中島貞夫「狂った野獣」渡瀨恒彦ピラニア軍団あるいはりりィ星野じゅんモンダイ

低予算速成映画の鏡というべきか。それともこういう映画こそ、ハリウッド並みとはいかなかろうが、予算と時間をかけるべきなのに。うーん。勢いだけで作ってしまう点では快作といえよう。
 京橋にて「特集・逝ける映画人を偲んで 2015-2016」。76年、東映京都。
 まずはりりィモンダイであるが。ぼくは彼女の出演を確認できなかった(笑)。確かにラジオパーソナリティ役の笑福亭鶴瓶(これが映画初出演とか。まだ髪の毛がアフロでふさふさふさふさ(笑)していたころ)のアシスタントで女の子が数十秒出てくるが、これがりりィとも思えない。それともこれがりりィなのか。

e0178641_8353178.jpg38狂った野獣(77分・35mm・カラー) (フィルムセンターHPより)
1976(東映京都)(脚) 大原清秀(出)りりィ(監・脚)中島貞夫(脚)関本郁夫(撮)塚越堅二(美)森田和雄(音)広瀬健次郎(出)渡瀨恒彦、星野じゅん、川谷拓三、室田日出男、橘麻紀、片桐竜次、荒木雅子、中川三穂子、松本泰郎、野口貴史、三浦徳子、志賀勝、三上寛、笑福亭鶴瓶
宝石強盗が逃亡しようと乗ったバスに別の銀行強盗未遂犯が飛び込み、人質となった13人の乗客も、やがてそれぞれのエゴをむき出しにして車内を混乱に陥れる。しかも運転手には心筋梗塞の持病があり…。走り続けるバスという閉鎖空間で複数の人物が入り乱れ、物語を波状的に混乱・脱臼させていくさまは、正に中島貞夫作品の真骨頂。共同脚本の大原清秀は、東映作品やテレビで活躍した。りりィはDJの役で出演。(文字変色が追悼対象の方)

 ムーヴィーウォーカー、ウィキペディアなどいくつかのネット系データベースでは、鶴瓶の名前はあるが、りりィの名前は、ない。特にムーヴィーウォーカーでは、主演の渡瀬を差し置いて(笑)、脇役も脇役の鶴瓶の名前が、なぜか最初に出てくるのは、なぜか。
 あくまで推測だが当初りりィがキャスティングされ、各種データの元ネタ・キネ旬にも載ったが、スケジュールの都合か、ネクラ歌手のイメージか、この映画のティストに合わないと、鶴瓶に変更されたのか。
 それともやはり鶴瓶のアシスタントが、ぼくには同定できなかったが、りりィなのか。だとしても、一分に満たない出演作を、わざわざ追悼の対象に選ぶのは、どうなのか。うーん。

e0178641_843496.jpg 次に星野じゅんモンダイだが。渡瀬恒彦の相棒で、細身で長身の新人女優。顏も面長だが、まあ美人だ。モンキーパンチ描く峰不二子そっくり。胸はないが。この峰不二子バリの彼女が華麗なバイクさばき。数本東映に出て、消えたようだが、もっと東映アクション女優として、生かしようがあったのでは。
 ウィキペディアによれば、

カーアクションをメインとした渡瀬主演・深作欣二監督の『暴走パニック 大激突』『狂った野獣』は同じ着想から生まれた映画である[1][2][3]。『暴走パニック 大激突』の方は物量で押す『バニシングin60″』風に対して『狂った野獣』は、ほぼ全編がバス内という密室劇の構造を持つ"走る『狼たちの午後』"といった趣きである[2][10]。1975年夏の『トラック野郎』の大当たりで波に乗る東映は、暴走路線に弾みが付いており[11]、この1976年に『暴走パニック 大激突』『狂った野獣』『爆発! 暴走遊戯』という深作欣二、中島貞夫、石井輝男という三人の鬼才による"暴走映画"の三大傑作を生んだ[11]。また東映はこの年、柳町光男監督の自主映画『ゴッド・スピード・ユー! BLACK EMPEROR』を買い取って公開し大ヒットさせた[11]。"スピード"と"暴走"はこの時代のキーワードだった[11]。

監督の中島は初め、岡田茂東映社長から本作の併映「『ラグビー野郎』をやれ」と言われた[3][12][13]。中島はラグビーは好きで企画書を作る段階まではやったが話が噛み合わず[13]、そこから逃げて手が空いてるときに、トラブルがあって番組に穴が空きそうになり「渡瀬主演、予算2000万円、とにかく間に合わせればいい」といった条件を言われ本作の製作を承諾した[3][12][14]。『ラグビー野郎』は『日本の首領』の企画を通すため、日下部五朗プロデューサーが裏技で東映館主会のボスに岡田の説得を頼んだために、その成功と引き換えに無理やりこのボスに製作を強要された映画だった[15][16]。中島は「京都を舞台にしたバスジャック」という構想が既に持っており、その頃京都は3箇所くらい道路を作っていて、そこを使えれば撮れると踏んでいた[3]。またこの4~5年前に京都のバスの運転手が運転中に意識不明になってひっくり返った事件があり、この題材でいけるというプランがあった[13]。時間がないため大原清秀、関本郁夫に頼み脚本を手分けして書いた[13]。本作の題名は準備稿では『激突!バス・パニック』だったが、岡田社長が『狂った野獣』に変更した[3]。その由来について中島は「なんか知りませんわ。もう岡田さんがタイトル言った時には、何の抵抗もしなかった。言ったってダメだから」と話している[3]。 

