった。病院に杉田を見舞うと、ついている看護婦がおしゃべり好き。「このひと、うわごとで××、××って男の名前をしきりに呼ぶのよ。ところが心中相手の名前と違うのよ。近頃の若い女は大胆よねえ。××って、あなた、知らない?」憮然たる面持ちで「いやあ・・・・知りませんな」と佐田。そこへ杉田の母がきて「あらあ、××さん、わざわざお見舞いありがとね」目を白黒の看護婦。
 ということで、船橋聖一原作の、出たとこ勝負メロドラマはじまりはじまり~。だが、これ以後の展開は典型的松竹メロの一本というべきで、なんと言うこともない。まあ、この種の役回りはモリマならぴったりで、佐田にはいささか荷が重すぎるというところ(ここで誤解してほしくないのは、これが同時代の映画なら腹が立つが、なんせOLD映画、ぼくは結構楽しんでいるのだ)。
 しかし、ぼくは別のところに目が釘付け。実は窓口でチケットを買ったあと、すぐ続いて年配の客が来た。これが、昔の映画のことなどまったく知らないだろう受付嬢に大声で自慢話をするタイプ。
「いや、今日映画を見に来たのは、この映画に関心があるから見に来たわけじゃないんだ。杉田かおるって、いるでしょ、杉田かおる、彼女の母親が出ているから見に来たんだ、杉田弘子って言う女優」
 受付嬢二人は「はあ?」顔。この老人と違って、リアリストの私は100パーの自信を持って言うが、この受付嬢たち、杉田かおるは知っていようが、断言する、杉田弘子のことなんかちぃとも知らないのだろう。それにこの老人だって、映画そのものに関心はない、と公言するくらいだから、「確認」するまで杉田弘子の顔も知らないと見た。
 ぼくは映画を見ている間、映画そっちのけでもう杉田弘子の顔に釘付け(笑)。たっ、確かに似ている。いや、もう瓜二つ、生き写しだ。石立鉄男が「ちい・ぼ・お~」と呼んだころは似ても似つかないが、今TVに出ている彼女ははっきりと杉田弘子の生き写しといっていい。そうか、かつて、男に食い物にされる薄幸の女を演じ続けた1950年代松竹の二線級女優杉田弘子(強烈ではないにしろ、そこはかとなく映画的魅力を振りまいていた)と、男を食いちぎる杉田かおるはこんな形でつながっていたのか、と実感するには充分であった。
 この話を別の折りに神保町で映画を見たあと、日本映画の俳優に異常に詳しいP氏に話すと、「確かに似てるけど・・・・」と鼻で笑われてしまいました。似てるどころか、クリソツだって。その後ネットで検索した限りは、杉田弘子の満足な写真すら見つけ出せず、なんか出てきた写真も妙に別人ぽい。その代わり現代のTVタレント杉田かおるの話はいっぱい。母娘で飲みに行ったら、実の娘の前で母が若い男を誘惑して、娘が怒ったエピソードとか。しかし、母の名前や、元女優だった話は見つけられなかった。
 考えて見れば、1950年代松竹で淪落の女専門二線級の、忘れられた女優(一番メジャーな映画は小津の「早春」でちらちらと映るくらい)の娘であることは、70年代のTVホーム・コメディの人気子役にとっては何のメリットでもないことだろう。杉田弘子って、あなた、知らない?と聞かれたら、杉田かおるは佐田啓二みたいに憮然たる顔を見せるのだろうか。
 このあと阿佐ヶ谷で「三人姉妹」というホームドラマを見たら、健全な家庭の長女・杉田弘子が柄に合っていなくて、妙に居心地が悪そうに見えた。そのせいか、そんなに似ていない気もしてきた(笑)。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:13 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

中村登「女の橋」

 「嵯峨三智子」阿佐ヶ谷モーニング特集にて。61年松竹京都。
 バツイチの芸者、という適役のサガミチが、まじめな浮気者・田村高広との腐れ縁人生。ま、特に云々する映画では。よくある風俗映画のひとつ。
 う、む、そうか。サガミチとは、風俗映画クイーンだったのね。日本映画全盛期にはやたらと作られた、有象無象の風俗映画、いわゆる<女のサガ>を描く映画にぴったりだったのだ嵯峨三智子は。女のサガ女優、女のミチ女優、サガミチ。
 この特集、既見の二作、内田吐夢のまじめな珍作「恋や恋なすな恋」、成沢昌茂が師匠溝口健二に挑戦した風俗映画「裸体」をのぞいて、計四作を見る。渡部邦男「天下御免」(森美樹とのコンビ)は見れず、番匠義影「浮気のすすめ 女の裏窓」(伴淳とのコンビ?)は、乗っていた中央線各駅が、なんと東中野でほんの数両前で人身事故、開映までに阿佐ヶ谷につけないので断念、快速に乗ってればよかった、こういうこともあるんだねえ中央線。
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# by mukashinoeiga | 2009-07-12 21:11 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)