加藤泰「骨までしゃぶる」桜町弘子久保菜穂子夏八木勲宮園純子三原葉子
池袋にて。「検証日本映画Vol.10 加藤泰 あるいは屹立する情念」特集。66年・東映京都。
二本立て上映のあと、桜町弘子トークショーがあるためか、池袋新文芸坐は、ほぼ満席。
東映は。男性スタア中心の映画が、多かった。女優は、添え物扱い、華やぎ要員という映画も、多数あった。その中でも、桜町は、女優陣の二番手、三番手扱いのことが多い。
その桜町ゆいいつの完全主演作が本作だ。先月のラピュタ阿佐ヶ谷の「桜町弘子」特集でトップバッターで上映されたさい、おそらく製作当時はこの映画の完成品を見ることなく、約45年後にはじめてラピュタで見たら、自分の名前が大きくクレジットされていたので。びっくりしたのだという。それで、上映中、何回も見に行ったらしい。
おそらく、本人としては、最初のクレジットに、たとえば、
桜町弘子
久保菜穂子
宮園純子
夏八木勲(新人)
と、連記されているのだろうと、思っていたようだ。いつものように。
それが、堂々「桜町弘子」と単独表記の一枚看板。居並ぶスタアのなかで、二番手、三番手、たまに、男性スタアさんの相手役であったとしても、一枚看板の主演スタアのあと、二枚目に筆頭であっても、連記されがちだった彼女の、人生唯一の一枚看板。
それが桜町と相性抜群の監督・加藤泰であることが、うれしい。
さて、本作は、時は明治、15才見当の、貧農の娘・桜町が、女衒・汐路章によって100円で売られてしまうところから始まる。
これまた加藤泰映画に重用された汐路章によって、幕が落とされる。汐路は、女郎屋主人・三島雅夫に、娘を、131円ナニガシで売り渡して、31円の儲けか(含む、旅費などの経費)。
それまで白いコメの飯などほとんど喰ったことのない桜町、女郎屋で出されたご馳走、うな丼弁当に感激する。もっとも、このうな丼も、結局は、桜町の借金に付け加えられてあるのだが。
最初は、こんな好待遇、生まれてはじめて、と女郎稼業に邁進する彼女だが、すべて経費に回され、前借(借金)は、働けば働くほど、へることなく、むしろ増えていく。
桜町は、徐々に、主人・三島、女将・三原葉子に、立て付くようになっていく。
暗くなりがちな話にユーモアを交え、コミカル演技を得意とする天然・桜町の、楽しさ素晴らしさ。明治的雰囲気を直接知る最後の世代であろう、加藤泰初めとするスタッフ・ワーク。素晴らしい。
新人・夏八木とのからみが、何回やってもNG。とうとう昼休憩で中断。桜町と夏八木は、おひる時間の間も、ふたりで練習したという。「お昼抜きで稽古したのは、たった一度、この映画だけの経験でした」と、お嬢さん女優だった桜町は、語る。昼休憩後、得意然と加藤泰らスタッフをスタジオで迎えた桜町ふたりに、フフン、と加藤泰。ほめてもらえるかと思っていたのに、とお嬢さん女優は、回顧する。練習のせいかどうか、その後は一発オーケーだったとのこと。
なお、相手役はどんなのがいい?と加藤泰に聞かれた桜町、「普段はジャガイモみたいな顔でも、笑うと、白い歯の笑顔が美しい人」と答え、その結果連れてこられた新人が、夏八木勲だったという。どんぴしゃ。そう答えた桜町も桜町なら(東映男性スタアには、あまりいないタイプ。しいて言えば、桜町との共演が多かった大友柳太郎くらいか)、夏八木を連れてきた加藤泰も加藤泰だ。
その夏八木勲、デヴュー時から、例の豪快さ。
東映ヒロイン映画としては例外的に(たいてい悲恋に終わる)、ハッピーエンドなのが、うれしい。それが、陽性な桜町的でもあり。
◎追記◎懐の賄賂金を覗き見る桜町、あごがぷっくら膨れて、とても女優とは思えないような不用心なブス顔になるのは、桜町弘子ならでは(笑)。
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by mukashinoeiga | 2012-07-12 06:32 | 加藤泰突撃せよ炎のごとく | Comments(0)