人気ブログランキング | 話題のタグを見る

中川信夫「地獄」天知茂沼田曜一三ツ矢歌子

前半快作、後半大凡作。60年、新東宝。
 渋谷にて「玉石混淆!? 秘宝発掘! 新東宝のディープな世界」特集。
 未見作の同時上映として、何度目かの再見。世評に反して、うーん、あんまり評価できないなあ。

中川信夫「地獄」天知茂沼田曜一三ツ矢歌子_e0178641_231335.jpg『地獄(デジタル)』公開:1960年 (渋谷シネマヴェーラHPより)
監督:中川信夫
出演:天知茂、沼田曜一、中村虎彦、宮田文子、三ツ矢歌子、林寛、徳大寺君枝、山下明子、大友純、三ツ矢歌子、大谷友彦、宮浩一、新宮寺寛、泉田洋志、津路清子、小野彰子、石川冷、山川朔太郎、嵐寛寿郎
不幸続きの大学生・四郎と周りの因果な人たちが死んで地獄行きとなる前半から、後半の地獄巡りへと物語は続く。特に父・剛造の皮剥ぎの刑は骨や内臓が剥き出しになるエグさで、そんな阿鼻叫喚の中を「許して下さい」と彷徨う四郎が哀れにも可笑しい。中川信夫が意図した和製『ファウスト』とエログロ路線がないまぜになった本作は、新東宝の解散寸前に咲いた仇花的傑作カルト映画だ!

 まず前半。
 中川信夫「東海道四谷怪談」は、鈴木清順映画の祖型だと思った。
 本作には、寺山修司映画の祖型を感じる。田舎の描写、田舎の老人ホーム、これには、明らかな、寺山ライクなティストを強烈に感じる。
 大の大人の天知、沼田の学生服姿、沼田のカットんだ演技にも、寺山の影響を感じる。
 中川信夫を通じて、鈴木清順、寺山修司にいたる、アヴァンギャルド日本映画の脈絡。

 なお、後半だが、某ツイッターに共感(以下引用)。

シネマヴェーラの新東宝特集、中川信夫の地獄を観るのは4度目ですから、結構細部を覚えていて、既に知っているという安心感からか、ちと油断すると睡魔に襲われ、何度か寝落ちしましたが、目覚める度にアングルの凝った画面や意表をつく編集が出てきて、中川の構図感覚・編集感覚に感心させられます。(以上引用終わり。文字変色は引用者たる当ブログによる)

 いやー、ぼくも何度見ても、後半の地獄シーン見て、寝ちゃうんですよ(笑)。
 つまり、ぼくにとって、後半の地獄シーンは、退屈な描写で。
 それとも、この地獄描写は、ぼくにとって、あまりに心地よすぎて、寝ちゃうのかな。地獄こそ、ぼくの本性か(笑)。
 おそらく超マジメな中川信夫が、どう見てもクレイジーな地獄描写をすることの齟齬。真面目な中川が、クレイジーな地獄描写をするから、みんな寝落ちしちゃうんだよ(笑)。
 たぶん石井輝男か鈴木清順なら、あるいは鈴木則文なら、面白く見られただろう。
 寺山修司でも、ダメだったかな。いや、ダメながら、見てみたいな寺山版地獄(笑)。

中川信夫「地獄」天知茂沼田曜一三ツ矢歌子_e0178641_326842.jpg なお中川の構図感覚・編集感覚ということであれば、吊り橋を上から見下ろすショットは、CG全盛の今なら簡単にパソコン上で「偽造」できるが、当時は、本当に吊り橋以上の撮影位置を確保しなければならず、これは相当苦労したのではないかと、推察。
 執念の素晴らしいショットだった。

 一人二役の三ツ矢歌子、大変愛らしいが、まじめな中川ゆえ、一人二役の意味がない。ここはやはり、石井、清順、寺山で見たかった。
 沼田曜一の、特異な演技はもっと注目されてしかるべきだろう。

【語り】屁たれ嫁こ 梅津幸三氏
2012/05/24 に公開 演題:屁たれ嫁こ 作:沼田曜一
語り:梅津幸三(劇団やまなみ)動画製作:ハロー山梨 YaYaYa TV
http://www.yayaya.co.jp/

 
【語り】山んば 梅津幸三氏
2012/05/24 に公開 演題:山んば 作:沼田曜一
語り:梅津幸三(劇団やまなみ)動画製作:ハロー山梨 YaYaYa TV

 
★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。

★新・今、そこにある映画★日本映画・外国映画の、新作感想兄弟ブログ。なお、現在は当ブログに吸収合併。過去ログは残してあります。
★映画流れ者★当ブログへのメモ帳、その他諸々

