丸山誠治・中川信夫「兄さんの愛情」
阿佐ヶ谷にて。「夢工房 東京映画 七色の日々」特集。54年、東京映画、配給東宝。
監督2名連記とは何か。常識的に考えれば、前者が病気降板のため、後者が引きついだということなのか。問題は中川が先輩ということだが。その逆か。
そのせいかどうか、本作は、あまりはじけない。理由のいちばんは、ヒロイン女優のオーラのなさか。
母一人、子三人の一家。母に、なぜか白髪まじりメイクの三宅邦子。このひと、1930年代から、60年代まで、まったく同じ演技なんだから、老けメイクなんて意味ないのに(笑)。驚異の冷凍食品女優。いつ食べても、おんなじ味。
娘役であっても若妻役であっても母役であっても、娘ではない妻ではない母ではない生身の女ではない、つねに<家庭婦人>を、演じてきた。驚くべき女優さんなのだ。その声を聞いているだけで、癒し感抜群で。
息子三兄弟に、池部良、石浜朗、江原達怡。若手サラリーマン、大学生、高校生のナイス三兄弟。この母と子、まるで理想の聖家族みたい。
この一家に、仙台の親戚の娘が、家出してやってきて、しばらく住み着き、その若い娘らしい「天然ぶり」で、これまた若い三兄弟を引っかきまわすというもの。
つまり小津安二郎「淑女は何を忘れたか」、市川崑「あの手この手」、川島雄三「女であること」と、同工異曲な、ホームドラマ・コメディ。
ただし、エピソードやユーモアの冴えも少なく、何よりヒロインを演じる新人女優・伊吹友木子(宝塚とクレジット)が。若くて、可愛らしくて、美人で、舞台的華やかさはあるのかもしれないが、残念ながら、映画で主演に耐えうるオーラが、一切、ない。
主役オーラがない主演者を、ずっと見ていなければならないのは、苦痛ですらある。それこそ、可愛いだけじゃダメなのね。三宅邦子、池部良、石浜朗、江原達怡らが、デヴュー時から持っていた、天然の愛敬、「映画フィルムになじんだ感じ」が、ない、主演者を見るのは、つらい。これがたとえば大原麗子(TV「雑居時代」)で、あってみればなあ、と(つい最近「続・浪曲子守唄」の彼女を見たもので)。
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なお、池部の恋人役に、久我美子。何だか生活に疲れた女を好演。若い女のわがままに振り回される池部に、溜め込んだ結婚資金の虎の子を、渡す。池部の弟・石浜朗(伊吹に振り回され、家出)の、取戻しのための飛行機代のために、ためた結婚資金を取り崩す、けなげさ。ところが、その久我が、「あの手この手」52、「女であること」58で、突如舞い込む、引っ掻き回し役ムスメであることを思えば、感慨深い。
因果は巡る糸車というべきか、本作での「少し、疲れた、オールドミス」の4年後に、「引っ掻き回すハチャメチャ娘」を演じる女優だましいというべきか。だから、4年後の「女であること」を思えば、伊吹の役は、久我美子で、よかったのではないかと。
でも、東京映画としては、東宝のくくりがあるようなないような、というポジションだから、東宝系女優の久我より、宝塚の新人、使いたかったんだろう。
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by mukashinoeiga | 2012-05-21 20:56 | 旧作日本映画感想文 | Comments(0)