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古川卓巳「逆光線」北原三枝二本柳寛安井昌二渡辺美佐子青山恭二

 京橋にて。「よみがえる日本映画-映画保存のための特別事業費によるvol.5日活篇」特集。56年、日活。
 これまた、なかなかな快作。あと2回の上映。
古川卓巳「逆光線」北原三枝二本柳寛安井昌二渡辺美佐子青山恭二_e0178641_0453445.png えー、古川卓巳って、こんなシャープな演出、映像作れるんだ、というオドロキ。撮影は姫田真佐久、グッド。
 古川の、代表作といえば、たぶん「太陽の季節」だと思うのだが、あんなのとは、比べ物にもならない素晴らしさ。
 せりふなしのシーンの、力強さ。
 女子大生役・北原三枝の(当時としては)「日本人離れ」した肢体。水着姿になると、長身スレンダーなのに、バストとヒップはむっちりとしたボディがナイス、裕次郎も惚れるわけだ(笑)。ただし、あまり水着になる必然性がないシーン(湖がちらりとも見えない野っ原)で、水着になるわけだが(笑)。
 以下、ネタバレあり。

古川卓巳「逆光線」北原三枝二本柳寛安井昌二渡辺美佐子青山恭二_e0178641_0471491.png フィルムセンターのチラシによれば、<「太陽の季節シリーズ」第3篇と銘打ち、当時「女慎太郎」といわれた岩橋邦枝「逆光線」「熱帯樹」を映画化>という。
 「愛のない貞節は無意味」と、大学生・安井昌二という「リーベ」がありながら、同級生・渡辺美佐子の「リーベ」青山恭二と「ベーゼ」して、さらにアルバイトの家庭教師先で、中学生男子の父親・二本柳寛とセックス。
 男に自らかじりつき、安井の学生服や、青山のシャツの、ボタンを食いちぎる、肉食系女子を、生き生きと演じる北原三枝が、圧倒的。
 青山セーネンと一緒に駅まで帰る途中の、夜の公園、今はあまり見かけなくなった、小さな噴水式の水飲み、「のどが渇いた」といって、長々と、その噴水を口に受ける描写、水で濡れる北原の口周り、明らかにエロ狙いのカット、長々と(笑)。
 その後、セーネンも噴水の水を飲む、その飲んでいる青山の顔に、顔を寄せ「ベーゼ」する北原。当然、セーネンはその気になるのだが、北原は「終電に間に合わないから。バイバイ」と去っていく。
 男は、当然、「その気」になるわな。やっぱり、そのあとで、二人は、いたしちゃうのか。

 「いい年こいて、若い君とやっちゃってすまない」(大意)と、へりくだる金持ち中年・二本柳寛に、
「あたしとあなたは対等よ。あなたが加害者で、あたしが被害者、なんて言うのは、やめて。もし、仮に、あたしが妊娠したって、手術費は、割り勘よ」(大意)
 まあ、二本柳が北原を押し倒したわけではない。押し倒したのは、明らかに、肉食系・北原なのだが、それでもそこまで言うのは、スゴスギだろ。張り切りすぎだろ。逆にまじめすぎて、余裕が感じられず。当時としては、この「女性上位」圧倒的だったはずだ。
 北原はじめ、女子大生たち、それに青山セーネンも、「結婚するなら、金持ちの男」と割り切り、「結婚相手とセフレは別、結婚しても好きな男(女)とは、付き合い続けたい」という、まあ、今時なら、ありがちだが、60年前なら、驚天動地なセックス観だろう。
 しかも、なんだか、それ、割り切りすぎて、中年発想そのものでは、ないか。セーネンらしさ?は、どこに(笑)。

 ただし「太陽の季節」「狂った果実」のご乱交・裕次郎には、天然の愛嬌、愛らしさが、あった。北原三枝は、きりっとしすぎていて、まじめすぎて、その愛嬌が、ない。いっぱいいっぱい感ありあり。
 二本柳も「たいていの男は、君を怖いと思うだろう」と、本音。「日本人好み」ではない、その強度、余裕のなさが、本作の北原三枝を埋没させた理由か。惜しい。
 まあ、戦後のアメリカイズム過剰浸透の時代に、ボーイフレンド/ステディやキスといわずに、リーベやベーゼと、スカしている「ある種特権階級」の女子大学生(戦前の旧制高校教養主義の残滓)であるわけだが、「かわいい顔して、やることは、ヤッテいる」ならぬ「インテリぶってやることは、ヤッテいる」のが、まさに、チョイイラつくところか。
 「太陽の季節」や「狂った果実」が映画史に残り、こんなにシャープな「逆光線」が残らなかった、理由か。そう、大衆的人気を博すには、愛嬌大事なのよ。まじめにセックスに狂っていてもねえ。
 北原三枝がお金持ちの家庭教師に行く描写は「陽のあたる坂道」、二本柳の中坊息子が、父親と北原の仲に嫉妬して、自転車で父親の車に突っ込むところは「狂った果実」と、きっちり日活しているのが、うれしい。

