大庭秀雄「勝鬨音頭」
京橋にて。「よみがえる日本映画-映画保存のための特別事業費によるvol.7松竹篇」特集。44年、松竹大船。あと1回の上映。
なお日本映画データベースでは、松竹太秦となっているが?
作品的には水準的な佳作だが、やはり絶品の小杉勇。
創業初期には、茶筒の缶などの低技術の民需品を作っていた工場が、いまや立派な?軍需工場に。その職長・小杉勇が、60歳になり、定年となる。職長とは、今で言う工場長か。
二代目若社長・高倉彰、新職長・山路義人、部下・三井秀男(弘次)らに見送られて、盛大な送別会。
定年後は悠々自適の引退生活、といきたいところだが、そこは日本人職人の悲しさ。手持ち無沙汰で、仕事をしたい仕事をしたい、と、かえってイライラが募る日々。
しかも戦時中ということもあり、会社第一主義と言うだけではなく、軍需工場長だったゆえの「お国のため」と言う時代的空気もある。
かくて、まだまだお役に立つからだを遊ばせていてはもったいない、と言うことで、元工場長としていた工場に、夜警として勤務を始める。
元部下たちは、困惑。次女・三浦光子は、この工場の女事務員だが、今以上に警備員勤務への偏見があり、しかも24時間仕事がある現代と違って、ナイトシフトへの偏見もある(「人間はお天道様が照ってるときに、働くものよ」)。
長女・木暮実千代も、外聞が悪い、と困惑。
という物語、国策映画という結構とは、関係なく(笑)本作は、たいへん楽しい。
小杉勇大独演会の快楽(笑)。愚痴る、怒る、笑う、困惑する、うろうろする、しゃべる小杉勇を見ているだけで、とても、楽しい。
私見によれば、日本映画に、大独演会俳優四天王あり。
延々たる長科白を、聞いているだけで、ただただ面白い、そういうベスト4。
バンツマ、小杉勇、森繁、渥美清。
このなかでは、バンツマは、声はがらがらで、かなりクサ過ぎるエロキューションだが、その長台詞を聞いていると、泣ける泣ける。自然に、目が潤んでしまう。恐るべし芸能の力。
クサミゆえの珍味というべきだが、その息子たちは、なんともそのクサミがない、草食系に感じてしまうのは偏見か。なかでは、正和のエロキューションもクサミがあるほうだが、まだまだ父親には、及ばず。
バンツマ以外の三人はコメディ系で、本作の上映でも、多くの観客がクライマックスではどっかんどっかんと笑っていた(ややオーヴァー)。とっかんとっかんという程度か。
にしても、耳の快楽。
主演俳優の快楽が、水準作をたいへん、楽しく、見せ、聞かせている。グッド。
勝鬨音頭(88分・35mm・白黒)<フィルムセンターチラシより>
戦中の武器増産を奨励した歌「かちどき音頭」(1943)を主題歌及び物語のモチーフにした作品。本作も国策映画ではあるが,大庭秀雄監督は人情ドラマを前面に出す。定年を迎えたベテラン工員(小杉)は,本当はまだ働き続けたい。工員でなくとも元の職場で働けるならと,夜警に志願するが,それが周囲に波紋を呼ぶ。
’44(松竹大船)A大庭秀雄B知切光歳C池田忠雄F寺尾清G小島基司H萬城目正K小杉勇,三浦光子,木暮実千代,北沢彪,風間宗六,岡村文子,土紀柊一,三井秀男,髙倉彰,山路義人,坂本武,髙松栄子,三村秀子,半沢洋介,伊東光一
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by mukashinoeiga | 2014-03-07 01:58 | 旧作日本映画感想文 | Comments(4)
二巡目なのに、意外と入っていましたね。しかも、こんな地味な映画に。やはり、小杉勇の素晴らしさに、知らず知らずに?ひきよせられるのでしょうか(笑)。
>ただ小杉勇の出演により松竹大船調がそがれ日活映画の暗さが垣間見えると感じるのは、私だけでしょうか。
これが、小杉の役を、通常松竹どおり坂本武(本作にも助演)や、河村黎吉が(いつものように)演じていたら、これほど重厚かつシマリのある映画には、なっていなかったかもしれません(笑)。松竹定番、通常プログラム・ピクチャアとは、一味違うのだ、というところでしょうか。 昔の映画
やはり戦前松竹の国策映画で、ラスト河村黎吉社長が大演説をぶつ、という映画がありました。題名失念。確か、河村黎吉に、妾の子がいて、悩むという話では。そこではレイキチ社長、結構まともに演説はしていたような。
本作の高倉彰若社長(本特集にやたらと出ている。戦後は「そよかぜ」の楽団メンバーしか印象にないのだが)は、演説の際は、なぜか白手袋。政治家でもない、民間人も演説は白手袋、というのはお約束なのでしょうか。 昔の映画