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田坂具隆「爆音」小杉勇轟夕起子花柳小菊片山明彦吉田一子

 楽しい田園コメディ。ただしクライマックスが、明らかに過剰に長すぎる(笑)。そういえば小杉勇が自転車で村内を走り回る中盤も長すぎる(笑)。たった90分弱の映画なのに(笑)。
田坂具隆「爆音」小杉勇轟夕起子花柳小菊片山明彦吉田一子_e0178641_7363065.jpg とにかく延々延々の繰り返し描写が多すぎる。田坂具隆下手すぎ(笑)。見ていて閉口。
 阿佐ヶ谷にて。「昭和の銀幕に輝くヒロイン 第86弾 轟夕起子」モーニング特集。39年、日活多摩川。8月23日(水)〜26日(土)/30日(水)〜9月2日(土)上映中。フィルムセンター以来の再見。

 ただし轟夕起子は、大変愛らしい。もと宝塚女優らしく歌も披露。
 いつもクサさマックスの父親役小杉勇も、相変わらず鼻につく、くどい演技だが、なーに珍獣演技と思えば、愛らしい(笑)。

爆音 1939年(S14)/日活多摩川/白黒/84分 ※16mm (ラピュタ阿佐ヶ谷HPより)
■監督:田坂具隆/原作・脚色:伊藤章三/撮影:伊佐山三郎、気賀靖吾、相坂操一/美術:梶芳朗/音楽:中川栄三
■出演:小杉勇、吉田一子、片山明彦、花柳小菊
村民の献金で作られた戦闘機が、お披露目で故郷の上空を飛行する!大喜びの村長は、このニュースを村中に伝えて回るのだった。戦意高揚映画ながら、平和な田舎の善良な人々の姿を、田坂監督がヒューマンに描く。轟夕起子は、上品だがお転婆な一面もある村長の娘を好演。轟の生地の良さが存分に発揮された田園抒情編。

 さて、上記の解説には、おおむね二つの「誤り」があるように思う。
 まず村民の献金で作られた戦闘機というが、映画の中で轟が「あたしたち130万県民が献納した飛行機」という。確かに一小村民たちの献金で飛行機(映画の飛行機はとても戦闘機には見えない民間機仕様と思われるが)は、買えまい。
 ちなみに余談だが、蓮舫の祖母は、個人で帝国海軍に戦闘機二機を献納した富豪、蓮舫の父親も国会で疑惑を追及された政商、の祖母と父親を持つ蓮舫が、台湾に膨大な隠し財産、つまり脱税物件を持っている可能性は、蓋然性としてかなり、高いのでは(笑)。
 冒頭、轟夕起子と花柳小菊の親友二人が乗るバスのボディに土田温泉の字があり、これは岐阜県のことなのか。もっとも土田温泉でググってみれば、この地味な温泉名は、商業的に隠蔽されている模様。

 二つ目の「誤り」は、主観的なものだが、戦意高揚映画というレッテル張り。あるいは国策映画という、意図的なネーミングもある。
 映画は、常にその時代時代のエートスに寄り添った、きわめてジャーナリスティックな存在でもあった。
 時代のトレンドというビッグウェーヴに乗っかった方が、ヒット率は格段に向上する。

 その時代一番二番の人気アイドルを出演させ、その時代の一番な、あるいは二番な、潮流を具現化させ、またネクストバッターサークルにいる次世代人気者ないし事案をピックアップしてきて、その人気の顕現化に努めた。
 という観点から見ると、この映画紹介者の戦意高揚映画というレッテル張りは、無自覚とはいえ、極めて悪質である。
 この時代の一番の社会的トレンドは戦争であろう。
 各家庭でも、一番の話題は、その家族の男子の出征であろう。
 その時代一番の話題をテーマにして、映画をヒットさせるに何の不思議もない、なのにこの時代のみ、なぜヘンなレッテル張りを後付けでするのか。
 戦争を煽りに煽って部数を伸ばした朝日新聞を戦意高揚新聞といってるか。
 植木等らのサラリーマン喜劇を高度成長高揚映画といってるか。
 森田芳光映画、伊丹十三映画のいくつかをバブル高揚映画といってるか。

 ちなみに田坂具隆「爆音」で検索すると、

nanashima0122‏
先週『爆音』(1939/田坂具隆)を鑑賞。爆音というタイトルからは想像できない程、のどかな田舎が舞台。村長さんの息子が飛行兵で、村の上空を演習で飛ぶ
というので、村中の人が楽しみに空を見上げる一日。妹の轟夕起子が明るくてお茶目。それが今の目で見ると怖い映画に見えてくる…9:03 - 2012年8月20日(以上引用終わり)

 これなんかも今の時代のエートスに逆に毒されていますな。ただし映画ファンとしては、この件に関して、たぶんnanashima0122とは若干違う気分的違和感があるので、それについては後述する。

 映画は、常にその時代のエートスに寄り添った、きわめてジャーナリスティックな存在でもあった。ちょうどいまのTVが視聴率が取れるからという理由で、安倍首相に全く罪がないのに、連日連月モリカケ問題を煽っているように。
 なのに戦意高揚映画だけが、悪質なレッテルを張られ、このような多少下手な、しかし愛嬌ある田園コメディ映画にさえも、戦意高揚映画扱いされ、製作から約80年後の今日まで非難されている。凡庸な紋切り型のレッテル張りに、ぼくたちは、いつまで付き合わねばならないのか。
 これは戦意高揚映画というレッテルを張られているが、それは後付けの偏見であり、いつの時代にもあった、その時代特有のトレンディドラマなのだ。それ以上でもそれ以下でもない。
 その時代に所与された社会的トレンドに、素直に寄り添う、それはいつの時代にも、あることなのに。