 なお、北原や安井ら大学生たちが、「子供会」というサークル/ボランティア活動をしている描写が、きわめて印象的。貧しいながらも、曲りなりに独立家屋と運動場があり、低学年の子には遊びでもあるスポーツ運動を指導し、高学年の子には、授業。学生たちによる、商売っ気抜きの、いわば啓蒙的学習塾。
 そして、サークルや寮の学生たちは、フォークソングやキャンプ、男女交際。
 おお、これこそ、当時の日本共産党が若者相手に推し進めた、ソング&ダンス、楽しい正しい男女交際、それを通じての共産党員獲得、左翼リベラル思想の浸透そのものの、歌って踊って手を握り、恋して、左翼になりましょう運動そのものではありませんか(笑)。
 東宝ももちろん、日活の労働組合も、共産党の支配下にあったのは、歴史の閲するところで。ただし、日活の労働組合の異色な点は、清純派日活青春映画から、いきなり日活ロマンポルノに、転向する点で。まあ、余談。
 しかも、新宿とかの街に繰り出せば、青山セーネンがバイトする歌声喫茶、当時はやりの合唱カフェだが、そこで歌われるのは、紛れもなくロシア民謡ばかり、セーネンたちのダンスもロシア式。青山セーネンも北原三枝も、歌って踊ってセックスしている間に、いつの間にか左翼思想に取り込まれていっているのを、自覚しているのかしていないのか。
 団塊の世代が左翼思想にまみれているのは、骨がらみ、娯楽がらみ、セックスがらみだから。もう、しょうがないことなんだろうけどね。
 ああ、そうか。フリーセックスとか、結婚相手とセフレは別というのは、性的冒険というだけではなく、資産個人所有を否定する、原始共産主義そのものだったのね(笑)。それなら、わかる。
 そう、明るくアメリカナイズされた「太陽の季節」「狂った果実」が一般受けして、ロシア式、共産党がらみの、暗い背景つき?の「逆光線」が、残らなかったのも、わからないでもない。
 
 残らなかったが、映画と「日本人離れした」北原三枝のシャープさは、特筆に価する。素晴らしい。
 以下はまったくの余談だが。
 現在の暴走老人が、まだ暴走青年だったころ、弟の結婚に際して、「北原三枝と結婚するのはかまわないが、子供は作るなよ。石原家の血筋に××人の血を入れるなよ」と、言ったとされる、ということを、ネットか何かのゴシップで読んだ記憶があるのだが、あれは実話なのか。差別主義者の暴走老人も、結婚、そこは許しちゃうのね(笑)。なんだ、ごりごりの差別主義者じゃないじゃん(笑)。安心した(笑)。
 そこかい(笑)と、一人突っ込み。
 さらに余談。つい最近TV朝日の警察モノに、老女スリとしてゲスト出演したのを、たまたま途中から見た、渡辺美佐子が女子大生役。時の流れという以上に、顔立ちとか、声とかキャラが、ほとんど変化していないのが、いかにも彼女らしい。もともと若いころも、あんまり青春青春していなかったのが、今も、変わらない彼女の強みか。

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by mukashinoeiga | 2013-02-13 09:59 | 傑作・快作の森 | Comments(4)

Commented by taisukez1962 at 2016-07-19 00:49
ども、
「逆光線」面白かったです。
御目当てはもう一本の「わが闘争」の方だったんですが、佐久間さん何やらされてたんですかね?
撮影の途中で降板宣言出来なかったんでしょうなぁ…。
なんか可哀想になっちゃいましたよ。

それに対して、こちらは全然期待してなかったのですが、その分面白かったです。

杉葉子さんといい北原さんといい長身は武器ですな。
かっこいいですホント。

ロシア系ダンスじゃなきゃムード出ないんじゃないですかね?盆踊りするわけにいかないし…。

>きっちり日活している…
もうあと15〜16年経ってりゃ家庭教師(山科ゆり)と親の情事を見てしまい上気してしまった少年を乳母(絵沢萌子)がやさしく…なんてことになるんでしょうか?

しかし前日の司女史のトークショーにも行ったんですが
聞き手の野郎が滑舌悪いわテンポ無いわ、進行下手だわ
酷かったですな。
司さんが上手に喋ってくれていたので何とかなってましたが。
もう少し聞き手を厳選してくれよまったく、と思っちゃいましたよ。

Commented by mukashinoeiga at 2016-07-20 03:03
古川卓巳「逆光線」へのコメント、 taisukez1962さん、ども。
「わが闘争」ねー、あんなキレイキレイな女優さんに、あんな役をやらしちゃあ、いけませんねー。中村登も松竹もトチ狂ってる。普通に美人四姉妹物を作ればよいのに。

北原三枝、かっこいいんだけど、もっと余裕というか愛嬌がほしかった。

>聞き手の野郎

ははは。いけませんでしたか。その「野郎」は知り合いなんで、素人なりに頑張っていると思うんですが、トークショー自体は、まあ司葉子の愛らしさに、皆さん大満足という話を聞いています。司葉子に免じて(笑)。 昔の映画
Commented by PineWood at 2016-07-21 08:37 x
モノクロームのシャープな画面と北原三枝の魅力ですね。確かに愛嬌と余裕があったら最高なんですがー。新宿歌舞伎町の(どん底)なんて懐かしい♪何年か前に行ったらインターナショナルをパロデイで歌唱している場面に出くわし時代の様変わりを感じさせられたー。本編では当時の歌声やフォーク・ダンスなど飛び出し、青春映画しているー。甘い中年の二本柳寛もいいが、息子と妻役それに家政婦が印象的でした。
Commented by mukashinoeiga at 2016-07-22 03:03
古川卓巳「逆光線」へのコメント、PineWoodさん、ども。
 撮影の姫田真佐久もグッドでした。
 歌声喫茶は、カラオケ同様、音痴なぼくには鬼門です(笑)。どん底、まだ、あるんですか。 昔の映画
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