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増村保造「大地の子守歌」原田美枝子岡田英次佐藤佑介梶芽衣子田中絹代

うむぅこの手があったか(笑)。
 京橋にて。「映画監督 増村保造」特集。76年、行動社=木村プロ。
 
 つまり、いままで、一貫して、「アグレッシブでパッショネート」な女性像を描いてきた増村保造が、あまりに一本調子に一本調子であったため、いささかマンネリ気味であった。
 で、本作では、山育ちの天然野生児、まったくアウト・オブ・コントロールな、豪速球少女を繰り出しての、新機軸。
 原田美枝子のフルスロットル演技もあって、後期の最傑作になった。
 原田美枝子は、成人後オトナシメの女性を演じることの多い印象なので、まるで別人のはじけっぷりが、新鮮だ。

増村保造「大地の子守歌」原田美枝子岡田英次佐藤佑介梶芽衣子田中絹代_e0178641_22251988.jpg大地の子守歌 (111分・35mm・カラー) <フィルムセンターHPより>
行動社の第2回作品。13歳で瀬戸内海の小島の売春宿に売られ盲目となった少女りん(原田)の、苦難に満ちた人生を力強く描いた傑作。デビュー3年目の原田美枝子が主役に抜擢されて見事に期待に応え、この年の主演女優賞を総なめした。西欧型の自主独立の「個人」を追求し続けた増村が、西日本に住む女性たちのたくましさを発見したという意味でも重要作である。
'76(行動社=木村プロ)(監)(脚)増村保造(原)素九鬼子(脚)白坂依志夫(撮)中川芳久(美)間野重雄(音)竹村次郎(出)原田美枝子、岡田英次、佐藤佑介、梶芽衣子、田中絹代、賀原夏子、灰地順、堀井永子、中川三穂子、千葉裕子、渡部真美子

 少女で、野生児で、自らの欲望と衝動のみに忠実。確かに、マスマスムラムラとしても、この手があったのだ、というくらいの、手ごたえだったろう。
 そういう意味では、いかにもな、増村的傑作には「なりおおせた」、が。
 これが、一般的な意味での傑作か、というと。うーん。

 この映画は、やや成長したヒロインが、四国でお遍路をしているシーンから始まり、そこから過去に飛ぶ。
 より若い時代の爆走人生(ただし人買いに売られて、小さな港町の売笑宿の住み込みであるから、土地には縛られている)が描かれるのだが、時々アクセント代わりとでもいうのか、お遍路姿も、インサートされる。
 で、このとって付けたようなお遍路シーンの、意味がわからない。わからないというよりか、意味があるとは思えない。
 ホントウに映画のアクセント代わりなのか、それとも、あの野生児も、こうして、おとなしく成長しています、という後日談的エピソードなのか。
 むしろ、都会派の増村がガラにもなく、原作・素九鬼子( 「旅の重さ」 )の、(仮に)「四国的情念」に侵食された結果なのでは、なかろうか?
 四国八十八箇所巡りのお遍路という「解決方法」、一心に祈り巡る祈りの旅、という「戸惑いの人生一発解決」?の「掟ヤブり」こそ、おそらく、増村的合理主義から、一番遠い「手」なのではなかろうか。

 間違いなのかもしれないが、ぼくの理解するところの増村像を、一言で言うと「理詰めの情念派」というところだろうか。ちんぷんかんぷんなまとめ方で申し訳ない(笑)。
 そして、これまた間違いかもしれないが、ぼくの理解するところのお遍路めぐりとは、その「理詰め」も「情念」も、一切合財「放擲」する行為なのではなかろうか。
 そういう意味でも、この映画のお遍路シーンは、まるきり説得力が感じられないと思う。
 そして、原田は、村人から、売春宿を差配するヤクザモノたちから、「凄惨なリンチ」を受け、たびたび血まみれとなる。
 この血まみれの血が、もろに安っぽい赤ペンキだから、しらけること、おびただしい。
 体が売り物の女郎を、からだじゅう血まみれにするのは、コスト・パフォーマンス上、よろしくないのではないか(笑)。この辺の安手のスプラッタ志向は、イタリア譲りの血なのか?三流っぽい増村のプログラム・ピクチャア体質で。

 原田美枝子は、この映画のなかで、山家育ちの野生児から、娼婦に、そしてお遍路へと、転生していく。
 金など要らない、山からの恵みですべてまかなう自給自足から、資本の論理のみによって動く「あいまい宿」の、金をもらうことに嬉々となる娼婦に、そしてすべてを「放棄」したお遍路へ、転生していく。
 この辺の「変化」が、なんとなくあいまいで、なんとなく居心地が悪いのは、気のせいだろうか。
 というのも増村映画にあっては、こういう成長するキャラは、珍しいせいだろう。少なくとも大映時代の増村は、一本調子なまでに、最初から「強い」キャラばかり、描写していたのだから。

 彼女を娼婦の苦境から救い出す牧師・岡田英次のあいまいさが、気にかかる。
 彼は、失明した彼女の夢見た「白馬の王子様」、幻影だったのか。この時点で失明したはずの彼女は、お遍路時代には、目が見えるようだが、それも、また、幻影なのだろうか。お遍路の野宿の夜、過去を夢に見る彼女は、本当は過去の彼女が見た夢ではないのか。
 もちろんそうした「幻想」部分(の可能性)は、「理詰めの情念派」増村にとっては「迷走」「失走」以外の何者でもない可能性はあり、なんだかあいまいで。

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by mukashinoeiga | 2014-09-14 03:31 | マスマス増村保造ムラムラ | Comments(4)

Commented by お邪魔ビンラディン at 2014-09-14 22:05 x
この映画、意外と中川信夫あたりに撮らせていたら「一般的な意味での傑作」になりおおせていたかもしれませんね。 
Commented by mukashinoeiga at 2014-09-15 02:04
増村保造「大地の子守歌」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
 うーん、中川信夫とは、ホントウに意外なところから来ましたね(笑)。して、そのココロは? と、お聞きしたいところです。 昔の映画
Commented by お邪魔ビンラディン at 2014-09-15 10:41 x
 そのココロは、なにせお遍路からの連想でありまして、「恋風五十三次」(1952 昭和末年に個人蔵16ミリフィルムで、池袋文芸坐地下で上映されたことあり。ニュープリント作成切望!)「番場の忠太郎」(1955)「怪談蛇女」(1968)「怪異談生きてゐる小平次」(1982)あたりで、何度も印象的なお遍路シーンを披露している中川監督ならば、「貧しい少女への温かいまなざし」を基調にしながら、暴投に次ぐ暴投で傑作となってしまった「地獄」(1960)よろしく、つじつまの合わないような悲惨な出来事の連続も、力技で見る側に納得させてしまおうというもので。おそらく、増村監督よりは3割方見終わった後にさわやかな印象の残る出来映えになっていたと思います。
Commented by mukashinoeiga at 2014-09-15 22:47
増村保造「大地の子守歌」へのコメント、お邪魔ビンラディンさん、ども。
  「怪異談生きてゐる小平次」を除いた諸作は、たぶん、見ていません)「小平次」も、例によって記憶のかなた、お遍路シーンも記憶にあらず(泣)。
 うーん、映画のお遍路は、まだまだ、道とおし(笑)。

>おそらく、増村監督よりは3割方見終わった後にさわやかな印象の残る出来映え

 ま、増村より、中川のほうが暑苦しくないのは当たり前(笑)で。
  昔の映画
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