田坂具隆「爆音」小杉勇轟夕起子花柳小菊片山明彦吉田一子_e0178641_738456.jpg 映画の中身に戻ろう。
 冒頭のバス目線の縦方向への移動キャメラ、全編にわたっていささか執拗に繰り返される横移動、その性急さ、あまりにしつこい飛行機描写に、若い監督の映画的発情があからさまであり、チョイと老人には、きついっす(笑)。
 ひょっとして、トーキーの秒24コマ時代になっても、助監督時代の無声映画仕様を引きずって秒16コマとか、そういう感覚?
 あるいはのんびりとすべき田園コメディを撮らざるを得ない、若い意欲的な監督が、ぬるま湯停滞田園ドラマは絶対に撮らない、という意志か。
 とにかく轟夕起子は、田園地帯なのに、まるで都会のモダンガアルのようにテキパキテキパキ歩き、小杉勇は老人役にしてはアッと驚く自転車小川墜落アクション事案を平然とこなし、生ぬるい田園ドラマの規範を破っていく。

 一方中国でも台湾でもインドでもメキシコでも世界中の田園ドラマのお約束として、鳥や豚やアヒルたち家畜のクローズアップ、ないし擬人化の描写も豊かだ。豚がしゃべる最高のギャグもある。
 もっともしゃべるといえば、花柳小菊が独習している謎の言語がフランス語ということにされているが、ちっともフランス語に聞こえない(笑)。

 前に書いた、若干違う気分的違和感とは、クライマックスの延々たるアクロバット飛行だ。
 長すぎる。軍人があんなアクロバット飛行をするか。
 個人的には、村民挙げて期待した、上空通過は、まあ数分あったとしても、意外にあっさり機影は遠くに去り、皆少しがっかり、という描写が、望しかった。
 それをあんなにしつこく華麗なアクロバット飛行。
 小杉勇も、妻吉田一子も、娘たち、轟と、轟の兄(機内の中尉)の許嫁・花柳も、ハラハラドキドキ。
 映画を見ている方も、偽りの墜落の予感満載で。
 この描写は、戦意高揚とは真逆の効果があるのでは。その前の父親の小川墜落自転車の描写と合わせて、あるいは戦意失墜を意図しているのかも。うーん。

 なお轟の中学生の弟に、達者な名子役・片山明彦、のちに実父島耕二と轟が再婚したために、轟の実の義理の息子(といういい方もヘンだが)になるのは、また別の話。

田坂具隆「爆音」小杉勇轟夕起子花柳小菊片山明彦吉田一子_e0178641_7375732.jpg昭和モダン好きというブログより(写真も)
 1939(昭和14)年発行の雑誌「映画之友」一月號の雑誌記事より「『爆音』信州ロケを見る」です。手前が小杉勇(1904-1983)さん、その後ろが田坂具隆(1902-1974)さんです。小杉勇さんは石巻商業学校卒業後、日本橋白木屋デパートに就職しますが、1923(大正12)年に日本俳優学校設立とともに入学し、1925(大正14)年に日活京都に入社しスターとなります。戦後は映画監督に転身しました。田坂具隆さんは広島県の生まれ、京都の旧制第三高校を経済的事情のため中退した後、新聞記者を経て1924(大正13)年、日活大将軍撮影所に助監督として入社しました。昭和13(1938)年には「五人の斥候兵」で、昭和14(1939)年には「土と兵隊」でヴェネツィア国際映画祭で連続受賞しました。終戦直前召集された広島で原爆に遭い、その経験が戦後の作品に影響を与えたと言われています。(以上引用終わり)

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by mukashinoeiga | 2017-08-27 07:38 | 旧作日本映画感想文 | Comments(2)

Commented by 御邪魔ビンラディン at 2017-09-02 01:46 x
この映画は、むかし、たしかams三軒茶屋で見てたるかった印象があったので、今回はパスしましたが、これが「戦意高揚映画」であった日には、「五人の斥候兵」も、成瀬の「まごころ」や石田民三の「花つみ日記」や木下惠介の「陸軍」のラストシーンも、「戦意高揚」の形容詞で括られかねんですな。これが、すべてのヤクザ映画を暴力団讃美のプロパガンダと決めつけるに等しい愚行であることは申すまでもありません。

ちなみに、花柳小菊の独習するフランス語は、あくまでも動詞の変化表を一人称、二人称、三人称という具合に続けて発音して練習してるだけなので、これはフランス語に聞こえなくても問題はありませんね。ちょっと不確かになった記憶で言うと、たしか英語のhaveにあたるavoir動詞の変化の練習だったように思います。このあたりは、「こ・き・く・くる・くれ・こ」が日本語に聞こえないのと同様の事情です。
Commented by mukashinoeiga at 2017-09-03 00:13
田坂具隆「爆音」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 そもそも「戦意高揚映画」というレッテルを張られた映画を見て、一度も戦意は高揚した覚えがありません(笑)。みんな戦意は沈むばかり。
 むしろ島津昇一「殴り込み艦隊」や「零戦黒雲一家」あたりのほうが戦意は高揚するのでは。
 サヨク諸君や朝日は、この100年間、延々と見当ちがいのレッテル張りばかり。
 フランス語に関しては、全くの無知をさらしてしまったようですね。   昔の映画
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