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野村芳太郎「素敵な今晩わ」犬塚弘岩下志麻中村晃子

 池袋にて。「犬塚弘ワンマンショー」特集。65年、松竹。
 カラー映画のニュープリント上映のはずなのに、妙に画面がくすんでいる。ネガ原版が脱色しているのか。
野村芳太郎「素敵な今晩わ」犬塚弘岩下志麻中村晃子_e0178641_5385888.jpg と、見ているうちにわかってきたのは、主人公のさえない日常、現実を描くシークエンスは、セピア調、主人公が夜毎見る夢のシークエンスは、フルカラー、と、一応色分けしているようだ。そんなの、わかんねーよ(笑)。
 一応、冒頭クレジットのアニメパートは、後から思い起こしてみると確かにカラーだが、実写のシーンで最初にフルカラーでかまして、それからさえない現実のセピア調に移行しないと、単なるフィルムの劣化としか思えないじゃないか(笑)。
 内容もビミョー。
 いや、つまらないとか、駄作とかでは、まったくないのだ。
 日本映画がもっとも苦手とする、しゃれたコメディー、エスプリの効いたコントを目指すという「暴挙」。それに半ば成功して、でもやはり撃沈気味で、しかし大いに健闘している、いわば負け戦に勝っている状態? いや、自分でも、何を言っているのかわからんが(笑)。
 そもそも本作は犬塚弘の主演作である。ハナ肇、桜井センリ、石橋エータローが助演している。
 つまり、クレージーキャッツの2トップ、植木等、谷啓抜き、三番目の男ハナも出番は少ない、という、興行的には、最初から負け戦。
 しかも、犬塚弘本人には、ハナから華はない、地味キャラ。とても、明るくはじけるコメディーは、期待できない。
 
 そこで野村らがとった戦術は、ハナからハッチャケた爆笑ずっこけコメディーではない、日本ではなかなか根付かない大人向けの、粋なセンスの、しゃれた、洋画風の、くすくすコメディーを目指そうと。その狙いは正しい。本作のタイトルも、当時のありがちな洋画タイトル風なのが、妙に可笑しい。
 そして、一見個性がないかに見える犬塚弘の意外な側面が明らかになる。まじめで地味。でも、ほのかに、しかし十分な、華がある。
 その結果、なんと、ヒロイン岩下志麻とのラヴシーンが、ぜんぜんサマになっているのだ!
 考えてもみたまえ。植木等やハナ肇、谷啓や桜井センリ、石橋エータロー、安田伸太郎が、バリバリの美人女優と堂々のラヴシーンをして、失笑を逃れることが出来るか。いや、セクハラ失礼。
 犬塚弘には出来るのだ!
 当時の松竹の絶対的美人女優・岩下志麻との堂々のラヴシーンが!なんと。
 <よく見れば二枚目>な植木等も、一見まじめにラヴシーンが出来そうだが、どんなにまじめな顔をしても、どこかでゆるさが、オカシミが、根拠のない(笑)明るさが、にじみ出てしまう特異キャラ。声も同様。あまりにつやがありすぎるために、その過剰さが、オカシミを生む明るさ。やはり植木等には、まじめなラヴシーンは、出来まい。
 
 犬塚弘は、月給2万とんでゼロゼロセヴン、つまり月給2万7円の、しがないサラリーマン。自動車教習所の教官。上司・ 田武謙三にはことあるごと叱咤され、要領がいい同僚・穂積隆信には、いつも、侮られて、憧れのセクシー事務員・楠侑子には、いいように扱われている。
 仕事帰りに安居酒屋で安酒を飲むのが、唯一の息抜き。そんな彼の日常が、セピア調の脱色映像で描かれているのは、前に記したとおり。
 冒頭から野良のテーマで登場する塚弘は、帰宅途中、野良を拾う。犬を飼うなら、千円家賃値上げだよ、と大家・武智豊子に言われて、クサるが、野良犬を抱いて眠ると、なんと、夜毎夢の中で美女・岩下志麻とデート三昧。
 まさに夢のような展開に、犬塚は狂喜。このあたりがフルカラー。
 そこから展開する夢と現実が、楽しい。
 意外に主役が合う犬塚もいいし、岩下志麻は絶美。<夢の女>を、余裕で演じきる。素晴らしい。
 セクシー事務員・楠侑子も素晴らしいし、ハチャメチャ運転の教習生・村田知栄子も、普段のまじめなドラマのオバサマ役から一転しての、コミカル演技が楽しい。武智豊子も毎度、あのしわい声と、しわしわの顔がいい。夫・渡辺篤に緊縛?されるシーンは、ちと、勘弁だが(笑)。
 毎度見ていて楽しい、田武謙三、修理工・江幡高志なんてのも、うれしいやね。
 そして、とってもお得感あふれるのが、下宿の娘・メガネっ子の中村晃子が超キュート。渡辺篤・武智豊子の両親から、どうやったら、こんなにかわいい中村晃子が(笑)。
 犬塚弘という地味カードが、きわめてよい方向に行ってしまった、良作。うーん、なんだかだんだん快作に思えてきたぞ(笑)。
◎追記◎本作の同時上映★森一生「ほんだら捕物帖」★も、ニュープリント上映。大映カラーのくっきりはっきり映像なら、メリハリがあって、「ほんだら捕物帖」並みの映像クオリティーなら、「素敵な今晩わ」の、現実シーンを色落ちにわざとした趣向も、すぐに感知したに違いない。
 しかし松竹のカラーて、昔っから、他社に比べてやや軟調というか、よく言えばやわらかい色調、悪く言えば、寝ぼけた色調、安いフィルムを使っているのではないか、松竹は、という疑惑が、ぼくには、昔からある(笑)。小津が、通常松竹では使っていないアグファのフィルムを使ったのも、実は通常の松竹カラーより、良かったからでは、ないか。

映画、素敵な今晩わ OP,ED曲、演奏平岡精二とクインテット

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by mukashinoeiga | 2013-11-11 23:43 | 傑作・快作の森 | Comments(2)

Commented by お邪魔ビンラディン at 2013-11-13 01:18 x
「素敵な今晩わ」は、たしかに傑作なれども、「犬殺し」という単語の頻発ゆえに、TV放映はほとんど不可能という不運な目に逢っている作品です。 ところであのくすんだ画調、まさか、市川崑が「おとうと」で使った「銀落とし」を使ってるんじゃあるまいね?
Commented by mukashinoeiga at 2013-11-13 21:38
野村芳太郎「素敵な今晩わ」へのコメント、お邪魔ビンラディン さん、ども。なるほど。犬殺しとは、ハナ肇の、明るいけど、暗い側面もある、というところから発想されたのか。
 「おとうと」は、名作とされている割には、あんまり覚えていないのはなぜ(笑)。ぼくの記憶力でしょうか。
 今回のニュープリも、全体にぼけていて、松竹の技術のぬるさを再確認したしだいで。           昔の映画
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