★人気ブログランキング・日本映画★
にほんブログ村 映画ブログ 名作・なつかし映画へ
★にほんブログ村・名作なつかし映画★

★にほんブログ村日本映画(邦画)★

by mukashinoeiga | 2017-03-16 23:02 | 旧作日本映画感想文 | Comments(2)

Commented by お邪魔ビンラディン at 2017-03-26 00:18 x
この映画は、公開直後に澁澤龍彦が「非芸術の前衛を行く特権的な作品」というような言い方で褒めちぎっていました。それゆえ、澁澤龍彦愛読者にとっては、かなり特別の意味がある作品となっています。もっとも、澁澤と吉本隆明を枕頭の書とする現在活躍中のある仏文学者に、学生時代、「花田清輝もホメていたよ」と教えると、露骨にこの作品からは一歩引いた感じになってしまいましたな。
沼田曜一が田舎に現われる直前のシーンで数名のお坊さんが道を横切る構図のショットは、のちに田中登が「(秘)女郎責め地獄」の中で、敬意を込めて引用しています。
「午後9時で止まった柱時計」のイメージが、作品の要所要所で繰り返されるのは、何か意味ありげですが、ロラン・バルトや筒井康隆の「ポスト構造主義による『一杯のかけそば』分析」あたりを応用すると、どんなトンデモ解釈が飛び出すか期待させるものがあります。
柛代辰巳の「地獄」は、企画において秀逸、作品において凡作と申し上げるほかないでしょうが、くだんの仏文学者、高校時代の同級生の奥さんが引退した栗田ひろみで、その友人の家に遊びに行ったおりに「柛代監督の『地獄』をよく覚えていますよ」と言ったら、急に顔をしかめられたぜ、というはなしでした。その後、その仏文学者が友人宅に出入り禁止になったか否かは、詳らかにしません。
石井輝男が晩年に撮った「地獄」は、麻原彰晃と宮崎勤がケシカランというモチーフで一貫した映画ですが、麻原彰晃役に由利徹を起用できなかったという一点のみで(この映画を作る前に由利さんが亡くなっていたので)、なんとも底の浅い作品になってしまいました。前田通子カムバックと丹波哲郎の友情出演以外は見るべきものなし。
鈴木則文の場合、よほど常軌を逸した脚本家何人かの共同執筆を得なければ、御本人の教養が邪魔をして凡作になってしまった可能性が高いと思います。映画自体には破れかぶれのアナーキーな雰囲気が横溢していますが、作品として破綻せず、多くの大衆の支持を得たのは、とりもなおさず、本人が「自由を愛する良識人」以外の何者でもなかったからです。
晩年の鈴木清順の場合は、あらすじが一応つながるものになり得たかどうかが大問題ですね。「ピストルオペラ」は別名「殺しの楽隠居」だったとか。
Commented by mukashinoeiga at 2017-03-26 02:55
中川信夫「地獄」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
>「非芸術の前衛を行く特権的な作品」というような言い方

 なるほど。なかなかキャッチーな物言いで、ではぼくは、渋沢に対抗して(笑)「非芸術の後衛を行く特権的な作品」とでも、呼びましょうか。
 実際、中川は、娯楽の後衛の、より先鋭化した存在なのだと思います。

>「花田清輝もホメていたよ」と教えると、露骨にこの作品からは一歩引いた感じになってしまいましたな。

 ふふふ。花田清輝にビビるとは、小者ですな。

>「午後9時で止まった柱時計」のイメージ

 柱時計。まさに寺山ですな。
 神代は、しょぼしょぼながら「天国」を描く作家で、地獄は、ちょっと専門外でしょう、と断言します。
 石井輝男「地獄」は、おっしゃる通り特定人物を地獄に叩き込んだら、という極めて特殊な設定ゆえ、単なる妄想に堕したきらいが。
 せっかくの丹波なんだから、石井輝男には「地獄」より「大霊界」のほうがあっていたかもしれません。
 ソクブンさん、真面目な人とは、驚きました。
 ピストルオペラ」公開時、ぼくも「殺しの楽隠居」は、よく言っていました(笑)。清順追悼は、神保町でも池袋でもやるようですね。さすが人気者。ただ今どきお客は来るのか、といささか心配です。 昔の映画

名前
URL
削除用パスワード