瀬川昌治「哀しい気分でジョーク」ビートたけし中井貴恵大谷直子川辺太一郎柳沢慎吾木内みどり石倉三郎

 神保町にて。「泣いて!笑って!どっこい生きる!映画監督 瀬川昌治」特集。85年、松竹大船。
 ダメな時期の松竹なので、あまり期待せずに見に行ったら、意外と面白かった。ウェルメイド。あと数回の上映。

 何よりも、芸人役ビートたけしの快演。それを素直にすくい上げる脚本と演出の好ましさ。
 後年、ヤクザ、犯罪者、暴力的刑事、殺し屋、黒幕、など、ただならぬキャラ、事件性のある社会的はぐれモノを主として演じるようになったたけしが、ここでは、芸人という特殊職業とはいえ、ごくフツーの人間、穏やかな表情も、多く見せるオーディナリーピープルを、すなおに見せているのが、いい。
 もちろん芸人として、ほぼ本人キャラを、そのまま演じているのだが、普通こういうパターンでは、まるでTVそのまま、芸人そのままが、素で出てしまいしらけるのだが、本作のたけしは、ちゃんと「映画の演技」に、見える。

 ぼくには、たいへんな綱渡りを平然と演じているように感じた。
 パブリックイメージそのものの、芸人ビートたけしを、本人自身が、演じているのに。
 楽屋落ち感が、ない。まんまなんだけど、まんまゆえの、観客を素に帰らすような、しらけ感がない。
 これは、すごいことだと思うのだが、どうだろうか。

 そして、さらに特筆すべきなのは、繰り返すが後年、数々の汚れキャラを演じることになるたけしの、本作での清潔感。まるで、二枚目みたいなたたずまいの、表情の、すなおさ、うつくしさ。素晴らしい。
 この一点で、この映画には、見る価値がある。
<以下、ネタバレあり>
e0178641_9362834.jpg16. 哀しい気分でジョーク <神保町シアターHPより>
S60('85)/松竹/カラー/ヴィスタ/1時間48分
■監督:瀬川昌治■脚本:吉田剛■撮影:坂本典隆■音楽:いずみたく■美術:猪俣邦広■出演:ビートたけし、中井貴恵、大谷直子、川辺太一郎、柳沢慎吾、木内みどり、石倉三郎
妻に去られ、一人で息子を育てる人気芸人は、息子が余命わずかの病気と知り…。たけしの初主演映画で、子供を想い生活を一変させる父親を好演する。70年代後半以降は主にテレビで八面六臂の活躍を見せた瀬川監督が、熟練の手腕で涙をそそる感涙作。

 ただし、欠点も多い。
 日本映画の喜劇の通弊として、どうしても、「笑って泣かせる」という、いわばいいとこ取りをして、失敗するパターン。芸人生活と、さりげない父子交流の話で、つつましく映画にすれば、いいじゃない、でも、どうしても泣かせに走って、幼い息子が脳腫瘍で、余命いくばくもないという。
 まず、父。ビートたけしは、徹底して、泣かせる演技が、出来ない。
 そして、子。川辺太一郎という子役が、なんだかいい子過ぎて、子供としてもたくましくて、病弱感が、一切ない(笑)。悲劇として、死んでいく子を演じる、はかなげさ、けなげさが、一切ない子役なのね(笑)。
 この父と子では、泣けないわ(笑)。
 そして、別れた母・大谷直子。その母に、久々に会いに行く父子の前で、教会で再婚相手との結婚式予行演習。
 これ、はっきり言って、アルフレッド・テニスン「イノック・アーデン」並みの泣かせどころなのだが、出演者のクールさを、演出と脚本が、補正できない。凡庸な出来。

