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今井正「望樓の決死隊」

 京橋にて。「生誕百年 映画監督 今井正」特集。43年、東宝。
 最初に、戦時中の映画らしく「撃ちてし止まむ」と、戦時標語が出る。
 当時の、満州との国境を警備する、朝鮮国境警備隊の活躍を描く。高田稔(絶品)を隊長とする、日本人警察官たち、それに数人の朝鮮人警官も入り、国境を守る。とはいっても、当時の朝鮮人は、「日本人同様の扱い」という「立場」だった。
 国境を侵犯して、押し寄せてくるのは、映画では「野盗・馬賊の類い」、しかしして、その「歴史的実態」は、中国・朝鮮混合のパルチザンの類いなのかもしれない、というのが左翼諸君の「見解」なのだろう。しかし、パルチザンといえども、食料、必需品、時には女も「現地調達」するわけだから、野盗・馬賊の類いとの、差別化は、難しかろう。
 クライマックスは、わらわらと押し寄せる騎馬軍団を迎え撃つ、砦の警察官たち。そう、まるで、西部劇のインディアン軍団VS白人軍団の、戦いを、大いに参照して、描かれた今井正版西部劇だ。
 こういう娯楽映画を作らせると、東宝も、今井正も、うまい。今井正は、何より、きわめてまっとうな、娯楽映画の名人なのだ。一般的には、男騒ぎの映画のヒト、と思われている黒沢明が、戦時中は、銃後の女の子集団のなんチャラかんチャラでお茶を濁していた(「いちばん美しく」)実は、きわめて「女の子」体質であることは、当ブログ「黒沢明映画の正体」を、お読みあれ。もし、黒沢が、こういう西部劇を撮っていたら、というかなわぬ夢を、想起させる出来なのだ。

 閑話休題。しかし、敵馬賊の圧倒的人数は、砦を守る警察官の比ではない。高田稔は、妻・原節子に、いざというときのために、銃を渡す。「覚悟は、できております」と原節子。本隊に出張中の若い警察官の妻は、乳飲み子を負ぶいながら、出張前の夫から、銃を渡されていることを、原節に伝える。殉職した朝鮮人警官の、若い妹は、朝鮮人青年に「いざとなったら、先に私を撃ってくださいね」と、言う。彼女は亡兄や青年の援助で、医大を卒業、将来は医者を志す身だが、今は砦で負傷した警官・国境の村の朝鮮人たちの、傷の手当てを、原節とともに、している。
 原節も、凛とした若妻役で、光る。不幸にも、戦時中にヒロイン女優としての、若さの頂点を迎えた女優のなかで、原節子のみが、輝いていたのではなかろうか。
 ラストは、本隊出張中の若き警官が援軍をひき連れて、ラスト・ミニッツ・レスキュー。お約束。ただし、騎兵隊ならぬ、トラックの荷台に警官を満載して。
 戦い終わって、殉職した(というより、もはや、戦死だろう)5・6名の警官たちの葬儀。白布の台の上に並べられた、白木の箱。そのうしろに遺影写真があるのは、数名。ないのも数名。こちらは、朝鮮人警官なのかもしれない。その、一瞬の、リアル。
 とにかく、国境「警備」といいながら、警察の職務の範囲を超えている、軍人の仕事だろう。手榴弾や、ライフルの仕事なんだから。高田稔という、ナンパな?お父さんの役しか、見てないような気がする人だが、その険しい顔の表情も素晴らしい、凛とした男。原節も、いい。
 
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by mukashinoeiga | 2012-07-22 05:36 | 今井正 青い左傾山脈 | Comments(0)

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