人気ブログランキング | 話題のタグを見る

三枝源次郎「特急三百哩」

 阿佐ヶ谷にて。「映画探偵の映画たち 失われ探し当てられた名作・怪作・珍作」特集モーニング。28年、日活。
 昨年末の平日に見に行ったが、ガラガラ。一応、年末年始なんだから、もっと明るく楽しい特集をやればいいと思うのだが、こういうマニアックな特集は、お正月には、ふさわしくないのに。
 ま、もっとも自分自身を見ても、世間を垣間見ても、日本の正月風景というのは、ハレの要素はなくなり、すっかりケだらけと成り果て、結構ケだらけ、ネコはいだらけ、な、有様ではアルのだが。
 たとえば女優特集で鳴らした阿佐ヶ谷モーニングなんだから、オールスタア女優大集合映画大会というのでも、よかったのでは、ないかい。
 豪華女優おせち三昧(笑)。
 一方、それに対抗して、神保町シアターでは、豪華男優おせち三昧(笑)。来年の正月番組に、どうだす(笑)。

 というわけで、正月興行としては、しょぼんとマニアックな特集ではあるが、映画は、面白かった。

三枝源次郎「特急三百哩」_e0178641_12432685.jpg特急三百哩 <ラピュタ阿佐ヶ谷HPより>
1928年(S3)/日活大将軍/白黒/サイレント/62分
『特急三百哩』写真提供:プラネット映画資料図書館
■監督:三枝源次郎/原作・脚本:木村千疋男/撮影:気賀靖吾
■出演:島耕二、山本嘉一、瀧花久子、三桝豊、三田實、吉井康
鉄道マンによる鉄道のための鉄道賛歌。八六二〇、C五一、C五三など、昭和初期に活躍した機関車が次々登場する、鉄道ファン必見の一本。序盤の汽車同士のチェイスシーンは、手に汗握る緊迫感だ。後に「風の又三郎」(40)で映画史に名を残すことになる、島耕二監督が若手スターだった時代の貴重な主演作品という点でも見逃せない。

 主演が島耕二&瀧花久子
 戦後大映プログラム・ピクチャアを初めとして、コンスタントに快作を量産した名監督の島。俳優廃業、監督専念は、吉と出た。
 演技的には、約90年前とはおもえない、現代でも通用するナチュラル演技。サイレント期といえば、主に時代劇で、メンタマむき出しの「劇画調」顔技が主流だが、現代劇では、意外にも、現代につうじるナチュラルさも、数多くあり、愛嬌ある島の演技は、時代を超えている。
 ただし、若さとガラと(当時としては)ガタイのよさで主役を張ってはいるが(本作には当時の国鉄マンが多数エキストラ出演しているが、一般日本人の顔の貧相と、ガタイのなさは、否めず)、年をとるとスタアオーラもないので、俳優としては、味のある脇役を目指さざるをえず、そしてまた戦後日本映画は、味のある脇役は多士済々。
 監督業になって、正解でした。

 瀧花久子。
 ぼくたちは、戦後日本映画で、この人が、気のいい、あるいは気の弱った、あるいは少々意地悪な、おばあちゃん、母親役を演じるのを、何十本も見てきたので、本作で、番茶も出花の若いころの彼女を見ても、ついつい、顔のアップで、おばあちゃんの面影を、探してしまうのだ(笑)。
 これが、若いころからおなじみになった若手女優が、年をとったとしたら、そのオバちゃん顔に、若いころの面影を探してしまうのと、好一対?で。
 悲しいサガだが、よくよく見てみれば、角度によっては(笑)、かなりの美人顔に見えなくもない彼女にも、ついつい老醜の痕跡を、ありえない話だが可逆的に、捜し求めてしまう。
 いかんなあ。まだまだ映画を映画として、見切れていない(笑)。
瀧花久子、当時の水準的なヒロイン像を、可も不可もなく演じ、年をとれば、地味な脇役に退いて行く。まさに番茶も出花。

三枝源次郎「特急三百哩」_e0178641_12435461.png さて映画の内容だが。まさに鉄ちゃん垂涎の鉄シーンがごっそり(笑)。
 若手運転手・島が、運転席窓から顔を出したまま、トンネルに突入するのを、正面から、撮っていて、すすだらけにならないのか、心配したり、4車線?の鉄路を上下に行き来する複数車両をひとつのショットにタイミングよく納めたり、圧巻の、カーチェイスならぬ、トレイン・チェイス。
 当時としては通常か、5・6両編成の特急が、行く。その後ろを暴走機関車(単車だから、通常編成の特急よりスピードあるという設定か)が追突寸前。そのさらに、後ろに、暴走機関車を止めようとする島運転手の機関車(単車)が追尾。
 つまり編成車両列車のあとを、二台の機関車のみが追っていく、という、それをワンショットで撮るという、今の安全第一主義のJRでは、とても出来ない、離れ業。さすが「御後援 鐵道省」だけのことはある。

 後半、鉄道とは離れ、単なる三角関係メロドラマになっていくのは、やや残念だが、クライマックス、夜行列車を出発させる島運転手に、子供が、今、島運転手の新妻(滝花)が、悪漢に手篭めにされている、と通報。苦悩する島田が、いったん発車した夜行列車を止める権限は、自分にはない。
 運転あるのみ、その運行がいかに止まるか、というサスペンスの解決方法が、ちょっと、面白く、立派に鉄道賛歌になっているところが、脚本の勝利。

 なお、本作については、★[復元報告]特急三百哩 よみがえった幻の鉄道映画|映画保存協会(FPS)★

★Movie Walker★に、タイトル検索で詳細な作品情報あり。簡単な作品解説、あらすじ紹介(企画書レヴェルの初期情報の孫引きゆえ、しばしば実際とは違うが)。
 本作はありません。致し方ないことだが、戦前作はほぼフォローなし。まあ、当たり前だ。

★新・今、そこにある映画★日本映画・外国映画の、新作感想兄弟ブログ。
★映画流れ者★当ブログへの感想・質問・指導・いちゃ問はこちらへ

★人気ブログランキング・日本映画★
にほんブログ村 映画ブログ 名作・なつかし映画へ
★にほんブログ村・名作なつかし映画★

★にほんブログ村日本映画(邦画)★

by mukashinoeiga | 2016-01-03 12:56 | 島耕二と行くメロドラ航路 | Comments(0)

名前
URL
削除用パスワード