2010年 06月 10日 ( 1 )

市川崑「ラッキーさん」

 神保町にて。「喜劇映画パラダイス」特集。52年・東宝。
 膨大な量の、定食プログラム・ピクチャア東宝サラリーマン喜劇の原点である「三等重役」、そのまた先駆けであるのが、本作。
 原作は源氏鶏太「ホープさん」「三等重役」。原作が同じなので、映画版「三等重役」と重なるエピソードも多い。
e0178641_2292631.jpg 主演は社長秘書に抜擢された「ラッキーさん」こと小林桂樹。秘書同僚に島崎雪子。
 社長は、もちろん、河村黎吉。戦前松竹の映画を見ると、見る映画、見る映画に、ほとんど必ず、出ているレイキチ。
 その、独特の、間合いといいますか、ふつうなら、そこで区切らないだろう、と言うところで、せりふを区切って、しゃべる。ある意味、とつとつとしたクサいしゃべりかたで、間合いも、ゆっくりなのだが、なおかつ早口である江戸弁とマッチした、絶妙な話法。戦後の森繁節に匹敵する、絶にして妙なるレイキチ節なのだ。
 ところが、本作では、その個性的な間合いを封じて、滑らかなしゃべり、あまつさえ、各登場シーン(秘書の桂樹にドアをノックされたときなど)必ず、声が裏返る、新手を繰り出す。見たことも、聞いたこともない、河村黎吉で。おそらく、役者にはすべからく早口を要求して、従来のもっさりした日本映画のイメージを刷新したかった市川崑の要求に従った、新機軸の河村黎吉演技かと。まあ、戦前の黎吉節になじんだ当方としては、この東宝の振る舞いには、異議申し立てをしたいくらいだが。
 いっぽう小林桂樹、その後輩の小泉博の演技は、後の定食番組における、自身のパターン化された演技に比べれば、はるかに生硬で、生々しく、リアル。この映画が、定食でないことを如実に示す。美しい。
 まだ、アイドル女優だった頃の、杉葉子が、桂樹を誘惑して、島崎雪子をはらはらさせるマリッジ・ブルー娘を好演する。その父の、パージされた元社長は、この人でなけりゃあ、の小川虎之助。
 笑えるのは、定年間近の平社員、なのに、やけにカンロクがある、ということで、冠婚葬祭の社長名代で、河村黎吉の代わりに駆けずり回るのが、斎藤達雄。黎吉に劣らぬ、戦前松竹の名物脇役で。この二人、社用の命を伝える桂樹を介しているだけなので、直接共演のシーンがないのが、なにやらかなしく、おかしい。
 最後も、桂樹と島崎雪子がハッピーエンドというわけでもなく、ビミョーに終わる、低温体質。これが後々、河村黎吉戦後系というべき、森繁社長、桂樹秘書室長の「社長」シリーズに変化するというのだから、面白い。
 市川崑映画ならでは。伊藤雄之助が、一応二枚目役。河村黎吉・沢村貞子の両親に勧められて、杉葉子の美容室で、きついパーマをかけられる。昔ながらのパーマ用のおかまをかぶせられて、珍妙な伊藤雄之助。
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by mukashinoeiga | 2010-06-10 23:25 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)