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斎藤武市「白い悪魔」森雅之野添ひとみ小林旭渡辺美佐子

面白い。58年、日活。神保町にて「吉屋信子と林芙美子 女流作家の時代」特集。
 某ツイッターで、映画の出来も悪いは、デジタル素材の上映が家庭用ヴィデオ以下の画質だと、散々だったのだが、モリマフォロワーとしては、この格好の題材に、見に行かないわけには、いかぬ(笑)。
 確かに画質は最低。ブラウン管テレビに必ずある、いわゆる「走査線」が画面を、上から下まで横に走っている。
 これは、どうしたことか。初期キネコ技術の素材を、そのまま使ったのか。いずれにしても、ひどさもひどし、の日活技術陣ではある。
 で、映画自体ではあるが。

斎藤武市「白い悪魔」森雅之野添ひとみ小林旭渡辺美佐子_e0178641_929536.jpg(以下、ネタバレあり)
14. 白い悪魔 (神保町シアターHPより)
S33('58)/日活/白黒/シネスコ/1時間38分
■監督:斎藤武市■原作:原田康子『夜の出帆』■脚本:植草圭之助■撮影:横山実■音楽:牧野由多可■美術:坂口武玄■出演:森雅之、野添ひとみ、小林旭、渡辺美佐子、清水将夫、稲垣美穂子
年頃を迎えた美しい娘(野添)は、いつしか義父(森)への恋心を抱き始め…。『挽歌』の原作者・原田康子の短篇を脚色し映画化。野添の穢れなき瞳が切なさを加速させる禁断のメロドラマ。*デジタル上映
*本作は原版の状態の関係で、画質が大変悪くなっておりますことを予めご了承ください。


 若きモリマは、優柔不断な性格ゆえ、相思相愛の恋人(従妹か)を、不幸な結婚に追いやった。その遺児・野添ひとみは、祖父(老け作りの新劇演技オーヴァーアクトの清水将夫)の元ですくすく育っていたが、その祖父も急死。
 祖父の遺言で、ひとみは、モリマの元へ。養女という形になるのか。
 かつて自分の優柔不断さから、恋人を不幸な結婚に追いやった。
 その恋人と瓜二つな(いかにも映画的な一人二役の親子)娘を、養女にして、心中穏やかならぬ義父モリマ。娘に、心乱れる。
 くるくる表情と感情が変わる、小悪魔的美少女に、野添ひとみも、絶品で。
 野添ひとみも、極度のファザコンゆえ、義父モリマにお熱。それも当たり前か。ザ・ダンディそのものの、モリマの美中年ぶりに、クラクラしない女子は、おるまい。
 つまりこの映画、ダンディな義父と、その娘という物語の少女漫画的要請に、絶対絶好のキャストなんだよなあ。
 これ、日活がちゃんとしたネガを持っているなら、ニュープリ焼いて、ある程度名画座で商売になりうる素材だと思うよ。女子の好きそうな、うれし恥ずかしお耽美映画として、いまでも通用すると、思う。
 やりようによっては、かつて渋谷で大ヒットしたレイト市川崑「黒い十人の女」の、四人分には、なるかもしれない。と、いうのも。

斎藤武市「白い悪魔」森雅之野添ひとみ小林旭渡辺美佐子_e0178641_9295153.jpg

 いろいろ曲折があって、最後はモリマが、泣きじゃくる野添ひとみを、お姫様抱っこで、互いに抱擁して、ハッピーエンド(笑)。
 義父が娘を。やや公序良俗に反する、ハッピーエンド。
 それが、本作が「残らなかった」理由か。
 考えてみれば、当時50年代は、ハリウッドでも、美少女オードリー・ヘップバーンと、渋親父ハンフリー・ボガートなんて組み合わせは、ざらで。今ほど、若さが幅を利かせていなかった時代ということもあった。
斎藤武市「白い悪魔」森雅之野添ひとみ小林旭渡辺美佐子_e0178641_9393438.jpg しかし、やはり、義父が娘を。
 禁断の恋の究極と申すべきで。それを堂々と、やっちまった。
 しかも、モリマの美中年ぶり。野添の美少女ぶり。禁断の恋という、完璧なメロドラマ

 義父への当てつけのように、急造のボーイフレンド小林旭を自慢する娘。
「ジェームス・ディーンにそっくりなの。(自分のおでこを指さし)こっから、上が」
 まるで小津映画の杉村春子みたいなセリフの、野添ひとみ。
 考えてみるまでもなく、日活に移籍する前の斎藤武市は、松竹で、小津組助監督。
 父娘の疑似恋愛めいた小津安「晩春」への、まああれは実の親子で、こっちは義理の親子だが、そんなに好きならやっちゃいなよ、という若い世代の武市から、小津への、からかいであった、とみるのは、まあ、完全にうがちすぎでしょうが。

 なお下記Movie Walkerの、キャストは間違いだらけ。特にモリマの友人たちは、リストにない下元勉などとっ散らかり。テキトーに予備キャスティングしているのが、まるわかり。
 当時の日活は、五者協定の絡みで、専属俳優が少なく、だから大映イメージの強い野添ひとみが日活へ出ている貴重版でもあり、野添をのぞいては、新劇俳優ばっかり。
 なお助監督は、当時斎藤武市の専属だった神代辰巳。のち、森雅之の遺児中島葵を、女優として演出した。

★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。

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by mukashinoeiga | 2016-10-30 09:37 | 傑作・快作の森 | Comments(2)

Commented by お邪魔ビンラディン at 2016-11-02 01:04 x
それにしても、ヒドい画質でしたな。
例によって、なくもがなのトリビアを一席。
この映画に脇役で出ている秋津礼二というのは(おそらく小林旭の友人のひとりの役ではなかったかと思いますが)、のちのオペラ演出家の三谷礼二さんです。学習院大学在学中に西河克己の「孤独の人」に、学習院高等科の雰囲気の監修を兼ねて出演したところ、当時の院長であった安倍能成のゲキリンに触れて大学は除籍。さすがに日活も身柄を引き受けざるを得なくなり、最初は俳優として、のちに宣伝部に転じ、日活退社後にオペラの演出家となって、吉田秀和に「日本一の演出家」と評されるほどにまで大成しましたが、惜しくも平成のはじめに五十代半ばで病没。伝聞情報では、三谷さんのオペラ演出は、どことなく鈴木清順演出の雰囲気を思わせるものがあった由。この秋の新国立劇場の「ワルキューレ」が、故ゲッツ・フリードリヒ演出の再現であったのだから、二期会あたりで三谷演出の再現を試みてほしいと思うや切なるものがあります。
Commented by mukashinoeiga at 2016-11-02 02:05
斎藤武市「白い悪魔」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
確か記憶では、日活宣伝部時代に、学習院時代の友人、おフランスから帰朝したばかりのハスミンに、鈴木清順を見ろ、とススメた方ではなかったでしたっけ。
 そんなことを読んだ記憶があります。  昔の映画
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