 特筆すべきは、たけしに片思いの中井貴恵、彼女に、こんなに素晴らしい演技が出来るとは。お嬢さん女優と思っていたが、この映画を見ると、彼女の早い引退が、つくづく惜しまれる。
 ラストのクレジットに、南廣の名が。
 感想駄文済みの小林恒夫「点と線」で主役抜擢、その後も東映の警視庁物語などで、同様な刑事役、ただし影は薄い、これまた感想駄文済みの鈴木清順「殺しの烙印」で、宍戸錠の相方殺し屋。
 瀬川昌治デヴュー作「乾杯!ごきげん野郎」で、主役コーラスグループの一員を、ウメタツとともに演じていたのだから、その縁での出演か。
 いったいどの役で、と回想するに、たけしをはめる木内みどりの美人局、その相方の暴力男か?
 そうだとすれば、若いころは端正といっていい彼も、隆大介並みの、日本人らしからぬ悪相になり、刑事役専門が、悪党顔になっていたか。うーん。

 端正な、つつましげなたけしの快演と、笑えるコメディ部分を楽しめる、快作。
 ただし、たけしの歌は、声量がなく、ダメ(笑)。

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哀しい気分でジョーク

哀しい気分でジョーク

 この曲は、映画で聞いた曲と違うな、と思ったら、
主演した同名タイトルの映画があったけど、実際に歌ったのは抱いた腰がチャチャチャのほうだったね。でもこの歌好きだな
 というコメントが、あり。
抱いた腰がチャッチャッチャッ

 いや、これも映画の曲と違うぞ。いったいどうなっているんだ(笑)。


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by mukashinoeiga | 2016-01-27 09:38 | 旧作日本映画感想文 | Trackback | Comments(5)

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Commented by お邪魔ビンラディン at 2016-01-30 01:57 x
南廣は、たしか子どもを診察する何人かの医者のひとりだったような気がします。医者は草薙幸二郎と笹野高史の二人が印象に強かったので、その間にはさまれて印象が薄くなったような感じです。
しかし、これがたけしの初主演映画というのはウソで、小谷承靖監督にツービート人気にあやかった「すっかりその気で!」(1981)という笑えないコメディがありました。(小生も、TV放映時に見ただけですが、一体何が悲しうてこんな映画を作るのか……と感じた記憶のみ残っています。)小谷監督は、デビュー後の数本をのぞくと才能に見合った企画に恵まれない方でしたね。
Commented by taisukez1962 at 2016-01-30 13:42
中井貴恵さんは「女王蜂」でデビューする直前に夕刊で見たのが最初でして。
テニスウェアー姿で印象的でした。
小津も佐田啓二も彼女の存在で初めて知った次第です。

演技に関してはデビュー作とあっては仕方ないですが思わせぶりな態度などのない育ちの良さを感じました。

その後「人生劇場」だったっけ?でポロリとやってくれた時は絶句しましたが。

引き際の良さもお見事。
Commented by mukashinoeiga at 2016-01-31 09:29
瀬川昌治「哀しい気分でジョーク」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 おお、そうでしたか。ラストクレジットで、名前を見て、あれこれ推測して、外れたわけですね。いい加減だなあ、自分。
 ま、松竹的には「松竹初主演」ということで、「うそはついてない」という、例によっての宣伝部発想なのでしょう。  昔の映画
Commented by mukashinoeiga at 2016-01-31 09:43
瀬川昌治「哀しい気分でジョーク」へのコメント、taisukez1962さん、ども。

>その後「人生劇場」だったっけ?でポロリ

 深作版ですね。記憶にないなあ(笑)。ま、そのうち、どこかでかかったら、見てみましょう。いやあ、いずれにしても、80年代著名女優の露出、最近の女優も、見習わんかい(笑)。
 あ、特に長沢まさみとか、綾瀬はるかとか(笑)。
 あと、斉藤由貴とか意外性で(笑)原田知世もキボンヌ(死語)  昔の映画
Commented by mukashinoeiga at 2016-01-31 09:47
神保町シアターへの、リクエスト。
 隣に吉本シアターがあるんだから、「すっかりその気で!」もそうだし、吉本沖縄コラボ映画もそうだし、「芸人出演映画特集」を、キボンヌ(死語) 昔の映画
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