後年俳優としての名声を高める渡瀬恒彦だが、当時はようやく"添え物映画"の主役を張り始めたころ[17]。本作では自ら命懸けのカースタントを演じるが、「他の人やらないじゃない、こんなバカなこと。まあ車が好きだったこともあるし、そういうことしか能がないからね。体張るみたいな、そういうことでしか東映の中で生きていける術がなかった」などと述べている[17][18]。カーマニアである渡瀬は普段から撮影所の駐車場でスピンの練習をしていて[18]、自分の車だとタイヤが擦り減るからと、川谷拓三の車を無理やり借りて練習することもあったという[9]。渡瀬は本作撮影のために大型免許を取得したが、車両部が絶対間に合わないと言っていたのに、いとも簡単に一週間で取得した[19]。バスの運転手を演じる予定で渡瀬と一緒に大型免許を取りに行った俳優の白川浩二郎は試験に落ちた。このため白川が演じる予定だったバスの運転手は俳優ではなく、東映車両部のロケバスの運転手である[20]。ピラニア軍団は前年から放送されたテレビドラマ『前略おふくろ様』に、川谷拓三と室田日出男が中島と倉本聰の関係から抜擢されて人気が出て[6][12][13]、この頃はピラニア軍団をフィーチャーした企画が通りやすかったという[21]。出演者のほとんどがピラニア軍団で重鎮俳優の出演もなく、相当な低予算で作られた[3]。ピラニア軍団は金が無いときは、中島貞夫がいるいないに関わらず、中島の家で酒を飲んでいて、本作も中島宅で「こういうのあるけどやる?」と聞いたら「やるやる」と出演が決まった[3]。ラジオのDJ役を演じる笑福亭鶴瓶は映画初出演。当時は無名で渡瀬も鶴瓶が本作に出演していることをずっと知らなかった[17][22]。またラストで三上寛が出演し『小便だらけの湖』を唄う[3]。

カーアクション映画とはいっても『暴走パニック 大激突』とは違い低予算のため、撮影用に購入した車はバス1台とパトカー8台である[19]。払い下げのバスが50万円で足回りのメンテナンスに100万円[3]。パトカーは車検切れギリギリで10万円以下[3]。俳優のギャラは100万円以上は渡瀬だけで、他の役者は極端に安かった[3]。初めて大役に抜擢された片桐竜次は本作のギャラは不明だが、通常だと日当800円だったと話している[20]。ピラニア軍団でも川谷・室田以外の役者は、まだ夕方撮影所に戻って『銭形平次』とかのテレビ時代劇の撮影に参加して「御用だ御用だ!」と言っていたという[20]。バスの転倒シーンは、当初専門のスタントマン・雨宮正信がやる予定だったが[20]、渡瀬が雨宮に「君、やったことあるの?」と聞いたら「ありません」というから渡瀬自ら買って出た[17][18]。「主役が怪我をしたら残りの撮影が出来ない」と監督と製作主任に止められたが、バスの転倒シーンが撮影の最後の方と分かり自らやることにした[17][23]。すると川谷や片桐竜次、野口貴史らも乗ると言い出し、バスの中にカメラを仕掛けることになった[18]。渡瀬とバスに同乗したのはこの3人で志賀勝は逃げたという[20]。あとは人形である[20]。松本泰郎がこのシーンとは関係のないシーンで居眠りして転倒し骨折した[3]。渡瀬が結構なスピードでバスで並走するバイクの後部座席に立ち、バスの窓から車内に入るシーンは練習なしの一発勝負[17]。バイクを運転する星野じゅんは芝居はヘタだが、運転が上手いと抜擢されたといわれるが[3]、渡瀬は星野の運転は上手くなくよく揺れたと話している[17]。本作で大抜擢されたのが片桐竜次[13][20]。片桐の見せ場である命綱なしでのヘリコプターへのぶら下がりは[5]、近所の公園の鉄棒で練習を重ねていたが、ヘリの足が凄く太くて慌てたという。リハーサルなしの一発撮りで、ヘリがどんどん上昇し、下はアスファルトで、あまりに怖くて足もかけたと話している[20]。こういうシーンには危険手当が1万円付いたので片桐は「5000円でやります」と積極的に手を挙げていたという[20]。片桐は本作を契機に若手の代表格として頭角を現し始めた[5]。(以上引用終わり、文字変色は引用者)

 いやあ陳腐な『激突!バス・パニック』より『狂った野獣』のほうが、シマった名タイトルでしょう。『激突!バス・パニック』なんて、なまぬるいTV2時間ドラマのタイトルみたい。
 渡瀬は星野の運転は上手くなくよく揺れたと話しているというが、一発撮りのカーアクションに新人が完璧にこなすことを期待しても(笑)。また車好きゆえに、渡瀬後部座席にはノリなれていなかったのでは。

e0178641_844363.jpg 渡瀬恒彦については、亡くなった時に、晩年は穏やかなおじさんタイプをTVドラマで演じていたせいか、穏やかな人という印象だが、東映時代は,本職のやくざがもっとも恐れた俳優という証言も出た。クールでスタイリッシュな兄と差別化を図るための、戦略として上等。
 自らバスを横転させるのは、まさしく「狂った野獣」だが、車好きとしては本望だったろう(笑)。主演としては、大部分のバス車内で、ほとんどセリフなし。そこを補うためもあるか。
 チンドン屋・志賀勝の、人のいいおっちゃん役は珍しいが、この路線も、もっと見たかった。京都弁のおばはんもグッド。

狂った野獣(プレビュー)


★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。

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by mukashinoeiga | 2017-08-20 08:44 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(0)

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