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石井輝男「実録三億円事件 時効成立」小川真由美岡田裕介金子信雄絵沢萠子田中邦衛

手探り実験作だが野心作にはなれなかった。
 渋谷にて「甦る映画魂 The Legend of石井輝男 十三回忌追悼」特集。75年、東映。
 そもそもの企画の発想は何だろう。時効成立間近とマスコミに大々的に取り上げられ、コイツはいけるという、当時はまだ映画会社にあった、東映なりのジャーナリスティックな(笑)カンなのだろうか。
石井輝男「実録三億円事件 時効成立」小川真由美岡田裕介金子信雄絵沢萠子田中邦衛_e0178641_5334490.jpg その企画トークの中で、誰かが犯人のモンタージュ写真を見て、「こいつ社長の息子に似てね?」という冗談から実現化に走り出した、と邪推するが(笑)。
 その冗談に、社長(「ワハハ、面白い、いけっ」)も社長の息子(「え、マジすかっ」)もノリ、つまりそれが東映の当時の勢いというものだろう。いまは、その社長の息子が、社長になり、当時の勢いは全く消え、ヒット作も一年に一本あるかどうかのお寒い会社に。
 しかし監督を誰にするかが、悩みどころ。当時勢いがあった深作や中島が、おそらくベストだが、主演が社長の息子、しかも草食系では、若手としては「勘弁してくださいよ」というところか。これがもし社長の息子が渡瀬恒彦タイプなら若手も乗ったのだろうが。
 しかし今風に言えば草食タイプにしか見えない(今の社長業もまさしくそう)岡田裕介が、本作では肉食系に華麗な転身、演技賞モノの快演なのは、素晴らしい。

実録三億円事件 時効成立(35mm)(89分)公開:1975年 (渋谷シネマヴェーラHPより)
監督:石井輝男
出演:小川真由美、岡田裕介、金子信雄、田中邦衛、絵沢萠子、滝沢双、田島義文、近藤宏、河合絃司、相馬剛三、山田光一
会社の金を横領して競馬につぎ込み首になった西原と情婦の孝子は借金に追われ…。現実に時効が迫るなか、独自に「三億円事件」の真相を追った作品。製作陣による綿密な取材、捜査本部の協力、実際の事件現場でのロケなど、フィクションながら実録ものの様相を呈して話題となった。c東映

 かくて、かねてより実録(笑)犯罪ものに定評のある(笑)テリー石井に監督決定。まあ個人的にはテリー吉田主演で見たかった気がしないでもない。
 しかし、本作の厄介な点は、時効が成立してしまったので、犯人像が全くの未知数というところ(笑)。
 サラリーマン会社の東宝や、お公家さん会社の松竹には全く手も足も出ない領域(笑)。はったりの東映でしかできない企画だ。現実から極端に逸脱してはならないし、しかしその現実は存在しない。これは勢いで突っ走る若手は頭を抱えっ放しの企画だろう。来る注文を「はいはい、いいよいいよ」と淡々とこなすヴェテランにしか、受けられない(笑)。

 と、ここまで映画の内容にほとんど触れずに(笑)長々と書いてきたわけだが。
 そもそも架空の犯人像に養犬業をもってきたのが、あっと驚く。個人的な印象だが、犬のブリーダーというのは、職業人口は圧倒的に少ないはずなのに、なぜか凶悪犯罪発生率は高い気がする。いや、これはあくまで個人的印象で、何の根拠もありませんけど。
 そのブリーダー岡田が、妻・小川真由美や、元お嬢様の小川の知り合い・有閑マダムの絵沢萠子とガンガンセックス。いっけん草食系の岡田裕介が、肉食系に見事転身、やはり時代の勢い、東映の勢い、テリー石井の趣味だろうか。恐ろしや(笑)。
 この女優の趣味の悪さ(笑)も東映で。
 さて犯罪の内容だが。どうしても現実の事件の細部を引きずらなければいけないので、犯人はバイクの雨覆いカヴァーを引きずらざるを得ない。こんな泥臭い犯罪、この一件だけで、東宝なら却下だろう。
 まあミステリとしてはたいしたことはない。いっそ脚本か監督で鈴木則文、もっとぶっ飛んだ「SF」にしても、よかったかもね(笑)。
石井輝男「実録三億円事件 時効成立」小川真由美岡田裕介金子信雄絵沢萠子田中邦衛_e0178641_5341755.jpg なお執拗な鬼刑事・金子信雄はグッド。容疑者をガン見しながらの尾行、相手にバレバレなのは、いかにも石井趣味。他の映画でもいくつか見た記憶が。
 ただし、小川真由美が男の金子の尾行から逃げる目的で銭湯に入る石井趣味はいただけない(笑)。おばさんエキストラたちのやっすいヌードに、毎度のことながらげんなり。石井的にはサーヴィスショットのつもりかもしれんが、それサーヴィスじゃないから(笑)。



予告


【1975年12月10日】 三億円事件時効 名刑事・平塚八兵衛も無念

 なに、この、いまのワイドショーや再現ドラマの祖型というべき、もはやニュースとも言えない自称ニュースは。 
【1975年3月26日】 名刑事・平塚八兵衛退職 3億円事件時効直前の決断
警視庁捜査1課一筋で、帝銀事件や吉展ちゃん誘拐殺人事件など数々の難事件を解決してきた名刑事・平塚八兵衛さんが1975年3月、退職した。3億円事件捜査主任として、公訴時効が成立する9カ月前。犯人逮捕へ執念を燃やしたが、手がかりがないため、自身の退職で事件への関心を高めようと期待しての決断だった。
 
結局、こういうドジ犯罪でも、斬新な手法な犯罪は、ルーティンワークの日本の警察には、対処できないというね。
106 【ドラマ】『刑事一代 ~平塚八兵衛の昭和事件史~』 第1部


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by mukashinoeiga | 2017-07-30 05:35 | テリー石井 恐怖奇形番外地帯 | Comments(2)

Commented by お邪魔ビンラディン at 2017-08-03 01:08 x
むかし見た記憶で言うと、この映画の最初のところに平塚八兵衛さんが出て来て、「この映画の筋のとおりだったら、とっくに逮捕できてるんだね」とインタビューに応じるというサーヴィスショットがあって、ジャーナリスティックな同時代性をいやが上にも高めていたように思います。
小川真由美のエスカレートする芝居に金子信雄があきれながらつきあっているような印象が強くて、さすがのテリー石井映画でも、今回は再見を遠慮してしまいました。
Commented by mukashinoeiga at 2017-08-03 06:41
石井輝男「実録三億円事件 時効成立」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 平塚八兵衛さん、朴訥な割には出たがりですね。まあ事件解決のためのプロモなんでしょうが。今ならワイドショーのコメンテーターとして大活躍なんでしょうが、当時はさすがにそこまで下世話ではなかったか。
 それにしても自分の役を金子信雄が、っていうの結構ショックじゃないの(笑)。しかし怪演ではあります。
 昔から疑問なんですが、同時代で活躍した、小川真由美、緒形、仲代、ちっとも演技うまくないのに、性格俳優としてなぜか多用。不思議でなりません。

>今回は再見を遠慮してしまいました。

 金子信雄の怪演のみ光るものの、 ミステリとしてはイマサン。やっぱり深作か中島か則文で見たかった。 昔の映画
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